明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Time for thinking/13

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 崇剛は仕事上、人に好意を持たれやすく、結婚について不躾ぶしつけに聞かれる。個人的に誘われるという、衰退しないモテ期の中で生きている。

 だがしかし、当の本人はいい気持ちばかりではないのだ。必ずしも自身の好みの人から想われるわけではないというか、ほぼ好みのタイプではないのだから。

 身にしみて、聖女に与えた不快感を、神父はよくわかっていた。

「過ぎたことじゃ。気に病むことではない」

 冷静な頭脳だけだったら、この男はあまり傷つきもせず生きてきたのだろう。激情という感情があるからこそ、色々と思い悩みながら、思いやりを持って生きている。それをよく知っているのは、瑠璃自身だった。

「私が天に召されるまで、守護をよろしくお願いします」
「それは我も同じじゃ。お主が死ぬまでは一緒じゃ」

 変な緊張感がなくなり、以前よりも距離が縮まった崇剛と瑠璃だったが、策略家の氷の刃という瞳は、隙なく少女の玉露を飲む姿をうかがっていた。

 茶色のロングブーツはいつも通りに、優雅に組み直されて、遊線が螺旋を描く芯のある声が何気なく尋ねた。

「瑠璃さん、夜見二丁目の交差点で、赤い目の山吹色をした髪の男を見ませんでしたか?」
「ぶーっ!」

 聖女は玉露を思いっきり吹き出した。

 崇剛は思う。彼女は正直だと。

 瑠璃は口元をハンカチで拭きながら、

「お主、見えておったのか?」
やはり・・・、いらっしゃったのですね?」
「じゃから、わざと聞いてくるでない!」

 さっきから同じ罠にはまってばかりの聖女が憤慨しているのを見て、崇剛はくすくす笑った。

 そこで瑠璃ははたと気づいた。わざと聞いてくるとなると、崇剛は見えていなかったのだと。

「何故、あやつがいたと知ったのじゃ?」
「ただの勘ですよ」

 崇剛は瑠璃の質問から逃げようとしたが、それは実は策であって、聖女はまた憤慨した。

「戯言を申すでない! お主が勘を使ってるところなど、我は一度も見たことがあらぬ」

 策略家は手の甲を唇に当てて、

「…………」

 とうとう何も言えなくなり、肩を小刻みに揺らして、彼なりの大爆笑を始めた。こうなると、しばらく笑いの渦から戻ってこれないのは、瑠璃にはよくわかっていた。

 玉露をすすり、聖女はしばらく待ってやった。 

「何故、やつだとわかったのじゃ?」
「瑠璃さんの様子がおかしかった。邪神界の者ならば、瑠璃さんは何らかの言動を起こす可能性が非常に高いです。しかしながら、何もしませんでした。従って、正神界の者がいたということになります」

 漆黒の長い髪は小さな手で背中にはらわれ、瑠璃は胡散臭そうな顔をした。

「あやつはラジュのところにたまに参るやつじゃ」
「どのような用件でいらっしゃるのですか?」

 崇剛は瑠璃に身を乗り出した。

「神殿に呼び出しがあった時じゃ」

「そうですか」と言って、神父はロッキングチェアを揺らし、少しの思案をして問いかけた。

「神殿から戻ってきたあと、ラジュ天使の様子がおかしかったことはありませんか?」

 瑠璃はうんざりした顔をする。

「ラジュはいつでもおかしいがの。ないの」
「お名前は知っていますか?」
「知らぬ。ただ、神が呼んでおるとラジュに申して、すぐに消えるのじゃ」
「そうですか」

 冷静な水色の瞳に、神世を思わせる青の抽象画を眺めながら、あごに手を当てた。

 神の遣いでしょうか?
 それとも……

 崇剛は聖女を視界の端で捉えたが、情報収集は困難を極めると思った。これが、ラジュならば、正確に入手できるが。

「瑠璃さん、その方が何とおっしゃって、ラジュ天使を呼び出しているか、一字一句間違えずに言えますか?」
「大体いつも同じじゃが、正確にとなると、それは我には無理じゃの」

 聖女からは予測どおりの返事が返ってきた。しかしそこに、重要な意味があると、崇剛はにらんだ。あの男の正体は一体何者なのだ。

 疑問を残したまま、崇剛は包帯をしている手で、ズボンのポケットの丸い膨らみをさりげなく触り、迫ってきた数字を読み取った。

 二十三時四分十九秒――。
 おや、もうこんな時間ですか?

 崇剛はロッキングチェアを傾けるのをやめて、

「瞬はどうしているでしょうね?」

 今まで話とはまったく関係のない人の名を口にした。瑠璃は持っていた湯呑みをテーブルへ置く。

「熱を出しておると聞いたからの、我がそばにおらぬと、瞬も寂しがるかもしれんの」

 言い訳っぽく聞こえる言葉を、ボソボソとつぶやいて、聖女はふと立ち上がった。

「どれちと参るかの」

 瑠璃の表情は八歳の少女が見せる、ご満悦そのもので、そのまますうっと姿を消した。

「――瑠璃さんはわかりやすい人ですね」

 嘘がつけない聖女の性格に、親が子供を愛おしく思うような気持ちになって、崇剛は手の甲を唇に当て、くすくすまた笑い出した。

「なぜ、私が突然、話題を変えたのか疑問に思わないみたいです」

 神父から聖女への密やかなプレゼントだった。

 シルクのブラウスの上で、神の御言葉みことばを受け取る役目を終えた銀のロザリオは、慣れた感じで滑らかな生地と肌の間へとそっと落とされた。

 組んでいた茶色のロングブーツをとくと、春雷の嵐は嘘のように通り過ぎ、カーテンの隙間から平穏な月光が差し込んでいた。
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