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1章
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「五十嵐青ってほんとモテるよなー。しかもコクられても全部振ってるんだろ。すげえよなぁ」
感心する寺嶋に、叶太は「ほんと贅沢なやつだよ」と呆れる。
「それな。他校に本命の子でもいんのかな」
「え、そうなん?」
「いや、叶太が知らないならオレが知るわけねーじゃん」
「オレも知らねーよ。まあ、いつあいつの家に行っても大体いるし、舞子さんもあいつは彼女いないっていつも言ってるけど」
「舞子さんって誰?」
「青のオカーサン」
寺嶋は「じゃあ彼女いないの確定じゃん」と納得して続けた。
「つーか、もう一年女子の間で五十嵐のファンクラブできてるらしいぜ」
寺嶋は二人が出て行った方向に目をやりながら、やる気のない片手を動かし、箒で足元を掃いている。
「へー。会費とかかかるんかな、それ」
「気になるのそこかよ」
「だって気になるじゃん。ファンクラブって言っちゃうぐらいよ?」
「五十嵐が認知してなさそうだから会費もないんじゃね?」
「あ~非公式的なやつねー」
ちなみに二年女子にもファンクラブがあり、叶太と同じ学年の三年女子の間にも年下好きによる青のファンクラブがあるらしい。
こう考えると芸能人みたいな待遇だ。そりゃ芸能人みたいにカッコいいやつが近くにいたら、他にカッコいい男子が校内にいても良さが隠れてしまう気がする。青と同じ学校じゃなければ、自分だって今ごろ彼女ができていたかもしれないのか。
あったかもしれない世界線を想像するうちに、じわじわと妬ましさと羨ましさが沸々と湧いてくる。
「あ~なんか腹立ってきた。なんであいつばっかりモテるんだよ。理不尽じゃね?」
愚痴ると、寺嶋は「今さら?」と苦笑した。
その時だった。さっき青と一緒に出て行った一年女子が、パタパタと走って叶太たちのいる玄関を横切った。一瞬のことだったのでしっかりとは見えなかった。
けれど叶太の目に入った一年女子の目に浮かんでいたもの。見間違いじゃなければ、それは涙だった。
「なあ、今の子って――」
「お、今の五十嵐に告白した子じゃん。もう終わったんかな?」
一年女子が泣いていることに気づかなかったのか、寺嶋の声はのんきなものだ。
見ていなかったのなら、言う必要もないか。誰だって、わざわざ知らない奴に自分が泣いていたことを言いふらされたくはないだろう。
叶太が一瞬出かけた言葉を飲み込むと、少し経ってから青が一人で玄関に戻ってきた。
叶太たちがまだいることに気づいたようだ。
「見てたのかよ」
スノコの上で上履きに履き替えながら、青はダルそうに言った。
「見てねーよ。ずっとここで掃除してたわ」
箒で三和土を掃く姿を披露するが、青はこちらの事情には興味がないらしい。まったく見ていなかった。頭の後ろを掻きながら「はあ」とため息をつく。いつも悪ノリで絡んでくる男と同一人物とは思えないほど、かったるそうだ。
「また断ったのか?」
青はギッとこちらを睨んだ。
「なんで叶太にそんなこと教えなきゃなんないの」
「べつに教えてくれなくてもいいけどさ……」
涙ぐんで目の前を通り過ぎていった一年女子の顔が、スロー映像となって頭をよぎる。関係ない寺嶋に泣いていたことを言いふらすのは違うけど、青には言ってもいいような……いや、言った方がいい気がした。
感心する寺嶋に、叶太は「ほんと贅沢なやつだよ」と呆れる。
「それな。他校に本命の子でもいんのかな」
「え、そうなん?」
「いや、叶太が知らないならオレが知るわけねーじゃん」
「オレも知らねーよ。まあ、いつあいつの家に行っても大体いるし、舞子さんもあいつは彼女いないっていつも言ってるけど」
「舞子さんって誰?」
「青のオカーサン」
寺嶋は「じゃあ彼女いないの確定じゃん」と納得して続けた。
「つーか、もう一年女子の間で五十嵐のファンクラブできてるらしいぜ」
寺嶋は二人が出て行った方向に目をやりながら、やる気のない片手を動かし、箒で足元を掃いている。
「へー。会費とかかかるんかな、それ」
「気になるのそこかよ」
「だって気になるじゃん。ファンクラブって言っちゃうぐらいよ?」
「五十嵐が認知してなさそうだから会費もないんじゃね?」
「あ~非公式的なやつねー」
ちなみに二年女子にもファンクラブがあり、叶太と同じ学年の三年女子の間にも年下好きによる青のファンクラブがあるらしい。
こう考えると芸能人みたいな待遇だ。そりゃ芸能人みたいにカッコいいやつが近くにいたら、他にカッコいい男子が校内にいても良さが隠れてしまう気がする。青と同じ学校じゃなければ、自分だって今ごろ彼女ができていたかもしれないのか。
あったかもしれない世界線を想像するうちに、じわじわと妬ましさと羨ましさが沸々と湧いてくる。
「あ~なんか腹立ってきた。なんであいつばっかりモテるんだよ。理不尽じゃね?」
愚痴ると、寺嶋は「今さら?」と苦笑した。
その時だった。さっき青と一緒に出て行った一年女子が、パタパタと走って叶太たちのいる玄関を横切った。一瞬のことだったのでしっかりとは見えなかった。
けれど叶太の目に入った一年女子の目に浮かんでいたもの。見間違いじゃなければ、それは涙だった。
「なあ、今の子って――」
「お、今の五十嵐に告白した子じゃん。もう終わったんかな?」
一年女子が泣いていることに気づかなかったのか、寺嶋の声はのんきなものだ。
見ていなかったのなら、言う必要もないか。誰だって、わざわざ知らない奴に自分が泣いていたことを言いふらされたくはないだろう。
叶太が一瞬出かけた言葉を飲み込むと、少し経ってから青が一人で玄関に戻ってきた。
叶太たちがまだいることに気づいたようだ。
「見てたのかよ」
スノコの上で上履きに履き替えながら、青はダルそうに言った。
「見てねーよ。ずっとここで掃除してたわ」
箒で三和土を掃く姿を披露するが、青はこちらの事情には興味がないらしい。まったく見ていなかった。頭の後ろを掻きながら「はあ」とため息をつく。いつも悪ノリで絡んでくる男と同一人物とは思えないほど、かったるそうだ。
「また断ったのか?」
青はギッとこちらを睨んだ。
「なんで叶太にそんなこと教えなきゃなんないの」
「べつに教えてくれなくてもいいけどさ……」
涙ぐんで目の前を通り過ぎていった一年女子の顔が、スロー映像となって頭をよぎる。関係ない寺嶋に泣いていたことを言いふらすのは違うけど、青には言ってもいいような……いや、言った方がいい気がした。
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