【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

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1章

1ー6

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「あの子、泣いてたぞ」

 指摘すると、青の目が一瞬揺らいだ。あ、これは自分が言わなくても知ってる顔だ。叶太は直感でわかった。

「コクられたんだろ? いいのかよ、女の子泣かして」

 青ははっきりした男だ。わざわざ相手を傷つける言葉までは言わないだろうけど、そのはっきりした言い方は、付き合いの長い自分でさえたまにキツイと感じることがある。

 たとえば先週月曜日の朝、家の前で偶然会った時。ちょっと並んで歩いただけで青は、

「叶太さ、昨日焼肉食っただろ。口臭いよ」

 と指摘してきた。

 実際焼肉は食べたし、自分でも口がニンニク臭いという自覚はあった。心の中でうわぁ、こいつ昨日ぜったい焼肉食ったじゃん……って思われるより、直接言われた方がマシだと思うときもある。

 でもこの日の朝はこちらもまだ寝起きの状態。言い返す準備も整っておらず、その歯に衣着せぬ物言いに叶太もドン引きした。こいつデリカシーなさすぎだろ、と。

 告白してきた一年女子にも、またキツイ言い方をして断ったんじゃないだろうな。また被害者が出ないうちに、自分から言ってやらなければ。叶太は目を細め、青に向かって渋い顔を向けた。

「ヘアピンが子どもっぽいとか似合ってないとか、女の子が傷つくようなこと言ったんじゃねーの?」

「は? そんな話してねーし」

「わかんねえじゃん。実際泣いてるの見たし、オレ」

 つい責めるような口調で言うと、青は靴を上履きに履き替えながら迷惑そうに言った。

「泣かれてもなぁ」

 まるで困ったとばかりの態度だ。

 告白されるという羨ましいシチュエーションに頻繫に遭遇しながらも、そのありがたみもわからずに上から目線な発言と態度を繰り出す。そんな男にイラッとした。叶太は「はあ~?」と盛大に相手へ詰め寄った。

「ちょっとちょっと、今の発言はなくね? なんでおまえが困ってんのよ。コクってくれた女の子にクソ失礼だし、今おまえは全男子を敵に回したからな」

「全男子って、どうせ叶太の半径一メートルぐらいにいる男子のことだろ」

「え、オレ入っちゃうじゃん。なんか嫌なんだけど」

 隣でやりとりを聞いていた寺嶋が、叶太から離れるように大股で一歩横へとずれた。

 こっちはまともなことを言ったはずなのに、青は揚げ足を取りやすいところだけ切り取る。このクソガキめ。これで女の子を泣かすほどモテるから不思議だ。

 でも実際に告白される前後を目撃してしまったからには、青がモテることはいい加減認めざるを得ない。
でも精一杯の抵抗はしておきたい。

「なんでおまえがモテるのか、オレにはさっぱりわからん」

 叶太は呆れて首を横に振った。青はその様子をチラッと見て、フッと苦笑した。

「だろうな」

 そう言って青が目を細めた瞬間、青に振られた一年女子の泣き顔がなぜかちらつく。こちらをバカにしたような笑いの奥に、寂しそうな色が見えた気がした。

 初めて見る幼なじみの表情に一瞬戸惑う。けれどただ自分がそう見えただけかもしれないと、深く考えることはしなかった。

「女の子にしかわからない良さがあるんかね」

 叶太は青の背中をバシッと叩き、スノコの上から廊下に追い出す。「オレらも教室戻ろうぜー」と寺嶋に言うついでに、

「おまえも早く戻ったら?」

 青は「言われなくてもそうする」と素直に階段の方へと歩いて行った。





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