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1章
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「あの子、泣いてたぞ」
指摘すると、青の目が一瞬揺らいだ。あ、これは自分が言わなくても知ってる顔だ。叶太は直感でわかった。
「コクられたんだろ? いいのかよ、女の子泣かして」
青ははっきりした男だ。わざわざ相手を傷つける言葉までは言わないだろうけど、そのはっきりした言い方は、付き合いの長い自分でさえたまにキツイと感じることがある。
たとえば先週月曜日の朝、家の前で偶然会った時。ちょっと並んで歩いただけで青は、
「叶太さ、昨日焼肉食っただろ。口臭いよ」
と指摘してきた。
実際焼肉は食べたし、自分でも口がニンニク臭いという自覚はあった。心の中でうわぁ、こいつ昨日ぜったい焼肉食ったじゃん……って思われるより、直接言われた方がマシだと思うときもある。
でもこの日の朝はこちらもまだ寝起きの状態。言い返す準備も整っておらず、その歯に衣着せぬ物言いに叶太もドン引きした。こいつデリカシーなさすぎだろ、と。
告白してきた一年女子にも、またキツイ言い方をして断ったんじゃないだろうな。また被害者が出ないうちに、自分から言ってやらなければ。叶太は目を細め、青に向かって渋い顔を向けた。
「ヘアピンが子どもっぽいとか似合ってないとか、女の子が傷つくようなこと言ったんじゃねーの?」
「は? そんな話してねーし」
「わかんねえじゃん。実際泣いてるの見たし、オレ」
つい責めるような口調で言うと、青は靴を上履きに履き替えながら迷惑そうに言った。
「泣かれてもなぁ」
まるで困ったとばかりの態度だ。
告白されるという羨ましいシチュエーションに頻繫に遭遇しながらも、そのありがたみもわからずに上から目線な発言と態度を繰り出す。そんな男にイラッとした。叶太は「はあ~?」と盛大に相手へ詰め寄った。
「ちょっとちょっと、今の発言はなくね? なんでおまえが困ってんのよ。コクってくれた女の子にクソ失礼だし、今おまえは全男子を敵に回したからな」
「全男子って、どうせ叶太の半径一メートルぐらいにいる男子のことだろ」
「え、オレ入っちゃうじゃん。なんか嫌なんだけど」
隣でやりとりを聞いていた寺嶋が、叶太から離れるように大股で一歩横へとずれた。
こっちはまともなことを言ったはずなのに、青は揚げ足を取りやすいところだけ切り取る。このクソガキめ。これで女の子を泣かすほどモテるから不思議だ。
でも実際に告白される前後を目撃してしまったからには、青がモテることはいい加減認めざるを得ない。
でも精一杯の抵抗はしておきたい。
「なんでおまえがモテるのか、オレにはさっぱりわからん」
叶太は呆れて首を横に振った。青はその様子をチラッと見て、フッと苦笑した。
「だろうな」
そう言って青が目を細めた瞬間、青に振られた一年女子の泣き顔がなぜかちらつく。こちらをバカにしたような笑いの奥に、寂しそうな色が見えた気がした。
初めて見る幼なじみの表情に一瞬戸惑う。けれどただ自分がそう見えただけかもしれないと、深く考えることはしなかった。
「女の子にしかわからない良さがあるんかね」
叶太は青の背中をバシッと叩き、スノコの上から廊下に追い出す。「オレらも教室戻ろうぜー」と寺嶋に言うついでに、
「おまえも早く戻ったら?」
青は「言われなくてもそうする」と素直に階段の方へと歩いて行った。
指摘すると、青の目が一瞬揺らいだ。あ、これは自分が言わなくても知ってる顔だ。叶太は直感でわかった。
「コクられたんだろ? いいのかよ、女の子泣かして」
青ははっきりした男だ。わざわざ相手を傷つける言葉までは言わないだろうけど、そのはっきりした言い方は、付き合いの長い自分でさえたまにキツイと感じることがある。
たとえば先週月曜日の朝、家の前で偶然会った時。ちょっと並んで歩いただけで青は、
「叶太さ、昨日焼肉食っただろ。口臭いよ」
と指摘してきた。
実際焼肉は食べたし、自分でも口がニンニク臭いという自覚はあった。心の中でうわぁ、こいつ昨日ぜったい焼肉食ったじゃん……って思われるより、直接言われた方がマシだと思うときもある。
でもこの日の朝はこちらもまだ寝起きの状態。言い返す準備も整っておらず、その歯に衣着せぬ物言いに叶太もドン引きした。こいつデリカシーなさすぎだろ、と。
告白してきた一年女子にも、またキツイ言い方をして断ったんじゃないだろうな。また被害者が出ないうちに、自分から言ってやらなければ。叶太は目を細め、青に向かって渋い顔を向けた。
「ヘアピンが子どもっぽいとか似合ってないとか、女の子が傷つくようなこと言ったんじゃねーの?」
「は? そんな話してねーし」
「わかんねえじゃん。実際泣いてるの見たし、オレ」
つい責めるような口調で言うと、青は靴を上履きに履き替えながら迷惑そうに言った。
「泣かれてもなぁ」
まるで困ったとばかりの態度だ。
告白されるという羨ましいシチュエーションに頻繫に遭遇しながらも、そのありがたみもわからずに上から目線な発言と態度を繰り出す。そんな男にイラッとした。叶太は「はあ~?」と盛大に相手へ詰め寄った。
「ちょっとちょっと、今の発言はなくね? なんでおまえが困ってんのよ。コクってくれた女の子にクソ失礼だし、今おまえは全男子を敵に回したからな」
「全男子って、どうせ叶太の半径一メートルぐらいにいる男子のことだろ」
「え、オレ入っちゃうじゃん。なんか嫌なんだけど」
隣でやりとりを聞いていた寺嶋が、叶太から離れるように大股で一歩横へとずれた。
こっちはまともなことを言ったはずなのに、青は揚げ足を取りやすいところだけ切り取る。このクソガキめ。これで女の子を泣かすほどモテるから不思議だ。
でも実際に告白される前後を目撃してしまったからには、青がモテることはいい加減認めざるを得ない。
でも精一杯の抵抗はしておきたい。
「なんでおまえがモテるのか、オレにはさっぱりわからん」
叶太は呆れて首を横に振った。青はその様子をチラッと見て、フッと苦笑した。
「だろうな」
そう言って青が目を細めた瞬間、青に振られた一年女子の泣き顔がなぜかちらつく。こちらをバカにしたような笑いの奥に、寂しそうな色が見えた気がした。
初めて見る幼なじみの表情に一瞬戸惑う。けれどただ自分がそう見えただけかもしれないと、深く考えることはしなかった。
「女の子にしかわからない良さがあるんかね」
叶太は青の背中をバシッと叩き、スノコの上から廊下に追い出す。「オレらも教室戻ろうぜー」と寺嶋に言うついでに、
「おまえも早く戻ったら?」
青は「言われなくてもそうする」と素直に階段の方へと歩いて行った。
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