【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

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6章

6-2

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 花火大会当日の会場は、浴衣を着たカップルや家族連れで大盛況だった。まだ花火が打ち上がる前にもかかわらず、河川敷にはレジャーシートやブルーシートが隙間なく敷き詰められ、その上には花火が打ち上がるのを今か今かと待つ観客が座っている。

 どこにいてもソースや醤油といった焼き物の匂いがして、食欲をそそそられる。屋台の鉄板と観客の熱気でむわっと空気がこもっているのに、日が落ちた夜空を見上げると、不思議と肌の表面から汗が引くような感じがした。

「花火見ながら食べれるものを買ってから、河川敷の方に移動しましょうか」

 前の方から、北村の声がする。

「あ、そうだな」

 顎を引き、叶太は視線を空から前方に戻す。オーバーシャツに涼しげなグレーのスラックスを穿いた北村は、前髪もちゃんとセットされていて制服姿のときより大人びた印象だ。黒の半袖パーカーに膝丈の半ズボンを合わせた叶太の子どもっぽいファッションとは大違いだった。

 服装や髪型によって、だいぶ変わるタイプなんだな。待ち合わせ場所の駅前で最初に会ったとき、イケイケの大学生に声をかけられたかと思ってちょっと驚いた。

「先輩はなにが食べたいですか?」

「焼きそばかな。あーでもたこ焼きも食いたいかも。あ、きゅうりの一本漬けもあるじゃん。待てよ、わたあめって高三が食っても合法なのか……?」

 屋台メシに目移りしている叶太を見ながら、北村は微笑んだ。

 食べ物に夢中な自分に呆れているのだろうか。恥ずかしくなった。

「ご、ごめん。食べ物のことばっかりで」

「いいえ。お祭りの屋台って楽しいですもんね。椿先輩が楽しんでくれてるみたいで、僕も嬉しいです」

 まっすぐな言葉。わかりやすい言葉で気持ちを伝えてくる北村だけど、きっと誰にでも言っているわけではない。それがわかるからこそ、叶太はどうやってその言葉を受け止めればいいかわからなくなってしまうのだ。

「あ……ありがとう、でいいのか?」

「今は、はい。それで大丈夫です」

 今は、って言った。どういうことだ? 今日の北村はいつもより距離が近いというか、良くも悪くもこちらが気を抜いたら北村のペースに巻き込まれそうな勢いがあるように感じた。自分の気のせいかもしれないけど。

 そのあと相談して、まずは焼きそば、それから唐揚げときゅうりの一本漬けを買うことにした。わたあめも食べたかったけれど、まずはご飯類から先に買う。そして花火が打ち上がる時間までに余裕があったら、わたあめやかき氷などの甘いものも見て考えよう、ということで話は落ち着いた。

 行き当たりばったりじゃない、北村の無駄の無い買い出し計画には、叶太も異論なかった。

 それは焼きそばを買ったあと、二人で唐揚げの列に並んでいるときだった。

「あれ、北やんじゃん」

 列の横から声が聞こえてきたので見ると、どこかで見たことのある二人組が近づいてきた。一瞬誰かわからなかったが、

「マキオ、川崎。なんだ来てたのか」

 と、北村が名前を呼んでくれたことで思い出した。夏休み前、談話室で北村と昼ご飯を食べているときに会ったサッカー部の二人だ。

 二人ともシャツに短パンといった過ごしやすそうな恰好で、チャラい方の手にはたこ焼きのパックが三つ、もう一人の筋肉質な方の手にはイカ焼きが入ったパックが一つと、焼きそばのパックが二つある。

「あ、先輩じゃないですか! お久しぶりです。風邪はもう治ったんですか?」

 叶太を見るなり聞いてきたのは、たこ焼きを三パックも手にしたチャラい方だ。夏休みに入り、髪の毛がさらに明るくなった気がする。


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