【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

文字の大きさ
39 / 70
7章

7-4

しおりを挟む
「あれ、どこ行くん?」

 まだミックス弁当を食べている寺嶋が頭を上げる。

「ゴミ捨ててくる」

 空になった牛乳パックとパン袋を手にした叶太は、椅子から立ち上がった。思いのほか椅子の足がキイッと響いてしまい、詩乃と詩乃の取り巻きが一斉に叶太の方を見る。

「あ、ごめん」

 形ばかりの謝罪を口にしたあと、逃げるように教室から廊下へと出た。

 耳も心臓も痛い。これ以上詩乃の話を聞いていたくなかった。あれだけ詩乃が周りに自慢しているし、これだけ第三者にも知られているのだ。詩乃が嘘を言いふらしているとは思えなかった。

 廊下に設置されたゴミ箱に紙パックとパン袋を捨てる。まだ昼休みが終わるまでに二十分以上ある。教室には戻りたくなかった。

 とりあえず新しい飲み物でも買うか。叶太は談話室の自販機に向かおうと、廊下の端にある階段を降りることにした。

 踊り場まで降りたところで、ちょうど下の階から登ってきた相手とかち合った。

「叶太」

 叶太の前に立ちふさがった相手。それは青だった。突然出くわした衝撃で、心臓が口から飛び出そうだった。咄嗟に言葉が出てこなくなる。

「……おう」

 絞り出した声は、自分でも驚くほど低いものだった。

 青が登った先は三年生の教室だ。詩乃に会いにきたのだろうか。そんな想像に、胸がギュッと締め付けられる。早くこの場所からいなくなりたかった。

 叶太は相手の視線から逃げるよう、目を下に逸らした。青の横を通り、階段を下ろうとした瞬間、「おい」の声掛けとともに腕を掴まれる。

「……なに」

「どこ行くんだよ」

 青こそどこに……誰のところに行くつもりで階段を登ってたんだよ。言いたい言葉が喉まで出かかったが、ぐっと飲み込んだ。

「なんでおまえにいちいちそんなこと言わなくちゃいけないの。どこでもいいだろ」

「北村のところか? あいつなら今日は委員会の集まりがあって教室には――」

 聞いてもいないのに、青の口から聞かされる北村の情報。ショックだった。やっぱり青は北村と自分が早くくっつけばいいと思っていたんだ。応援……していたんだ。

 叶太はぐいっと腕を下にして、青の手を振り解いた。

「知ってる」

 噓だ。北村とはもう連絡を取っていないから知らない。

 まさか昔からの仲の自分が、青のことを好きだなんて微塵も思っていないんだろう。それがまざまざとわかってしまい、胸が締め付けられる。

「おまえこそ、さっさと三年生の教室行けば。彼女が待ってるんじゃねーの」

「……っ。やっぱり叶太おまえ……っ」

 焦燥に駆られた青の声が降ってくる。肩をぐっと引っ張られ、無理やり青の方を向かされそうになる。

「触んじゃねえよ!」

 全力で相手の手を弾く。ふと見上げると、傷ついたように歪んだ青の顔が見えた。

 どうしてそっちがそんな顔をするんだよ。苛立って、つい荒い言葉を投げかけてしまう。

「彼女ができたんなら、オレのことなんか放っとけばいいじゃん」

「ちょっと待て叶太、オレの話を聞け――」

「聞きたくねえ」

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話

雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。 主人公(受) 園山 翔(そのやまかける) 攻 城島 涼(きじまりょう) 攻の恋人 高梨 詩(たかなしうた)

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

僕らのトライアングル

竜鳴躍
BL
工藤ユウキには好きな人がいる。 隣の家に住んでいる大学生のお兄さん。 頭が良くて、優しくて、憧れのお兄さん。 斎藤久遠さん。 工藤ユウキには幼馴染がいる。ちょっとやんちゃでみんなの人気者、結城神蔵はいつもいっしょ。 久遠さんも神蔵が可愛いのかな。 二人はとても仲良しで、ちょっとお胸がくるし。 神蔵のお父さんと僕のお父さんがカップルになったから、神蔵も僕のお家にお引越し。 神蔵のことは好きだけど、苦しいなぁ。 えっ、神蔵は僕のことが好きだったの!? 久遠さんは神蔵が好きで神蔵は僕が好きで、僕は…… 僕らの青春スクランブル。 元学級委員長パパ☓元ヤンパパもあるよ。 ※長編といえるほどではなさそうなので、短編に変更→意外と長いかもと長編変更。2025.9.15

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶
BL
優等生×地味メンの学生BL。キスからはじまるすれ違いラブ。アオハル! 穂高千雪は勉強だけが取り柄の高校一年生。優等生の同クラ、藤代永輝が嫌いだ。自分にないものを持つ彼に嫉妬し、そんな器の小さい自分のことも嫌になる。彼のそばにいると自己嫌悪に襲われるのだ。 なのに、ひょんなことから脅されるようにして彼の恋人になることになってしまって…。 藤代には特異な能力があり、キスをした相手がいいなりになるのだという。 自分はそんなふうにはならないが、いいなりのふりをすることにした。自分が他者と同じ反応をすれば、藤代は自分に早く飽きるのではないかと思って。でも藤代はどんどん自分に執着してきて??

処理中です...