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7章
7-3
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――というのが、約二週間前のこと。
当然のことながら、あの日以来北村とやり取りしていたラインは途絶えた。もちろん昼ご飯を一緒に食べる約束もしていない。
最初の数日はなんだかんだ寂しさもあったが、振ったのは自分だ。寂しがるのはお門違いだ、と無理やり言い聞かせ、叶太は受験勉強に精を出すことで気を紛らわせた。
「叶太が英単語帳見ながらメシ食ってるとか、似合わな過ぎて笑うわ」
自分と北村の間に何があったかなんて露ほども興味がない寺嶋と喋ると、逆に楽だ。根掘り葉掘り聞かれずに済む。
「勝手に笑っとけ」
残りのカレーパンを食べていると、教室の真ん中に集まっていた女子の輪から、突然黄色い声が上がった。
四、五人の女子が囲んでいるのは、町田詩乃だ。詩乃はセミロングの艶のある黒髪に、大きな二重の目と小ぶりの鼻と唇。身長は百六十センチあるかないかの、細くてスタイルのいい女子だ。
仕草はまるで小鳥みたいで、首を傾げる姿は動物図鑑に載っているシマエナガみたいだなと思う。SNSでよくショート動画をアップしているらしく、フォロワーも多いという。クラスカーストでは一軍に所属し、男子からの人気も高い。青の女版みたいなクラスメイトだ。
そして――。
「で、五十嵐くんはなんて言ったのっ?」
取り巻きの一人が前のめりに質問すると、詩乃は顎を引いて「え~」と小さな口からためらうように声を出した。
「もう……みんなホント内緒にしてよ?」
一斉にうんうんと頷く女子の真ん中で、少なくとも教室の端にいる叶太たちにも聞こえる声量で言った。
「私がよく行くコンビニで、たまたま青くんがバイトしてたのね。あの日はまぁ、なんていうか、ちょうど青くんの帰る時間だったってのもあって。思いきって告白したの。そしたら『オレも詩乃さんのこと可愛いと思ってました』って言ってくれて」
再び「キャーッ」と取り巻きの歓声が教室に響き渡る。
その様子を見ながら、寺嶋は「ついに五十嵐も人のもんになったか」と吞気な声で言う。
「……」
寺嶋の独り言に返すことなく、叶太は俯いてカレーパンの最後の一口を口に入れた。
青が叶太のクラスメイト・町田詩乃と付き合い始めたのは、夏休みの間だ。
本人からではなく、あくまで寺嶋や他のクラスメイトといった第三者から聞いた話だが、青は詩乃から受けた告白に、OKの返事を出したという。
最初廊下でその報せを聞いたとき、耳を疑った。だって青には好きな人がいる。その人のことを毎日のように目で追っていて、でも自分にはまるで興味のない人だから絶対に振られる、と告白することに対して怖気づいていた。
だから青が詩乃と付き合い出したと聞いて、最初は信じられない気持ちでいっぱいだった。
青は結局、好きな人に振られてしまったのだろうか。それとも青の好きな人は元々詩乃だったのだろうか。
そんな疑問が叶太の中に沸いた。少し前なら直接青本人のところに行って、事の真相を問いただしていただろう。でも今は……叶太にそんな大胆な行動をとる勇気はない。
当然のことながら、あの日以来北村とやり取りしていたラインは途絶えた。もちろん昼ご飯を一緒に食べる約束もしていない。
最初の数日はなんだかんだ寂しさもあったが、振ったのは自分だ。寂しがるのはお門違いだ、と無理やり言い聞かせ、叶太は受験勉強に精を出すことで気を紛らわせた。
「叶太が英単語帳見ながらメシ食ってるとか、似合わな過ぎて笑うわ」
自分と北村の間に何があったかなんて露ほども興味がない寺嶋と喋ると、逆に楽だ。根掘り葉掘り聞かれずに済む。
「勝手に笑っとけ」
残りのカレーパンを食べていると、教室の真ん中に集まっていた女子の輪から、突然黄色い声が上がった。
四、五人の女子が囲んでいるのは、町田詩乃だ。詩乃はセミロングの艶のある黒髪に、大きな二重の目と小ぶりの鼻と唇。身長は百六十センチあるかないかの、細くてスタイルのいい女子だ。
仕草はまるで小鳥みたいで、首を傾げる姿は動物図鑑に載っているシマエナガみたいだなと思う。SNSでよくショート動画をアップしているらしく、フォロワーも多いという。クラスカーストでは一軍に所属し、男子からの人気も高い。青の女版みたいなクラスメイトだ。
そして――。
「で、五十嵐くんはなんて言ったのっ?」
取り巻きの一人が前のめりに質問すると、詩乃は顎を引いて「え~」と小さな口からためらうように声を出した。
「もう……みんなホント内緒にしてよ?」
一斉にうんうんと頷く女子の真ん中で、少なくとも教室の端にいる叶太たちにも聞こえる声量で言った。
「私がよく行くコンビニで、たまたま青くんがバイトしてたのね。あの日はまぁ、なんていうか、ちょうど青くんの帰る時間だったってのもあって。思いきって告白したの。そしたら『オレも詩乃さんのこと可愛いと思ってました』って言ってくれて」
再び「キャーッ」と取り巻きの歓声が教室に響き渡る。
その様子を見ながら、寺嶋は「ついに五十嵐も人のもんになったか」と吞気な声で言う。
「……」
寺嶋の独り言に返すことなく、叶太は俯いてカレーパンの最後の一口を口に入れた。
青が叶太のクラスメイト・町田詩乃と付き合い始めたのは、夏休みの間だ。
本人からではなく、あくまで寺嶋や他のクラスメイトといった第三者から聞いた話だが、青は詩乃から受けた告白に、OKの返事を出したという。
最初廊下でその報せを聞いたとき、耳を疑った。だって青には好きな人がいる。その人のことを毎日のように目で追っていて、でも自分にはまるで興味のない人だから絶対に振られる、と告白することに対して怖気づいていた。
だから青が詩乃と付き合い出したと聞いて、最初は信じられない気持ちでいっぱいだった。
青は結局、好きな人に振られてしまったのだろうか。それとも青の好きな人は元々詩乃だったのだろうか。
そんな疑問が叶太の中に沸いた。少し前なら直接青本人のところに行って、事の真相を問いただしていただろう。でも今は……叶太にそんな大胆な行動をとる勇気はない。
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