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7章
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しおりを挟む短い時間だったけれど、北村にはよくしてもらった。自分にはもったいないぐらいの好意と優しさをもらい、すごく嬉しかった。
北村と付き合ったら、男女関係なく幸せになれると思った。毎日温かい気持ちにさせてくれて、自然と心が前向きになっていくんだろうなと。
「じゃあどうして……」
目の前にいる男の笑顔が歪む。この期に及んで言いにくいなんて、言えるはずがなかった。
「好きな人が……できた」
その瞬間、北村の歪んだ笑顔が固まった。再び沈黙が流れるかと身構えたけれど、思いのほか北村の反応は早くに返ってきた。
「……そっか」
北村は両手で鼻と口を覆い、テーブルの上に肘をついた。安堵したように見えたのは、気のせいだろうか。
「あ~……それじゃあしょうがないですね。残念ですけど」
「ごめん……北村にはよくしてもらったのに」
北村は「いいえ」と鼻と口を覆っていた両手をどけた。叶太がこの二ヶ月、よく見た笑顔がそこあった。
「とりあえず食べませんか? これ」
北村の提案で、テーブルの真ん中に置かれた新商品のケーキに手を伸ばし、お互いに一口で食べた。叶太はアイスのカフェラテ、北村はアイスコーヒーをズッと飲む。
喉に食べ物と飲み物が通ったことで、感傷的になっていた気持ちがいくらか冷静になった。ひと呼吸置いたあと、再度北村が口を開く。
「僕の知っている人ですか?」
「え?」
「好きな人って」
「え、っと、それは……」
花火大会の日、二人でわたあめを食べた際に見た幼なじみの笑顔がよみがえる。思い出したらドギマギしてしまい、目が泳ぐ。
正直に言うべきか、それとも隠した方がいいのか? 挙動不審に「えっと」を繰り返していると、北村は「やっぱりいいです」と穏やかな口調で、自身で振った質問を回収した。
カフェを出たあと、これから電車に乗って祖父母宅へ向かうという北村を、叶太は駅まで見送ることにした。改札で別れる際、北村はくるりと叶太の方を向いて言った。
「短い間でしたけど、僕のわがままに付き合ってくれてありがとうございました。今日は先輩が僕のことを真剣に考えてくれていたことがわかって、嬉しかったです」
「そんな。こっちこそ……」
今日会うまで、中途半端に期待させてしまったのではないかと心苦しかった。知れば好きになるかもしれないなんて過信せず、告白された時点で素直に自分の気持ちに従っていればよかったかもしれない。
今になって後悔が押し寄せてくるが、最後まで気丈に振る舞う北村を見ていると後悔すること自体が失礼だと思えてくる。
自分が北村に伝えるべきことは、一つだけ。
「……好きになってくれてありがとな。勇気出して、告白してくれてさ。振ったあとに言うのもあれだけど、まじで嬉しかった」
耳の後ろを掻きながら言うと、北村は「ほんと振ったあとに言わないでくださいよ」と困った顔をして笑った。
「これからも学校で会ったときに、挨拶だけでもしていいですか?」
「え?」
「お互い気まずいのは嫌じゃないですか。だからまあ、それこそ普通の先輩後輩として」
北村なりの妥協案。むしろその方がこちらとしてもありがたかった。叶太も北村と気まずくなるのはできれば避けたい。だって嫌いになったわけじゃないから。
「もちろん。挨拶だけなんて言わないで、普通に喋ってよ。オレも北村とはまた普通に喋りたいし」
「はは。ほんと椿先輩は『たらし』だなぁ」
北村は苦笑しながら改札に足を向けた。
「ではまた、新学期に」
にこやかにそう言うと、改札の中へと入っていった。
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