【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

7章

7－5

　今さら彼女ができたことを報告してくるつもりだろうか。だとしたら、絶対に聞きたくない。だからこそ叶太はあえて自分から、青の言いたいことをすくって目の前に叩き落としてやった。

「おまえにとってオレは報告するほどの価値もなかった。それだけのことだろ」

　青は表情を歪ませたまま、頭を横に振った。揺れる前髪の奥に、動揺した目が泳ぐ。

「違う、違う……っ」

「なにが違うんだよ」

「全部ちが――」

　全部なんて漠然とした言葉を使ってくる男に、猛烈な怒りがこみ上げる。ずるいと思った。

「じゃあその全部ってなんだよ。説明できんのかよ。言っとくけどオレだって最近受験勉強で忙しいし、もうこれ以上おまえの都合に付き合ってる暇なんてない」

　自分がここまで青に対してピリピリしているのは、青に彼女ができたからだけじゃない。花火大会の日から、青は叶太の家に一切来なくなったのだ。

　避けられている。

　よほどの鈍感な人間でもわかるほどに、叶太の前に姿を現さなくなった。夏休みの間は自分も予備校の夏期講習で忙しかったし、青と会ってもちゃんと喋れるか不安で、むしろ顔を合わす機会がなくても、「最近来ないな」ぐらいにしか思わなかった。

　だが新学期が明けてみればこれだ。いつの間にか彼女を作っていたのだ。しかも叶太と同じクラスメイトの女子。
いくら青や詩乃に意図はないとはいえ、叶太にとっては最悪の展開だった。学校に行けば毎日のように耳に入ってくる詩乃の惚気話。地獄のような時間を味わっている自分のことなんて、青にはきっとわからない。

　おそらく青にも、あえて叶太に報告しなかった理由があるのかもしれない。それにもしも青から彼女ができたと報告を受けたとしたら、自分はどんな反応をしていたのだろうか。

　冷静になればなるほど、青を責めるのは違うと、頭ではわかっている。

　でも……心が追い付かなかった。

　自分が悩んでいる間に、青は彼女を作っていた。その事実に打ちのめされた。青にやり場のない怒りをぶつけたくなるほどに。

　叶太の怒りに触れ、これ以上は何を言っても無駄だと判断したのだろう。呆然とした青は口を中途半端に開けたまま、肩で浅く短い呼吸を繰り返していた。

「……じゃあ、オレもう行くから」

　ただ購買部に行くだけなのに、叶太は急いでいる風を演じて階段を降りていく。

　階段を一階まで降りきったあと、叶太は思わず壁に手をついた。すぐさまのしかかってきた後悔に飲まれそうになり、体を支えずにはいられなかった。

「……っごめん」

　誰に言うわけでもなく、くしゃりと顔を歪ませて言った。

　ひどい言葉を言ってごめん。彼女ができたことを、祝ってあげられなくてごめん。好きになって……ごめん。
自分が消えたあと、青はすぐに詩乃と会えたらしい。階段の上から上履きの擦れる音と、

　――青くんだぁっ。わざわざ会いにきてくれたの？

　という詩乃の嬉しそうな声が降ってきた。