47 / 70
9章
9-2
しおりを挟むげっ、と喉まで出かかった声を飲み込む。舞子さんにそう言われたら、自分に拒否権はない。叶太は引き攣った笑顔を貼り付け、「は、はーい」と返事した。
舞子さんはせっせとスイカを切り、青にスイカ一切れを乗せた小皿を、叶太には冷蔵庫にあったカットメロンを移した器を持たせてくれた。期せずして青の部屋で二人きりになることが決定する。気まずさから気持ちがずんと沈む。
処刑台に連れていかれる囚人のような心持ちで、叶太は青のあとに続き、階段を上った。
部屋に入るや否や、青は机に近づいた。すぐに食べる気はないようで、机の上にコトンとスイカを乗せた皿を置く。
どう切り出せばいいんだろう。夕方のことを謝った方がいいのだろうか。それともいっそのこと、ふざけて場を和ませた方がよかったりするのかな。
迷っているうちに、叶太の前にいた青が突然、
「詩乃さんとは付き合ってないから」
と言い出した。
不意打ちの説明に、叶太はキョトンとする。「は?」という疑問が口から出る前に、青は続ける。
「傍から見れば、付き合ってるように見えるかもしれないけど」
苦しい言い分に頭が痛くなる。叶太は「いやいやいや」と苛立ち気味に笑った。
「なんだよそれ。意味わかんないんだけど」
「意味わかんないって思われてもしょうがないってわかってる。でもオレは――オレが好きなのは……っ」
青がギュッと拳を握り締める。
「つまり町田が嘘ついてるってこと?」
「それは――」
青は目を下にやる。また黙るつもりなのか。卑怯だと思った。
「町田が嘘言ってるっていうなら、なんでおまえは本当のことを周りに言って撤回しないんだよ」
青が何を言いたいのか理解不能だ。詩乃と付き合っていないというのなら、どうして放課後デートなんてしているんだろう。カップルのように振る舞っているんだろう。
青の真意はどこにあるんだ。同時に青が嘘をついているとも思えなかった。これは幼なじみの勘といってもいい。だって青は嫌なことは嫌だとはっきり言うし、好きじゃない相手からの告白はこれまできっぱり断ってきた。
でも幸せそうな詩乃が、嘘をついているようにも見えない。だから厄介なのだ。どれが嘘で、何が本当なのか自分には見極められない。しんどい。
「なんかもう、疲れたわ」
叶太は脱力し、青の横を通って椅子に座った。冷静になって青の弁明に耳を傾ければいいのかもしれない。ていうか、そうした方がいいのだろう。でも青は肝心なところで言いたいことを飲み込むし、自分が知りたいことをちゃんと最後まで教えてくれるかわからない。
考えているうちに、なんだか全部どうでもよくなってくる。フォークに差したメロンを口に運ぶ。こんなときでも食欲があるから不思議だ。
「つーかもうやめない? なんか痴話げんかみたいで、頭ヘンになってくるんだけど」
叶太は椅子に座ったまま、脱力気味にヘラッと青に笑いかけた。
そもそも自分たちは男同士で幼なじみだ。いくら自分が青を好きになってしまったからといって、青にとってそこの関係性は変わらないはず。一人で勝手に嫉妬して、感情をぶつけてしまうなんて、青にとってもいい迷惑だろう。
228
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
僕らのトライアングル
竜鳴躍
BL
工藤ユウキには好きな人がいる。
隣の家に住んでいる大学生のお兄さん。
頭が良くて、優しくて、憧れのお兄さん。
斎藤久遠さん。
工藤ユウキには幼馴染がいる。ちょっとやんちゃでみんなの人気者、結城神蔵はいつもいっしょ。
久遠さんも神蔵が可愛いのかな。
二人はとても仲良しで、ちょっとお胸がくるし。
神蔵のお父さんと僕のお父さんがカップルになったから、神蔵も僕のお家にお引越し。
神蔵のことは好きだけど、苦しいなぁ。
えっ、神蔵は僕のことが好きだったの!?
久遠さんは神蔵が好きで神蔵は僕が好きで、僕は……
僕らの青春スクランブル。
元学級委員長パパ☓元ヤンパパもあるよ。
※長編といえるほどではなさそうなので、短編に変更→意外と長いかもと長編変更。2025.9.15
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
【完結】いいなりなのはキスのせい
北川晶
BL
優等生×地味メンの学生BL。キスからはじまるすれ違いラブ。アオハル!
穂高千雪は勉強だけが取り柄の高校一年生。優等生の同クラ、藤代永輝が嫌いだ。自分にないものを持つ彼に嫉妬し、そんな器の小さい自分のことも嫌になる。彼のそばにいると自己嫌悪に襲われるのだ。
なのに、ひょんなことから脅されるようにして彼の恋人になることになってしまって…。
藤代には特異な能力があり、キスをした相手がいいなりになるのだという。
自分はそんなふうにはならないが、いいなりのふりをすることにした。自分が他者と同じ反応をすれば、藤代は自分に早く飽きるのではないかと思って。でも藤代はどんどん自分に執着してきて??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる