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9章
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夕飯のデザートにスイカを食べていると、母親が半分に切ったスイカを目の前に持ってきた。半玉にもかかわらず炊飯器の内釜ほどの大きさのそれは、側面をアルミホイルに覆われている。
「カナー、それ食べ終わったら、青くんのおうちにこれ持っていって」
叶太はスイカの種をペッと皿に出す。
「え、そればあちゃんが送ってくれたスイカでしょ」
「そう。でも食べきれないでしょ」
「食うよオレ」
「とか言って、去年も食べきれなかったじゃない」
「でも今回はほんとに」
しつこいと思ったのか、若干イラッとさせた母親が皿を洗う手を動かしながら言う。
「食べ頃の時期に美味しく食べてもらった方が、おばあちゃんも喜ぶってもんでしょ」
「いや、でも」
「もう舞子さんにあげるって言っちゃったの。いいから渡してきて」
「……ったよ」
叶太は果汁で汚れた口元をティッシュで拭いた。
重い腰を上げる。スイカの半玉を両手に抱えながらサンダルを履く。玄関から外に出れば、青の家は道を挟んですぐだ。
インターホンの前で家を見上げると、青の部屋に電気が点いているのが見えた。今日はバイトじゃないんだな。青の在宅を知り、気分が重くなった。
ファストフード店で青と言い合いをしたのは今日の夕方。ほとぼりが冷めるには、まだ時間が足りなかった。
今日はもう青と顔を合わせたくなかった。家が近所かつ母親同士の仲がいいと、そういうわけにもいかないからつらい。
叶太は「はあ」と肩でため息をこぼした。舞子さんにスイカを渡したら、すぐに帰ろう。えいっとインターホンを押したあと、家人が出てくるのを門扉の前で待つ。
玄関ドアはすぐに開いた。出てきた人を見てホッとした。青のお母さんである舞子さんだったからだ。
「カナくん夜遅くにごめんね~」
サンダルを鳴らしてドアから出ると、舞子さんは門扉に歩み寄ってきた。少し垂れ下がった涼しげな目尻と、スラッと流れる鼻筋は青とそっくりだ。
「わ~大きなスイカ! ありがと――……って、やっぱり重いわね」
スイカを渡した瞬間、舞子さんは腰を曲げた。華奢な体にずっしりと圧をかけているのか、前屈みになる舞子さんを見ると手を貸さずにはいられなかった。
「すいません、重かったですよね。家の中まで運びます」
「あら、じゃあお願いしてもいい?」
「もちろんです!」
再び叶太の手に戻ってきたスイカを抱えて、玄関とリビングを通ってキッチンまで運ぶ。子どもの頃から幾度となく遊びにきた場所だ。家の間取りは頭に入っている。迷うことなくたどり着いたキッチンカウンターの上に、スイカを置いた。
「カナくんありがとね。今青も呼んでくるから、よかったらスイカ一緒に食べていかない?」
早速スイカを切るつもりなのか、舞子さんはカウンター下の収納スペースから包丁と木製のまな板を出した。
「ありがとうございます。でもオレ、さっきちょうど家で食べてきたばかりで」
「あ、そうだったのね。じゃあお中元でいただいたジュースがあるから、それ持っていってよ」
舞子さんはちょっと待ってね、と階段下のパントリーを開ける。その上から足音がしたのはそのときだ。
ふと見上げると、吹き抜けの階段を青が降りてくるのが見えた。がっちりと目が合ってしまい、叶太はわざとらしくサッと逸らす。
「あら、青。千佳子さんからスイカをいただいたんだけど、青は今食べるよね?」
青の足音に気づいたのか、舞子さんはパントリーの引き戸の陰から顔を出した。
青はこちらをちらっと見てから、「叶太は?」と母親経由で尋ねる。
「カナくんはおうちで食べたんだって。今ジュース持っていってもらおうと思って用意してるんだけど――」
他にも叶太の母親に渡したいものがあるらしく、舞子さんは「ごめんね、もうちょっと時間かかるから、青の部屋で待っててもらえる?」と気のいい笑顔を向けた。
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