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10章
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しおりを挟む「あの頃、叶太がよくオレの部屋で絵本読んでくれたの、覚えてる?」
絵本……を読んでいたかどうかは、昔のことなのであまり覚えていない。でも小学校に入学したばかりの頃、学校から帰ってきては毎日のように青の家に通っていたことは覚えている。
叶太はとりあえず「ちょっと覚えてる」と答えた。
「あの頃すぐ体調崩してたから、オレはよく家にこもって一人で寝てた。誰とも遊べなくてさ。子どもながらに寂しいなって思ってたんだ。でも……夕方になると、叶太が毎日オレのとこ来てくれた」
うっすらとした覚えていない過去が、ぽつぽつと蘇る。あの頃の自分は、青の母親――舞子さんのことが大好きだった。綺麗で優しくて、家では食べたことのないようなデパートで売っているお菓子やジュースをくれたから。
子どもは残酷だなと思う。青の中で綺麗な思い出になっているみたいだけど、当時の自分は外で遊べない青が可哀想だとか、自分が面倒を見てやらなくちゃとか、そういった同情する気持ちや責任感は少しもなかったように思う。
それは青もわかっているようで、「口によくクッキーのカスつけてたけど」と懐かしげに笑った。
「夕方になると、おまえの声が一階から聞こえてくるだろ。それがなんか、安心したんだよ。ずっとしんどかったのに、声聞いてたらほっとしてさ……『この子の隣にいたら大丈夫かも』って思ったんだ」
青の話によれば、小学一年生の自分は、青が読んでほしかったわけでもない絵本を強引に読んだり、宿題で出されたドリルを目の前でやって見せたり、青の部屋で好き勝手な時間を過ごしていたらしい。でもそれがすごく居心地がよかったのだと、青は言う。
「あれが、叶太のことを好きになった始まりだったと思ってる。オレは叶太と一緒にいる時間がすごく好きなんだ。昔も……今も」
遠くを見つめていた目が、『今』の叶太に戻ってくる。
「ずっと伝えたかった。でも言えなかった。……今、ちゃんと言う」
足を止めた青につられ、叶太も一歩遅れて歩みを止めた。じっと見つめてくる青の目に捕まり、目が離せなくなる。
「オレは叶太が好きだ」
まっすぐな言葉。これ以上ない言葉が胸を打つ。
「これからもずっと、隣で笑っていてほしい」
真剣な目に吸い込まれそうだった。付き合ってほしいでも、一緒にいてほしいでもない。ただ隣で笑っていてほしいと言う。
なんて欲がないんだろう。もっと他にあるだろ、と思わずツッコみたくなる。同時に青が自分に片思いしていた年月の長さと深さを身に染みて感じ、胸がいっぱいになった。
今日はあくまでも気持ちを伝えられれば、それでいいと思っているのだろうか。叶太が静かに受け止めていると、
「そういうことだから」
青はふっと笑って、ゆっくりと歩き出した。
あと数メートルほど歩けば丁字路だ。そこを右に曲がれば、すぐお互いの家に着いてしまう。
もうちょっと一緒にいたかった。母親にはあとでちゃんと謝る。だから今は青といる時間を大事にしたかった。
先を歩く青の腕に、叶太は指先でちょんと触れた。振り返った青のちょっと驚いたような顔を、叶太は上目遣いで見上げる。
「……言いっぱなしかよ」
ふて腐れ気味に言うと、青は「だって今日はもう遅いし」と困惑を見せながら正論で返してきた。
「じゃあ聞かなくていいんだ。オレの気持ち」
「そ、それは……」
青はごくりと喉を鳴らし、こめかみをポリポリと掻く。
「聞きたいに決まってるじゃん。でも……」
「とにかく目つぶれよ」
こちらからの急な指示に、青が「は?」と不服そうに口を開けた。
「いいから目つぶれって!」
「これ絶対あれだろ」と渋々ながら青が目をゆっくりと閉じる。
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