【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ

文字の大きさ
60 / 70
10章

10-10

しおりを挟む

「あの頃、叶太がよくオレの部屋で絵本読んでくれたの、覚えてる?」

 絵本……を読んでいたかどうかは、昔のことなのであまり覚えていない。でも小学校に入学したばかりの頃、学校から帰ってきては毎日のように青の家に通っていたことは覚えている。

 叶太はとりあえず「ちょっと覚えてる」と答えた。

「あの頃すぐ体調崩してたから、オレはよく家にこもって一人で寝てた。誰とも遊べなくてさ。子どもながらに寂しいなって思ってたんだ。でも……夕方になると、叶太が毎日オレのとこ来てくれた」

 うっすらとした覚えていない過去が、ぽつぽつと蘇る。あの頃の自分は、青の母親――舞子さんのことが大好きだった。綺麗で優しくて、家では食べたことのないようなデパートで売っているお菓子やジュースをくれたから。

 子どもは残酷だなと思う。青の中で綺麗な思い出になっているみたいだけど、当時の自分は外で遊べない青が可哀想だとか、自分が面倒を見てやらなくちゃとか、そういった同情する気持ちや責任感は少しもなかったように思う。

 それは青もわかっているようで、「口によくクッキーのカスつけてたけど」と懐かしげに笑った。

「夕方になると、おまえの声が一階から聞こえてくるだろ。それがなんか、安心したんだよ。ずっとしんどかったのに、声聞いてたらほっとしてさ……『この子の隣にいたら大丈夫かも』って思ったんだ」

 青の話によれば、小学一年生の自分は、青が読んでほしかったわけでもない絵本を強引に読んだり、宿題で出されたドリルを目の前でやって見せたり、青の部屋で好き勝手な時間を過ごしていたらしい。でもそれがすごく居心地がよかったのだと、青は言う。

「あれが、叶太のことを好きになった始まりだったと思ってる。オレは叶太と一緒にいる時間がすごく好きなんだ。昔も……今も」

 遠くを見つめていた目が、『今』の叶太に戻ってくる。

「ずっと伝えたかった。でも言えなかった。……今、ちゃんと言う」

 足を止めた青につられ、叶太も一歩遅れて歩みを止めた。じっと見つめてくる青の目に捕まり、目が離せなくなる。

「オレは叶太が好きだ」

 まっすぐな言葉。これ以上ない言葉が胸を打つ。

「これからもずっと、隣で笑っていてほしい」

 真剣な目に吸い込まれそうだった。付き合ってほしいでも、一緒にいてほしいでもない。ただ隣で笑っていてほしいと言う。

 なんて欲がないんだろう。もっと他にあるだろ、と思わずツッコみたくなる。同時に青が自分に片思いしていた年月の長さと深さを身に染みて感じ、胸がいっぱいになった。

 今日はあくまでも気持ちを伝えられれば、それでいいと思っているのだろうか。叶太が静かに受け止めていると、

「そういうことだから」

 青はふっと笑って、ゆっくりと歩き出した。

 あと数メートルほど歩けば丁字路だ。そこを右に曲がれば、すぐお互いの家に着いてしまう。

 もうちょっと一緒にいたかった。母親にはあとでちゃんと謝る。だから今は青といる時間を大事にしたかった。

 先を歩く青の腕に、叶太は指先でちょんと触れた。振り返った青のちょっと驚いたような顔を、叶太は上目遣いで見上げる。

「……言いっぱなしかよ」

 ふて腐れ気味に言うと、青は「だって今日はもう遅いし」と困惑を見せながら正論で返してきた。

「じゃあ聞かなくていいんだ。オレの気持ち」

「そ、それは……」

 青はごくりと喉を鳴らし、こめかみをポリポリと掻く。

「聞きたいに決まってるじゃん。でも……」

「とにかく目つぶれよ」

 こちらからの急な指示に、青が「は?」と不服そうに口を開けた。

「いいから目つぶれって!」

「これ絶対あれだろ」と渋々ながら青が目をゆっくりと閉じる。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話

雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。 主人公(受) 園山 翔(そのやまかける) 攻 城島 涼(きじまりょう) 攻の恋人 高梨 詩(たかなしうた)

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

僕らのトライアングル

竜鳴躍
BL
工藤ユウキには好きな人がいる。 隣の家に住んでいる大学生のお兄さん。 頭が良くて、優しくて、憧れのお兄さん。 斎藤久遠さん。 工藤ユウキには幼馴染がいる。ちょっとやんちゃでみんなの人気者、結城神蔵はいつもいっしょ。 久遠さんも神蔵が可愛いのかな。 二人はとても仲良しで、ちょっとお胸がくるし。 神蔵のお父さんと僕のお父さんがカップルになったから、神蔵も僕のお家にお引越し。 神蔵のことは好きだけど、苦しいなぁ。 えっ、神蔵は僕のことが好きだったの!? 久遠さんは神蔵が好きで神蔵は僕が好きで、僕は…… 僕らの青春スクランブル。 元学級委員長パパ☓元ヤンパパもあるよ。 ※長編といえるほどではなさそうなので、短編に変更→意外と長いかもと長編変更。2025.9.15

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶
BL
優等生×地味メンの学生BL。キスからはじまるすれ違いラブ。アオハル! 穂高千雪は勉強だけが取り柄の高校一年生。優等生の同クラ、藤代永輝が嫌いだ。自分にないものを持つ彼に嫉妬し、そんな器の小さい自分のことも嫌になる。彼のそばにいると自己嫌悪に襲われるのだ。 なのに、ひょんなことから脅されるようにして彼の恋人になることになってしまって…。 藤代には特異な能力があり、キスをした相手がいいなりになるのだという。 自分はそんなふうにはならないが、いいなりのふりをすることにした。自分が他者と同じ反応をすれば、藤代は自分に早く飽きるのではないかと思って。でも藤代はどんどん自分に執着してきて??

処理中です...