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10章
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しおりを挟む青と叶太がいる東屋に、再び静けさが戻ってくる。通話終了となったスマホの暗い画面を見ていると、足から力が抜けた。
叶太は後ろから倒れるようにベンチへと座る。乾いた声で「はは」と笑うと、ずっと強張っていた全身が緩んでいくのを感じた。
なんていうか、すごかったという感想しか出てこない。女の子――いや詩乃がすごいのか。今は傷心中かもしれないが、あの強さがあれば少なくとも立ち直れないという心配はないんじゃないかと思った。
「ったく。性格悪すぎんだろ、あの女」
青はブツブツ一人で文句を言いながら、詩乃のラインを即効でブロックしている。そして詩乃に感化されてか、口が悪くなっている。
「いや、おまえもなかなかだぞ」
叶太がツッコむと、青は「オレは元々こうだよ」と言い返してきた。
「叶太以外の人間にどう思われたって、べつにどうだっていいし」
態度は前と変わりないものの、不意打ちのデレにキュンとする。でも正直に伝えることでもないからこそ、叶太は「あ、あっそ」と興味ないふりをしつつドギマギした。
急に恥ずかしくなる。そういえば自分はさっき青に告白されたんだっけ。自分のことを好きだと言っておきながら、他の人とキスした疑惑。本当のところどうなのかを、まずははっきりさせたかった。好意を素直に受け取ることができなかった。
今になって焦る。ここには青と自分の二人しかいないのだ。告白をされた……ということは、自分からも青に返事をしなくちゃいけないのだろう。
詩乃に電話する前の話題に、どう戻そうか。汗ばむ首を指で掻きながら考える。そんな叶太を見かねてか、用済みになったスマホをズボンのポケットに戻した青が立ち上がった。
「今日はとりあえず帰ろ。千佳子さんが心配してる」
こちらを見下ろす青が提案したのは、現実的なことだった。今は告白の返事うんぬんに悩んでいる場合じゃない。日付が変わるような時間まで外にいる自分を、きっと母親も心配しているはずだ。
「そ、そうだな。もしかして青のところにも連絡いった?」
「きたよ。すげー心配してた。あとでちゃんと謝れよ」
「うん」
こんな夜遅く。風呂上がりにもかかわらず、こうして探しに来てくれたのか。心配をかけた自分の母親にはもちろん、青にも申し訳なくなった。
「そういえば、どうしてオレがここにいるってわかったん?」
帰りの夜道。住宅街を家に向かって歩きながら、叶太は隣を歩く青に聞いた。
「まあ、なんとなく」
「めっちゃふわっとしてるじゃん。オレの匂いをたどってきたとか?」
冗談ぽく笑って言うと、青は真顔で「そうだよ」と答えた。
「叶太の考えそうなことも、落ち込んだときに行きそうなところも、オレにはわかる」
まっすぐな言葉にうろたえる。叶太は「お、おう」と曖昧な相槌を打った。
「当然だろ。おまえのことしか見てこなかったんだから」
青がふと流し目でこちらを見る。どうしてそんなにはっきりと言えるんだろう。自分なんだろう。純粋に知りたくて、叶太は思わず疑問を口にしてしまった。
「き、聞きたいんだけどさ……やっぱオレ的には謎っていうか。だってオレ、おまえに何もしてないじゃん。かっこよくないし、キラキラもしてないし。そんなオレのどこをどう……」
「好きになったのかって?」
せっかく濁した言葉を、青は難なくザルですくいあげて目の前に置いた。叶太はコクンと頷いた。
青は少し経ってから、穏やかな口調で話し始めた。
「オレが年長で、おまえが小一のときだったんだけど、覚えてるかな」
青が苦笑いする。昔のことだから叶太が覚えていないと半分諦めているのかもしれない。
「オレ、あの頃体弱くてさ。しょっちゅう熱出して、保育園もよく休んでて」
「あー、たしか年長のときは一年の半分以上保育園行けなかったんだっけ」
昔のことを思い出す。青はこっちに引っ越してきた頃、よく保育園で熱をもらい、小児科に通っていた。ひどい肺炎を起こし、入院したことも一度や二度じゃないと舞子さんから聞いている。
青は「そう」と認めると、話を続けた。
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