69 / 70
番外編~受験生のオレと、遠慮がちな幼なじみの初デートの話~
4
しおりを挟む
つい今の今まで、今日の午前中に叶太が受けてきた模試の話をしていたのに。どういう思考回路で、自分と同じ大学に行くという考えに思い至ったのか謎だった。
「急にどうした。つーか、まだどの大学行けるか決まってないんですけど」
「地方の大学も受けるんだろ?」
「うん――って誰から聞いたんだよ」
尋ねている途中で気づき、「母さんか」と叶太は青より先に答えた。
「地方も一応な。でも受ける大学のほとんどが家から通える距離だぞ」
「わかってる。でも……もし地方の大学に行ったらって考えると、こわいんだよ」
「こわい?」
「地方の大学だけじゃない。普通に家から通える大学だって、叶太には新しい友達ができて、新しい世界が広がるだろ。そこにオレは入れないから……一年遅れでも、せめて同じ大学に入れば少しでも叶太の側にいれると思って」
青は膝の上に肘をつき、顔の前で手を組んだ。まるで神様に祈りを捧げるかのようだ。
そうだった。普段学校で見かける青はいつもキラキラしているから忘れていたが、本来の青は『こう』なのだ。こと叶太に関しては弱気な面が表れやすい。なんせ自分に十数年も片思いしていたぐらいなのだ。
並大抵の自信の無さじゃなければ、そんな年月ものあいだ気持ちを隠し通すことは逆に難しいんじゃないかと思う。
不安や心配事を口にできるようになっただけでも、むしろ成長した……と思っていいのだろうか。
背中を丸めて縮こまる男に、叶太は言葉を選ぼうと考えを巡らせた。けれど自分は言葉をオブラートに包むのが得意じゃない。
ま、いっか。叶太はハンモックで揺れを作りながら、ジンジャーエールをストローでズッと啜った。
「何言ってんだおまえ。オレがそういうの好きじゃないって、知ってんだろ」
青がひゅっと息を短く吸う。
「知ってるけど……っ叶太が北村に告白されたとき、オレがどんな気持ちだったかおまえにわかんのかよ」
「あのときはわかんなかったよ。おまえがオレのこと好きだったなんて知らなかったし」
半個室とはいえ、隣のテーブル席にも客はいる。お互い声のボリュームを抑えながら言い返した。
「高校はまだ目が届くと思ってたのに、知らない間に告白されてるし、お試し付き合いみたいなこと勝手に始めてるし。こんなんじゃ大学なんて行ったらどうなることか……」
「おまえはオレの保護者か」
頭を抱えて悩み始める男に向かって、叶太は鋭く言い返した。
「だから言ってんだろ。あのときはおまえが――」
「叶太って流されやすいもんな……」
「おい、聞けよ」
独り言のようにつぶやく男にイラッとする。
叶太は中身が半分ほどなくなったグラスをテーブルに置き、ハンモックから勢いよく立ち上がった。
青の前に立ち、相手を見下ろす。そのまま伸ばした両手で、男の頭をガッと挟んで固定する。少し傾けた顔を寄せ、叶太は青の唇にキスをした。
色気もムードも何もない。まるで『ぶちゅっ』という効果音が似合いそうな大雑把なキスだ。
そんなんでも、自分からキスをするというのは叶太にとってひどく緊張することなのだ。勢いに任せなければ、自分からはけっしてできない。
それでもしたいと思うのは、相手が青だからだ。青が好きだから、今後もし仮に誰かから告白されることがあっても、もう二度とあやふやな答えは返さない。
「急にどうした。つーか、まだどの大学行けるか決まってないんですけど」
「地方の大学も受けるんだろ?」
「うん――って誰から聞いたんだよ」
尋ねている途中で気づき、「母さんか」と叶太は青より先に答えた。
「地方も一応な。でも受ける大学のほとんどが家から通える距離だぞ」
「わかってる。でも……もし地方の大学に行ったらって考えると、こわいんだよ」
「こわい?」
「地方の大学だけじゃない。普通に家から通える大学だって、叶太には新しい友達ができて、新しい世界が広がるだろ。そこにオレは入れないから……一年遅れでも、せめて同じ大学に入れば少しでも叶太の側にいれると思って」
青は膝の上に肘をつき、顔の前で手を組んだ。まるで神様に祈りを捧げるかのようだ。
そうだった。普段学校で見かける青はいつもキラキラしているから忘れていたが、本来の青は『こう』なのだ。こと叶太に関しては弱気な面が表れやすい。なんせ自分に十数年も片思いしていたぐらいなのだ。
並大抵の自信の無さじゃなければ、そんな年月ものあいだ気持ちを隠し通すことは逆に難しいんじゃないかと思う。
不安や心配事を口にできるようになっただけでも、むしろ成長した……と思っていいのだろうか。
背中を丸めて縮こまる男に、叶太は言葉を選ぼうと考えを巡らせた。けれど自分は言葉をオブラートに包むのが得意じゃない。
ま、いっか。叶太はハンモックで揺れを作りながら、ジンジャーエールをストローでズッと啜った。
「何言ってんだおまえ。オレがそういうの好きじゃないって、知ってんだろ」
青がひゅっと息を短く吸う。
「知ってるけど……っ叶太が北村に告白されたとき、オレがどんな気持ちだったかおまえにわかんのかよ」
「あのときはわかんなかったよ。おまえがオレのこと好きだったなんて知らなかったし」
半個室とはいえ、隣のテーブル席にも客はいる。お互い声のボリュームを抑えながら言い返した。
「高校はまだ目が届くと思ってたのに、知らない間に告白されてるし、お試し付き合いみたいなこと勝手に始めてるし。こんなんじゃ大学なんて行ったらどうなることか……」
「おまえはオレの保護者か」
頭を抱えて悩み始める男に向かって、叶太は鋭く言い返した。
「だから言ってんだろ。あのときはおまえが――」
「叶太って流されやすいもんな……」
「おい、聞けよ」
独り言のようにつぶやく男にイラッとする。
叶太は中身が半分ほどなくなったグラスをテーブルに置き、ハンモックから勢いよく立ち上がった。
青の前に立ち、相手を見下ろす。そのまま伸ばした両手で、男の頭をガッと挟んで固定する。少し傾けた顔を寄せ、叶太は青の唇にキスをした。
色気もムードも何もない。まるで『ぶちゅっ』という効果音が似合いそうな大雑把なキスだ。
そんなんでも、自分からキスをするというのは叶太にとってひどく緊張することなのだ。勢いに任せなければ、自分からはけっしてできない。
それでもしたいと思うのは、相手が青だからだ。青が好きだから、今後もし仮に誰かから告白されることがあっても、もう二度とあやふやな答えは返さない。
165
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる