68 / 70
番外編~受験生のオレと、遠慮がちな幼なじみの初デートの話~
3
しおりを挟む
「うん。オレは叶太と毎日でもデートしたいよ」
青は大真面目に言い切る。青ってこんなやつだったっけ? もっとクールで、感情を表に出さないタイプだった気がする。
以前に比べて甘々な言動が格段に増えた男。戸惑うこともあるけれど、これは自分だけにしか見せない顔なんだよな。そう思うと地味に……いや、かなり嬉しいかもしれない。これじゃ青にツッコむこともできないなと思った。
叶太はまた緩みそうになる頬にキュッと力を入れた。
「と、とにかく今日はおまえの予定が空いててよかったよ」
青は「当たり前だろ」と言いながら、叶太の手と太ももの間に自身の手を滑らせた。指の合間に自身の指を入れ、恋人繋ぎで握りしめる。バスの振動が、お互いの指の隙間を埋めるように揺れる。
初めてじゃないのに、青と手を繋ぐときはいつも胸がドキドキする。子どものときに繋いだとき、付き合う前に花火大会で手を繋いだとき、そして今。どれも同じ手なのに、どこか違うと感じるのはどうしてだろう。
青は叶太の肩にコテンと頭を乗せた。自分より背が高いのに、首が痛くないのかな。叶太の心配をよそに、青の表情はずいぶんと穏やかだ。
「オレの予定なんて、叶太は気にしなくていいの。どうせ予定なんてねえし、オレが叶太に合わせるから」
「めっちゃ尽くすじゃん」
ははっと軽く笑えば、青は「叶太にだけな」とこちらの肩の上で、猫のように頭をスリスリさせた。
やがてバスが緑地公園に到着する。さりげなく手を繋いだままバスを降り、叶太たちはカフェやパン屋などが建ち並ぶ飲食店エリアに向かった。
やはり青の目当てはそのエリアにある店だったようで、木でできた看板の前で立ち止まると「ここ」と叶太の手を優しく引いた。
そこは隠れ家カフェで、表からは店の外観が見えない。看板の横にある森の小道を入ってすぐの場所にあった。青も初めて入る店らしく、ちょっと緊張しているみたいだ。店内に入ると、出迎えてくれた女性の店員に「二人です」と硬い声で伝えた。
靴を脱ぎ、古民家風の店内の奥に進むと、半個室に仕切られたテーブルに案内された。半個室の中を見て、叶太は驚いた。天井から吊るされたハンモックが、並ぶように二本揺れていた。
ハンモックの下にはアフリカンな柄の色鮮やかな絨毯が敷かれ、小窓から緑地公園の自然が見える。足元には小さなストーブも用意されていて、まさにくつろぐための空間が広がっていた。
「すげぇ。オレ、こんなオシャレな店に来るの初めてなんだけど」
ハンモックなんて、昔父親とキャンプに行ったとき以来だ。叶太は早速ハンモックに腰を沈め、ゆらゆらと揺らした。
「もうすぐ受験で気張ってるかなと思ってさ。今日ぐらいゆっくりしてもらいたかった」
青はそう言うと、叶太に続いてハンモックに大股で腰を下ろした。
気遣いが嬉しかった。同時にさっきバスの中でスケベなことを考えていた自分がちょっと恥ずかしい。
「ありがとな。すげえいいじゃん、ここ」
叶太はハンモックに揺られながら、体の力を抜いた。時間の流れがゆっくり感じる。受験のプレッシャーをあまり感じていない方だと思っていたけれど、自分でも気づかないうちに疲労は少しずつ溜まっていたのかもしれない。
ハンモックの上で脱力すると、居心地の良さから眠気がやってきそうだ。
そのあと注文を取りにきた店員にランチセットを頼み、青とちょこちょこ話をしながらゆったりとした時間を過ごした。お昼ご飯を食べ終え、ジンジャーエールを飲んでいるときだった。
青が唐突に「オレも叶太と同じ大学に行く」と言い出した。
青は大真面目に言い切る。青ってこんなやつだったっけ? もっとクールで、感情を表に出さないタイプだった気がする。
以前に比べて甘々な言動が格段に増えた男。戸惑うこともあるけれど、これは自分だけにしか見せない顔なんだよな。そう思うと地味に……いや、かなり嬉しいかもしれない。これじゃ青にツッコむこともできないなと思った。
叶太はまた緩みそうになる頬にキュッと力を入れた。
「と、とにかく今日はおまえの予定が空いててよかったよ」
青は「当たり前だろ」と言いながら、叶太の手と太ももの間に自身の手を滑らせた。指の合間に自身の指を入れ、恋人繋ぎで握りしめる。バスの振動が、お互いの指の隙間を埋めるように揺れる。
初めてじゃないのに、青と手を繋ぐときはいつも胸がドキドキする。子どものときに繋いだとき、付き合う前に花火大会で手を繋いだとき、そして今。どれも同じ手なのに、どこか違うと感じるのはどうしてだろう。
青は叶太の肩にコテンと頭を乗せた。自分より背が高いのに、首が痛くないのかな。叶太の心配をよそに、青の表情はずいぶんと穏やかだ。
「オレの予定なんて、叶太は気にしなくていいの。どうせ予定なんてねえし、オレが叶太に合わせるから」
「めっちゃ尽くすじゃん」
ははっと軽く笑えば、青は「叶太にだけな」とこちらの肩の上で、猫のように頭をスリスリさせた。
やがてバスが緑地公園に到着する。さりげなく手を繋いだままバスを降り、叶太たちはカフェやパン屋などが建ち並ぶ飲食店エリアに向かった。
やはり青の目当てはそのエリアにある店だったようで、木でできた看板の前で立ち止まると「ここ」と叶太の手を優しく引いた。
そこは隠れ家カフェで、表からは店の外観が見えない。看板の横にある森の小道を入ってすぐの場所にあった。青も初めて入る店らしく、ちょっと緊張しているみたいだ。店内に入ると、出迎えてくれた女性の店員に「二人です」と硬い声で伝えた。
靴を脱ぎ、古民家風の店内の奥に進むと、半個室に仕切られたテーブルに案内された。半個室の中を見て、叶太は驚いた。天井から吊るされたハンモックが、並ぶように二本揺れていた。
ハンモックの下にはアフリカンな柄の色鮮やかな絨毯が敷かれ、小窓から緑地公園の自然が見える。足元には小さなストーブも用意されていて、まさにくつろぐための空間が広がっていた。
「すげぇ。オレ、こんなオシャレな店に来るの初めてなんだけど」
ハンモックなんて、昔父親とキャンプに行ったとき以来だ。叶太は早速ハンモックに腰を沈め、ゆらゆらと揺らした。
「もうすぐ受験で気張ってるかなと思ってさ。今日ぐらいゆっくりしてもらいたかった」
青はそう言うと、叶太に続いてハンモックに大股で腰を下ろした。
気遣いが嬉しかった。同時にさっきバスの中でスケベなことを考えていた自分がちょっと恥ずかしい。
「ありがとな。すげえいいじゃん、ここ」
叶太はハンモックに揺られながら、体の力を抜いた。時間の流れがゆっくり感じる。受験のプレッシャーをあまり感じていない方だと思っていたけれど、自分でも気づかないうちに疲労は少しずつ溜まっていたのかもしれない。
ハンモックの上で脱力すると、居心地の良さから眠気がやってきそうだ。
そのあと注文を取りにきた店員にランチセットを頼み、青とちょこちょこ話をしながらゆったりとした時間を過ごした。お昼ご飯を食べ終え、ジンジャーエールを飲んでいるときだった。
青が唐突に「オレも叶太と同じ大学に行く」と言い出した。
169
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】腹黒王子と俺が″偽装カップル″を演じることになりました。
Y(ワイ)
BL
「起こされて、食べさせられて、整えられて……恋人ごっこって、どこまでが″ごっこ″ですか?」
***
地味で平凡な高校生、生徒会副会長の根津美咲は、影で学園にいるカップルを記録して同人のネタにするのが生き甲斐な″腐男子″だった。
とある誤解から、学園の王子、天瀬晴人と“偽装カップル”を組むことに。
料理、洗濯、朝の目覚まし、スキンケアまで——
同室になった晴人は、すべてを優しく整えてくれる。
「え、これって同居ラブコメ?」
……そう思ったのは、最初の数日だけだった。
◆
触れられるたびに、息が詰まる。
優しい声が、だんだん逃げ道を塞いでいく。
——これ、本当に“偽装”のままで済むの?
そんな疑問が芽生えたときにはもう、
美咲の日常は、晴人の手のひらの中だった。
笑顔でじわじわ支配する、“囁き系”執着攻め×庶民系腐男子の
恋と恐怖の境界線ラブストーリー。
【青春BLカップ投稿作品】
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話
雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。
主人公(受)
園山 翔(そのやまかける)
攻
城島 涼(きじまりょう)
攻の恋人
高梨 詩(たかなしうた)
唇を隠して,それでも君に恋したい。
初恋
BL
同性で親友の敦に恋をする主人公は,性別だけでなく,生まれながらの特殊な体質にも悩まされ,けれどその恋心はなくならない。
大きな弊害に様々な苦難を強いられながらも,たった1人に恋し続ける男の子のお話。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる