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番外編~受験生のオレと、遠慮がちな幼なじみの初デートの話~
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つい今の今まで、今日の午前中に叶太が受けてきた模試の話をしていたのに。どういう思考回路で、自分と同じ大学に行くという考えに思い至ったのか謎だった。
「急にどうした。つーか、まだどの大学行けるか決まってないんですけど」
「地方の大学も受けるんだろ?」
「うん――って誰から聞いたんだよ」
尋ねている途中で気づき、「母さんか」と叶太は青より先に答えた。
「地方も一応な。でも受ける大学のほとんどが家から通える距離だぞ」
「わかってる。でも……もし地方の大学に行ったらって考えると、こわいんだよ」
「こわい?」
「地方の大学だけじゃない。普通に家から通える大学だって、叶太には新しい友達ができて、新しい世界が広がるだろ。そこにオレは入れないから……一年遅れでも、せめて同じ大学に入れば少しでも叶太の側にいれると思って」
青は膝の上に肘をつき、顔の前で手を組んだ。まるで神様に祈りを捧げるかのようだ。
そうだった。普段学校で見かける青はいつもキラキラしているから忘れていたが、本来の青は『こう』なのだ。こと叶太に関しては弱気な面が表れやすい。なんせ自分に十数年も片思いしていたぐらいなのだ。
並大抵の自信の無さじゃなければ、そんな年月ものあいだ気持ちを隠し通すことは逆に難しいんじゃないかと思う。
不安や心配事を口にできるようになっただけでも、むしろ成長した……と思っていいのだろうか。
背中を丸めて縮こまる男に、叶太は言葉を選ぼうと考えを巡らせた。けれど自分は言葉をオブラートに包むのが得意じゃない。
ま、いっか。叶太はハンモックで揺れを作りながら、ジンジャーエールをストローでズッと啜った。
「何言ってんだおまえ。オレがそういうの好きじゃないって、知ってんだろ」
青がひゅっと息を短く吸う。
「知ってるけど……っ叶太が北村に告白されたとき、オレがどんな気持ちだったかおまえにわかんのかよ」
「あのときはわかんなかったよ。おまえがオレのこと好きだったなんて知らなかったし」
半個室とはいえ、隣のテーブル席にも客はいる。お互い声のボリュームを抑えながら言い返した。
「高校はまだ目が届くと思ってたのに、知らない間に告白されてるし、お試し付き合いみたいなこと勝手に始めてるし。こんなんじゃ大学なんて行ったらどうなることか……」
「おまえはオレの保護者か」
頭を抱えて悩み始める男に向かって、叶太は鋭く言い返した。
「だから言ってんだろ。あのときはおまえが――」
「叶太って流されやすいもんな……」
「おい、聞けよ」
独り言のようにつぶやく男にイラッとする。
叶太は中身が半分ほどなくなったグラスをテーブルに置き、ハンモックから勢いよく立ち上がった。
青の前に立ち、相手を見下ろす。そのまま伸ばした両手で、男の頭をガッと挟んで固定する。少し傾けた顔を寄せ、叶太は青の唇にキスをした。
色気もムードも何もない。まるで『ぶちゅっ』という効果音が似合いそうな大雑把なキスだ。
そんなんでも、自分からキスをするというのは叶太にとってひどく緊張することなのだ。勢いに任せなければ、自分からはけっしてできない。
それでもしたいと思うのは、相手が青だからだ。青が好きだから、今後もし仮に誰かから告白されることがあっても、もう二度とあやふやな答えは返さない。
「急にどうした。つーか、まだどの大学行けるか決まってないんですけど」
「地方の大学も受けるんだろ?」
「うん――って誰から聞いたんだよ」
尋ねている途中で気づき、「母さんか」と叶太は青より先に答えた。
「地方も一応な。でも受ける大学のほとんどが家から通える距離だぞ」
「わかってる。でも……もし地方の大学に行ったらって考えると、こわいんだよ」
「こわい?」
「地方の大学だけじゃない。普通に家から通える大学だって、叶太には新しい友達ができて、新しい世界が広がるだろ。そこにオレは入れないから……一年遅れでも、せめて同じ大学に入れば少しでも叶太の側にいれると思って」
青は膝の上に肘をつき、顔の前で手を組んだ。まるで神様に祈りを捧げるかのようだ。
そうだった。普段学校で見かける青はいつもキラキラしているから忘れていたが、本来の青は『こう』なのだ。こと叶太に関しては弱気な面が表れやすい。なんせ自分に十数年も片思いしていたぐらいなのだ。
並大抵の自信の無さじゃなければ、そんな年月ものあいだ気持ちを隠し通すことは逆に難しいんじゃないかと思う。
不安や心配事を口にできるようになっただけでも、むしろ成長した……と思っていいのだろうか。
背中を丸めて縮こまる男に、叶太は言葉を選ぼうと考えを巡らせた。けれど自分は言葉をオブラートに包むのが得意じゃない。
ま、いっか。叶太はハンモックで揺れを作りながら、ジンジャーエールをストローでズッと啜った。
「何言ってんだおまえ。オレがそういうの好きじゃないって、知ってんだろ」
青がひゅっと息を短く吸う。
「知ってるけど……っ叶太が北村に告白されたとき、オレがどんな気持ちだったかおまえにわかんのかよ」
「あのときはわかんなかったよ。おまえがオレのこと好きだったなんて知らなかったし」
半個室とはいえ、隣のテーブル席にも客はいる。お互い声のボリュームを抑えながら言い返した。
「高校はまだ目が届くと思ってたのに、知らない間に告白されてるし、お試し付き合いみたいなこと勝手に始めてるし。こんなんじゃ大学なんて行ったらどうなることか……」
「おまえはオレの保護者か」
頭を抱えて悩み始める男に向かって、叶太は鋭く言い返した。
「だから言ってんだろ。あのときはおまえが――」
「叶太って流されやすいもんな……」
「おい、聞けよ」
独り言のようにつぶやく男にイラッとする。
叶太は中身が半分ほどなくなったグラスをテーブルに置き、ハンモックから勢いよく立ち上がった。
青の前に立ち、相手を見下ろす。そのまま伸ばした両手で、男の頭をガッと挟んで固定する。少し傾けた顔を寄せ、叶太は青の唇にキスをした。
色気もムードも何もない。まるで『ぶちゅっ』という効果音が似合いそうな大雑把なキスだ。
そんなんでも、自分からキスをするというのは叶太にとってひどく緊張することなのだ。勢いに任せなければ、自分からはけっしてできない。
それでもしたいと思うのは、相手が青だからだ。青が好きだから、今後もし仮に誰かから告白されることがあっても、もう二度とあやふやな答えは返さない。
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