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アディムと身も心も結ばれてから、数日が経った。周りから見れば、それまでの二人の生活とほぼ変わらないかもしれない。
中庭の噴水池の縁石に座っていると、通りがかったビリーたちがユーリアスの膝上に乗った子猫を見て「あら」と足を止めた。
「そのフェロモキャットの子猫、やけにユーリアス様に懐いてなぁい?」
「まあね。アディムと相談して、俺たちで飼うことに決めたんだ」
リラックスしているのか、子猫は尻尾をゆっくりと揺らしながらユーリアスの膝の上でうつらうつらしている。
ビリーたちはほとんどが「名前は?」とか「この子、オスだったの? メスだったの?」と子猫のことについて質問をしてきたが、うちビリーの一人があることに気づいたようだ。
「あれ、でもユーリアス様ってオメガでしょ? 抱っこしてても大丈夫なんですか?」
ああ、とユーリアスは少し恥ずかしい気持ちを笑みに乗せる。
「アディムと番になったんだ。だからこの子が放つフェロモンにも反応しなくなるだろうって、アディムが」
想いを伝え合って結ばれた夜、勘違いしていたユーリアスとは反対に、アディムはずっとどうしたらユーリアスが安全にフェロモキャットを飼うことができるか考えていたらしい。番になればフェロモキャットのフェロモンに反応しなくなるというメリットがあるが、自分と番になることに対してユーリアスが抵抗を示すんじゃないかと。どう説明したらいいのか、ずっと考えていてくれたそうだ。
ありがたい話だ。おかげでこの子猫を――ミロを我が家に向かえることができた。
「じゃあ次はいよいよ赤ちゃんね!」
一人が言うと、取り巻きのビリーたちが一斉にワッと黄色い声を上げた。まだロイヤルパレードも準備段階なのに、まったく気が早いものである。
「授かりものだし、そんな簡単にできるわけじゃないんだよ」
「きゃーっ、早くお世話したいわ~」
たしなめたところで、ビリーたちの耳には届いていないようだ。ユーリアスは苦笑いの中、ビリーたちの歓声を一心に浴びた。
そのときだった。「おい」とユーリアスを呼ぶ声が聞こえた。声のする方を見ると、アディムがムッとした表情で突っ立っている。
アディムは「退いた退いた」とビリーたちを押しのけて、ユーリアスの前までやってきた。
「親父がパレードの件について、三人で相談したいんだと」
そっぽを向きながらアディムが腕を組む。
「わかった。今行くよ」
ユーリアスはビリーたちに子猫のミロを預け、アディムとともにシャムスバハル王のいる塔へと足を進めた。
ずんずんと大理石の廊下を進む夫の後ろ姿に、ふと違和感を覚える。なんだか不機嫌そうだ。
「何か気に障ることでもあった?」
後ろから耳たぶをちょいと引くと、アディムは驚いたのかビクッと肩を弾ませた。
「べ、べつにたいしたことじゃねえし……」
こういう反応をするときは、周りから見ればたいしたことじゃなくても、本人は死活問題だと思っているときの不満を抱えているときだ。
男のわかりやすい反応に、ユーリアスはフッと笑った。
「不満や言いたいことがあったら、すぐに言う。そう決めただろ?」
顔を覗き込めば、アディムは決まりが悪そうな顔をして口をまごつかせた。
「さっきユーリアスがそんなに簡単にできるもんじゃないって、言ってたから……」
なんのことだろう? ユーリアスは思わず首を傾げた。だがすぐに、先ほど噴水池の傍でビリーたちと話した内容を思い出した。
「ああ、赤ちゃんのこと?」
すぐにできる人もいるかもしれないが、誰しもそれぞれ授かるタイミングがあるだろう。今は急いでいない分、ユーリアスはたしかにビリーたちにそう言った。
どこを不満に思ったのか見当もつかなかったが、アディムは言いにくそうに口を開いた。
「俺は……今すぐほしい」
一瞬ポカンとする。
「ユーリアスにそっくりな子がほしいと思ってる」
口を尖らせて言う男に、じわじわとこみ上げてくる。笑っちゃいけないとは思うが、ユーリアスは我慢できなかった。
「あはは、そうだな。すぐにほしいよな」
アディムがそう言うなら、自分だってアディムに似た子どもがほしい。まだ先でいいと思っていた願望が、急に現実味を帯びてくる。
ふて腐れる夫の背中を叩く。ユーリアスは「俺たちでタイミングを引き寄せよう」と励ました。
国のためだと思ってした結婚も、いつの間にか自分たちで望んだものになった。アディムがずっと自分を想い続けてくれたからこそ、この結果になったのだと思っている。
これからは、アディムが想い続けてくれた以上に、自分がアディムのことを愛していこう。新たな命と未来が、この先に待っていると信じて。
ユーリアスは夫に笑いかけた。
【完】
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