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⑪
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毎日寝ている寝室が、この晩はどこか違って見えた。自身の左手の薬指に指輪があることと、アディムと気持ちを伝え合ったことだけが理由ではないだろう。
「これがずっと邪魔だったんだ」
寝室に入るなり、アディムはそう言って互いの寝床を隔てていた屛風を壁際に追いやった。
「好きなやつがすぐそこで寝てるのに、指一本触れないんだぞ。寝顔を見ることだって許されないんだ」
辛かったのはもちろん、生殺し状態だったとアディムはため息混じりに零した。
「じゃあ俺がヒートになったとき、朝方一人でイライラしていたのもそれが理由?」
「なんだ、おまえ起きていたのか?」
「目を覚ましたら、痛そうな声が聞こえたから気になったんだ。傷は大丈夫か?」
まさか聞かれているとは思っていなかったようだ。気まずそうに「傷はたいしたことねえよ」とこめかみを掻いた。
「ああ、ちくしょう。あんなダサいところ、ユーリアスだけには見られたくなかった」
「ダサくなんかないよ。俺のために我慢してくれてたんだって、今ならわかるから」
アディムがユーリアスに触れたのは、ヒートになったユーリアスが求めたあの夜だけ。あの日以外に、アディムから触れてきたことは一度もないのだ。
だから今夜は目いっぱい自分に触れてほしかった。アディムの好きなように、めちゃくちゃにしてほしかった。
仕切りが取り払われた寝室は、前よりも広く感じる。屛風を追いやっている男の背中に、ユーリアスは思い切って触れた。
「もう我慢しなくていいんだ。俺を番にしてくれるんだろう?」
頭をコトンと相手の背に預けると、アディムは「ああくそっ」と言って振り返り、ユーリアスの体を強く抱きしめた。
顎をクイッと持ち上げられ、食むようなキスが降ってくる。合わさった唇の合間から、ぬるりと熱い舌が侵入する。
初めての深いキスに最初は戸惑ったユーリアスだが、アディムの舌に歯列をなぞられ、舌先を吸われていくうちに、何も考えられなくなった。
「ンっ……ふぁ、ァ……っ」
自分の反応は合っているのか。アディムに負担をかけさせてはいないだろうか。互いの唾液をくちゅくちゅと絡ませ合いながら、ユーリアスはアディムの舌の動きに応えた。
唇が擦り切れそうなほどキスを交わし、頭も体の芯も熱くなっていく。アディムが唇を離してくれた頃になると、腰の力がほとんど抜けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
アディムの両腕に支えられながら、ユーリアスは寝床に膝をつく。発情期を終えたばかりだというのに、アディムとのキスだけで腰が砕けてしまうなんて。
跪いたまま頭を上げる。ユーリアスはドキリとした。首をもたげ、布服の下で盛り上がるアディムの芯が、ちょうど目の前にあったのだ。
自分のそれとは明らかに大きさが違う。生物としての格の違いを見せつけられているみたいで、ひどく興奮した。
「あとでこれを挿れてやるからな……覚悟しろよ」
自分の中のオメガ性が、目の前の熱棒を求めている。湧き出る欲望の声が、耳のすぐ横から聞こえる。
「……はい」
ユーリアスは布の上から自身の頬をくっつけ、アディムの熱を感じ取った。ドクドクと脈打つアディムのそこから、甘くて濃い匂いがし始める。アディムのフェロモンが濃くなっている証拠だった。
これがアルファの……アディムのフェロモンなのだ。嗅いでいると、点きかけていた欲望の火が空気に触れたみたいに強くなっていくような感じがした。
朦朧とする頭を抱えたまま、アディムに押し倒される。大きな布一枚を服のように巻いて着たユーリアスの服は、アディムの手によってあっという間に剥がされた。
白くて細い体は、アディムの目にどう映るだろう。不安になったものの、こちらの心を察したのか、アディムは「綺麗だ」と言った。
大きな手が首や胸元を優しく撫でる。その際に胸に飾られたピンク色の突起を、さわりと撫でた。
「んっ」
思わず声が出てしまう。雷に打たれたみたいに衝撃が下半身に流れ、ユーリアスはこれ以上変な声が出ないように口に手を当てた。
だが、「もっと聞かせろ」とアディムの手によって妨害されてしまう。その隙に両手を頭の上で固定され、ユーリアスは身動きが取れなくなった。一糸まとわぬ姿をアディムの欲情した目に捕らえられる。恥ずかしさよりも、これから何をされるんだろうと期待する自分がいた。
アディムの頭が落ちてくる。胸の蕾を口に含まれ、ピチャピチャと舐められた。転がすように刺激され、敏感になったそこを吸われる。歯で甘噛みされたときは、「ああっ」と甘い嬌声が唾液とともに漏れた。
唇と舌で散々胸の蕾を弄られ、腰が知らないうちにくねりだす。固定されていた両手はとっくに解放されているのに、胸に与えられる刺激が気持ちよくて、ユーリアスは気づけば抱きしめるように男の頭にすがっていた。
「あンっ……! はッ、ああっ、きも、ち……っ」
「どこが気持ちいって?」
乳首を食まれながらしゃべられるとたまらなかった。
「やめ、あっ、ふァ……っ」
淫らな声を漏らしながら、ユーリアスは乳首で軽く達してしまった。
「おまえは本当にイキやすいな」
フッと笑みが落ちてくる。「ごめ、なさ……」と謝ろうとすると、アディムは意地悪な手つきで今度は下半身に触れてきた。
「可愛いってことだ」
耳介や耳たぶを舐められながら、反り返った陰茎を大きな手で扱かれる。ぐちゃぐちゃと粘液の擦れる音が、いやらしさを煽ってくる。
「やっ、強く、しな……で……っ」
「強くなんてしてねえよ。ほら見てみろ」
薄っすらと目を開けて見下ろすと、無意識のうちに動いていた自分の腰が、筒状に形作ったアディムの手に自身をこすりつけていた。
「う、うそ……っ」
「もっと強くしてやろうな」
次の瞬間、アディムの手がユーリアスの陰茎を包み込むように落ちてくる。容赦なく上下に擦られる。目の裏に火花が走ったそのとき、ユーリアスは声を上げる間もなく一気に果てた。白い粘液が腹の上と、アディムの手を汚す。
「はあ、はあ、はあ……」
何が起きたのかわからないうちに、今度は男の指が後孔にぐっと押し挿ってきた。イッたばかりで敏感になっているところに、男のゴツゴツとした指が刺激を始める。
「すごい濡れてるな。いきなり二本でまずかったかと思ったが……余裕だな」
いたずらっぽく笑うと、アディムはそのままユーリアスの弱点を狙って腹の指を当ててきた。押し上げるような動作に、果てたばかりの芯が再び熱を帯びていく。
「あっ、やン、はあっ、あんっ、そこダメ……っ!」
押されるたびに、甘い叫び声が勝手に口を衝いた。このままだとまたイってしまう。これ以上、一人だけ気持ちよくなるのはさみしい。ユーリアスはいやいやと首を横に振り、懇願した。
「イキ、た……い……っ、アディムと、いっしょに……っ」
その瞬間、アディムがうっと顔をしかめた。鼻を腕で押さえ、苦しそうに荒く呼吸し始めた。
「なんだこれ……っヒートのときより、まずい……っ」
「え……?」
「自覚なしか……っ」
アディムの顔や体中に玉の汗が浮かんでいる。何かに耐えているような様子から、おそらく自分の体からヒートのときのようなオメガのフェロモンが放出されているのだと思った。
苦しそうなのは、アディム本人だけではなかった。服を脱いだアディムの下半身を見ると、赤黒く欲望を滾らせた肉棒が腹まで反り返っていた。
さっきよりも倍近く膨らんだような気がする。今からこれが自分の中に入るのかと思ったら、恐怖とともに強い情欲に心がもっていかれた。
「……っ苦しかったら言ってくれ」
労わる言葉をくれつつ、アディムの先端がユーリアスの後孔にあてがわれる。うん、と体の力を抜いたと同時に、獰猛なそれが入ってきた。指とは比べものにならないほどの圧迫感に眩暈がする。
「あン……っく……!」
歯を食いしばり、収められたそれの熱量と重量に耐える。痛みはなかったが、気を緩めた瞬間耐えられなくなりそうだった。こちらに負担をかけていることを、アディムも自覚しているようだった。
「馴染むまで動かねえから安心してくれ」
と、眉間に皺を寄せて言った。
アディムを受け入れてから、どれぐらいの時間が経っただろうか。しばらく時間を置いたこともあってか、徐々にもどかしさが劣情となってユーリアスの下半身を襲い始めた。
この感覚は一体なんだろう。自分の体はどうなってしまうんだろうか。不安に似た気持ちが押し寄せてくる。
アディムはこちらの顔を覗き込み、「辛いか?」と声をかけてくれる。
「だい、じょ……ぶ」
辛くもなければ痛くもない。この感覚はマイナスのものじゃない。むしろこれは幸せな感覚だ
ユーリアスは相手の首に両手を回した。アディムがこちらを気遣ってくれたように、自分もアディムに言葉をかけてあげたい。
「もう大丈夫だから、動いて……」
ユーリアスは相手に向かって微笑んだ。体内に収めていたアディムの肉欲が、もう一回り大きくなる。アディムから香っていたフェロモンの匂いも、ひときわ濃く鼻を刺激した。
互いが互いのフェロモンにあてられているのだろう。はあ、はあ、と荒くなる息が、寝室にこもっていく。
「……愛している」
絞り出すように言うと、アディムはゆっくりと腰を前後に動かし始めた。ゴリゴリと弱い箇所を男の肉棒ですり潰され、満たされていく。そうしているうちに、やがて圧迫感だけだった感覚の中に、感じたことのない快楽が垣間見えてくるようになった。
「あっ、んンっ、はっ、ああっ、アン」
少しずつ抽挿の速度が上がっていく。肉欲を引き抜かれたと思った瞬間、勢いよく奥まで突かれる。そうやって何度も体を揺さぶられると、快楽でたまらなかった。
互いの腰がぶつかり合うたびに、自分の体がバラバラになりそうな衝撃に目がくらむ。それ以上に大きな悦楽をいやというほどに内壁に刷り込まれ、ユーリアスはひどく乱れた。
「きもち、いい……っ、気持ちいい……!」
「ああ……っ俺もだ」
アディムの唇に嬌声を塞がれる。上も下もアディムの熱でいっぱいになる。
「ふァ、ン……っああ! く、ふぁ……っ!」
肌のぶつかり合う音とともに、互いの愛液や我慢汁の混ざり合う水音が部屋に響く。気持ちよくておかしくなりそうだった。
正面で抱かれたあとは、動物のように後ろからアディムを受け止めた。気持ちよすぎて怖かった。逃げようとしても、アディムの手によって押さえつけられる。腰を高く上げさせられ、激しく打ち付けられると快楽がダイレクトに腹奥に響いた。
お互いのフェロモンと汗で、寝室は蒸し暑くなっていた。窓を開けたかったが、そんな余裕はなかった。
「あンっ、あああっ! はっ、ああっ! もう、イキそ――ああっ!」
お構いなしに打ち付けてくる腰に喘ぎながら、ユーリアスは絶頂が近いことを訴える。それはアディムも同じだったようだ。
「俺も、だ……っ。ここ、噛んでもいいか……?」
アディムの指に触られたのは、首の後ろ――うなじの部分だった。触られただけでゾクリとする。早く噛んでほしいと本能が訴えている。
ユーリアスはコクッと頷いた。
「か、んで……っ、噛んでぇ……っ」
もはや懇願だった。揺さぶられながら、ユーリアスはうなじを背後の男に差し出すかのように、首をより深く垂らした。
早くアディムのオメガになりたい。早くアディムの本物の妻になりたい――。
次の瞬間、噛みつかれる痛みがうなじに走った。痛かったのは一瞬だけで、中を抉られ続けたままだったせいか、快楽がすぐに戻ってくる。
甘い痛みがうなじから体中を巡り、ユーリアスは自身の果てが近いことを思い出した。自身の内壁がアディム自身を締め付ける。アディムも達しそうなのか、腰を突き上げる速度がもっと速くなった。
「だめ、イク、イッちゃう……っ」
「一緒にいこう」
耳元で囁かれるとあとは止まらなかった。一度襲い掛かってきた絶頂の波は、自分の力ではどうしようもできなかった。
「ああああああっ!」
激しい快感が下半身から全身へと伝わり、自身の体を支えていた腕と膝がガクガクと震えた。
アディムの限界も、ユーリアスとほぼ同じタイミングだったようだ。
「く……っ!」
最後に大きくユーリアスの腰に自身を打ち込むと、ブルッと全身を震わせてユーリアスの上に体重をかけないよう倒れ込んだ。
腹奥にアディムの注ぎ込んだ精の温かさを感じる。うなじには噛まれた際に得た甘い痛みが残っている。
幸せだと思った。
ユーリアスは息を整える男の背中をさすりながら、自身に刻まれたアディムの証を噛み締めた。
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