化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
14 / 162

化け物バックパッカー、バラの花屋の店番をする。[前編]

しおりを挟む
 
 街に咲く、バラ。



 色とりどりのバラが、小さな花屋を囲む生け垣にきれいに並べられている。



 そのバラに触れる、影のように黒い手。



 感触を確かめているのだろうか、



 深紅のバラをなでるように触るその手は、鋭い爪が特徴だった。



 手は花びらから茎へと移動する。



 綺麗きれいなバラには、トゲがある。



 茎に隠れていたトゲに触れた瞬間、手はバラから離れる。



 指先からは、墨汁のように真っ黒な液体が出ていた。



 一滴、一滴、



 道路に落ちていく。





 とある街にある花屋。

 その横にある、バラの生け垣の前に立っている2人の人物がいた。

 ひとりは黄色いデニムジャケットを着ている老人、もうひとりは黒いローブを見に包んだ少女。
 ふたりとも、黒いバックパックを背中に背負っていた。俗にいうバックパッカーである。

「イタタタ……」
「お嬢さん、トゲにでも刺さったのか……くくっ」
 指を押さえているローブの少女に、老人は笑いをこらえながら話しかけた。
「ナンデ笑ッテルノ?」
 ローブの少女は変わった声帯であるものの、そのニュアンスは怒りは感じられず、純粋な少女が質問しているようだ。
「いや、確かにトゲが刺さったのは笑い事じゃないんだが……お嬢さんがのがツボにはまってな……くくくっ」
 この老人、笑みは浮かべているが、顔が怖い。
「……“ツボ”ッテナアニ?」
 少女が首をかしげる。表情はフードで隠れて見ることができない。
「まあ、それはいいとして……お嬢さん、トゲが刺さったままだが大丈夫か?」
「別ニ平気ダケド……一応“坂春サカハル”サンノ手当テヲ見テタカラ、ソノヨウニスルネ」
 ローブの少女はその場に座り込み、背中のバックパックを下ろし、中から救急箱を取りだした。
 箱を空け、中からピンセットを取り出し、それで指先に刺さっているトゲを抜く。傷口から黒い液体が数滴あふれ出たかと思うと、それはすぐに塞がった。
 ピンセットを仕舞おうとしたとき、謝って救急箱を落としてしまった。その中に入っていた包帯が、救急箱から飛び出して地面を転がって行く。
「ア……待ッテ……」
 ローブの少女は、生け垣の下を転がっていく包帯を手に取ろうと手を伸ばした。

 ズルル

 少女の姿は、生け垣の下に吸い込まれた。
「お嬢さん!?」
 “坂春”と呼ばれた老人はしゃがみ込み、生け垣の下をのぞき込む。



 そこから茎のようなツタが現れ、坂春の腕に巻き付いた。

「ぬぅぉ……」



 坂春の姿は見えなくなった。





 生け垣の内側にあるのは、緑豊かな縁側。

 ほとんどの窓はカーテンが閉められており、施錠されている。

 その中に、わずかな隙間が空いているき出し窓(下部分が床に近い、レール上を水平移動させて開閉する窓)がある。

 そこに坂春が吸い込まれていった後に、掃き出し窓は完全に閉まった。





「うおっ!?」

 部屋の中に、坂春はたたきつけられた。
「坂春サン、大丈夫!?」
 少女の声が近寄ってくる。
「う……うむ、少し乱暴に投げられたが、大丈夫だ。それにしても、ここは……」



 坂春とローブの少女が連れてこられた場所は、極普通の和室の一室のだった。

 壁や天井に、バラとツタが浸食しているのを除けば。



 辺りを見渡しているローブの少女の後ろに、ツタが伸びてくる。そのツタは器用にフードをつかむと、優しく下ろす。
「……!!」「!?」
 ツタに気づいた2人は後ろを振り返った。

 壁のツタに生えた、3輪のバラ。その内の2論は人間の目玉が埋め込まれており、2人を見つめている。その下の1輪のバラは、上下に裂けて口の形を作った。“変異体”と呼ばれる、化け物だ。

「アラカワイイ。デモ何カガ足リナイノヨネエ……純粋スギテ、トゲガ見当タラナイ」
 バラの変異体は少女の表情を観察しながら、彼女の頭を撫でる。
「……俺たちに何かようがあるのか?」
「ヤッパリ怖ガラナイノネ。マア、コノ子ト一緒ニ行動シテイルカラ、トウゼンカシラ」

 ローブを下ろされている少女の目は、触覚だった。本来眼球が有るべき場所から、青い触覚が生えている。それは少女の困惑する瞬きに合わせて、出し入れしていた。少女も変異体だ。

「怖ガラナクテモイイノヨ。アタシハアナタニ頼ミガアルノ」
「タ……頼ミッテ……ナニ?」
 変異体の少女が尋ねると、バラの変異体は静かに笑い、ツタを動かした。
 和室を仕切る障子しょうじが開き、そこから黒いローブを被った人物が歩いてきた。変異体の少女と比べると、10センチほど高い。
「このローブ……お嬢さんに着せているものと同じだな」
「デモ……ナンダカ首ガ……」
 ローブのフードが、つぶれたように垂れている。
「ウン、店番用ノ人形ナンダケド……首、ドッカ行ッチャッタノヨネ」
「エ!! 死ンデル!?」
「そんなことはない。あいつはただのマネキンだ。それに見てみろ」
 坂春が指さすマネキンの足元には、ツタが入り込んでいる。ツタが動くと、首なしマネキンは右手を挙げた。
「ヘエ、案外勘ガ冴エテイルネエ。オジイチャンダカラ、ボケテイルカト思ッタワ」
「あいにくだが、まだまだ若い者には負ける気はないものでな。それで頼みというものはなんだ? まさかその首を探してくれと言うんじゃないだろうな?」
 坂春が尋ねると、バラの変異体がクスクスと笑い始めた。
「オジイチャンニ用ハナイワ。心配シナイヨウニ連レテキタダケ。用ガアルノハコノ子」
 バラの変異体はマネキンを少女の前に立たせ、彼女の肩にツタを置いた。

「アタシガ首ヲ探シテイル間、店番ヲシテクレナイ?」

 変異体の少女は意味を理解できていないのか、触覚を出し入れしていた。
 坂春は納得していないのか、眉をひそめた。
「店を休みにすることはできないのか?」
「モウ昨日デ四日目ヨ。前マデハオ隣ノオモチャ屋サンガアッタケド、一週間モ休ミヲ取ッテタ。ソノ翌日ニ警察ガ突入シテ、店主ノ変異体ガ捕マッタ……コレヲ聞イタラ用心セザルヲ得ナイデショ?」
「警察が突入するのは、前から目を付けられていたとしか考えられないが……その心当たりはあるのか?」
「エエ、ココノタッタ1人ダケノ常連客ガネ、刑事ナノ」
「……」「……!」
 変異体の少女はようやく事情を理解し始めたのか、口に両手を当てて青ざめた。
「変異体ガイルト思ワレタラ、捕マッチャウ……」
「この子に用があると言っていたことは、俺が店番をしたとしても不都合なんだな?」
「エエ、コノ辺リデハ、アタシハ人間恐怖症デ姿ヲ隠シテイルコトニナッテル。店番ハ、言葉ノ話セナイ人見知リノ娘トイウ設定ナノ」
「ダカラ……同ジヨウナ体形ノ私ヲ……」
「コンナガタイノイイ、オジイチャンダッタラスグニ分カルデショウ?」
 バラの変異体が冗談を交えて説明しているときだった。

「あのー、今日は開いているんですかー?」

 男の声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...