化け物バックパッカー

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化け物ライター、砂漠でキノコを見る。【後編】

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 日が差す太陽の下を、1匹の生き物が歩いて行く。

 その生き物は、ラクダに近かった。普通のラクダと違うところは、背中のコブが4つあり、体を覆い被せる布からはみ出ている足は6本あることだ。

 その背中には、コブを挟んで前から案内人、リボン、バンダナの順に乗せていた。



「……案内人さん、これって普通のラクダと違いますよね?」

 バンダナがラクダらしき生き物にかぶせられた布を見ながら、前方の案内人にたずねる。
「そいつは……えっと……そうそう、ちょっと珍しいやつなんだ。だけど、他のラクダよりも人を多く乗せられるんだよ」
「……確かに、それは便利か……ウーン、でも……」

 首をひねるバンダナを見て、案内人は怪訝そうな表情をした。そして、彼女の後ろのリボンに小さな声でささやく。
「なあ、本当にだいじょうぶなんだろうね。あたしは疑い深いやつは乗せないんだけど」
「きっとだいじょうぶですよ。バンダナさんは、余計なところまで突っ込まないですから。多分」
 リボンは焦る様子はまったく見せていなかった。

「あの、どうしましたか?」

 ふたりの会話が気になったのか、バンダナが声をかける。
「あ、ああ、えっと……」
「ちょっとふたりで話をしていただけですよ」
 案内人は戸惑ったが、リボンは涼しい顔で振り向いた。

 首に巻いたマフラーをしっかり握って。



 太陽は沈み出し、影はななめになっていった。

「そういえばさ、リボン、あんた新しいペンネームにするんだって?」
 案内人がたずねると、リボンは恥ずかしそうにマフラーに手を当てる。
「……それが、ぜんぜん思いつかないんですよね」
「まあ、気楽に考えていいと思うよ。あたしの知り合いは、旅先で出会った人たちと考えたらしいし」

 ふたりの会話を聞いて、バンダナは何か聞きたいことが思いついたように口を開いた。

「あの……リボンさんの名刺には化け物ライターってあったけど……どんな記事を書くの?」
 リボンはちょっと嬉しそうに首に巻くマフラーから手を離し、バンダナに笑顔を向ける。
「バンダナさんと同じく、変異体のことを書いているんです。読者の対象は人間じゃなくて、変異体なんですけどね」
「え……変異体に向けた記事ってこと?」
「はい。詳しく話せないんですけど、変異体同士の情報を交換できる仕組みを利用して記事を書いているんですよ」
「……変異体って姿を隠しているから、孤立したようなイメージがあったんだけど……それは意外だったな……」

 関心したようにうなずくバンダナに、案内人は右の手のひらを上に向けて上げた。

「変異体は、あんたが思っているよりも深いつながりを持ち始めているんだよ。少しずつ、普通の人間とは違う社会をね」

 その言葉に、バンダナは目を見開いた。

「案内人さんも、変異体について詳しいんですか?」
 案内人はすぐに口をふさいだ。そして、リボンの方を見るように目線を横に向ける。
「……リボン、やっぱりこいつ、踏み込んでくるんだけど」
「だいじょうぶですよ。バンダナさんは、余計なところまで突っ込むような記事は書かないので」





 太陽はさらに沈み、まもなく夜が訪れるころ。

 砂の上を歩きつつけたラクダらしき生き物が、足を止めた。

「この辺りだよ」
 ラクダから下りる案内人に続いて、残りのふたりも下りた。

「……砂以外、見えないんですけど」
 辺りを見渡しながら率直な意見を述べるバンダナに、案内人は笑みを浮かべた。
「出てくるのは夜中だよ。昼間っから出ていたら、簡単に見つかっちまうじゃないか」
「あ、そっか……」

 バンダナは頭をかきながら、ウエストポーチから夜食のあんパンを取り出す。そのパンを眺めていたリボンは腹をさすりながらも、赤色のショルダーバッグからメロンパンを取り出した。

「そういえば、話してくれるんですよね?」
 リボンは案内人に声をかけると、手持ちのメロンパンを口に運ぶ。口からあんパンを離して、バンダナは顔の表情で初耳であることを表した。
「話すって、なにを?」
「キノコの変異体にまつわるお話ですよ。キノコの変異体の情報は案内人さんに聞いたんですけど、その変異体が人間だったころの話は現地で聞くことになったんです」
「別に大した話じゃあないよ。現地に来て雰囲気を出さないと、あまりインパクトがないからね」

 案内人は鼻で笑うと、瞳を閉じ、ゆっくりと口を開けた。



「話の始まりは、ある男が砂場で遭難したころだった」

 案内人が解説するそばで、バンダナは砂漠の1点に注目した。

「その話を耳にした男の友人は、急いで男を捜索した。こんなだだっ広い砂漠の中をね」

 たった1点を、じっと見つめている。

「何時間もかけて、やっと男の姿を見つけた。だけど、その男はもう虫の息だった。友人が水の入った水筒を近づけても、一滴も口にしなかった」

 手に持ったあんパンが、砂の上に落ちた。

「男はただつぶやいていた。雨だ。スミレ色の雨がと」

 口からは、震えた声しか出てこない。

「友人が振り返っても、そこにはなにもなかった。ただ、その男はスミレ色の雨と繰り返しつぶやき、そのまま事切れた」

 バンダナは、白目を向いてその場に倒れた。

「あれが表れたのはそれからさ」



 案内人が指差したところには、スミレ色のキノコが咲き誇っていた。

「……」

 リボンは、ただ黙ったままだった。



 そのスミレ色のキノコは、大の字で寝転ぶ人の形を作っていた。





「……!!!」

 バンダナが勢いよく起き上がった。
「あれ!!? ここは!!?」
「ホテルの中です。バンダナさん、気づいたら気を失っていましたから、案内人さんと一緒に運んだんですよ」
 ベッドの上で客室の中を見渡して、胸をなで下ろす。
「……やっぱり、ごめん。変異体を見ると、どうしても怖くなって……」
 ベッドの横で座るリボンは「気にしなくてもいいですよ」と右手を挙げる。
「案内人さんが言っていた内容はあたしがメモしているので、後で教えますね」
 バンダナは申し訳ないようにベリーショートの髪をかいた。

「本当に役に立てなくてごめんね……“マフラー”さん」

 思わぬ言葉に、リボンは首元のマフラーに手を当てた。

「……あ、ごめん! リボンさんだった。リボンさんって、いつもマフラーに手を当てているから、頭のリボンよりもそっちが気になっちゃって……」

 手にしたマフラーを少しだけゆるめ、自分の首に手を当てた。

「……リボンさん?」

 バンダナの声にリボンは首を振り、マフラーをゆっくりと閉める。



「……バンダナさん、また、取材しませんか? あたしのペンネームが“マフラー”になってすぐに」
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