化け物バックパッカー

オロボ46

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化け物運び屋、チョコを運ぶ。【前編】

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 15mほどの異様に高い天井を持つその図書館の本棚には、本はあまり置かれていなかった。

 窓は外の景色を写さず、ただ図書館内の景色を鏡のように映しているだけだ。

 窓のひとつだけは、暗闇を背景に五歳ぐらいの小さな男の子の姿があった。

 男の子はじっと、机の上を見つめていた。



 その図書館の机に、黒い山が出来ていた。

 すべて包み紙に包まれた、チョコ。側にはコンビニの袋がシワだらけで置かれている。

 チョコの山を前にして、学生服を着た少年は胸を張り、鏡の男の子とふたりの化け物は口を開けていた。



「……ドウシタノデスカ、ソノチョコノ山ハ」

 化け物のひとりが、低く曇った声を出した。
 その化け物の肌は濃い紫色。足元のかかとは耳のような形状をしており、筋肉質な体に細い目、そして髪の毛の代わりに生えた無数のツノは、鬼ヶ島にいそうな鬼そのものだ。
 そして1番の特徴が、その大きさだ。体育座りだけで4mのその体格は、普通の図書館ではとっくに屋根を貫いているだろう。

「コレ……全部食ベルツモリナノ!?」
 チョコの山の側に立つもうひとりの化け物は、鬼の化け物とは対象的に小さく、身長は30cmしかない。
 体の形は二足歩行のキツネに似ている。毛並みは深紅の赤で、顔は面のような無機質な白い顔だ。

「ああ、もちろんだ!」
 チョコを目の前にして白い歯を見せるこの金髪の少年、不良学生のような服装をしている。
 オオカミの頭蓋骨が描かれた白色のTシャツの上に、ボタンのついていない学ラン。ズボンは学生ズボンではなく、動きやすいバイク用パンツ。その太ももには、レッグバッグが付けられており、顔はゴーグルを装着している。

「それって……バレンタインのチョコ?」
 鏡に映る男の子は、短パンにTシャツという、やや地味な服装だ。鏡の中からチョコの山を純粋な瞳で見つめる。

「ねえ“ケイト”、誰にもらったの?」
 わくわくとした表情を見せる男の子に、“ケイト”と呼ばれた少年は自信満々に鼻をこする。
「ああ! デパートでバレンタインデーのセールをやっていたから、まとめて買ってきたぜ!」
「……」
 男の子は期待外れだという感情を表情に書いて、ゆっくりとうつむいた。



「ソレニシテモ……」
 鬼の化け物が考えるように天井を見上げると、ケイトとキツネの化け物が彼を見上げる。その視線に気づいた鬼の化け物は、「イエ、特ニ大シタコトジャナイデス」と一言断った。
「タダ、名前ヲ覚エテイルカ不安デシタノデ」
「ああ、そういえば昨日名前を教えたばっかりだったよなあ……一応、確認をかねて俺たちの名前を呼んでみてみたらどうだ?」
 ケイトの提案を受け入れるように鬼の化け物はうなずいた。

「ソレデハ、ヤッテミマスネ。マズアナタハ、“ケイト”サン」
 鬼の化け物に指を指された金髪の少年ケイトは手を挙げる。
「ソノ机ニ立ッテイルノハ、“明里アカリ”サン」
 合っていることを伝えるために、明里と呼ばれたキツネの化け物はうなずく。
「ソシテ、鏡ノ中ニイルノガ“リク”サンデスネ」
 鏡の中にいる男の子は「合ってるよ」と口に出した。

 鬼の化け物は安心したように胸をなで下ろす。
「覚エテイルヨウデ安心デス」
「これでばっちしだな! “鬼塚おにづか”のおっさん!」

 ケイトは満足したようにうなずくと、チョコの山に手を触れた。

「さて、俺は昼飯でも食べようとするか!」
 その一言に、明里は驚くようにチョコの山を見た。
「昼飯ッテ……コノチョコノコト!?」
「ああ! そのために買い占めてきたようなもんだからな!」
 陸は特に疑問に思わなかったようだが、明里と鬼塚はあきれたたように口を開けていた。それを気にせず、ケイトはチョコのひとつに手を伸ばす。
「しかし、今日がバレンタインデーで本当に助かったぜ。ちょうど金欠だったからよお」
「……鼻血デテモ知ラナイワヨ」

 明里はため息をつきながらそっぽを向いた。



「ギィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!?」



 そして、悲鳴を聞いてケイトを見た。

「もぶっ!?」

 口に何かを入れていたケイトは、その口の中の物を吐き出した。

 吐き出したものは、箱の形をした黒い生き物だ。

 歯形がついた頭をなでるために、両腕を生やす。

 そして、ゆっくりと両足を生やし、その場で立ち上がった。



「えっと……変異体……さん?」

 窓ガラスの中から陸が声をかけると、チョコの化け物はさらに四角い頭を生やして辺りを見渡した。その頭には、目玉と思しき部位と口がひとつずつある。

「……エット、ココハ……図書館?」

 チョコの化け物の推測に、鬼塚は「図書館トイウカ……詳シイ説明ハ落チ着イテカラノ方ガイイデスネ」と答えた。

「あんた、このチョコの中にいたのか?」
 ケイトが答えると、チョコの化け物は戸惑いながらうなずいた。
「見ツカラナイヨウニ紛レテイタラ、ツイウトウトシテ……」
「デモ、ドウシテデパートナンカ来テイタノ? アンナニ人ガイタラ、見ツカッチャウジャナイ」

 明里の言葉に、チョコの化け物は思い詰めたようにうつむいた。

「私、アノ人ノトコロニイカナイトイケナインデス。アノ人ニ、オ別レヲ言ッテイナカッタカラ」





 チョコの化け物の話を、4人は黙って聞いていた。

「……つまり、宇宙飛行士で今度宇宙に行ってしまう大切な人に言えなかった別れを言うために追いかけたら、途中で体が変異して変異体になっちゃった、ということ?」
 陸が確認すると、チョコの化け物は合っていることを伝えるためにうなずく。
「だったら、お姉ちゃん、ちょうどよかったね」
「チョウドヨカッタ?」

「うん。ケイトのお兄ちゃんは、運び屋なの。変異体さんから依頼を受けて、荷物を運ぶ、すごい“化け物運び屋”だよ」

 陸から尊敬のまなざしで見られたケイトは照れたように頭を下に向け、その後チョコの化け物に笑みを浮かべる。
「ああ、俺はすげえ化け物運び屋だ! 確か、今日はここから離れた街にあるホテルで泊まっているんだろ? すぐに連れて行ってやるよ!」
「デモ、依頼料ハドウスルノ?」
 顔を見上げる明里の声に、「タダでいいんじゃね?」とケイトは楽観的に答えた。
「……ケイト、アンタ金欠ッテイッテイナカッタ?」
「そういうのは気にしない気にしない! ちょうど別の依頼の場所を通るついでだしさ! とにかく、さっさと出発していくぜ」



 ケイトはチョコの横に置いていた本に手を伸ばした。

 その本は、新聞紙に包まれており、表紙が見えなかった。

「ア、チョットマッテヨ!!」

 明里は慌ててケイトのバイク用パンツのポケットの中に飛び込んだ。



 ケイトが本のページをめくる。

 ただ白紙のページを、何枚も。



 そうしている内に、周りの景色が、




 図書館の中から、











 デパートの中のトイレの個室へと、変わった。



「……おしっ、届けに行くなら早く行かないとな」
 ケイトは手に持っている新聞紙を大事にかかえ、トイレの個室から出て行った。





 デパートの駐車場に置かれている、雪のように白いアドベンチャーバイク。ハンドルの間にはスマホを設置するスマホホルダーがあり、座席の後ろには、リアバッグが設置されている。
 そのバイクに、ケイトは近づいていた。

「陸、チョコみたいな変異体、しっかり守ってくれよ」
 新聞紙に包まれた本にそう語りかけると、ケイトはその本をリアバッグの中に入れた。
 その声に反応するように、ポケットの中がもぞもぞと動き、声が聞こえた。
「アマリ変異体ノ名前ヲ言ワナイ方ガヨウニネ。周リニ聞カレルカラ」
「おっと、そうだな。気をつけるぜ、明里」



 ケイトはゴーグルを外し、代わりにフルフェイスのヘルメットを被る。



 バイクにまたがると、目的の場所へ向かって走り出した。
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