化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
94 / 162

化け物運び屋、チョコを運ぶ。【後編】

しおりを挟む



 とある街に立つホテルの前に、1台のバイクが止まった。

「ここのホテルで間違いないよな?」

 ホテルの標識を確認すると、ケイトはヘルメットをとる。そして、リアバッグの中から本を取り出すと、ホテルの中へと入っていった。



「……その方でしたら、昨日、このホテルを出ましたが」
 ロビーに立つホテルマンのひとりから話を聞いたケイトは、自分の顔を両手でふさいだ。
「あの、どうかなさいましたか?」
「あ……ああ。ちょっとそいつにようがあったんだけどよお……とりあえず、教えてくれてありがとよ」
 気を遣ってくれたホテルマンに片手を上げると、ケイトは近くの待合用のソファーに向かった。

「くそっ……一足遅かったか」

 ソファーに腰掛け頭を抱えるケイトに、ポケットの中からテルテルぼうずのようにティッシュを身にまとった明里が出てくる。
「コレカラドウスルノ?」
「とりあえず、いったん依頼人のところに戻るしかねえな」
 柱を背にして、ケイトは手にしていた本を開いた。











「……つまり、僕は本の形をした変異体で、ここは僕の体の中なの」

 図書館の中で、鏡の中にいる陸はチョコの化け物に説明をしていた。
「……アマリヨクワカラナイ」
「マア、我々モ深ク考エナイヨウニシテ、慣レテイルワケデスカラネ」
 首をかしげるチョコの化け物に、鬼塚はフォローを入れた。

 そこに突然、ゴーグルを付けたケイトの姿が現れた。

「わりい……1歩遅かった……」
 ケイトが事情を説明すると、チョコの化け物は怒らずにただうなずいただけだ。
「気ニシナイデクダサイ……ココマデ運ンデクダサッテ、アリガトウゴザイマシタ」
 チョコの化け物はほほ笑んで、丁寧にお辞儀をした。 
「いや! 大丈夫大丈夫! まだロケットの発射台付近で渡せるチャンスがあるから!」
 慌てて慰めるケイトに、鬼塚は口に拳を当てた。
「ソウハイッテモ、ロケットノ近クニナレバ人モ多クナリマスヨ」
「それはなんとかなる! たとえば、その近くの施設の中で渡すとかよ」
「ア……アノ……アノ人ハ確カ、ロケットノ発車前ニ近クノ民家ニ泊ルッテ言ッテイマシタ。友達ノ家ミタイデスガ……ココカラデハ、モウ……」
 チョコの化け物の顔がうつむく。しかし、ケイトは暗い顔ひとつせずに、手を叩いた。
「うっし! そこにいけば合えるんだな!! その場所、教えてくれよ!!」



 チョコの化け物は戸惑いながらも、その場所を伝えた。

「ソノ場所ハ……寝ズニ走リ続ケテナントカナルッテ場所デスネ」
「それぐらいなら問題ねえな!」「イヤ、問題アルデショ!?」
 冷静に分析する鬼塚に、納得するようにうなずくケイト、彼の言葉にツッコミを入れる明里。

 3人を見て、本当に頼んでいいのか首をかしげるチョコの化け物。

 その後ろから眺める陸は、「だいじょうぶだよ」と声をかけた。

「こういうときって、だいたいケイトのお兄ちゃんの意見に結局戻っちゃうから」











 夜空に、満月が浮かび上がった。

 その下の高速道路の料金上の手前で、バイクは一時停止する。

 ケイトはフルフェイスのヘルメットの下の隙間に、手を入れた。

 クシャクシャという音がヘルメットの中から聞こえてくる。

 ヘルメットから出したその手には、チョコの包み紙が握られていた。

「早く届けてあげねえとな、バレンタインの贈り物をよお」

 バイクのアクセルがひねられた。



 高速道路を、バイクは疾走する。

 他の車の数々を横切り、

 目的地へと、まっすぐ突っ走っていく。





「っっっっしゃあああ!! ついたっ!!」

 朝日が昇り始めたころ、住宅街の真ん中でガッツポーズを決めるケイトの姿があった。

「チョット、朝ッパラカラ騒ガナイデヨ……」
 ポケットの中から、眠い目をこすりながら明里が出てくる。
「あ、わりぃわりぃ。そういえば、もう朝なんだな……」
 ケイトは大きく伸びをすると、後頭座席のリアバッグを開けた。

 リアバッグの中で、新聞紙に包まれた本は静かに寝息を立てていた。

 ケイトがそっと突っつくと、本はくすぐられたようにもじもじと動いた。

「起こしてわりいな。もう目的地についたんだぜ」

 本を座席に置き、ケイトは本をめくる。



 一瞬でケイトの姿が消えたと思うと、すぐに再び表れた。

「なあ、あんたが言っているあの人が泊まっている民家って、わかるか?」
 ケイトの手には、明里と同じようにティッシュでくるんだ小さな者がいた。四角の形をしているから、チョコの化け物だろう。
 チョコの化け物は一度は首を振りかけたが、すぐにある1点を指差した。

 その方向は、ある一軒の家の2階のベランダ。

 そこに、ひとりの男性が立っていた。

「お、あいつか?」
 ケイトがたずねると、チョコの化け物はうなずいた。
「デモ、ドウヤッテ渡スノ?」
 ポケットからの明里の声に、ケイトは「ちゃんと考えるって」と、両手の一差し指で頭をつつき始めた。
「おしっ、これならいいだろ」
 ケイトはレッグバッグからティッシュを数枚取り出した。

 それをチョコの化け物をつつみ始めた。

 すべてのティッシュを包み終えると、それを優しく握り、

 ベランダに立つ男に向けて、ピッチャーの構えを取り……



「ちょっとキミ、何しているの?」



 後ろから警官に話しかけられて、硬直した。

「あ……えっと……ちょっと……あ、野球の練習なんだよ。えっと……あれ、あれ、そうあれ、ピッチャーピッチャー!」
 右手に握っていたものを後ろに隠し、へらへらとした顔でごまかそうとするケイト。彼を見ている警官は、どこか無表情だった。
「こんなところで投球の練習? 普通は庭とかでするんじゃないの?」
「い、いや、庭だったらさ、ほら、狭いじゃん? ここなら開放的だし……あ、別に本当にボールを投げるわけじゃねえよ? 迷惑になるし、ほらあれ、イメージトレーニングってやつ!」
 言い訳を並べるケイトの話を聞いていた警官は、大きくため息をついた。

「……さっき通報が入ったんだけどね、朝から大声で叫ぶ声が聞こえたって」
「……」

 黙り込んでしまったケイトに、警官はさらに言葉を付け足す。
「それに昨晩、この辺りで暴行事件があったんだよね。ちょっと聞きたいことがあるから、いいかな?」
「……あ、えっと」

 ケイトは警官の後ろを指差して、「あ! ロケットが発射したっ!!」と叫ぶ。



 ……



 ……



「……えっ?」



 警官は見事に引っかかってしまった。引っかかってくれてありがたかった。



「そんじゃっ!!」

 ギャグ漫画のようにケイトは脇を走りぬけ、ギャグ漫画のように警官はうそであることに気づき、ギャグ漫画のように追いかけ始めた。





「……アノ警官、本当ニナンダッタノカシラ」

 住宅地から離れた川沿いに停車しているバイクのリアバッグの上で腰掛ける明里は、あきれたようにため息をついた。

 座席には、先ほどと同じように本が置かれている。そして、いきなりケイトが表れるのも先ほどと同じだ。

「ケント、ドウダッタ?」
 表れたケイトに、明里が話しかける。見たところ、チョコの化け物の姿はなかった。
「ああ、うまく届ける方法、思いついたぜ!」
 頬を緩ませながら、ケイトは本を手に取って後ろを振り向いた。

 川沿いの向こう側に、指を差す。

「アノ方向ニ依頼ノ男ガイルノヨネ? デモココカラジャア届カナイワ」
「まあ見てろって、いくぞ、鬼塚のオッサン、陸」

 本に合図をすると、ケイトは両手で本をつかんだまま、頭の上に持って行く。



「いっっけえええええええええええ!!!!」



 大声とともにケイトは本を振り下ろした。



 その時、本のページがめくれ、



 白紙のページから巨大な手が表われた。



 濃い紫色の、鬼塚の手だ。



 その手から、小さな何かが投げられる。



 小さな何かは、空を舞い、



 民家のひとつに、落ちていった。






「アレッテ、何ナノ?」

「依頼人のチョコみたいな変異体だぜ。つぶれないように、クッション代わりのティッシュをたくさん丸めたんだ」

「……コレ、ウマク落チルノ?」

「まあ、なんとかなるんじゃね?」





 その昼、民家から離れた宇宙研究所で、ロケットが打ち上がった。




 そして、その夜。


 川沿いでまだ止めていたバイクの側で、ケイトは背伸びをしていた。

 目元から涙が出ることから、先ほどまで寝ていたようだ。



 彼の足元に、小さな気配が近づいてきた。

 その気配に下を向いたケイトが見たものは、テルテルぼうずの格好をしたチョコの化け物だった。

 ケイトがしゃがんで手を近づけると、チョコの化け物はその手のひらにのった。



「今朝ハ、アリガトウゴザイマシタ」

「えっと……もしかして、狙い外れちまった?」

「イエ、チャント落チマシタ。彼ノ足元ニ」

 チョコの化け物は、「タダ……」と足元の手のひらに目を向けた。

「コノ姿ヲ彼ニ見セルノニ、心ノ準備ガデキナクテ……」

「ああ……確かに、その姿を見て平気かどうかはわからねえよなあ……」

「ハイ。ナノデ、待ツコトニシマシタ。彼ガ帰ッテクルノヲ」

「そうか。それじゃあ、俺たちが頑張った意味はあるんだな」

「エエ……化ケ物運ビ屋ノ皆サンノ恩……無駄ニハシタクナイノデ」



 ケイトに地面に戻されて、チョコの変異体は彼に向かってお辞儀をした後、どこかへ立ち去ってしまった。



 ケイトはバイクにまたがる前に、ポケットからチョコを取り出した。



「……ホワイトデーのお返し、ないんだよなあ。自分で買ったやつだし」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...