化け物バックパッカー

オロボ46

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化け物バックパッカーは川を下らない。【後編】

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 ローブの少女が空を見上げると、木の枝に生えた緑の葉が太陽を挟んでいた。

 風に揺られる緑の葉は、前から後ろへと通過していく。

 しかし、逆方向へ向かっているからだろうか。それとも、単純に違った方法であるためなのだろうか。

 進むべき方向へ向かっていく緑の葉と進むべき方向に背いて進んでいくボートは、

 まるで逆再生のビデオのように見えた。



 老人とローブの少女が他の6人と息を合わせるころになれたころ、ボートはカーブにさしかかろうとしていた。

「……!!」

 突然、ローブの少女はオールを動かす手を止めて、額に手を当てた。

 前方にいた若者のひとりの肘が、ローブの少女の額に当たったからだ。

「す、すみません!」
 若者は後ろを小さく振り返り、頭を下げて謝罪をした。

 しかし、そこで若者は動き止めた。

 少女の頭を覆っていたフードが下ろされており、顔が見えていた。

 影のように黒い顔に、長めのウルフヘアー。

 そして、まぶたの下から現れたのは眼球ではなく、青い触覚だった。

 紛れもない、化け物だ。

「……!!」

 タビアゲハは慌ててフードを下ろしたが、遅かった。

 隣にいた老人はもちろん、他の4人の若者たち、そしてガイドの女性もその触覚を目撃していたのだ。

「……」
 ローブの少女は正体を明らかにしてしまったことにおびえるように、体が震えていた。

 それを最初に見た若者は一度老人に目を向け、ローブの少女の触覚をじっと見つめ……



 笑顔になり、胸をなで下ろした。



「よかった……“変異体”で」

 若者の反応に何も言わず口を開くローブの少女の隣で、老人は他の人の様子を確認した。
 4人はみな、安心したような表情をしていた。まるで、先ほどまでの緊張の糸がほぐれたように。

「……変異体、怖クナイノ?」

 人とは思えない奇妙な声を出すタビアゲハに対しても、若者は顔色を変えずにうなずき、ライフジャケットを少しだけはずした。

 現れたのは、両肩から生えた角。その角の頂点には、それぞれひとつの目玉があった。

「このラフティングの参加者全員、変異体なんですよ。そこへ飛び込みでおふたりが参加したので、みんな正体を知られないように緊張していたんですが……連れのおじいさんも平気そうだったので、これで安心できました」

 笑顔を向ける若者たちを見つめていたローブの少女は、彼らと同じく緊張の糸が切れたのか、小さく笑った。それとともに、ボートの上で笑い声が響き渡った。

 隣の老人も一緒に笑っていたが、やがてある違和感に気づいたように冷静に周りを見渡した。

「!! おい!! だいじょうぶか!?」

 老人の声に、他の参加者たちは老人の向いている方向を見た。

 ガイドの女性が、口から泡を吹いて空を見上げていたからだ。

「イ……意識ヲ失ッテル!?」
「しまった!! この人の目の前では変異体の姿を見せてはいけなかった!!」
「と、とりあえずボートを岸に止めましょう!!」
「この辺りの川は比較的浅いようです!」
「そ、それじゃあ私が泳いでボートを押しますね!」
「わかりました! 岸に上がったらおじいさんはガイドさんの介抱をお願いします!!」
「お、おう……」

 残りの7人が違いに声を掛け合っている間、こいでいなかったのか、ボートは下りの方向へちょっとずつ流れていた。





「いやー、さっきはすみませんでした」

 岸辺に立つ大岩の影で、女性は老人に対して軽く謝罪した。
「まったく……おまえ、本当は知ってて参加させていたんだろ?」
 老人はあきれた顔で女性を見て、一瞬だけ後ろを振り向いた。

 ふたりの後ろでは、ローブの少女と5人の若者たちが円になって座っていた。なにか、話をして盛り上がっているようだ。

「ええ。突然変異症で化け物の姿になった元人間……変異体。その変異した姿を普通の人間が見ると恐怖に襲われるんですよね」

「俺は耐性があったから平気だが、おまえはそうではないのに、なぜこんなバイトをしているんだ?」

「お金が欲しいからですよ。変異体に関わるバイトは非合法ですけど、その分バイト代が多いんですよ」

「……そこまでして金を稼ぐとは、なにか理由があるんだな?」

 その質問をかけた時、女性の顔は真剣になった。

「あたし、師匠と一緒に世界中の川を下るって約束しているんですよ。師匠が定年で引退するまでに、資金を稼がなきゃあいけないんです」

「……」



 その時、若者のひとりが女性が目覚めたことに気がついた。

「あの、もう大丈夫ですか!?」

 その声に対して、女性は明るく返事した。

「だいじょうぶでーす! あと5分休憩したら、出発しましょう!」




 5分後、8人を載せたボートは川を上り始めた。



 やがて、大きな池が見えてきた。

「みなさん、目的地が見えてきました!」

 ガイドの女性が叫ぶと、全員のオールを動かす手が早まった。

 それでも、タイミングが崩れることはなく、ボートは上っていく。

 一切の迷いもなく、オールでこいでいく。

 なぜボートが川の流れに逆らうかという疑問が、8人の頭の中から消えていたように。
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