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「明日あの男を連れてそちらに行きます」
お母様から連絡があった。どうやらこの屋敷の近くの街にいるようだ。
と、いうことはこの屋敷でリアムと暮らすのも今日が最後となる。
どのような結論になるにせよずっとここにはいられない。
私は嬉しそうに絵を書くリアムの頭を撫でる。
「明日、お祖母様とお父様がいらっしゃるそうよ」
そう言うとぱっと顔を明るくしたと思ったらまたすぐに暗い顔をして俯いたリアム。
「どうしたの?」
リアムの頬に手を添えて尋ねる。
「おとうさまがきたらまたおかあさまとはおわかれですか?」
この心優しい息子はどうやら私の事を心配してくれたようだ。
「大丈夫よ」
私は立ち上がりリアムの側に寄りその小さい身体を抱き締める。
ここ数日沢山沢山考えた。旦那様の事、自分の事、旦那様の気持ち、自分の気持ち。
まだ旦那様からお話を伺ってはいないので旦那様との関係はどうなるか分からない…それでもここでの生活を送って思った事が1つある。
それは絶対にリアムとは離れたく無いということ。1度は跡取りだと置いて来てしまった息子だけどあの日私を見て泣きながら飛びついて来た我が子を見て置いてくるんじゃなかったと後悔した。貴族の家の子供とはいえまだ3歳なのだ…まだまだ親に甘えたい盛り。
「おかあさまくるしいです」
どうやら抱き締める腕に力が入っていたようだ。
「ごめんさい。リアムが可愛くて抱き締めたら離れられなくなっちゃったわ」
そう言うとリアムは頬を赤くして嬉しそうに笑った。
久しぶりに見る夫は何処かやつれているように見える。
「ご無沙汰しております旦那様。この度は勝手な事を致しまして申し訳ありません」
おおよそ夫婦の会話とは思えないような挨拶をする私に夫と母は眉を顰めた。
「そんな余所余所しい挨拶をしないでくれ…」
夫は今までそんな事言ったこと無かったのに…。以前の私ならそう言われて喜んだのかもしれないが…この言葉を聞いて実感した。
やはり夫は私を見ていはいなかったのだと。
夫がこちらに伸ばした手を思わず避けた…。
「立ち話と言う訳にもまいりません、こちらにお座り下さい」
そう言うと私はお茶の用意をしにキッチンへと向かった。私の後をちょこちょこと着いてくるリアム。
「お父様の所にいてもいいのですよ」
そう言うとリアムは私のスカートの裾をギュッと握り締めた。
……その子にも分かっているのかもしれないわ…夫には私達よりも大切な物があるという事に。
「今までの事は済まなかったと思っている」
そう言って目の前に座る夫は私に頭を下げた。
「頭をお上げになって下さい、まずは旦那様のお話をお聞かせ下さい。今までは私も辛い現実から逃げていました、貴方と向き合わずはっきりした事を聞かなければ辛い現実も現実では無いと思えたから。でももうその現実から逃げません、私は私の為にそしてこんな私を母だと慕ってくれるリアムの為にも強くならなければいけません」
すると夫はとても驚いた顔をした。
「そうか、本来の君はそんなはっきりと話をする人だったのか…そう言えば小さい頃の君はとてもお転婆だった気がする。そんな事も忘れていた…今まで何を見ていたんだろうな私は…」
そう言って夫は薄く笑いぽつりぽつりと話始めた。
お母様から連絡があった。どうやらこの屋敷の近くの街にいるようだ。
と、いうことはこの屋敷でリアムと暮らすのも今日が最後となる。
どのような結論になるにせよずっとここにはいられない。
私は嬉しそうに絵を書くリアムの頭を撫でる。
「明日、お祖母様とお父様がいらっしゃるそうよ」
そう言うとぱっと顔を明るくしたと思ったらまたすぐに暗い顔をして俯いたリアム。
「どうしたの?」
リアムの頬に手を添えて尋ねる。
「おとうさまがきたらまたおかあさまとはおわかれですか?」
この心優しい息子はどうやら私の事を心配してくれたようだ。
「大丈夫よ」
私は立ち上がりリアムの側に寄りその小さい身体を抱き締める。
ここ数日沢山沢山考えた。旦那様の事、自分の事、旦那様の気持ち、自分の気持ち。
まだ旦那様からお話を伺ってはいないので旦那様との関係はどうなるか分からない…それでもここでの生活を送って思った事が1つある。
それは絶対にリアムとは離れたく無いということ。1度は跡取りだと置いて来てしまった息子だけどあの日私を見て泣きながら飛びついて来た我が子を見て置いてくるんじゃなかったと後悔した。貴族の家の子供とはいえまだ3歳なのだ…まだまだ親に甘えたい盛り。
「おかあさまくるしいです」
どうやら抱き締める腕に力が入っていたようだ。
「ごめんさい。リアムが可愛くて抱き締めたら離れられなくなっちゃったわ」
そう言うとリアムは頬を赤くして嬉しそうに笑った。
久しぶりに見る夫は何処かやつれているように見える。
「ご無沙汰しております旦那様。この度は勝手な事を致しまして申し訳ありません」
おおよそ夫婦の会話とは思えないような挨拶をする私に夫と母は眉を顰めた。
「そんな余所余所しい挨拶をしないでくれ…」
夫は今までそんな事言ったこと無かったのに…。以前の私ならそう言われて喜んだのかもしれないが…この言葉を聞いて実感した。
やはり夫は私を見ていはいなかったのだと。
夫がこちらに伸ばした手を思わず避けた…。
「立ち話と言う訳にもまいりません、こちらにお座り下さい」
そう言うと私はお茶の用意をしにキッチンへと向かった。私の後をちょこちょこと着いてくるリアム。
「お父様の所にいてもいいのですよ」
そう言うとリアムは私のスカートの裾をギュッと握り締めた。
……その子にも分かっているのかもしれないわ…夫には私達よりも大切な物があるという事に。
「今までの事は済まなかったと思っている」
そう言って目の前に座る夫は私に頭を下げた。
「頭をお上げになって下さい、まずは旦那様のお話をお聞かせ下さい。今までは私も辛い現実から逃げていました、貴方と向き合わずはっきりした事を聞かなければ辛い現実も現実では無いと思えたから。でももうその現実から逃げません、私は私の為にそしてこんな私を母だと慕ってくれるリアムの為にも強くならなければいけません」
すると夫はとても驚いた顔をした。
「そうか、本来の君はそんなはっきりと話をする人だったのか…そう言えば小さい頃の君はとてもお転婆だった気がする。そんな事も忘れていた…今まで何を見ていたんだろうな私は…」
そう言って夫は薄く笑いぽつりぽつりと話始めた。
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