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【転移83日目】 所持金396兆1687億7337万ウェン 「土がこんなにも爪の間に挟まってしまったよ。」
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深夜。
明日に備えて雑魚寝をしていた俺達はゲオルグ氏からのメッセンジャーに叩き起こされる。
とうとう、連邦と国境を接する首長国の29村落が独立宣言を行った。
相当数の首長国地方官が家族ごと殺害されたらしい。
昨日の日暮れと同時に決起し、同時に連邦に対して庇護を要請して来た。
どの使者も。
「聖君の御旗に参じたい(税金低いの羨ましい)。」
との一点張りであり、涙ながらに連邦への併合を懇願して来ているそうだ。
「元々、連邦制国家じゃないですか! 我々も加盟させて下さいよ!」
等と図々しい物言いをしている使者までいた始末である。
そもそも連邦人と首長国人は民族的に大きく異なるし、何より長年交戦を繰り返し続けていた敵性国家同士なのである。
(俺の印象だが、インド系とアラビア系位に外見的特徴差がある、少なくとも見れば一発で見分けがつく)
連邦首脳部にしても相手の領土を武力で奪う計画はあれこれ立てて来たが、まさか向こうから併合を懇願される事態など想像した事すらなかった。
想定外のアクションを取られても本当に困るのだ。
領土が広がるのは別にいい。
だが異民族(それも交戦期間が長い)を自国に抱え込みたくない。
余程の馬鹿でない限り誰だってそうする。
それが世界の常識だ。
『ねえ、皆さん。
この場合ってどうすればいいんですか?』
「沈痛そうな表情で哀悼の意を表明する。」
カインの言う通りではある。
それが無難なのだろう。
「リンは死人を減らしたいの?」
『そりゃあ。
なるべく人が死なないには越した事はないですよ。』
「何が何でも人死は避けたい?」
『いや、俺も含めて生きている限りいつかは死にますし。
…ただ社会の安定は死守するべきです。』
「ふむ、じゃあ。」
『…資本家や権力者は社会を崩壊させない方法で打倒するべきです。
少なくとも今、農村を煽動している連中はそこまで配慮するべきだ。』
「でもさあ。
君主制国家の支配層って社会そのものな訳じゃない?
これを破壊しない限り、首長国の農民は未来永劫救われないんだよ?
私も、王国を内部から改革するのは不可能と判断したから君を選んだ。
君主制は流血以外の手段で変革が不可能な政体なんだ。
あまり煽動屋を責めないでやってくれないか?
彼らは資本を持たないんだからさ。」
『…そうですね。
俺の思い上がりでした。』
「意地の悪い言い方をして悪かった。
でもリンにこそ知っておいて欲しいんだ。
持たざる者の言い分ってものをさ。」
『…俺は貧民の子です。』
「でも今は違う。
カネも地位も両方持ってる。」
『…。』
「リンの自意識は庶人と資本家の間で揺れ動いてるんじゃないかな?
それは仕方ない事だと思う。
だって、あまりに短期間だったんだもの。
ねえ、信じられるかい。
リンがニコニコ金融の門を叩いてから、まだ3ヶ月も立ってないんだぜ?
あの頃のリンは白金貨すら見た事が無かっただろう?」
そう、あの頃の俺は100万ウェン分の白金貨をダグラスに見せられて無邪気に驚いていた。
今は逆の意味で白金貨を見れなくなってしまったが…
ダグラス…
もう一度会いたいな。
『…ダグラスさんにまた逢いたいですね。』
「リンが困っていれば駆けつけてくれるさ。」
…今の俺が本心から困るのは相当難しい。
ダグラスとは二度と会えないかもな。
それだけは嫌だな。
『庶人と資本家。
俺はどっちなんですかね?』
「資本家だよ。
例え違ったとしても、その自覚を持ってないと世界に殺されるよ。」
『ねえ、カインさん。
資本家って何なんですか?』
「新しい形の王様。
領土・領民なんて負債を負ってない。
配当という名の税収を最小コストで吸い上げる。
大抵は安全な場所でひっそり暮らしている。
庶民からは存在すら認知できない事もしばしば。」
『そんなの無敵じゃないですか。』
「現にリンは無敵だろ?
皇帝から娘を貰ってくれと頼まれた。
魔王から国債を買ってくれと頼まれた。
巨大資本の前には君主なんて、嘆願する以外に道がないんだよ。」
『俺は丸腰なんだから、殺して奪えばいいのに。』
「リンもわかってるだろ?
過去に王様たちは、そんな馬鹿な真似を何度も繰り返して来た。
ツケの痛みを学習済みだから、ああやって頭を下げてるんだ。
帝国なんて今でこそおとなしいけど、昔は平気でデフォルトしまくってたし、商人からも財産没収を繰り返していた。
ここでリンを斬っちゃったら、完全滅亡コース直行だね。
逆に頭を下げたから、国債を買って貰えた訳じゃない?
じゃあ、頭を下げ続けるだろうね。
ここまで世界が複雑化しちゃったら、どこの国も資本家の手助けなしに予算が組めないんだ。」
『ねえ、カインさん。
俺は…
資本家を打倒する方法を知りたいんです。
それも労働者を巻き込まない形で…』
「ははははww
難しい注文だ。
私の父親がそういう話題をいつもしていたよ。
当然、阻止側の視点でね。
何?
それが元の世界でやりたい事?」
『証明したいんです。
資本家も労働者も、同じ人間なんだって。
収入や財産の多寡で人間の価値は決まらないって…
息子の俺が証明しなくてはならないんです。』
「ねえ、リン。
君は聡明な男だ。
本当は知っているんだよね?
価値を証明する指標としてカネが存在する事を。」
『…。』
知らない訳がないじゃないか。
この80日間、みんなが俺のカネを評価し遜って来たのだから。
君主・官僚・事業家・軍人・労働者…
その中でも最も目敏く徹底していたのが…
「いらっしゃいませー♪
しゅくはくですかー♪」
価値を証明する指標としてカネが存在する。
そんなの俺が一番知ってるよ。
「資本家を打倒する方法が一つだけ存在する。」
『え!?』
「驚く事はないさ。
いつも言ってるだろう?
私は父を激しく嫌っていた、と。
だから、アイツに一泡吹かせてやる方法をずっと考えていたんだ。
軽蔑するかい?
孝行者のリンとしては。」
『いえ。
カインさんが周囲を気遣って下さる方だとは存じてますので。
…ただ、お父様とも仲良くして下さればもっと嬉しいです。』
「…いつか、王国に帰る日があれば。
あの男の墓前に花を供えても良いかも知れないね。
さて、資本家を倒す方法だ。」
『はい。』
「この世に資本家を打倒する手段は存在しない。
冗談抜きに無敵だからね。
なので、天上の力を借りる。
そう、人が神と呼ぶ存在さ。」
『か、神ですか!?』
「無論、神など存在しない。
だから人間は宗教なる虚構をデッチ上げて
権力者を牽制してきた。
《人間は平等だー》
とか
《強欲な商売をすると地獄に堕ちるぞー》
とか。
リンの世界にも宗教はあったんだろ?
何て言ってた?」
『概ね似たような事です。
俺の世界には幾つかの宗教があったんですけど
概ね、殺生や贅沢や姦淫を戒める内容です。』
「ああ、どこもコンセプトは一緒だね。
要するに権力への掣肘機能だ。
さもなければ正当化機能だね。
私に言わせればこの二つは表裏一体だけど。」
『け、権力への掣肘ですか?』
「だってそうだろう?
強いから戦乱を起こせる。
強いから奪った富で贅沢出来る。
強いから女を独占出来る。
弱者にそれが阻止できるかい?」
『無理ですよ。
ただ泣きながら堪えるしかないです。』
「でも神ならば、それを阻止出来る。
弱者の言い分になど誰も耳を傾けないが、それが神の言葉なら?」
『一定の説得力があります。』
「それが答えだ。
古来、人はそうやって何とか権力に抗って来た。」
『いや、でも。
俺の勝手なイメージかも知れませんが。
宗教って権力と癒着するイメージが。』
「するね。
放っておけば宗教的権威は必ず権力と一体化する。
しなければ弾圧されて滅ぼされるだけだけど。」
『…なんか手詰まりですね。』
「だから多くの宗教や思想は世界と妥協する。
権力と程よく距離を置き、かと言って弾圧されない程度には迎合する。
若い君には中途半端に見えるかい?」
『いえ、社会と下手な衝突をするよりは健全かと。』
「本当に資本家を倒したいなら、神を騙れ。
故郷にも複数の宗教があるんだろう?
その中から穏当で社会に受け入れられているものを選んで
世界に清貧や平等を押し付けろ。
無論、君自身が誰よりも廉潔で公平に振舞う必要があるが…
私はその点を危惧していない。
兎に角。
それが…
君の望みを叶える唯一の方法だ。
迂遠かも知れないが。
君がお父様を悲しませずに済む方法だよ。」
『…はい。』
「じゃあ、ここで練習をして行ってくれ。」
『練習?』
「生憎私の故郷はこちらの世界でね。
どうせならこっちも救って欲しいじゃないか。
どのみち、ノウハウは積んでおきたいんだろう?
貧しい労働者を救済する方法のノウハウを。」
『…はい。
他人様の世界を実験台にするようで心苦しいですが。』
「税金が減るんなら、みんな喜んで実験台になるさ。
というより、第一号は私が実験台になりたいくらいだ。」
なんだか、この人の口車に乗って、俺はこの異世界を東奔西走しているみたいだ。
悪い気はしない。
いや、寧ろこれほどの人物に期待されて男として誇らしい。
『あ、カインさん。』
「んー?」
『教団滅んじゃいました。』
「施設やら教義やらを利用させて貰いなよ。
なんか残ってるでしょ?」
『神聖教団ってどんな教義なんですか?
俺、寄付金の話しかされた事なくて。』
「そう言えば、あの教団って何を訴えてんだろうね?
子供の頃、よく寄付金を集めに来て父親と喧嘩していたけど。」
『じゃあ、お父様は寄付しなかったんですね。』
「したよ。
教団の壁新聞に広告枠を用意するって言われて喜んで寄付してた。
教会に来る人間なんてカネに困ってる人間が殆どだからさ、広告効果凄かったみたい。」
『今度、彼らの教義を調べてみましょう。』
「だね。
アンテナを張っておくよ。」
==========================
午後過ぎに改めて起床した俺は
『宗教的権威を利用する方法で、事態を丸く収めてみたい。』
と皆に相談した。
《ンディッド・スペシャルアンバサダー信徒》当が支払われました。》
幾らか金属片が転がり落ちたので拾って土を落してから各メッセンジャーに駄目元で頼んでみる。
障碍者の俺が地面から物を拾うのって結構キツイんだぜ?
見てくれよ。
土がこんなにも爪の間に挟まってしまったよ。
『宗教的権威を利用する方法で、事態を丸く収めてみたい。
俺はそういう方面の知識に疎いのだが、兎に角その方向で。』
メッセンジャー達は満面の笑みで「承知しました!」と叫んで馬首を返した。
==========================
【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
293兆5687億7337万ウェン
↓
402兆1687億7337万ウェン
↓
396兆1687億7337万ウェン
※108兆6000億ウェンの配当を受け取り
※和平推進予算として自由都市政治局に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算として自由都市経済同友会に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算として連邦政府に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算とし独立13州臨時政府委員会に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算として首長国密使に1兆ウェンを預託
※和平推進予算として帝国四諸侯密使に1兆ウェンを預託
==========================
俺には思いつかないが…
1兆あったら誰かが適切な和平案を思いつくだろう。
流石に1兆あったら誰かが何とかするだろう。
これで流血が止まらないなら、もう俺が軍隊を買って事態の収拾に動くしかない。
明日に備えて雑魚寝をしていた俺達はゲオルグ氏からのメッセンジャーに叩き起こされる。
とうとう、連邦と国境を接する首長国の29村落が独立宣言を行った。
相当数の首長国地方官が家族ごと殺害されたらしい。
昨日の日暮れと同時に決起し、同時に連邦に対して庇護を要請して来た。
どの使者も。
「聖君の御旗に参じたい(税金低いの羨ましい)。」
との一点張りであり、涙ながらに連邦への併合を懇願して来ているそうだ。
「元々、連邦制国家じゃないですか! 我々も加盟させて下さいよ!」
等と図々しい物言いをしている使者までいた始末である。
そもそも連邦人と首長国人は民族的に大きく異なるし、何より長年交戦を繰り返し続けていた敵性国家同士なのである。
(俺の印象だが、インド系とアラビア系位に外見的特徴差がある、少なくとも見れば一発で見分けがつく)
連邦首脳部にしても相手の領土を武力で奪う計画はあれこれ立てて来たが、まさか向こうから併合を懇願される事態など想像した事すらなかった。
想定外のアクションを取られても本当に困るのだ。
領土が広がるのは別にいい。
だが異民族(それも交戦期間が長い)を自国に抱え込みたくない。
余程の馬鹿でない限り誰だってそうする。
それが世界の常識だ。
『ねえ、皆さん。
この場合ってどうすればいいんですか?』
「沈痛そうな表情で哀悼の意を表明する。」
カインの言う通りではある。
それが無難なのだろう。
「リンは死人を減らしたいの?」
『そりゃあ。
なるべく人が死なないには越した事はないですよ。』
「何が何でも人死は避けたい?」
『いや、俺も含めて生きている限りいつかは死にますし。
…ただ社会の安定は死守するべきです。』
「ふむ、じゃあ。」
『…資本家や権力者は社会を崩壊させない方法で打倒するべきです。
少なくとも今、農村を煽動している連中はそこまで配慮するべきだ。』
「でもさあ。
君主制国家の支配層って社会そのものな訳じゃない?
これを破壊しない限り、首長国の農民は未来永劫救われないんだよ?
私も、王国を内部から改革するのは不可能と判断したから君を選んだ。
君主制は流血以外の手段で変革が不可能な政体なんだ。
あまり煽動屋を責めないでやってくれないか?
彼らは資本を持たないんだからさ。」
『…そうですね。
俺の思い上がりでした。』
「意地の悪い言い方をして悪かった。
でもリンにこそ知っておいて欲しいんだ。
持たざる者の言い分ってものをさ。」
『…俺は貧民の子です。』
「でも今は違う。
カネも地位も両方持ってる。」
『…。』
「リンの自意識は庶人と資本家の間で揺れ動いてるんじゃないかな?
それは仕方ない事だと思う。
だって、あまりに短期間だったんだもの。
ねえ、信じられるかい。
リンがニコニコ金融の門を叩いてから、まだ3ヶ月も立ってないんだぜ?
あの頃のリンは白金貨すら見た事が無かっただろう?」
そう、あの頃の俺は100万ウェン分の白金貨をダグラスに見せられて無邪気に驚いていた。
今は逆の意味で白金貨を見れなくなってしまったが…
ダグラス…
もう一度会いたいな。
『…ダグラスさんにまた逢いたいですね。』
「リンが困っていれば駆けつけてくれるさ。」
…今の俺が本心から困るのは相当難しい。
ダグラスとは二度と会えないかもな。
それだけは嫌だな。
『庶人と資本家。
俺はどっちなんですかね?』
「資本家だよ。
例え違ったとしても、その自覚を持ってないと世界に殺されるよ。」
『ねえ、カインさん。
資本家って何なんですか?』
「新しい形の王様。
領土・領民なんて負債を負ってない。
配当という名の税収を最小コストで吸い上げる。
大抵は安全な場所でひっそり暮らしている。
庶民からは存在すら認知できない事もしばしば。」
『そんなの無敵じゃないですか。』
「現にリンは無敵だろ?
皇帝から娘を貰ってくれと頼まれた。
魔王から国債を買ってくれと頼まれた。
巨大資本の前には君主なんて、嘆願する以外に道がないんだよ。」
『俺は丸腰なんだから、殺して奪えばいいのに。』
「リンもわかってるだろ?
過去に王様たちは、そんな馬鹿な真似を何度も繰り返して来た。
ツケの痛みを学習済みだから、ああやって頭を下げてるんだ。
帝国なんて今でこそおとなしいけど、昔は平気でデフォルトしまくってたし、商人からも財産没収を繰り返していた。
ここでリンを斬っちゃったら、完全滅亡コース直行だね。
逆に頭を下げたから、国債を買って貰えた訳じゃない?
じゃあ、頭を下げ続けるだろうね。
ここまで世界が複雑化しちゃったら、どこの国も資本家の手助けなしに予算が組めないんだ。」
『ねえ、カインさん。
俺は…
資本家を打倒する方法を知りたいんです。
それも労働者を巻き込まない形で…』
「ははははww
難しい注文だ。
私の父親がそういう話題をいつもしていたよ。
当然、阻止側の視点でね。
何?
それが元の世界でやりたい事?」
『証明したいんです。
資本家も労働者も、同じ人間なんだって。
収入や財産の多寡で人間の価値は決まらないって…
息子の俺が証明しなくてはならないんです。』
「ねえ、リン。
君は聡明な男だ。
本当は知っているんだよね?
価値を証明する指標としてカネが存在する事を。」
『…。』
知らない訳がないじゃないか。
この80日間、みんなが俺のカネを評価し遜って来たのだから。
君主・官僚・事業家・軍人・労働者…
その中でも最も目敏く徹底していたのが…
「いらっしゃいませー♪
しゅくはくですかー♪」
価値を証明する指標としてカネが存在する。
そんなの俺が一番知ってるよ。
「資本家を打倒する方法が一つだけ存在する。」
『え!?』
「驚く事はないさ。
いつも言ってるだろう?
私は父を激しく嫌っていた、と。
だから、アイツに一泡吹かせてやる方法をずっと考えていたんだ。
軽蔑するかい?
孝行者のリンとしては。」
『いえ。
カインさんが周囲を気遣って下さる方だとは存じてますので。
…ただ、お父様とも仲良くして下さればもっと嬉しいです。』
「…いつか、王国に帰る日があれば。
あの男の墓前に花を供えても良いかも知れないね。
さて、資本家を倒す方法だ。」
『はい。』
「この世に資本家を打倒する手段は存在しない。
冗談抜きに無敵だからね。
なので、天上の力を借りる。
そう、人が神と呼ぶ存在さ。」
『か、神ですか!?』
「無論、神など存在しない。
だから人間は宗教なる虚構をデッチ上げて
権力者を牽制してきた。
《人間は平等だー》
とか
《強欲な商売をすると地獄に堕ちるぞー》
とか。
リンの世界にも宗教はあったんだろ?
何て言ってた?」
『概ね似たような事です。
俺の世界には幾つかの宗教があったんですけど
概ね、殺生や贅沢や姦淫を戒める内容です。』
「ああ、どこもコンセプトは一緒だね。
要するに権力への掣肘機能だ。
さもなければ正当化機能だね。
私に言わせればこの二つは表裏一体だけど。」
『け、権力への掣肘ですか?』
「だってそうだろう?
強いから戦乱を起こせる。
強いから奪った富で贅沢出来る。
強いから女を独占出来る。
弱者にそれが阻止できるかい?」
『無理ですよ。
ただ泣きながら堪えるしかないです。』
「でも神ならば、それを阻止出来る。
弱者の言い分になど誰も耳を傾けないが、それが神の言葉なら?」
『一定の説得力があります。』
「それが答えだ。
古来、人はそうやって何とか権力に抗って来た。」
『いや、でも。
俺の勝手なイメージかも知れませんが。
宗教って権力と癒着するイメージが。』
「するね。
放っておけば宗教的権威は必ず権力と一体化する。
しなければ弾圧されて滅ぼされるだけだけど。」
『…なんか手詰まりですね。』
「だから多くの宗教や思想は世界と妥協する。
権力と程よく距離を置き、かと言って弾圧されない程度には迎合する。
若い君には中途半端に見えるかい?」
『いえ、社会と下手な衝突をするよりは健全かと。』
「本当に資本家を倒したいなら、神を騙れ。
故郷にも複数の宗教があるんだろう?
その中から穏当で社会に受け入れられているものを選んで
世界に清貧や平等を押し付けろ。
無論、君自身が誰よりも廉潔で公平に振舞う必要があるが…
私はその点を危惧していない。
兎に角。
それが…
君の望みを叶える唯一の方法だ。
迂遠かも知れないが。
君がお父様を悲しませずに済む方法だよ。」
『…はい。』
「じゃあ、ここで練習をして行ってくれ。」
『練習?』
「生憎私の故郷はこちらの世界でね。
どうせならこっちも救って欲しいじゃないか。
どのみち、ノウハウは積んでおきたいんだろう?
貧しい労働者を救済する方法のノウハウを。」
『…はい。
他人様の世界を実験台にするようで心苦しいですが。』
「税金が減るんなら、みんな喜んで実験台になるさ。
というより、第一号は私が実験台になりたいくらいだ。」
なんだか、この人の口車に乗って、俺はこの異世界を東奔西走しているみたいだ。
悪い気はしない。
いや、寧ろこれほどの人物に期待されて男として誇らしい。
『あ、カインさん。』
「んー?」
『教団滅んじゃいました。』
「施設やら教義やらを利用させて貰いなよ。
なんか残ってるでしょ?」
『神聖教団ってどんな教義なんですか?
俺、寄付金の話しかされた事なくて。』
「そう言えば、あの教団って何を訴えてんだろうね?
子供の頃、よく寄付金を集めに来て父親と喧嘩していたけど。」
『じゃあ、お父様は寄付しなかったんですね。』
「したよ。
教団の壁新聞に広告枠を用意するって言われて喜んで寄付してた。
教会に来る人間なんてカネに困ってる人間が殆どだからさ、広告効果凄かったみたい。」
『今度、彼らの教義を調べてみましょう。』
「だね。
アンテナを張っておくよ。」
==========================
午後過ぎに改めて起床した俺は
『宗教的権威を利用する方法で、事態を丸く収めてみたい。』
と皆に相談した。
《ンディッド・スペシャルアンバサダー信徒》当が支払われました。》
幾らか金属片が転がり落ちたので拾って土を落してから各メッセンジャーに駄目元で頼んでみる。
障碍者の俺が地面から物を拾うのって結構キツイんだぜ?
見てくれよ。
土がこんなにも爪の間に挟まってしまったよ。
『宗教的権威を利用する方法で、事態を丸く収めてみたい。
俺はそういう方面の知識に疎いのだが、兎に角その方向で。』
メッセンジャー達は満面の笑みで「承知しました!」と叫んで馬首を返した。
==========================
【所持金】 (リン・コリンズからは視認不能状態)
293兆5687億7337万ウェン
↓
402兆1687億7337万ウェン
↓
396兆1687億7337万ウェン
※108兆6000億ウェンの配当を受け取り
※和平推進予算として自由都市政治局に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算として自由都市経済同友会に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算として連邦政府に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算とし独立13州臨時政府委員会に1兆ウェンを寄贈
※和平推進予算として首長国密使に1兆ウェンを預託
※和平推進予算として帝国四諸侯密使に1兆ウェンを預託
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俺には思いつかないが…
1兆あったら誰かが適切な和平案を思いつくだろう。
流石に1兆あったら誰かが何とかするだろう。
これで流血が止まらないなら、もう俺が軍隊を買って事態の収拾に動くしかない。
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異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
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小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
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神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
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そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」
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書道が大好き(強制)なごくごく普通の
一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の
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こりゃーと思っていると、女神(駄)が
現れ異世界に転移されていた。魔王を
倒してほしんですか?いえ違います。
失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな!
さっさと元の世界に帰せ‼
これは運悪く異世界に飛ばされた青年が
仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの
と商売をして暮らしているところで、
様々な事件に巻き込まれながらも、この
世界に来て手に入れたスキル『書道神級』
の力で無双し敵をバッタバッタと倒し
解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに
巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、
時には面白く敵を倒して(笑える)いつの
間にか世界を救う話です。
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