32 / 252
第一章 色無しの魔物使い
032 救援現る
しおりを挟む――ずどどどどおぉーーんっ!!
凄まじい爆発が立て続けに起こっている。迫りくるドナの魔法を、アリシアが必死に躱し続けている影響は、広がる一方であった。
「ドナさん止めてっ! 里がメチャクチャになっちゃう!」
「だったら大人しく当たりなさいっての! それで全てが解決するんだから!」
もはやドナは、聞く耳を持たないも同然の状態であった。
炎の魔法が綺麗な緑を黒焦げへと変えていく。炎の熱が空気を変え、魔物たちの叫びが大きくなってくる。
まさに阿鼻叫喚とはこのことだろうか。
泉を安全だと思い込んで逃げてきた魔物たちを、ブルースも来やがったなと言わんばかりにニヤリと笑い、片っ端から武器を振るって襲い掛かる。パニックになりながらも、根が好戦的な魔物たちは、己を奮い立たせながら立ち向かうが、力の差は歴然としていた。
腕利き冒険者の名は、決して伊達ではなかった。
ブルースの剣が魔物をなぎ倒していく。茂みの中から、ホーンラビットや巨大な蛙の魔物――ビッグフロッグが奇襲をかけるも、彼を止めるには至らない。
「ハーッハッハッハッ! やはり魔物は襲い掛かってくる存在だった!」
ブルースは大声で笑いつつ、ホーンラビットの角を剣でスパッと切り落とす。しかもその刃には、魔力のオーラが宿っていた。
これこそが彼の職業――魔法剣士としての姿である。
硬くてへし折るのが精いっぱいと言われているホーンラビットの角も、魔力を宿した剣にかかれば、いとも簡単にスパッと切れてしまうのだ。ブルースの腕の高さも加えれば、更に容易くなっていると言えるだろう。
そんな彼の脅威にも魔物たちは勇敢に立ち向かっていく。隠れ里の平和を脅かす者たちが許せないからだ。
もっともブルースたちからしてみれば、単なる小さな獲物でしかなかった。
「これは冒険者として、仕留める以外に選択肢はないわなァ!」
「何を言うか! そもそも仕掛けてきたのは、お主たちのほうではないか!」
ブルースの前に長老スライムが躍り出る。その表情は怒りに燃えていた。
「自分たちで種を蒔いておきながら被害者面するとは……恥を知れ!」
「はっ! 爺さんこそまだ分かってねぇようだな」
「何じゃと?」
長老スライムが睨みを利かせるも、ブルースの勝ち誇る笑みは変わらない。
「俺たちヒトからすれば、大抵は結果しか見ないもんなんだよ。仮に俺らが仕掛けたとしても、魔物の住処を倒したと報告すれば、俺たちは褒められるのさ。よくぞ危険な場所を潰してくれたってな!」
そう言いながら、ブルースは迫ろうとしていたホーンラビットに視線を向ける。ギラリと血走った目に恐怖したのか、ホーンラビットは一瞬にして戦意喪失し、そのまま逃げだしてしまった。
ブルースはつまらなさそうにため息をつき、再び長老スライムに視線を戻す。
「むしろ人々は喜ぶだろうぜ。こんな隠れ里を魔物だけの住処にするなんざ、勿体ないにも程がある。むしろ魔物が支配していたと見なされるだろうな」
「何を勝手なことを! それはお主らの思い込みに過ぎんぞ!」
「爺さんたち魔物がどう吠えようが、そんなのは関係ねぇんだよなぁ、これが」
やれやれとブルースが大げさに肩をすくめる。
「魔物の言うことなんざ、誰が信じるかって話なんだよ。ここまで言えば、流石の爺さんでも理解できると思うんだがな」
「ぐっ……!」
長老スライムは何も言い返せなくなった。ブルースの言うとおり、魔物のやることなすことに、ヒトが理解を示すなど全く思っていない。
ヒトにとって魔物は害悪――それが当たり前の認識であると。
それは自分も例外ではなかった。実際、昨日までそれは変わらなかったのだ。
しかし、今は――
(たった少ししか経っておらんのに……ワシも少年に影響されてしもうたか)
思い浮かぶのは、バンダナを巻いた少年の姿。妖精やスライムたちと、楽しそうにじゃれ合いながら笑うその表情が、とても輝いているように感じてならない。
実際、見直していたのだ。マキトのようなヒトも存在するのだと。
無論それは、ごく一握りでしかないことも、分かっているつもりであった。しかし今になって実感する。心のどこかで、ヒトと魔物が共存できるのではないかと期待していたことを。
だがそれは淡いものでしかなかった。
目の前に立ちはだかる脅威こそが、現実そのものであることを突きつけられた。
やはりマキトが特殊なのか――そんな残念な気持ちに駆られてくる。
同じ魔物使いであるはずのダリルからも、長老スライムが抱く期待に応えられるような気配はまるで感じないから、尚更であった。
「ブルース。もうそろそろケリをつけようぜ」
ダリルが後ろ頭をボリボリと掻きむしりながら気だるそうに言う。
「なんか飽きてきちまった。俺の新しい魔物で、この場を制圧させてもらうぞ」
――ピイイイィィーーーッ!
ブルースの返事を待つこともなく、ダリルが指笛を鳴らす。それを聞いたドナが驚きを示し、攻撃を中断してダリルに視線を向けた。
「ちょ、ちょっと! アンタ何を勝手な――」
「まぁまぁ、いいじゃないか」
声を荒げるドナを、ブルースがやんわりと制する。
「アイツの言うことも一理ある。新しい仲間の活躍を拝もうじゃないか」
「……はぁい」
肩をすくめながら渋々と受け入れるドナ。それと同時に、一つの重々しい足音が近づいてくる。
やがて姿を見せたそれを見て、アリシアは目を見開いた。
「レッドリザード……いや、違う?」
「あぁ、そうさ。コイツは俺の新しい仲間、アースリザードだ」
誇らしげに胸を張るダリルの隣で、かつて彼が連れていたレッドリザードによく似た魔物がふんと息を鳴らす。
鋭い目と威圧感が、好戦的であることを示している。
暴れ出したらどれだけ手が付けられなくなるか、想像すらつかないほどだ。
このままでは本当に里も魔物もメチャクチャにされてしまう――アリシアたちが顔をしかめた、その時だった。
「――ギュワァッ!!」
威勢のいい鳴き声とともに、大き目の火球がどこからか飛んできた。誰も反応する暇すらなく、アースリザードの顔面に直撃する。
「グワアァーッ!」
アースリザードは、黒焦げと化した顔を押さえながら、地面をのたうち回る。あまりにも突然過ぎる出来事に、ダリルやブルースたちも呆気に取られていた。
そしてそれは、アリシアたちも同じであった。
「炎……もしかして赤いスライムちゃんが?」
「いや、恐らく違うじゃろう」
長老スライムの見立てでは、まだ隠れ里の奥までは、この騒ぎが広まっている様子はなかった。すなわち里の奥へ向かっているマキトたちもまた、この状況に気づいていない可能性が高いと思っていた。
すなわち今の炎は、赤いスライムとは別の魔物ということになるのだ。
しかしそれは一体誰なのか――長老スライムでさえも戸惑うほどであった。この里で他に炎を飛ばせる魔物はいただろうか、と。
その時――近くの茂みが、ガササッと大きく動いた。
「……ギュワッ」
「なっ、お、お前は……!」
茂みからのそりと姿を見せた一匹の魔物に、ダリルは驚きを隠せない。それは間違いなく、先日一方的に彼を見放した、レッドリザードであった。
しかしお世辞にも、感動の再会には程遠い。
レッドリザードは明らかにダリルを、そしてブルースたちを敵視していた。
「ギュワ、ギュワギュワッ!!」
「な、何だよテメェ! もう俺とは無関係だろうが! 出しゃばるんじゃねぇ!」
激しくいきり立つダリル。激しく動揺しているのは明らかであり、ブルースたちは勿論のこと、アースリザードでさえ、彼の変貌に驚いていた。
これは一体どういうことなのかと、アリシアも疑問に思っていると――
「アリシアー、やっほー♪」
囁く声が聞こえた。アリシアが振り向くと、その正体に驚いた。
なんと近くの茂みの陰から、グリーンキャットが小さく手を振っていたのだ。
(そういえばさっきから、全然あの子の声とか聞こえてなかったわ……)
今更ながらアリシアは気づかされた。グリーンキャットがどさくさに紛れて、いなくなっていたことに。
侵入者を里から追い出すべく、戦力を集めに向かってくれていたことに。
10
あなたにおすすめの小説
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる