透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

032 救援現る

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 ――ずどどどどおぉーーんっ!!
 凄まじい爆発が立て続けに起こっている。迫りくるドナの魔法を、アリシアが必死に躱し続けている影響は、広がる一方であった。

「ドナさん止めてっ! 里がメチャクチャになっちゃう!」
「だったら大人しく当たりなさいっての! それで全てが解決するんだから!」

 もはやドナは、聞く耳を持たないも同然の状態であった。
 炎の魔法が綺麗な緑を黒焦げへと変えていく。炎の熱が空気を変え、魔物たちの叫びが大きくなってくる。
 まさに阿鼻叫喚とはこのことだろうか。
 泉を安全だと思い込んで逃げてきた魔物たちを、ブルースも来やがったなと言わんばかりにニヤリと笑い、片っ端から武器を振るって襲い掛かる。パニックになりながらも、根が好戦的な魔物たちは、己を奮い立たせながら立ち向かうが、力の差は歴然としていた。
 腕利き冒険者の名は、決して伊達ではなかった。
 ブルースの剣が魔物をなぎ倒していく。茂みの中から、ホーンラビットや巨大な蛙の魔物――ビッグフロッグが奇襲をかけるも、彼を止めるには至らない。

「ハーッハッハッハッ! やはり魔物は襲い掛かってくる存在だった!」

 ブルースは大声で笑いつつ、ホーンラビットの角を剣でスパッと切り落とす。しかもその刃には、魔力のオーラが宿っていた。
 これこそが彼の職業――魔法剣士としての姿である。
 硬くてへし折るのが精いっぱいと言われているホーンラビットの角も、魔力を宿した剣にかかれば、いとも簡単にスパッと切れてしまうのだ。ブルースの腕の高さも加えれば、更に容易くなっていると言えるだろう。
 そんな彼の脅威にも魔物たちは勇敢に立ち向かっていく。隠れ里の平和を脅かす者たちが許せないからだ。
 もっともブルースたちからしてみれば、単なる小さな獲物でしかなかった。

「これは冒険者として、仕留める以外に選択肢はないわなァ!」
「何を言うか! そもそも仕掛けてきたのは、お主たちのほうではないか!」

 ブルースの前に長老スライムが躍り出る。その表情は怒りに燃えていた。

「自分たちで種を蒔いておきながら被害者面するとは……恥を知れ!」
「はっ! 爺さんこそまだ分かってねぇようだな」
「何じゃと?」

 長老スライムが睨みを利かせるも、ブルースの勝ち誇る笑みは変わらない。

「俺たちヒトからすれば、大抵は結果しか見ないもんなんだよ。仮に俺らが仕掛けたとしても、魔物の住処を倒したと報告すれば、俺たちは褒められるのさ。よくぞ危険な場所を潰してくれたってな!」

 そう言いながら、ブルースは迫ろうとしていたホーンラビットに視線を向ける。ギラリと血走った目に恐怖したのか、ホーンラビットは一瞬にして戦意喪失し、そのまま逃げだしてしまった。
 ブルースはつまらなさそうにため息をつき、再び長老スライムに視線を戻す。

「むしろ人々は喜ぶだろうぜ。こんな隠れ里を魔物だけの住処にするなんざ、勿体ないにも程がある。むしろ魔物が支配していたと見なされるだろうな」
「何を勝手なことを! それはお主らの思い込みに過ぎんぞ!」
「爺さんたち魔物がどう吠えようが、そんなのは関係ねぇんだよなぁ、これが」

 やれやれとブルースが大げさに肩をすくめる。

「魔物の言うことなんざ、誰が信じるかって話なんだよ。ここまで言えば、流石の爺さんでも理解できると思うんだがな」
「ぐっ……!」

 長老スライムは何も言い返せなくなった。ブルースの言うとおり、魔物のやることなすことに、ヒトが理解を示すなど全く思っていない。
 ヒトにとって魔物は害悪――それが当たり前の認識であると。
 それは自分も例外ではなかった。実際、昨日までそれは変わらなかったのだ。
 しかし、今は――

(たった少ししか経っておらんのに……ワシも少年に影響されてしもうたか)

 思い浮かぶのは、バンダナを巻いた少年の姿。妖精やスライムたちと、楽しそうにじゃれ合いながら笑うその表情が、とても輝いているように感じてならない。
 実際、見直していたのだ。マキトのようなヒトも存在するのだと。
 無論それは、ごく一握りでしかないことも、分かっているつもりであった。しかし今になって実感する。心のどこかで、ヒトと魔物が共存できるのではないかと期待していたことを。
 だがそれは淡いものでしかなかった。
 目の前に立ちはだかる脅威こそが、現実そのものであることを突きつけられた。
 やはりマキトが特殊なのか――そんな残念な気持ちに駆られてくる。
 同じ魔物使いであるはずのダリルからも、長老スライムが抱く期待に応えられるような気配はまるで感じないから、尚更であった。

「ブルース。もうそろそろケリをつけようぜ」

 ダリルが後ろ頭をボリボリと掻きむしりながら気だるそうに言う。

「なんか飽きてきちまった。俺の新しい魔物で、この場を制圧させてもらうぞ」

 ――ピイイイィィーーーッ!
 ブルースの返事を待つこともなく、ダリルが指笛を鳴らす。それを聞いたドナが驚きを示し、攻撃を中断してダリルに視線を向けた。

「ちょ、ちょっと! アンタ何を勝手な――」
「まぁまぁ、いいじゃないか」

 声を荒げるドナを、ブルースがやんわりと制する。

「アイツの言うことも一理ある。新しい仲間の活躍を拝もうじゃないか」
「……はぁい」

 肩をすくめながら渋々と受け入れるドナ。それと同時に、一つの重々しい足音が近づいてくる。
 やがて姿を見せたそれを見て、アリシアは目を見開いた。

「レッドリザード……いや、違う?」
「あぁ、そうさ。コイツは俺の新しい仲間、アースリザードだ」

 誇らしげに胸を張るダリルの隣で、かつて彼が連れていたレッドリザードによく似た魔物がふんと息を鳴らす。
 鋭い目と威圧感が、好戦的であることを示している。
 暴れ出したらどれだけ手が付けられなくなるか、想像すらつかないほどだ。
 このままでは本当に里も魔物もメチャクチャにされてしまう――アリシアたちが顔をしかめた、その時だった。

「――ギュワァッ!!」

 威勢のいい鳴き声とともに、大き目の火球がどこからか飛んできた。誰も反応する暇すらなく、アースリザードの顔面に直撃する。

「グワアァーッ!」

 アースリザードは、黒焦げと化した顔を押さえながら、地面をのたうち回る。あまりにも突然過ぎる出来事に、ダリルやブルースたちも呆気に取られていた。
 そしてそれは、アリシアたちも同じであった。

「炎……もしかして赤いスライムちゃんが?」
「いや、恐らく違うじゃろう」

 長老スライムの見立てでは、まだ隠れ里の奥までは、この騒ぎが広まっている様子はなかった。すなわち里の奥へ向かっているマキトたちもまた、この状況に気づいていない可能性が高いと思っていた。
 すなわち今の炎は、赤いスライムとは別の魔物ということになるのだ。
 しかしそれは一体誰なのか――長老スライムでさえも戸惑うほどであった。この里で他に炎を飛ばせる魔物はいただろうか、と。
 その時――近くの茂みが、ガササッと大きく動いた。

「……ギュワッ」
「なっ、お、お前は……!」

 茂みからのそりと姿を見せた一匹の魔物に、ダリルは驚きを隠せない。それは間違いなく、先日一方的に彼を見放した、レッドリザードであった。
 しかしお世辞にも、感動の再会には程遠い。
 レッドリザードは明らかにダリルを、そしてブルースたちを敵視していた。

「ギュワ、ギュワギュワッ!!」
「な、何だよテメェ! もう俺とは無関係だろうが! 出しゃばるんじゃねぇ!」

 激しくいきり立つダリル。激しく動揺しているのは明らかであり、ブルースたちは勿論のこと、アースリザードでさえ、彼の変貌に驚いていた。
 これは一体どういうことなのかと、アリシアも疑問に思っていると――

「アリシアー、やっほー♪」

 囁く声が聞こえた。アリシアが振り向くと、その正体に驚いた。
 なんと近くの茂みの陰から、グリーンキャットが小さく手を振っていたのだ。

(そういえばさっきから、全然あの子の声とか聞こえてなかったわ……)

 今更ながらアリシアは気づかされた。グリーンキャットがどさくさに紛れて、いなくなっていたことに。
 侵入者を里から追い出すべく、戦力を集めに向かってくれていたことに。

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