透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

033 律儀なレッドリザード

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 レッドリザードを呼んできたのは勿論のこと、さっきのスライムたちの襲撃も、もしかしたらグリーンキャットのおかげだったのかもしれない。
 アリシアが呑気にそう思っていると、ダリルの怒鳴り声が聞こえてくる。

「テメェ……この俺様を見限った弱虫のくせに、ナマイキもいいところだぞ!」

 ビシッと指を突き出しながら叫ぶダリルに対し、レッドリザードはどこまでも冷静な表情を崩さず、ジッと佇みながら彼を見据えていた。
 逃げも隠れもしないという強い意志さえ感じられる魔物に対し、かつての主はどこか腰が引けているように見えるのは、果たして気のせいなのだろうか。

「おい、なんとか言ったらどうなんだ!?」
「…………」

 レッドリザードは答えない。それが余計にダリルを苛立たせる。
 そこに――

「グワアァーッ!!」

 アースリザードが、レッドリザード目掛けて飛びかかった。目はギラギラに血走っており、激しい怒りを抱いていることが見て取れる。
 主を馬鹿にしたことに対してなのか、それとも不意打ちで顔を傷つけられたことに対してなのか。いずれにせよ、レッドリザードを倒したくて仕方がないという気持ちに間違いはなかった。
 ダリルからしても、今はそれだけ分かれば十分だと言えていた。
 ――ずぅん!
 重々しい踏ん張る音が響き渡る。二体のリザードが、真正面から力と力で押しあっているのだ。
 しかしその表情は両極端の一言である。
 片方は怒りに任せ、片方はどこまでも冷静に。それでも互角を保つ意味は、自ずと浮かんできそうなものであった。
 もっともダリルは、そこらへんについては全く気にも留めていない。

「いいぞ、やっちまえーっ!」

 ダリルは拳を突き上げ、調子のいい声で声援を送る。

「ソイツは自分の弱さに耐え切れず、この俺様から逃げ出した臆病者なんだ! 遠慮はいらねぇから、思いっきりぶっ飛ばしちまえ!」

 どうやら数日前の一件を、完全に自分好みのストーリーに作り変えてしまっているようである。
 ある意味で彼らしいと言えなくもない。自分は素晴らしい魔物使いだと、日頃から自画自賛しているから尚更だった。
 無論、アースリザードは数日前の事実を知らない。
 正確に言えば、主であるダリルからデタラメな話を聞かされているだけだ。
 故に甘く見ていた。完全に自分のほうが優位だと思い込んでいた。ペットは飼い主に似るとは、まさにこのことを言うのだろう。
 アースリザードもまた、押している時点で勝利した気分となっていた。
 しかし――

「ギュルルルル――ギュルワアァーーッ!!」

 レッドリザードがアースリザードを強く押し返した。その反動で、アースリザードがバランスを崩す。その隙を突いて、レッドリザードが口を大きく開いた。

「ギュアァッ!」

 ――どぉんっ!
 大きな火球が口から放たれ、アースリザードの顔面に直撃する。成す術もないまま倒れてしまい、気を失ってしまった。

「ギュルゥオオオオォォーーーッ!!」

 レッドリザードが凄まじい雄たけびを上げる。それを合図に隠れていた魔物たちが一斉に飛び出してきた。

「な、何だ! まだこんなにたくさん隠れてやがったのか!!」

 ダリルが驚きつつ、倒れているアースリザードに視線を向ける。

「おい、起きろ! 悠長に寝てるんじゃ――ひいっ!?」

 気を失っているアースリザードに、蹴りを入れて起こそうとしたダリルに、一匹のスライムがさせるかと言わんばかりに飛びつく。
 ダリルは成す術もなく、そのまま魔物たちの総攻撃にあってしまう。
 これが日頃から鍛えている剣士などであれば、まだ力任せによってなんとかなったかもしれない。しかしダリルは、普段から魔物任せであり、自分自身が体を鍛えるという概念がないに等しい。
 更に言えば、魔物使いは魔物と戦えないという固定概念にも囚われていた。
 それも相まって、ダリルはこう思っていた。もう何もできないと。ただ魔物たちの為すがままにしかならないのだと。
 しかしながらここにいるのは、彼一人ではなかった。

「――何やってんだ、このドアホウが!」

 ブルースが雑に剣を振るう。魔物たちを威嚇して追い払おうとしているのだ。
 その目論見どおり、魔物たちが散り散りになる。袋叩きにあってボロボロと化したダリルに、ため息をつきながらブルースが近づいてきた。

「ったく情けないもんだな。テメェも魔物もよ」
「め、面目ねぇ。すぐに立て直しを――」
「もういいからすっこんでろ」

 吐き捨てるようにブルースは言った。

「下手に騒がれたところで、こっちが迷惑でしかない。お前にはガッカリだ」
「――くっ!」

 ダリルは悔しそうに表情を強張らせるが、既にブルースは彼から視線を外し、長老スライムたちのほうを向いていた。
 戦いの仕切り直しをするべく、剣を構えると――

「ギュワッ!」

 レッドリザードが前に出てきた。お前たちの相手は俺だと、そう言わんばかりの睨みを利かせている。
 その後ろ姿を見ながら、長老スライムは思わず微笑んでしまう。

(全く、どこまでも律儀なヤツじゃのう)

 数日前に突然、レッドリザードは隠れ里に現れた。
 特に理由を語ることもなく、ただ住まわせてくれとだけ言って、他の魔物たちも避けつつ暮らしていた。
 文字どおり『隠れ住んでいた』のである。
 戦いながら吠えていたレッドリザードの言葉を、長老スライムは聞き取った。
 あんなどうしようもない男でも、かつては主人として接していた。故に見て見ぬふりはできない。何もせずに飛び出した自分の責任でもあると。
 それを聞いたからこそ、長老スライムは思ったのだ。
 律儀なヤツじゃ、と。

「ギュワギュワ!」

 するとここで、レッドリザードが長老スライムに何かを語りかける。

「ギュワギュルルルワッ!」
「――うむ。ありがたい言葉じゃな」

 その言葉を受け取った長老スライムは、ニヤリと笑った。
 そして――

「ギュルワアァーーッ!!」

 レッドリザードが咆哮を放つ。するとあちこちから、スライムやホーンラビットなどの魔物たちが、一斉に飛び出してきた。

「チッ! どんだけ隠れてやがるってんだよ!」

 ブルースが剣を構えながら顔をしかめる。
 彼らも黙っているつもりはない。しかしまともに戦えるのは、ブルースとドナの二人だけ。完全に数の暴力に押し負ける形となっていた。
 魔物たちの優勢を確認した長老スライムも、動き出そうとしていた。

「アリシア、ここはヤツらに任せて、ワシらも行くぞ!」
「は、はいっ!」

 我に返りつつ、アリシアは長老スライムを抱きかかえて走り出す。どう考えてもこうしたほうが確実に早いと思ったからだ。

「ちょ、待ちなさい! まだ私との決着……あぁもう、アンタたち邪魔っ!!」

 ドナがアリシアを追おうとするが、数多くの魔物たちに阻まれ、あっという間に逃がしてしまう。
 すばしっこい魔物たちに四苦八苦しているのは、ブルースも同じであった。

「くそぉっ! どんだけ湧いて出てきやがるんだ!」

 剣を振るいながら視界の端に見えたのは、長老スライムを抱きかかえて走り去っていくアリシアの後ろ姿であった。

「……完全にしてやられたな」

 ブルースは悔しそうに、歯をギリッと噛み締めた。


 ◇ ◇ ◇


 ――逃げなきゃ、とにかく逃げなくっちゃ!
 ただひたすらそれだけを考え、森の中を必死に走り抜ける。疲れを感じている暇すらない。四つの足が動き続ける限り、少しでも怖いヒトたちから遠ざからねばという気持ちに駆られていた。
 そしてなにより――恐怖だ。
 後ろから追いかけてくる気配が止まない。それ故に恐怖が常にねっとりと体に纏わりついており、それが四つの足を動かし続けている。
 もう、どれくらい走っただろうか。今も自分は走っているのだろうか。
 それすらも分からなくなってきていることだけは確かであった。
 道なき道を突き進む。小さな体を利用して、茂みという茂みを猛スピードで潜り抜けていけば、いつか相手も諦めてくれるに違いないと、そう思っていた。
 しかし――

「いつまで逃げ続けるつもりだ?」

 その声は近くから聞こえた。自分を捕まえていた怖いヒトたちの一人であった。
 これだけあちこち逃げ回っているのに、その声が遠ざかることはない。むしろ逃げれば逃げるほど、何故か近づいているような気がしてならない。
 走りながら後ろをチラリと振り返る。しかし、追っ手の姿は全然見えない。
 だが気のせいでもない――それだけはよく分かる。
 少しでも逃げるのを止めれば、すぐにでも捕まってしまう。
 そうなってしまえば全てが終わる。
 痛くて、寒くて、寂しくて、そして悲しい地獄が待ち受けている。それこそ死んだほうが良かったとさえ思えてしまうほどに。
 ――こんなに走っているのに、どうして逃げられないんだろう?
 そんな疑問が浮かぶ。自分の体はこんなにも小さいのだから、逃げるなんて簡単じゃないのかと。

「……こっちか」

 また、声が聞こえた。背筋がゾクッと震え、逃げる足を一生懸命動かす。
 考えているうちに走る速度が弱まっていたらしい。恐怖を誤魔化すのに必死で捕まってしまったら、間抜けもいいところだ。
 改めて気合いを入れて、茂みの中を駆け回る。
 ――折角こうして逃げ出せたんだ。絶対に捕まるもんか!
 そんな強い願いを抱きつつ、このまま撹乱し続けてやろうと思った。
 しかしそれは、実に浅はかな考えでしかなかった。
 茂みを完全に抜けてしまったのだ。
 どうやら隠れ里の奥にある、大きな広場に出てしまったらしい。
 ――もうダメだ。どこにも隠れられる場所がない。僕は捕まってしまうんだ。
 流石に逃げる気力もなくしてしまい、完全に諦めようとしていた。
 その時――

「ん? なんだ? この白いネコみたいなの……」

 その声に驚きながら見上げると、スライムを抱きかかえた少年と目が合った。
 頭に布を巻いており、その目はとても綺麗に澄んでいた。自分を捕まえていた怖いヒトたちとは、何もかもが違う気がする。
 そんなことを思いながら、呆然と見上げていると――

「多分これ、魔物だよな。小さくて結構カワイイ感じだ」
「ポヨー」

 少年とスライムが無邪気に笑った。その魔物――フェアリーシップは、何故かその笑顔から目を逸らすことができなかった。
 決して怖いとかではない。
 純粋にずっと見ていたいという、そんな不思議な気持ちであった。

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