透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
59 / 252
第二章 ガーディアンフォレスト

059 森の中の襲撃者

しおりを挟む


 森の不審な人物が入ってきた――それを確かめるべく、ユグラシアはアリシアやメイベルたちとともに、リビングに使っている部屋に移動していた。
 部屋を暗くし、中央で水晶玉を起動させる。魔力で浮かび上がったそれは、青白い光を放ち、それが広い壁一面を照らす。
 なんと照らした壁に、森の様子が映し出された。
 地球で言うところのスクリーン投影――いわゆるプロジェクターの使った現象が起きているのだが、残念ながらその名を知る者はこの場にはいなかった。

「凄い……こんなの初めて見た」

 茫然とした表情でアリシアが呟く。隣に立つメイベルたち三人も、同じような反応を示していた。

「私たちは、ヴァルフェミオンの講義で使われているのを何回か見てるけど……」
「水晶玉バージョンは、ぶっちゃけ初めてだよね」
「えぇ。流石は賢者様ですわ」

 メイベルに続き、ブリジットとセシィーも素直に驚いている。そんな彼女たちの様子に、ユグラシアは少しだけ得意げになりながらも、神殿周囲の森の様子を、映像を切り替えながら探っていく。
 そして遂に――二人組の男が森の中を進んでいる姿を見つけるのだった。

「ブルースさん! それに、ダリルさんも……」

 アリシアが思わず声を上げると、メイベルが首を傾げながら視線を向ける。

「知り合い?」
「うん。冒険者なんだけど、評判がイマイチでね。こないだも、あの人たちが仲間を引き連れて、魔物たちの大切な隠れ里をメチャクチャにしようとしたのよ」

 アリシアの説明を聞いたメイベルたちは、揃って顔をしかめる。

「それは酷いよね。魔物だって平和に生きているのに……」
「あぁ。ヒトのほうから襲うなんて、流石に良くないとあたしも思うよ」
「ブリジットに同感です」

 セシィーも不愉快極まりないという気持ちを顔に出す。三人の反応に対して嬉しさを覚えたアリシアは、小さな笑みを浮かべた。

「もっとも、最後は隠れ里の魔物たちによって、返り討ちにあったんだけどね」
「それでしぶとく生きてたってことかい?」
「そーゆーことになるわね」

 目を見開くブリジットに、アリシアは改めて苦笑する。つり橋を落とされ、激流に呑まれたというのに、こうして普通に生還しているのだから、どんな生命力を持っているのだろうかと思いたくなる。
 しかし、映像に出ているのは、ブルースとダリルの二人だけであった。

(あとの二人は……見当たらないなぁ。その代わりと言ってはなんだけど、なんか強そうな魔物を連れてるし)

 恐らくダリルが新しくテイムしたのであろう、猿と蝙蝠の魔物の姿が見える。確認できたのは二匹だけだが、どちらも強そうな雰囲気を醸し出していた。

「アロンモンキーと、ブラックバットだね」

 ブリジットが顔をしかめながら、魔物の正体を分析する。

「どちらも素早く獲物を仕留めることで有名だよ。敵に回すと厄介なヤツさ」
「興味本位で探索に来た……という感じでもなさそうですよね」

 セシィーの意見に、その場にいる者全員が頷いた。
 もうすぐ暗くなるこの時間帯に、わざわざ月明かりさえ遮るレベルの深い森の奥へと進むなど、自殺行為もいいところである。冒険者は勿論のこと、ヴァルフェミオンの学生であるメイベルたちでさえ、常識レベルの問題として頭に叩き込んでいるほどであった。
 それなのに踏み込む冒険者がいるとすれば、大抵二択に絞られてくる。
 一つは何も知らない駆け出しであること。
 そしてもう一つは――敢えてそうするための『狙い』があること。
 ほぼ間違いなく後者だろうと、アリシアたちは思っていた。ブルースたちには立派な前科があるため、尚更であった。

「あの人たち……なんかロクでもないことを企んでるんじゃないかしら?」
「えぇ。私もそんな気がするわ」

 アリシアの意見に、ユグラシアもすぐさま頷いた。

「この神殿に通じる森には、常に結界魔法が仕掛けられていることは、あなたたちも知っているわね?」
「――そっか。何かしらの手段がなければ、通り抜けることはできない!」

 メイベルはようやく思い出した。自分たちもそれが原因で、危うく森を通り抜けることができなかったことを。
 その答えを待っていたと言わんばかりに、ユグラシアは小さな笑みを浮かべる。

「えぇ。そのとおりよ。アリシアとディオンは、基本的に私の権限で顔パス扱いにしてあるから、いつでも森を通ってこの神殿に来られるの」
「じゃあ、私たちがここに来れたのは、そのディオンさんと一緒だったから……」
「そういうことよ」

 ようやく謎が解けた気がしたメイベルたちは、揃って言葉を失う。ちなみにマキトが森の神殿に来れたのも、原理としては同じである。
 もしマキトが『一人』であれば、間違いなく神殿には辿り着けなかったのだ。

「けれど――彼らに許しを出した覚えはないわ!」

 ユグラシアは画面上のブルースたちを睨みつけた。

「恐らく魔法具を使って、無理やり結界を通り抜けているのね」
「えぇっ? そ、そんな魔法具が存在するんですか?」

 ブリジットが思わず声を上げると、ユグラシアが忌々しそうに俯く。

「間違いなく非合法のモノでしょうけれど」
「うわぁ、学園でもウワサ程度には聞いてましたけど、ホントにあるんですね」

 げんなりとするメイベルに、ユグラシアは真剣な表情を向ける。

「むしろヴァルフェミオンだからこそ、実害がほぼ皆無で済んでいるのよ。外の世界はそれだけ広いし、合法非合法を含めてなんでもアリとなる。そう心に刻み込んでおくことをオススメするわ」

 そして最後に小さな笑みを浮かべ、分かったわねという合図を送る。それを見た三人の少女たちは、揃ってゴクリと息を飲んだ。
 聞き逃したら大変なことになる――そう認識したのだった。

「まぁ、とにかく……あの二人をこのままにしておくワケにはいかないわ」

 着々と森の中を進むブルースたちを、ユグラシアが睨みつける。

「少し――こちらから仕掛けましょうか」

 ニヤッと笑うユグラシアの表情に、アリシアとメイベルたち三人は、ゾクリと背筋を震わせるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 日が沈んできたことにより、森の中は更に薄暗さを増してくる。空を見上げれば明るさはあるが、少し視線を下げれば明暗の差は更に大きく感じられた。

「いくら人知れず通るためとはいえ、夜の近い森を歩く羽目になるとはな」
「まぁ、そう言うな。これも俺たちの明るい未来のためだ」

 ため息をつくダリルに、ブルースがニヤッと笑う。

「スタンリーさんからもらった魔法具のおかげで、賢者様の森も楽勝で通れる。このチャンスを逃す手はないってもんだぜ」
「わーってるよ、そんなこたぁ!」

 ダリルは忌々しそうに声を上げた。

「ガーディアンフォレストをテイムして、俺の名を轟かせる。汚名返上で済ますつもりは毛頭ねぇからな!」
「その意気だ」

 ブルースがフッと笑みを浮かべ、再び前方に視線を戻して歩いていく。普通ならば結界に阻まれる森も、今は顔パス状態であった。

「ちなみに、ちょいと聞きてぇんだが――」

 ふとダリルは、今の状況を作り出したアイテムについて気になった。

「その結界をすり抜ける魔法具とやらは、本当に安全なのか? モノによっちゃ、急にドカーンみたいなことになるらしいじゃねぇの」
「あぁ。まぁ確かにその疑問はもっともだな」

 ブルースも素直に頷き、そして前を向いたまま答える。

「正直言えば、判断のしようがないな。非合法の可能性もあり得るだろうよ」
「おいおい大丈夫か? ギルドマスターから直々にもらったヤツだぞ?」
「そのギルマスの心ってのが、真っ黒に汚れてるってウワサだ。俺たちのことも、恐らく薄汚い駒としてしか見てないかもしれん」
「……マジかよ」

 今更ながら知った可能性に、ダリルは舌打ちをする。確かに胡散臭い笑顔だったと思ったその時、更にあることに気づいた。

「ってことはブルース。お前は最初から怪しいって思ってたのか?」
「まぁな」
「だったらどうして……」
「俺たちに選択の余地はあったか?」
「そ、それは……」

 ダリルは何も言い返せなかった。パーティを壊滅させたことで、完全に信頼を失ってしまい、ギルドに居場所がなくなっていた。救いの手を取らない限り、這い上がるのは不可能だと思うほどに。
 しかし――その救いの手がスタンリーの思惑そのものだったとしたら。
 這い上がるどころか、いいように使われているだけではないか――ダリルはそう思ったが、ブルースの考えは違っていた。

「俺たちはまんまとスタンリーさん――いや、スタンリーに目をつけられた。しかしそれを承知で話に乗ったんだ。多少の危険を乗り越えでもしなけりゃ、再び這い上がるなんざ無理だろうよ」
「ブルース……」

 恐らくその考えは『正しくはない』のだろう。しかしダリルは、それを否定する気には全くなれなかった。
 もう既に、堕ちるところまで堕ちている。そこから這い上がるためには、決して小さくないリスクを背負う覚悟も、必要なのではないか。
 どちらにせよ、もう自分たちに後戻りは許されていないのだから――

「……覚悟くらいとっくに決まってるぜ。さっさと先へ進もうじゃねぇの」
「フッ。それでこそ、お前らしいな」

 ため息交じりの強がりを放つダリルに、ブルースは心が軽くなる。決して貶しているのではない。その言葉を実行できる力がダリルにあると、ブルースは信じているのだった。そうでもなければ、こうして行動を共になどしていない。

「おい新入りども――」

 ここでダリルが、森へ来る前に新たにテイムした、アロンモンキーとブラックバットに視線を向ける。

「周囲の状況を確認しておけよ」
「キキィーッ」
「ギャッ!」

 テイムの印が付いているだけあって、ダリルの指示に従っている。決してやさしい扱いは受けていなかったが、今のところ問題は見られなかった。

「とりあえず、今のところ問題はなさそうだな」
「あぁ。とにかく進むだけ進んで――」

 その瞬間、カチリと何かを『押した』ような音が響いた。
 すると――

「おい、今のは一体何の音だ――えっ?」

 その異変に気付き、ダリルが慌てて周囲を見渡す。

「ブルース! お、おい、どこへ行った? いるなら返事しろってんだよ!!」

 今の今までずっと一緒に行動していたブルースの姿が、忽然と消えた。あまりの突然過ぎる展開に、ダリルは混乱に等しい戸惑いを覚えるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...