透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
58 / 252
第二章 ガーディアンフォレスト

058 ガーディアンフォレスト

しおりを挟む


「ノーラ、一体どこまで行くつもりなんだ?」

 薄暗い森の中を歩かされながら、マキトは疲れた表情を浮かべる。

「なんかすっごい奥のほうまで来てる感じだけど……」

 不安そうに周囲を伺い、自身の左手を見下ろす。それはしっかりと、ノーラの小さな右手によって掴まれており、決して離そうとしてくれない状態であった。
 神殿から出発した際には、マキトの服を掴んでいたノーラ。しかしあまりにもマキトが止めてくれと抗議をしたため、渋々と手を掴むほうに切り替えた。
 その際にノーラが、マキトに対して『わがまま』と呟いたのは記憶に新しい。
 正直、納得しがたいことではあったが、服が伸びるほど掴まれ続けるよりは幾分マシなのも確かであり、そのまま何も言わずにいる。
 ノーラには何を言っても無駄だというのは、ラティやロップルも悟っており、既に諦めの境地であった。

「それにしてもここらへんは、どことなく不思議な感じもするのです」

 ラティも飛びながら、森の周囲を伺う。ロップルもマキトの頭にしがみつき、どこか不安そうな表情を浮かべていた。
 しかし肝心のノーラは、無表情のまま前方を見据えている。
 その先にある『何か』以外には、完全に興味を示していない様子であった。

「――見えてきた」

 ノーラがそう呟いた。マキトたちもハッとした表情を浮かべ、前方を見据える。
 その先は明るくなっていた。森が開けており、日の光が差し込んでいるのであろうことは分かる。しかし明るすぎて、何があるのかまではまだ見えない。
 やがてマキトたちは、その明るい部分に足を踏み入れた。

「これは……」

 辿り着いたのは、小さな広場であった。中心部に小さな石像を祀る祠があり、それ以外は特に変わったものはない。
 ノーラがマキトの手を離し、そのままトコトコと祠のほうへ歩いていく。
 そして祀られている石像をジッと見つめ始めた。

「――ガーディアンフォレスト」
「その石像が?」
「ん」

 マキトが問いかけると、ノーラはコクリと頷く。

「ずっと前、どこかの王国で暴れた霊獣。それも伝説の。ユグラシアが特殊な魔法で封印。それ以来、ずっとここで眠り続けている」
「へぇー」

 ただの石像じゃなかったのかと、マキトは素直に驚いていた。ノーラの説明も分かりやすかったため、すぐさまなるほどと受け止められる。

「ノーラさんは、これをマスターに教えたかったのですか?」
「ん」

 マキトのときと同じように、ラティの問いかけに対してもコクリと頷くノーラ。しかしそれもどこか彼女らしいと思えており、もはや気にならなかった。

「霊獣は寝ているけど、たまに声を出してきている」
「声? どんな?」
「分からない。とにかく声。まるで誰かを呼んでいる感じ。しかも――」

 ノーラが振り返り、マキトをジッと見上げる。

「ここ数日で、その声が急に強くなった。マキトがこの世界に来たあたりから」
「――俺?」
「ん」

 自らを指さすマキトに、ノーラが神妙な表情で頷く。そこにラティが、驚きの表情を浮かべてきた。

「ノーラさんも、マスターの事情を知っていたのですか?」
「面白そうだったから聞いてた」
「……あぁ。盗み聞きしたということですね」
「こーきしんおうせいだから」

 ノーラはえっへんと胸を張る。威張ることではないが、妙に様になっており、追及する気力も失せる。
 それを感じ取ったノーラは、これ幸いと話を進めることに決めた。

「とにかく、マキトをここに連れてくれば、何かが起こるような気がした。それで引っ張って来てみた」
「そんなこと言われてもなぁ……俺に何をしろと?」

 後ろ頭を掻きながらマキトが尋ねると、ノーラは初めて気づいたかのほうにハッとした表情を浮かべる。

「……何をすればいいんだろう?」
『いやいやいや――』

 マキトとラティが珍しく口を揃えてしまった。ロップルもそりゃないよと呆れて脱力しており、そんな彼らの反応に、ノーラは初めて困った反応を見せた。

「連れてくることしか考えてなかったから、その後のことを考えてなかった。まさに不覚もいいところ。ノーラさん、ここでまさかの大失敗……」

 ノーラは頭を抱えてしゃがみ、唸り声を出す。これもまた、なんとも珍しい姿に他ならなかったが、マキトたちはそれを知る由もなく、ただ苦笑いを浮かべることしかできない。
 そしてマキトは、改めて祠に視線を戻す。

「にしても、ガーディアンフォレスト、ねぇ……」

 そこになんとなく近づき、前かがみになりながら、石像に視線を近づけてみた。

「どう見ても、ただの石像にしか見えな――」

 その時、石像が光り出した。青白い光が、まるでオーラの如く祠を包み込み、やがて徐々に眩しくなる。
 マキトたちは目を向けられなくなるほどの強い光と化していき――
 パリィンッ――と、何かが割れるような音がした。

「……ビックリしたのです」

 光が収まり、呟くラティに続いて、マキトたちもゆっくりと目を開ける。
 祠は無事であったが、石像はなくなっていた。代わりに――

「にゅぅ……」

 謎の生き物が、祠の中央にちょこんと座っていた。
 白くてロップルと同じくらいの大きさ。しかしその外見は、どの動物にも当てはまらない。それでいて、フェアリーシップと似ているようで明らかに違う。ただしその雰囲気はとてもよく似ている感じであった。

「おー」

 ぱちぱちぱちぱち――ノーラが驚きの表情とともに拍手を送る。

「やっぱりマキトは凄い。ガーディアンフォレストの封印が解かれた!」
「……マジで?」

 マキトは突然過ぎる展開に付いていけないまま、不思議そうな表情で周囲を見渡している霊獣を見つめるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「あら、アリシア。メイベルさんたちと一緒だったのね」

 森の神殿の廊下にて、ユグラシアが女子四人で楽しそうに談笑しながら歩いてくる姿を発見する。

「すっかり仲良くなったみたいで良かったわ♪」

 実のところ意外ではあった。娘同然のアリシアに同年代の友達ができてほしいと願ったことはあるが、その機会に恵まれることはなかった。なにより、アリシア自身がそれをあまり望んでいない節も見られ、焦って関係性を作らせてもいけないかと自重していたくらいである。
 そんなアリシアが同い年の女の子と楽しそうに話している――理屈抜きに嬉しく思えてならなかった。
 一方、見つかってしまったと言わんばかりに、アリシアも照れ笑いをしながら、軽く視線を逸らす。

「まぁ、私も正直意外だったといいますか……」
「キッカケは、ブリジットがしでかした事故だったもんねぇ」
「その原因を作ったメイベルだけは、言われたくないよ」

 メイベルとブリジットが、割って入るようにいつものやり取りを見せる。それが果たしてアリシアに対する助け舟だったのかは、当の本人たちにしか分からないことであった。

「――アリシアさん」

 ユグラシアの視線がメイベルたちに向けられた隙を突いて、ノーマークとなっているセシィーが小声で話しかける。

「例の件、ユグラシア様にお話されたほうが……」
「分かっているわ。でも――」

 アリシアは申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。

「今ここで話すのはちょっと……他にも打ち明けたい子がいるから、後で自分の口から言おうと思ってるの」
「そうですか。わたくしたちも微力ながら、手助けできると思います。いつでも相談にきてください」
「えぇ。ありがとう」

 アリシアとセシィーはニッコリと笑みを浮かべ合う。その姿はユグラシアからも見えてはいたが、話の内容は小声だったために聞こえてはいなかった。
 友達同士の他愛ないやり取りなのだろうと、ユグラシアは思うことにした。
 まさかアリシアの将来に関わる大事な一件であることは――残念ながらユグラシアは知る由もなかった。

「もうすぐ夕方になるわ。メイベルさんたちも、そろそろ戻らないとね」

 メイベルたち女子学生三人を、所定の宿屋へ送り届けなければならない。彼女たちはあくまで修学旅行――それも正規ルートを外れて来ているのだ。
 宿は森から遠く離れた町と決まっており、夜までにそこへ向かう必要がある。

「森の入り口に馬車を一台手配しておいたわ。ディオンが護衛として付き添ってくれるから、安全に町まで戻れるでしょう」
「あ、ありがとうございます!」

 メイベルは慌てて頭を下げる。

「何から何までお世話になってしまって……ホント恐縮ですっ!」
「気にしないで。こちらこそアリシアがお世話になって、感謝の言葉もないわ。ほんのささやかなお礼になればと思ったのだけど」
「はいっ、もう十分過ぎます!」

 深々と頭を下げながら、ハキハキと大きな声で答えるメイベル。後ろに控えるブリジットやセシィーも同じ気持ちらしく、直立不動で緊張を走らせていた。
 そんな彼女たちを、アリシアは不思議そうな目で見ていた。
 やはりユグラシアはそれだけの存在なのだと、改めて知ったような気がした。それでもピンとこない点は変わらなかったが。

「それじゃあ、行きましょうか。私も外まで見送りを――」

 ――ビーッ、ビーッ、ビーッ!!
 ユグラシアがメイベルたちに笑いかけたその時、けたたましい音が鳴り響く。明らかに嫌な何かを連想させるそれは、アリシアも初めて聞く音であった。

「どうやら不審な誰かさんが、この森に入ってきたみたいね」

 ユグラシアが険しい表情でそう呟く。いつもの穏やかな笑みは、完全に消え失せてしまっていた。
 この音が警報だと分かり、アリシアたちは揃ってゴクリと息を飲み込んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...