149 / 252
第四章 本当の親子
149 行ってらっしゃい、行ってきます
しおりを挟む「キュウキュウーッ♪」
『きゃー♪』
「こっちなのですよーっ♪」
ロップルとフォレオ、そしてラティが、森の魔物たちとともに走り回っている。どこまでも楽しそうにはしゃぐ姿を、マキトとノーラが並んで座り、まったりとした様子で見守っていた。
「のどかだねぇ」
「ん。やっぱり平和が一番」
頬杖を突くマキトの隣で、ノーラも満足そうに微笑む。
「ついでに言えば、あの屋敷のご飯がとんでもなく微妙だったっていうのもある」
「あー……」
そんなノーラの言葉に、マキトもすぐさま納得した。
「ラティたちも同じこと言ってたもんな」
「ん。上質な果物とか、とにかく豪華さだけを優先させてたみたい」
「だろうなぁ」
それも全ては、セアラのもてなしが裏目に出てしまった結果であった。
決して雑な扱いを受けていたわけではない。むしろ丁寧過ぎたほどである。それが逆に仇となってしまったのだ。
故にラティたちにとっても、あの屋敷の評価はかなり低く、あまりその時のことを自分たちから語ろうともしないほどであった。
「別れ際に、楽しかったーとか、ご馳走凄かったーとか言ってたけど……」
「間違いなく社交辞令」
「だよな。あんなに固い声が出せたんだなぁって、俺は驚いたよ」
「ん。ノーラも同じこと思ってた」
その時、ノーラは笑みを浮かべながら魔物たちを抱きしめていた。
恐らく「流石」という意味だったのだろうと、マキトは思う。しっかりとモフモフを堪能していたあたり、ブレない姿も見せてはいたが。
ユグラシアとアリシアも苦笑はしていたが、特に叱りの言葉もなく、まぁ仕方ないわねと言わんばかりの笑みを浮かべるばかりであった。
「確かにあのご飯はなぁ……豪華ってのはよく分かるんだけど……」
「ノーラたちが満足するかどうかは別問題」
「だよなぁ。俺もマジでそう思う」
マキトは空を仰ぎながら苦笑する。今、思い出してみても、笑えてくるほど楽しくない食事だった。
ただ単にナイフとフォークで肉を切って食べる――なんてものではなかった。いつもの食べ方が全く通用しない。それだけであんなにも堅苦しくて窮屈で、あんなにも美味しさを感じない食事になるのかと驚かされた。
その反動だろうか――森の神殿に帰ってきてからの食事が、途轍もなく美味しくて仕方がなかった。
いつものご飯こそが最高の幸せ。それをマキトたちは噛み締めたのだった。
「俺、もうセアラさんちには行きたくないや」
「ノーラも。あんな広すぎてキラキラし過ぎている家は、やっぱり嫌」
「変な騒ぎには巻き込まれるし」
「踏んだり蹴ったりとはこーゆーこと。やっぱり森の中が一番」
「だな。狼たちと友達になれたのは良かったけど」
「ん。あのモフモフはなかなかだった♪」
二人で話ながら笑い合う。狼たちと別れる際、マキトもノーラも「またね」とは言わなかったのだ。
そして狼たちもまた、マキトに「ありがとう」のみを告げていた。
お互いに再会を約束するような言葉は、一切交わしていない。
狼たちも無意識に感じていたのかもしれない。マキトはもう二度と、セアラの屋敷に来ないであろうことを。
それがマキトの確かな気持ちであることを自然と察し、友として汲み取り、受け入れながらも別れを告げたのだ。
たとえどれだけ離れていようとも、自分たちは立派な友達であると。
マキトがどう思おうが、自分たちはあなたを心から慕い、感謝し続けると。
無論、それをマキト本人は知る由もない。
ただ使われるがままに過ごしていた狼たちの心を救い、新たな道を進むべく更生する切っ掛けを作り出した。
そんな偉業と言っても差し支えないことを、彼は知らないうちにしていたのだ。
純粋に魔物を想うまっすぐな心が、燻っていた狼たちを動かした。
魔物使いだからそれができたのではなく、その心を持っていたからこそ魔物使いになることができた――どちらが正しい理論なのかは、それこそ神のみぞ知る話と言えるだろう。
「仲良くなれたけど、別れは結構アッサリしてた」
「案外そんなもんじゃないか? 下手に涙を流すよりはいいと思うけど」
「ん。でも確かな友情はあったと思う。マキトと狼は繋がってた」
「そうか? そう言ってもらえるのは嬉しいな」
狼との友情を褒められた気がして、マキトは思わずはにかむ。すると小さな笑みを浮かべていたノーラが、急に無表情と化してしまう。
「少なくとも、最後まで見苦しかったセアラよりは全然良かった」
「あぁ、それなぁ……」
ノーラの言いたいことは、マキトもよく分かる気がした。
改めて考えてみると不思議にも思う。血の繋がった親子でありながら、あそこまで気持ちと気持ちが繋がらないこともあるのだと。
自分にはよく分からないだけに、余計マキトはそう思えてならないのだった。
「変な話だよな。そのおかげでアリシアは、ユグさんともっと仲良くなりたいって思うようになったワケだろ?」
「ん。今もきっと、親子でイチャイチャしてるハズ」
「殆どベッタリだもんな」
セアラの屋敷から帰ってきて数日が経過したが、アリシアとユグラシアは毎日のように一緒にいる。
ユグラシアも仕事をセーブしており、アリシアとの時間に充てていた。
これまで微妙に開けてしまっていた距離を埋め尽くさんばかりに、二人の距離はずっと近いままである。心からの笑顔も絶えず、見ているだけで周りも笑顔にしてしまうほどだった。
同時に、そんな彼女たちの邪魔をしてはいけないという気持ちも芽生えてくる。マキトやノーラ、そして魔物たちは、自然と二人から離れるようにしていた。
成長した子供なりの気遣い――とでも言えば分かりやすいだろうか。
もっとも無理しているつもりは全くなく、マキトたちからしてみれば、どうぞお幸せにと言いたいくらいであった。寂しいという気持ちは、今のところ全く湧き上がっていない。
だから別にどうということはないのだが――
「あ、こんなところにいた」
アリシアのほうは、どうやらそうではなかったらしい。この数日、決まって彼女のほうからマキトたちを探し出し、見つけては嬉しそうに駆け寄るのだった。
「もーっ! お姉ちゃんを除け者にするんじゃありませんっ!」
裏口の扉を閉めつつ、アリシアが並んで座っているマキトとノーラを、後ろからムギュッと勢いよく抱きしめる。
その力強さにマキトやノーラがジタバタするのも、また恒例となりつつあるのも確かであった。
「むぅ、暑苦しい。じゃま」
「えー? そんなこと言わないでよー」
頬を膨らませるノーラに対し、アリシアも負けじとむくれる。その膨れた頬にプニプニと自身の頬を当てつけているのだが、ノーラからすれば「ウザい」の一言でしかなかった。
もがいて離れようとすればするほど、アリシアは離さないぞと笑みを深めながら更に強く抱きしめる。
この数日で幾度となく繰り返されてきたことだった。
ロップルもこの気持ちだったのかもしれない――ノーラは少しだけ、抱き締められる魔物の気持ちが分かった気がしていた。
「あらあら、楽しそうね♪」
いつの間にか裏口の扉が開いており、ユグラシアがそこに立っていた。アリシアがマキトたちを抱きしめたまま、のけぞるように首を傾ける。
「あ、お母さん♪」
「クッキーと紅茶を持ってきたわ。皆でおやつタイムにしましょう」
彼女の手には、大きめのバスケットと水筒が抱えられている。そこからほのかな甘い匂いが漂ってきていた。
家族皆で、魔物たちと一緒に外でティータイムを楽しむ。
何故かそんな方針が出来上がっていたのだ。
アリシアとユグラシアが本当の親子として認識し合うようになってからは、何かと二人がマキトたちに絡むようになってきている、一つの姿であった。
「キュウーッ♪」
『おやつ! いまおやつってきこえたー!』
「わーいなのですー。今日のお菓子はなんなのですかー?」
ラティたちもクッキーの匂いに釣られてやってくる。森の魔物たちもご相伴にあずかろうと駆け寄ってきた。
森の賑やかなティータイムが始まった。
ヒトも魔物も関係ないその空間は、まさに究極の無礼講。自由を象徴する小さくて壮大な世界が、そこには広がっていたのだった。
(きっと本当の平和って、こーゆーことを言うのかもしれないな)
焼き立てのクッキーをサクッと齧りながら、マキトは小さな笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。それを肌で感じたときほど、寂しく思えてしまうものはない。
アリシアがヴァルフェミオンへ戻る時がやって来た。
頭の中では理解していても、心が追い付かない――そんな寂しそうな笑顔を、アリシアとユグラシアは浮かべていた。
「じゃあ、ね」
「えぇ。向こうでもしっかりね」
荷物を抱えるアリシアが、展開された魔法陣に乗る。やがてそれは光り出し、あと数秒で彼女は、遠く離れた魔法学園に転移されることだろう。
思えば、色々とあり過ぎた一時帰省だった。
ちょっとした大冒険と言っても差し支えないくらいであり、アリシアにとっては忘れられない休暇となった。
かけがえのない大事なものを得た。
本当の新たなる人生は、ここから始まるのだ。
今、ここで感じている寂しさは、本当にちっぽけなものでしかない。ここからもっとたくさん味わうのだ。
新たなる親子が進む人生は、これからも長く続いていくのだから。
「――アリシア!」
先に声をかけたのは、ユグラシアであった。
顔を上げ、笑みを浮かべながら、明るくしっかりとした声での呼びかけに、アリシアも自然と顔を上げる。
ユグラシアはそれを確認し、最愛の娘に微笑んだ。
「行ってらっしゃい。母親として、あなたの健闘を祈ってるわ」
「はい!」
アリシアも自然と明るい表情となっていた。やがて魔法陣に光が宿り、転移が始まる合図となる。
光に包まれ消える直前、アリシアは明るい笑みとともに、ハッキリと言った。
「行ってきます――お母さん!」
その瞬間、娘の姿は光とともに消えた。魔法陣も消え、粒子となった魔力も風に乗って散り散りとなる。
言葉は確かに届いていた。
魔法陣のあった場所を見つめるユグラシアの目には、涙が浮かんでいた。
マキトとノーラ、そして魔物たちは、後ろでニッコリと無言で笑い合っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回で第四章が終了し、次回からは第五章を開始します。
0
あなたにおすすめの小説
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる