透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第四章 本当の親子

149 行ってらっしゃい、行ってきます

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「キュウキュウーッ♪」
『きゃー♪』
「こっちなのですよーっ♪」

 ロップルとフォレオ、そしてラティが、森の魔物たちとともに走り回っている。どこまでも楽しそうにはしゃぐ姿を、マキトとノーラが並んで座り、まったりとした様子で見守っていた。

「のどかだねぇ」
「ん。やっぱり平和が一番」

 頬杖を突くマキトの隣で、ノーラも満足そうに微笑む。

「ついでに言えば、あの屋敷のご飯がとんでもなく微妙だったっていうのもある」
「あー……」

 そんなノーラの言葉に、マキトもすぐさま納得した。

「ラティたちも同じこと言ってたもんな」
「ん。上質な果物とか、とにかく豪華さだけを優先させてたみたい」
「だろうなぁ」

 それも全ては、セアラのもてなしが裏目に出てしまった結果であった。
 決して雑な扱いを受けていたわけではない。むしろ丁寧過ぎたほどである。それが逆に仇となってしまったのだ。
 故にラティたちにとっても、あの屋敷の評価はかなり低く、あまりその時のことを自分たちから語ろうともしないほどであった。

「別れ際に、楽しかったーとか、ご馳走凄かったーとか言ってたけど……」
「間違いなく社交辞令」
「だよな。あんなに固い声が出せたんだなぁって、俺は驚いたよ」
「ん。ノーラも同じこと思ってた」

 その時、ノーラは笑みを浮かべながら魔物たちを抱きしめていた。
 恐らく「流石」という意味だったのだろうと、マキトは思う。しっかりとモフモフを堪能していたあたり、ブレない姿も見せてはいたが。
 ユグラシアとアリシアも苦笑はしていたが、特に叱りの言葉もなく、まぁ仕方ないわねと言わんばかりの笑みを浮かべるばかりであった。

「確かにあのご飯はなぁ……豪華ってのはよく分かるんだけど……」
「ノーラたちが満足するかどうかは別問題」
「だよなぁ。俺もマジでそう思う」

 マキトは空を仰ぎながら苦笑する。今、思い出してみても、笑えてくるほど楽しくない食事だった。
 ただ単にナイフとフォークで肉を切って食べる――なんてものではなかった。いつもの食べ方が全く通用しない。それだけであんなにも堅苦しくて窮屈で、あんなにも美味しさを感じない食事になるのかと驚かされた。
 その反動だろうか――森の神殿に帰ってきてからの食事が、途轍もなく美味しくて仕方がなかった。
 いつものご飯こそが最高の幸せ。それをマキトたちは噛み締めたのだった。

「俺、もうセアラさんちには行きたくないや」
「ノーラも。あんな広すぎてキラキラし過ぎている家は、やっぱり嫌」
「変な騒ぎには巻き込まれるし」
「踏んだり蹴ったりとはこーゆーこと。やっぱり森の中が一番」
「だな。狼たちと友達になれたのは良かったけど」
「ん。あのモフモフはなかなかだった♪」

 二人で話ながら笑い合う。狼たちと別れる際、マキトもノーラも「またね」とは言わなかったのだ。
 そして狼たちもまた、マキトに「ありがとう」のみを告げていた。
 お互いに再会を約束するような言葉は、一切交わしていない。
 狼たちも無意識に感じていたのかもしれない。マキトはもう二度と、セアラの屋敷に来ないであろうことを。
 それがマキトの確かな気持ちであることを自然と察し、友として汲み取り、受け入れながらも別れを告げたのだ。
 たとえどれだけ離れていようとも、自分たちは立派な友達であると。
 マキトがどう思おうが、自分たちはあなたを心から慕い、感謝し続けると。
 無論、それをマキト本人は知る由もない。
 ただ使われるがままに過ごしていた狼たちの心を救い、新たな道を進むべく更生する切っ掛けを作り出した。
 そんな偉業と言っても差し支えないことを、彼は知らないうちにしていたのだ。
 純粋に魔物を想うまっすぐな心が、燻っていた狼たちを動かした。
 魔物使いだからそれができたのではなく、その心を持っていたからこそ魔物使いになることができた――どちらが正しい理論なのかは、それこそ神のみぞ知る話と言えるだろう。

「仲良くなれたけど、別れは結構アッサリしてた」
「案外そんなもんじゃないか? 下手に涙を流すよりはいいと思うけど」
「ん。でも確かな友情はあったと思う。マキトと狼は繋がってた」
「そうか? そう言ってもらえるのは嬉しいな」

 狼との友情を褒められた気がして、マキトは思わずはにかむ。すると小さな笑みを浮かべていたノーラが、急に無表情と化してしまう。

「少なくとも、最後まで見苦しかったセアラよりは全然良かった」
「あぁ、それなぁ……」

 ノーラの言いたいことは、マキトもよく分かる気がした。
 改めて考えてみると不思議にも思う。血の繋がった親子でありながら、あそこまで気持ちと気持ちが繋がらないこともあるのだと。
 自分にはよく分からないだけに、余計マキトはそう思えてならないのだった。

「変な話だよな。そのおかげでアリシアは、ユグさんともっと仲良くなりたいって思うようになったワケだろ?」
「ん。今もきっと、親子でイチャイチャしてるハズ」
「殆どベッタリだもんな」

 セアラの屋敷から帰ってきて数日が経過したが、アリシアとユグラシアは毎日のように一緒にいる。
 ユグラシアも仕事をセーブしており、アリシアとの時間に充てていた。
 これまで微妙に開けてしまっていた距離を埋め尽くさんばかりに、二人の距離はずっと近いままである。心からの笑顔も絶えず、見ているだけで周りも笑顔にしてしまうほどだった。
 同時に、そんな彼女たちの邪魔をしてはいけないという気持ちも芽生えてくる。マキトやノーラ、そして魔物たちは、自然と二人から離れるようにしていた。
 成長した子供なりの気遣い――とでも言えば分かりやすいだろうか。
 もっとも無理しているつもりは全くなく、マキトたちからしてみれば、どうぞお幸せにと言いたいくらいであった。寂しいという気持ちは、今のところ全く湧き上がっていない。
 だから別にどうということはないのだが――

「あ、こんなところにいた」

 アリシアのほうは、どうやらそうではなかったらしい。この数日、決まって彼女のほうからマキトたちを探し出し、見つけては嬉しそうに駆け寄るのだった。

「もーっ! お姉ちゃんを除け者にするんじゃありませんっ!」

 裏口の扉を閉めつつ、アリシアが並んで座っているマキトとノーラを、後ろからムギュッと勢いよく抱きしめる。
 その力強さにマキトやノーラがジタバタするのも、また恒例となりつつあるのも確かであった。

「むぅ、暑苦しい。じゃま」
「えー? そんなこと言わないでよー」

 頬を膨らませるノーラに対し、アリシアも負けじとむくれる。その膨れた頬にプニプニと自身の頬を当てつけているのだが、ノーラからすれば「ウザい」の一言でしかなかった。
 もがいて離れようとすればするほど、アリシアは離さないぞと笑みを深めながら更に強く抱きしめる。
 この数日で幾度となく繰り返されてきたことだった。
 ロップルもこの気持ちだったのかもしれない――ノーラは少しだけ、抱き締められる魔物の気持ちが分かった気がしていた。

「あらあら、楽しそうね♪」

 いつの間にか裏口の扉が開いており、ユグラシアがそこに立っていた。アリシアがマキトたちを抱きしめたまま、のけぞるように首を傾ける。

「あ、お母さん♪」
「クッキーと紅茶を持ってきたわ。皆でおやつタイムにしましょう」

 彼女の手には、大きめのバスケットと水筒が抱えられている。そこからほのかな甘い匂いが漂ってきていた。
 家族皆で、魔物たちと一緒に外でティータイムを楽しむ。
 何故かそんな方針が出来上がっていたのだ。
 アリシアとユグラシアが本当の親子として認識し合うようになってからは、何かと二人がマキトたちに絡むようになってきている、一つの姿であった。

「キュウーッ♪」
『おやつ! いまおやつってきこえたー!』
「わーいなのですー。今日のお菓子はなんなのですかー?」

 ラティたちもクッキーの匂いに釣られてやってくる。森の魔物たちもご相伴にあずかろうと駆け寄ってきた。
 森の賑やかなティータイムが始まった。
 ヒトも魔物も関係ないその空間は、まさに究極の無礼講。自由を象徴する小さくて壮大な世界が、そこには広がっていたのだった。

(きっと本当の平和って、こーゆーことを言うのかもしれないな)

 焼き立てのクッキーをサクッと齧りながら、マキトは小さな笑みを浮かべた。


 ◇ ◇ ◇


 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。それを肌で感じたときほど、寂しく思えてしまうものはない。
 アリシアがヴァルフェミオンへ戻る時がやって来た。
 頭の中では理解していても、心が追い付かない――そんな寂しそうな笑顔を、アリシアとユグラシアは浮かべていた。

「じゃあ、ね」
「えぇ。向こうでもしっかりね」

 荷物を抱えるアリシアが、展開された魔法陣に乗る。やがてそれは光り出し、あと数秒で彼女は、遠く離れた魔法学園に転移されることだろう。
 思えば、色々とあり過ぎた一時帰省だった。
 ちょっとした大冒険と言っても差し支えないくらいであり、アリシアにとっては忘れられない休暇となった。
 かけがえのない大事なものを得た。
 本当の新たなる人生は、ここから始まるのだ。
 今、ここで感じている寂しさは、本当にちっぽけなものでしかない。ここからもっとたくさん味わうのだ。
 新たなる親子が進む人生は、これからも長く続いていくのだから。

「――アリシア!」

 先に声をかけたのは、ユグラシアであった。
 顔を上げ、笑みを浮かべながら、明るくしっかりとした声での呼びかけに、アリシアも自然と顔を上げる。
 ユグラシアはそれを確認し、最愛の娘に微笑んだ。

「行ってらっしゃい。母親として、あなたの健闘を祈ってるわ」
「はい!」

 アリシアも自然と明るい表情となっていた。やがて魔法陣に光が宿り、転移が始まる合図となる。
 光に包まれ消える直前、アリシアは明るい笑みとともに、ハッキリと言った。

「行ってきます――お母さん!」

 その瞬間、娘の姿は光とともに消えた。魔法陣も消え、粒子となった魔力も風に乗って散り散りとなる。
 言葉は確かに届いていた。
 魔法陣のあった場所を見つめるユグラシアの目には、涙が浮かんでいた。

 マキトとノーラ、そして魔物たちは、後ろでニッコリと無言で笑い合っていた。


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いつも読んでいただきありがとうございます。
今回で第四章が終了し、次回からは第五章を開始します。

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