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第六章 神獣カーバンクル
188 華麗なるランチタイム
しおりを挟む「うんまぁ~い♪」
「ん。これはサイコー!」
ジャクレンが作り上げた野菜たっぷりのシチューを、マキトとノーラが幸せそうな表情で食べている。ユグラシアが持たせてくれたサンドイッチも含めて、思いもよらぬ豪勢なランチタイムを楽しんでいた。
シチューも何杯かお代わりしており、ジャクレンは心から嬉しそうにしている。
「そこまで喜んでいただけるとは、振る舞った甲斐がありましたね」
ジャクレンは小さなナイフで果物を切り分け、それを皿に盛りつける。コトッと音を立てておかれた瞬間、ラティたちがそれに群がった。
モシャモシャと幸せそうに食べる魔物の姿もまた、ジャクレンを笑顔にさせる。キングウルフも同じような気持ちなのだろう。自らの前足を使って、果物をラティたちの元に動かしたのだ。
遠慮せずに食べるが良い――そう言わんばかりに。
「それにしても、凄いもん見ちまったよな」
再びシチューをお代わりしながら、マキトがシチューの入った鍋を見る。
「小さな箱みたいなのから、鍋とか食器とかいろんなもんが出てくるなんてさ」
「ハハッ、全てはこの魔法具のおかげですよ」
ジャクレンはニコニコ笑いながら、懐から小さな箱のようなものを取り出した。
「ある伝手を辿って手に入れたモノでして。登録している人以外は使用できない仕組みになってるんです。だからこれは、僕以外には使えないんですよ」
そして再び箱を懐に戻し、小さな霊獣姿に戻っているフォレオに視線を向ける。
「それにしても、あのガーディアンフォレストがドラゴンに変身するとは……流石の僕も驚かされましたよ」
「……その割には、驚いてるようには見えなかったけど?」
「ん。ノーラも同感」
困惑するマキトに続いて、ノーラも頷いた。
「むしろ最初から分かっていたかのような感じだった。思えば、ここで再会したのもなんか怪しい」
「と、申しますと?」
「まるで待ち構えていたようだった。実は陰からこっそりノーラたちを観察していたとしたら、逆に納得もできる」
「……ふふっ、ノーラさんの想像力には感服されますよ」
無表情で――それでいながら「見透かしてやる」と言わんばかりにまっすぐ見つめてくるノーラに対しても、ジャクレンは涼しそうな笑顔を崩さない。
そんな彼の態度が、更にノーラを静かに苛立たせる。
「むぅ。やっぱりノーラを馬鹿にしてる」
「してませんよ。そう思わせてしまったみたいですみません。それはそうと、キミたちの成長ぶりには驚かされましたよ。フォレオくんのドラゴン姿も、随分と馴染んでおられるようですし――」
「それ!」
ビシッと人差し指を突き出しながら、ノーラは鋭く切り込んだ。
「ノーラたちはまだ、フォレオの名前が『フォレオ』だと明かしていない」
「あ、そういえばちゃんと紹介してなかったっけ」
もうすっかり紹介した気分でいたため、マキトもナチュラルに忘れていた。魔物たちのほうを向くと、ラティもロップルも、そして当のフォレオですら、そういえばと言わんばかりに目を見開いている。
「でもそれなら、なんでジャクレンはフォレオの名前を知ってたんだ?」
「ユグラシア様から教えてもらったんですよ」
ジャクレンはあっさりと明かす。そして人差し指をピンと立てながら、ニッコリと笑顔を見せた。
「キミたちがライザックからの情報を頼りに、旅へ出ることもね」
「それで、ずっとここで待ってたのか?」
「えぇ。ルート的に、キミたちがここを通ることは予測していましたからね」
「ん。多分それだけじゃない」
ノーラがやや半目になりながら言う。
「魔物たちを動かして、ノーラたちの動きを観察していた。それでタイミングよくたまたま見つけたフリをしていた――違う?」
「いえ、それで正解です。流石はノーラさんですね♪」
「……嬉しくない」
ふいっと視線を知らすノーラの声は、明らかに不機嫌であった。照れ隠しではないことが分かり、ジャクレンもテンションを落ち着ける。
「ちなみに僕とユグラシアさんは、昔からの友人なんですよ。彼女から聞いたことはありませんか?」
「別に何も」
「ノーラも知らない」
「おやおやそうでしたか。少しは話してくれても良さそうなモノですがねぇ」
演技じみた口調で残念そうにするジャクレン。そのうさん臭さは、やはりライザックを連想させてならず、マキトとノーラは顔をしかめる。
しかしジャクレンはそれを華麗にスルーするつもり満々であった。
「まぁ、それはそれとして――」
そして何事もなかったかのように、話を強引に戻していくのだった。
「キミたちが目指している魔力スポットのある山は、この先にありますよ。空を飛んでいくというのは、実に正しい選択肢と言えるでしょうね」
「そりゃまた、なんで?」
「余計な魔物に襲われる心配がないからですよ」
マキトの疑問に、ジャクレンはピンっと人差し指を立てる。
「いくらマキト君が魔物に懐かれやすいとはいえ、危険な存在であることに変わりはありません。安全に行けるのであれば、それに越したことはないですよ」
「まぁ、それは俺たちも思ってはいるけど」
「ならば結構です」
ジャクレンは嬉しそうに頷いた。数ヶ月ぶりの再会となったが、あれからそれなりに精進はしているようだと思ったのだ。
無論、マキトたちからすれば、そんなことは知る由もないことであるが。
「それに空から行けば、盗賊たちに絡まれることもありませんからね」
「ん。それもノーラたちは考えてた」
「いい心がけです。もっとも、このあたりにはもう、肝心の盗賊たちは一人もいなかったりするんですがね」
「……そうなのか?」
「えぇ」
目を見開くマキトに、ジャクレンは深く頷いた。
「数週間前に、盗賊たちが集団でオランジェ王国へ渡って以来、一人として戻ってきていませんからね。恐らくその影響ですよ」
「あぁ……そーゆーこと」
「ん。それなら確かに納得できる」
マキトとノーラは頷きながら、顔を見合わせる。恐らく竜の山の一件のことだろうと思っていた。
奇しくもそれが、このあたりを少し平和にさせてしまったらしい。
不思議な縁だなぁと、マキトは思わず感心してしまう。
「まぁ、それでも――何かが起こらないとも限りませんからね」
そう言いながらジャクレンは、懐から何かを取り出した。そしてそれをマキトたちの前に差し出してくる。
「――何これ? 小さなボールみたいだけど?」
「えぇ。ちょっとしたアイテムですよ」
握れば隠れてしまうほどの小さな白いボール――見た目はそれ以上でもそれ以下でもなさそうであった。
マキトとノーラがそれをまじまじと見つめる中、ジャクレンはニヤリと笑う。
「もしこの先どこかで、強力な魔法を打ってくる敵と出会ったら、試しにそれを投げてみてください。きっとキミたちを助けてくれるでしょう」
「はぁ……」
マキトは生返事をしながらボールを見つめる。
使い方は確かに分かったが、肝心の中身が曖昧過ぎる気がしてならない。しかしジャクレンは、これ以上のことを語るつもりはなさそうであった。
とりあえずマキトは、率直に尋ねてみることにした。
「これ、もらっていいの?」
「どうぞどうぞ。遠慮せずに受け取ってください」
「そう? んじゃまぁ、お言葉に甘えて」
マキトはジャクレンの手のひらから、ボールを掴み取った。少し握ったりして弄んでみるが、やはり普通のボールにしか感じられない。
ここで考えても仕方がない――マキトはひとまず開き直ることにした。
「ありがとう。お守り代わりにでもしておくよ」
笑顔で礼を言うマキトに、ジャクレンもニッコリと微笑んだ。
「えぇ――どういたしまして」
それからマキトたちは、再びドラゴンに変身したフォレオの背に乗り、ジャクレンとキングウルフに別れを告げて旅立とうとする。
大きく手を振って見送るジャクレンに手を振り返しながら、フォレオは勢いよく山奥へ向かって飛び立つのだった。
『うーん、じゃくれんのごはん、おいしかったねー♪』
「キュウキュウッ♪」
「マスターにアイテムまで渡してくれましたし、やっぱりいい人なのです♪」
魔物たちはすっかりジャクレンに対して信頼を寄せているようだった。しかしマキトとノーラは、どこか複雑そうな表情を浮かべていた。
「……なぁ、ノーラ」
「なに?」
「今更だけど、ジャクレンって信じていいんだよな?」
「ん。ライザックに比べればマシなほう」
「だよな」
ノーラの淡々とした答えに、マキトは苦笑する。元々、ジャクレンが敵でないことは理屈抜きに感じていたことではあった。
謎が多いことも確かであるため、色々と疑ってしまうのも無理はない。
(まぁ、とりあえず今は、そんな気にしなくても……いいよな?)
そう自己完結しつつ、マキトはひっそりと、小さく笑うのだった。
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