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第六章 神獣カーバンクル
210 クレメンテの本性
しおりを挟む「ぎゃははっ! コイツ思いっきりショック受けてやがるぜ!」
「なんつー顔してんだよ。笑えてきちまうな。ハハッ♪」
クレメンテの後ろに控えていた金髪の少年と青髪の少年が、手を伸ばしかけたまま硬直しているカミロを笑い飛ばす。
当のカミロは意味が分からず、頭の中は殆ど真っ白な状態となっていた。
(な、何なんだ今の? クレメンテが僕を、あんなゴミを見るような目で……)
きっとこれは何かの間違いだ――カミロはそう必死に思い込んだ。すぐにでも冷たい表情が解除され、笑顔となって語りかけてくれると。
しかし――
「いつまでそこでボサッとしてんだよ? いいからそこをどけ。ジャマだ!」
クレメンテは吐き捨てるように言いながら、カミロの肩をドンっと強く押す。無防備なところをやられたため、カミロはよろけて倒れてしまう。
「ぎゃははははっ♪」
その瞬間、金髪から大きな笑い声が解き放たれる。隣に立つ青髪も、バカな男だと言わんばかりに嘲笑していた。
「クレメンテさん。コイツに現実ってもんを教えてあげましょう。それもトモダチとしてのよしみですって」
「――そうだな。カーバンクルのところまで案内してくれた礼もあるし、それくらいのことはしてやってもいいか」
青髪の進言にクレメンテがニヤリと笑う。そしてクレメンテは、改めて冷たい視線をカミロにぶつけてきた。
「単刀直入に言うとだな――俺はお前のことを、最初から利用してたんだよ」
全ては、神獣カーバンクルを手に入れるために仕組んだことだった。
落ちこぼれで友達のいない『ぼっち』なカミロならば、ちょっと優しくして友達だと言ってやるだけで、ホイホイと引っかかる――そんな都合のいい『駒』として見なしてきた。
入学式で見かけたときから、なんとなく使えそうだと思い、声をかけた。
それから様子を見ていたクレメンテだったが、彼から見て予想以上の扱いやすさとして認識されたのだ。
「まさかここまで純粋なボウヤだとはな。思わず笑わないようにするの、ホント大変だったんだぜ? ハハッ♪」
クレメンテは愉快そうに笑い飛ばす。我ながら分かりやすい説明をしたと思い、心の底から気分が良かった。
しかし――
「そ、そうか、わかったぞ! クレメンテはそこの二人に脅されてるんだね?」
カミロはそれでも、彼が言ったことを信じようとしなかった。
何を言ってるんだこいつは――そう言わんばかりに唖然とするクレメンテに、カミロは真剣な表情で近づいていく。
「大丈夫! 今度は僕が助けてあげるよ。キミのような優しい人を脅すなんて許しておけないからね! もっともこれぐらいじゃ、恩返しの一つにも……」
ならないだろうけど――そう続けようとした瞬間、クレメンテの拳がカミロの頬に打ち込まれる。
バキィッ、という鈍い音とともに、カミロは後方へ倒された。
「がはっ! な、何を……」
カミロは殴られた頬を抑えながら、涙目で見上げる。
そこには――
「テメェ、俺の『ダチ』に勝手な言いがかりをつけてんじゃねぇよ。あぁん?」
怒りを込めた鋭い視線で、クレメンテがまっすぐ見下ろしてきていた。
あまりの形相に、カミロは驚いて硬直してしまう。こんな表情を向けてきたことはなかった。まるで人が変わったようだと。
そんなカミロの表情は、情けなくて見てられないほどであった。
クレメンテも今しがた抱いた怒りが、急速に冷めていく。まるでそんな価値すらないと言わんばかりに。
「ったく、ホントおめでたいボウヤだぜ」
クレメンテは呆れを込めた深いため息をつく。
「俺はお前に友達らしいことなんか、これまで何一つしてないってのによ」
「……えっ?」
カミロは目を見開いた。クレメンテが何を言いたいのかが分からないのだ。
それはクレメンテも察しており、ため息交じりに後ろ頭を掻く。
「俺が一度でも、お前と一緒にメシを食ったことがあったか? 放課後、お前と一緒に遊びに行ったことがあったか? 休み時間に雑談をしたことがあったか?」
「そ、それぐらい……えっと、あ、あれっ?」
改めて思い出してみると、そのような記憶は一つもない。カミロは自然と焦りを抱いた。友達ならば当たり前のようにしていることを、自分は当たり前のようにしてきていないと、今になって気づかされた。
そんな彼の表情を読み取り、クレメンテはフッと目を閉じて笑う。
「そりゃないよなぁ? 俺は基本的にコイツらや他のダチと一緒にいたし」
「他の、ともだち……」
「そうだよ。ついでに言えば、俺は基本的に友達のことは『ダチ』と呼んでる。友達と呼んでいるときは、単に社交辞令で言ってるだけだ」
「しゃこう、じれい……」
カミロはクレメンテの言葉を繰り返すように呟く。まるで壊れたからくり人形のようであった。
目も虚ろとなってきており、そう思われても不思議ではない。
「この際だから明かしといてやるが――お前の試験で先生が不正してたってヤツ。あれも全て俺が仕組んだことだ」
「――えっ?」
「俺は学園の上とも、それなりの繋がりってもんがあってな。先生の弱みを握って操るなんざ、簡単なことさ」
肩をすくめながらカミロが笑う。自身の人脈に、軽く酔いしれているのだ。
「そうしてお前を落ちこぼれに仕立て上げ、弱らせたところで声をかけ、ここまで持ってきたってワケだ。全くいい感じに動いてくれたぜ。そこだけは感謝しているつもりだから、ありがたく受け取っとけ」
「テメェに優しくしてたのも、全てはカーバンクルを手に入れるためってことよ」
「少しは喜ぶべきだ。お前如きがクレメンテさんに使われたんだからな」
金髪に続いて、青髪もふてぶてしい態度を隠そうともしない。
クレメンテは彼らのことを『ダチ』と呼んでいたが、どう見ても『舎弟』という言葉がピッタリであった。
もっとも二人からすれば、クレメンテに付いていければいいだけなので、どちらでもいいことであった。
「――なんか俺たち、完全に放ったらかされてる感じだよな」
そんな中、ここまでずっと黙って見ていたマキトが、口を開いた。
「できればこっそり帰りたいところだけど……」
「多分、それは無理だぜ」
「リウの言うとおりなのです」
ラティも小さなため息をつきながら、クレメンテたちのほうを見る。
「あのお三方、ああ見えてわたしたちの動きも、ちゃんと見逃さないようチェックしてきているのですよ」
「ん。余計なことはしない。ここで大人しくしてる」
「キュウッ」
『いつなにをしてくるかわかんないもんね』
「……そうだな。少し様子を見るか」
ノーラや魔物たちの言葉は実にごもっとも――そう思ったマキトは、大人しくしておくことに決めた。
するとここでクレメンテが、肩をすくめながら口を開いた。
「哀れついでに申し訳ないんだが――カミロ、お前の命はここで綺麗に刈り取らせてもらうよ。あぁ、心配しなくていい。学園には上手く言っておくからな」
カミロは神獣カーバンクルを目覚めさせ、無理矢理従えて学園の教師に仕返しをしようとしていた。
そこへクレメンテたちが『友達』として颯爽と駆けつけ、説得を試みる。しかしカミロが攻撃を仕掛けてきたため、やむなく応戦。激しい戦闘により、カミロは崖下へ転落してしまう。
クレメンテたちはカーバンクルを保護し、学園に連れて帰る。友を更生させるべく動き出し、なおかつ神獣というレアな魔物を保護したという功績が残る。
それがクレメンテの描いた、華麗なるシナリオであった。
(フッ、いよいよ大団円前のフィナーレってヤツだな)
既に勝利した気分で、クレメンテは気持ち良さそうに笑っていた。そして決着をつけるべく、動き出そうとする。
「さぁてそろそろ、無駄話も終わりにしよう。これでお前は――ん?」
しかしここでクレメンテは気づいた。カミロが俯いたまま、何かをブツブツと呟いていることに。
「最初から友達なんて……味方なんていなかった。僕が望んだモノは、何一つ手に入らないんだ。望むだけムダだった。望まなければ良かった。そうすれば僕は、傷付くことなんてなかったのに」
小さな声だが、確かにそう聞こえた。クレメンテたちも、そしてマキトたちも、揃って首を傾げている。
コイツは一体何を言ってるんだ――そんな疑問を乗せて。
しかしカミロは、虚ろな瞳で呟き続けていた。
「ならもう、いらない。誰も僕を見てくれないのなら――皆、消えちゃえ!」
――ゴウゥッ!
急激に激しい魔力がカミロを中心として吹き荒れる。
しかしクレメンテたちは、一瞬驚いただけで、すぐにいつもの見下したような笑みを浮かべるのだった。
「ハハッ! ザコがイキってやがるぜ。俺たちで軽くひねり潰して――」
「……いや待て! 何か様子がおかしいぞっ!?」
調子に乗る金髪を遮る形で、青髪が血相を変えながら叫ぶ。ここでようやく、金髪も気づいた。
カミロの魔力が、予想以上に膨れ上がっていることに。
「うぅ……うわああああぁぁぁーーーーっ!」
凄まじい絶叫とともに、魔力がはじけ、台風の如く暴走を始めるのだった。
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