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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
229 仕入れた情報~リスティとメイベル
しおりを挟む時は少しだけ遡る――――
リスティとメイベルは、アリシアを見つけるべく学園内を探し回っていた。しかしいくら探し回っても見つからない。
「お姉ちゃんは錬金術師だけど、魔力があるの。妹である私なら、少し遠くにいても魔力を辿ることぐらいは造作もないわ。でも――」
「辿れないんだね?」
「うん……」
メイベルはしょんぼりと肩を落とす。
「つまりこの近くに、お姉ちゃんはいないということになるんだよね。はぁ……どこへ行っちゃったんだろう? なんか嫌な予感もするし」
「考え過ぎだよ。ほら、もうちょっと探してみよ?」
肩を支えながら元気づけるリスティだが、内心ではメイベルに同意していた。
見回りの魔導師や、雇われ冒険者たち以外の気配がなさ過ぎるのだ。
つまり、どこかの部屋にいる可能性が見えてこない。もしくは何かしらの力で、魔力が遮断されているのだろう。
そうなってしまえば、地道に歩きながら探す以外の方法がない。
もはや途方に暮れるしかないと思いたいほどだった。
「せめて、隠し通路か何かでも見つかればねぇ……」
周囲を見渡しながらリスティがぼやく。確かに見えない通路や部屋が見えれば、それが突破口になる可能性は十分にあるだろう。
メイベルもそれは思っていたが、難しい話だとも思ってはいた。
「そーゆーのが見つかれば苦労はないよ」
「だよねぇ。そもそも見つからないようにしてこその『隠し』だもんね」
思わず二人で苦笑してしまう。いい加減、探すのに疲れてきており、そろそろ切り上げてしまおうかとすら思えてきてしまっているほどだ。
無論、諦めるということは極力したくはない。
しかしながら、無暗に続けても結果が伴わないのであれば、一度引いてしまうのも立派な選択肢と言える。
決して進むだけが道ではない。それは二人とも分かっているつもりであった。
「メイベル。ここはひとまず――っ!」
捜索を切り上げよう、と言いかけたその時、リスティが気配を感じ取る。
「そこの物陰に隠れて! 誰かが向こうからこっちに来る!」
「う、うんっ!」
メイベルはすぐ傍の飛び出ている柱の陰に身を隠す。それと同時に、廊下の突き当たりから人影が出てきた。
「あら? あなたは……」
その人物は、女性魔導師であった。服装からして、ヴァルフェミオンの関係者であることが分かる。
リスティはとりあえず、冷静さを取り繕いながらにこやかに笑った。
「私は冒険者のリスティです。臨時でこの学園の警備兵に雇われてまして」
「あぁ、そうなのね。それはご苦労様です」
「いえいえ。これが仕事ですから」
リスティはそう答えつつ、一つの疑問が浮かんだ。
「えっと……あなたも見回りですか?」
「あ、えっと、まぁ、似たようなものと言いますか、その……」
どうにも歯切れの悪い回答であった。少なくとも見回りの仕事でここにいるのではなさそうであり、何か訳ありの気配を感じる。
「どうかされましたか? 私で良ければ、話だけでも聞きますけど?」
「あぁ、いえ。大したことではないので……」
「それでも、話せば楽になるかもしれませんよ? 安心してください。ここで聞いたことは上に報告とかはしませんから」
「それでしたら……はい、聞いていただけますでしょうか?」
「喜んで♪」
メイベルは笑顔で頷きつつ、心の中でしめしめと思っていた。これで魔導師の人から情報を聞き出せると。
(うーわ、リスティさんやるぅ……)
そんな彼女の様子を察していたメイベルもまた、引きつった表情をしていた。
しかしながら、これは少し見習ったほうがいいのかもしれないと、割と本気で思っていたりもしていた。
将来、家業を継いで当主になる身だからこそ、リスティのような能力も必要不可欠だということは心得ている。思わぬ形で勉強させられた気分になっていた。
「実はですね――」
何の疑いもせずに、魔導師の女性は経緯を話し始めた。
正直、女性からすればリスティは見ず知らずの他人に過ぎず、そこまで内部事情をベラベラと話すのはいかがなものかと、メイベルは疑問に思えてならない。
とはいえ、こちらも場合が場合であるため、話してくれてラッキーだと素直に思うことにするのだった。
細かいことを気にしないほうが、恐らく心労的にも楽なのだと思いながら。
「――なるほど。応接室からお客さんと生徒さんが、忽然と消えたんですね?」
「そうなんですよー。学園長に報告したら、たまたま理事のウォーレス様がいて、問題ないから気にしないようにと言われてしまったんです」
ウォーレス、という名前にメイベルは眉をピクッと動かす。まさかここで身内の存在が出てくるとは思わなかった。
「でも私、やっぱりどうしても気になっていて……」
「それでこんな時間に調査を?」
「はい……結果は無駄骨でしたけどね」
「そうですか……」
おじい様が絡んでいる可能性が高いとなれば、それも無理はない――それがメイベルの率直な感想であった。
いよいよもってきな臭くなってきた。姉が消えたのと関係がありそうだと、そう思えてならない。
「確かにそれは気になりますね。後で私も、見回りがてら見てみます」
「ありがとうございます。けど何もないと思いますよ?」
「念のためですから」
恐らくリスティはニッコリ笑顔で言っているのだろうと、メイベルは思った。声の質からして容易に想像がついていた。
ついでに言えば、それとなく『圧』をかけていることも感じられる。
なんともしたたかだとメイベルは思った。リスティは間違いなくただ者ではないと思わされる。
(この件が片付いたら、改めて彼女とゆっくり話してみたいな。できれば、ちゃんとした友達として……)
そんな想いを胸に抱きながら、メイベルはほくそ笑む。後に彼女の正体を知って大いに驚くことを、全く想像すらせずに。
「――メイベル。もう大丈夫だよ」
すると、リスティがひょこっと顔を覗かせてきた。驚いて目を見開くメイベルに彼女がニッコリと微笑む。
「あの人はもう向こうへ行っちゃったから。それよりも、今の話は聞いたよね?」
「う、うん……」
正直なところ、最後のほうは全く聞いていなかったのだが、それでも大事な部分が聞けたことに変わりはないので、許容範囲だろうと思うことにした。
メイベルは改めて、表情を引き締める。
「応接室に行ってみよう。何かヒントがあるかもしれない」
「そうだね。案内してくれる?」
リスティの力強い言葉に、メイベルもしっかりと頷く。そして二人は他の見回りに見つからないよう気をつけながら、一階にある応接室を目指すのだった。
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