透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
230 / 252
第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

230 地下での再会

しおりを挟む


「――なるほど。それでここか」

 リスティとメイベルに案内され、三羽烏も応接室にやってきた。ネルソンが周囲を見渡してみるが、立派なソファーとテーブルがある、客を迎えるための何の変哲もない部屋にしか見えない。

「特に変わったようなモンはなさそうだが……」
「いえ、そうでもありません」

 神妙な表情で、エステルが一歩前に出る。

「わずかながら転移魔法の痕跡が見受けられます。恐らくここで、誰かが魔法を使ったのでしょうね」
「マジか。そんなことも分かるのかよ?」
「僕でもどうにかギリギリ、と言ったところですがね」

 驚くネルソンに、エステルが苦笑する。そしてメイベルのほうに視線を向けた。

「メイベルさんもよく気づきましたね。優秀な魔導師でも、なかなか気づかないほどのモノですよ?」
「いえ。実家でよく扱っている魔法の気配だったので……むしろ身内が関わっていることに驚いたくらいです」
「なるほど」

 頷きながらもエステルは察した。メイベルが言うほど驚いていないことを。
 彼女が祖父であるウォーレスに対し、マイナスな面を持っている部分も、それとなく理解しているということも。

「最初にリスティと二人でここに来た時に、それはすぐ気づきました。でも、私たちだけじゃ対処しきれないと思って……」
「それで俺たちを呼びに来た、というワケだな?」
「はい……」

 ディオンに問いかけられ、メイベルは頷く。しかしすぐさま、神妙な表情から苦笑に切り替わった。

「まさか、お知り合いの方々と一緒だとは思いませんでしたが」
「しかも利害が一致しているなんて、怖い偶然だよねぇ」

 メイベルに続いて、リスティも覗き込むようにして笑みを浮かべてくる。三羽烏の話は、ディオンからそれとなく聞いたことがあったのだ。まさかこのタイミングで拝めるとはと、彼女も割と驚いている状態だった。
 しかしリスティは、すぐさま雑談がてら色々聞きたい気持ちを封印する。
 今はそれどころではないからだ。

「なんにせよ、ピースは揃った感じですよね」
「えぇ。僕もそう思います」

 リスティの言葉にエステルが頷いた。

「恐らくメイベルさんのお姉さん、そしてユグラシア様は、ここから転移魔法でどこかへ連れていかれた。そしてその黒幕は、この学園の理事であるウォーレス」
「ヴァルフェミオンの理事だけあって、ソイツの発言権や決定権は伊達じゃないって話も聞いたな」

 腕を組み、目を閉じながらディオンが言う。それを聞いたネルソンが、頭をボリボリと掻きむしりながらため息をついた。

「迂闊に手が出せねぇ人物か……なんとも深い裏がありそうな気配がするぜ」

 まさかこうも見事に、自分たちのミッション遂行が進むとは思わなかった。しかしこれは絶好のチャンスに間違いはなく、それを逃す手はない。

「メイベルとか言ったな? お前さんはその転移魔法とやらの痕跡を、辿ることができるんだったか?」
「はい。かなり薄れてはいますが、やってみせます! あっ、そうだ――」

 気合いを入れて返事をしたところで、メイベルはあることに気づき立ち上がる。そしてネルソンとエステルのほうに向き直り、姿勢を正して頭を下げた。

「改めてお願いします。どうか、姉の救出に協力してください」

 まだちゃんとお願いをしていなかった――それを思い出し、せめて形だけでもちゃんとしておきたいと思った。
 一方のエステルたちは、一瞬呆気に取られるも、すぐに笑みを浮かべる。

「勿論です。ヴァルフェミオンのOBとして、困っている後輩を放っておくことはできませんからね」
「利害も一致してそうだしな」

 ネルソンも腕を組みながら快く頷く。ディオンも無言のまま、言うまでもないと言わんばかりに笑みを深めていた。
 そんな三羽烏の姿に、メイベルは感動を覚えつつ、再び頭を下げる。

「――ありがとうございますっ!」

 胸の奥からこみあげてくるものがあった。優しく肩にポンと手が置かれ、それがリスティであったことから、余計に温かさを感じずにはいられなかった。
 するとここで、ディオンがふと思い出したように言う。

「あぁ、リスティは残っていてくれ」
「えぇーっ? どうしてー?」
「見回りが二人も消えたら怪しまれるだろうが。それにそのチビスケを、これ以上敵の懐に飛び込ませるのも、いささかどうかと思うんだがね」
「くきゅ?」

 にゅるッと首を伸ばしながら、ガリューがどうしたのと尋ねる。ずっと大人しかったために、周りも殆ど忘れていたほどだった。
 リスティは納得できないと言わんばかりに震えるが、やがて観念したかのように深いため息をつく。

「はぁ……流石に返す言葉もないわ。こりゃあ仕方ないか」
「分かってくれてなによりだ」

 ディオンはニッコリと笑い、そして視線をメイベルのほうに戻す。

「さぁ、キミのお姉さんを助けに行こう!」
「――はいっ!」

 その頼もしい掛け声に、メイベルも力強く頷くのだった。


 ◇ ◇ ◇


「ふわあ~ぁ……あー、よく寝たわい」

 ムクッと起き上がりながら、クラーレが両手を突き上げる。思いっきり大きな口を開けて放たれる欠伸が、彼の言葉どおりであることを存分に表現していた。

「……よくこんな状況の中でグッスリ寝れますね?」

 壁を背もたれにした状態で座るアリシアは、完全に呆れ果てた表情を向ける。

「まるっと一時間ぐらい熟睡してましたよ?」
「おぉ、そんなに寝ておったか。なんやかんやで疲れておったんじゃなぁ」

 すくっと立ち上がり、クラーレは両手を伸ばしたり回したりして、軽い体操みたいなことをする。本当に一眠りして体がスッキリされていることがよく分かり、余計にアリシアは顔をしかめずにはいられない。

「こっちは不安で眠れなかったのに……なんてゆーか、流石はマキトのお祖父ちゃんって感じがするわ」

 特にマイペースな部分なんて、血は争えないとしか思えないくらいだ。
 もしこの場にマキトがいたとしたら、クラーレと同じように、のんびりグースカ寝ていたことだろう。
 こうなったら焦っても仕方ないじゃん――そんなことを言いながら。

「ホッホッホッ、そうかそうか。そんなにマキトに似ておるか。いやぁ、祖父としては嬉しい限りじゃの♪」
「いえ、別に褒めたワケじゃ……」
「ワシもあの子の顔を見る度に、ワシの孫じゃというのを実感しておってのぉ」
「聞いてないし」

 気持ち良さそうな表情で語るクラーレに、アリシアはとことん呆れ果てる。もはや捕らわれの身であることを忘れているかのようであり、ユグラシアはそんな二人の様子に苦笑していた。

(それにしても、そろそろ何かしら動きがあっても良さそうよね……)

 ユグラシアがひっそりと表情を引き締めつつ、視線を動かす。

(騒ぎ声のようなものも……あら?)

 静かな様子が続いていると思ったその時、外のほうから気配を感じた。何やら数人で押し寄せるように近づいている。クラーレも気づいたらしく、話を切り上げつつ扉のほうを見据えた。

「なんじゃ? またウォーレスが様子を見にでも来たか?」

 その可能性はありそうだとアリシアも思った。もしそうであれば、いつまで閉じ込めておくつもりなのかと、今度こそ強く詰め寄ってやろうと思っていた。
 しかしその推測は――大きく外れることとなる。

「――あ、お姉ちゃんっ!」

 扉が開いた瞬間、メイベルが姉を発見し、わき目も降らず飛びつく。あまりの突然さに、アリシアは何が起こったのか分からなかった。

「おねえぢゃあぁーーん! あいだがっだよおぉーーーっ!」

 胸元に顔を埋めながら叫ぶように言うメイベル。恐らく泣いているのだろうということは分かるが、それよりも聞きたいことが色々とある。
 まずは妹を落ち着かせねばと、アリシアが思っていたそこに――

「おっ、皆さんご無事のようで」
「ディオン!」

 顔見知りであるドラゴンライダーが、ひょっこりと顔を覗かせてきた。目を見開くユグラシアの隣では、クラーレも驚きを隠せないでいた。
 更にもう二人、彼の後ろから登場する。

「どーもー。思ったほどピンピンしてるみたいで、なによりなことっスね」
「ご無事でなによりです。ユグラシア様、そしてクラーレさんも」

 ネルソンとエステルの登場もまた、三人を驚かせるには十分であった。連続して訪れる驚きに、ユグラシアは思わず苦笑する。

「……とりあえず、何から聞いたほうがいいのかしらね?」
「うむ。ワシから言わせれば、久々に三羽烏が揃っておるのが気になるのぉ」

 クラーレは髭を手で触りながら、ディオンたち三人を見据える。

「どんな経緯でこうなっておるのかは知らんが……まさかこんなところで、ヤンチャな若造どもを見ることになろうとはな」
「おいおい、じーさん。助けに来てやってんのにそりゃねーだろうよ」

 ネルソンが苦笑しながら肩をすくめる。

「まぁ、相変わらずみてぇでなによりだけどな」
「そーゆーお主の口の減らなさも、あの頃とまるで変わっておらんようじゃな」

 どこか呆れた様子でクラーレは言う。三羽烏たちは、この次に来る老人の言葉が容易に想像がついていた。
 昔見たく口うるさい感じで、厳しい言葉をかけてくるのだろうと。
 しかし――

「全く若造どもが……いっちょ前にデカくなりおってからに……」

 目を閉じながらクラーレはそう言った。心なしか、その笑みはどこか嬉しそうであるようにも見える。
 そんなクラーレに対し、ネルソンとエステルは目を見開いた。

(じーさんって、あんな感じだったか?)
(こんなに物腰の柔らかいイメージはなかったハズ……あの人に一体何が?)

 二人からすれば、完全に人が変わったように見えていた。実のところディオンも同じような感想を抱いていた。
 これも全ては、クラーレがかけがえのない孫たちに会えたからに他ならない。
 ユグラシアだけがなんとなくそれを察し、笑顔を浮かべていた。

「――これはこれは。いつの間にか賑やかになったものだな」

 皮肉たっぷりな物言いの声に、場の空気が一瞬にして張りつめる。メイベルは表情を引き締めながらも、内心ではかなり動揺していた。

「おじい様……」

 血を分けた祖父の登場ではあるが、メイベルの表情は、完全に『敵』と見なしているような険しさを見せていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...