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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
231 そして、緊急事態は発生する
しおりを挟む「メイベルよ……やはりお前も、ここに来てしまったか」
口振りでは残念そうな様子を示すウォーレス。しかしその表情と、やれやれと言わんばかりに肩をすくめるその姿に、メイベルは顔をしかめる。
「……言葉と態度が釣り合っているようには見えませんよ、おじい様?」
「そう苛立つこともあるまい。頭に血を上らせては、できる判断もできなくなる。お前はそれを誰よりも理解しているハズだろう?」
優しい口調で窘めてくるウォーレス。傍から見れば祖父が孫を諭す姿だ。加えて名家の先代当主として、次期当主に教える姿とも取れる。
しかしながら、そのどれもが造られたものにしか感じられなかった。
メイベルだけではなく、周りの皆がそう思っていた。
「まぁ、今はそれについてはどうでもいい。私の研究成果を見せてあげられる日が来たと考えれば、むしろ願ってもないことだからな」
手を後ろで組みながら、誇らしげに語るウォーレス。それに対してメイベルは、体中に苛立ちという名の熱を募らせていく。
「その研究とやらのために、お姉ちゃんを閉じ込めてたんですか?」
「誤解を生むような言い方はよしたまえ。私の研究を手伝ってもらうべく、わざわざ来てもらっただけだ」
「白々しい……おじい様ともあろうお方が、説得力に欠ける言い方をなさるとは思いませんでしたよ」
どこまでも対立して来ようとする孫娘の様子に、ウォーレスは心から残念だと言わんばかりに、物悲しそうな表情を見せる。
そして肩をすくめながら、深いため息をついてみせた。
「メイベルよ。お前には大きな期待をかけていたが、やはりまだまだ年相応の点が目立つことは否めんな。セアラと比べれば、相当マシなほうではあるが」
さりげなく母親を貶されたが、今のメイベルにはどうでもいいことであった。
ついでに言えば、反論する素振りも見せなくなっている。ここで無駄なやり取りを増やしても意味はないと悟ったからだ。
実際、それは正しかった。
孫娘が何も言わないことを確認したウォーレスは、再び両手を広げながら誇らしげな表情を浮かべてきた。
そのポーズは更にメイベルを苛立たせるが、何も言わなかった。
今は黙って話を聞くべきだと、必死に我慢しているのだ。
「我が家は名家と言われる地位を手に入れ、それ相応の発言権をも得ている。しかしながら貴族ではないため、やはり絶対的な差は拭えないものだ。なんとしてでもその差を埋める――それが我が家における長年の夢なのだ」
言いたいこと自体は、あながち分からなくもない。周りから評価されつつ評価されないという、なんとも微妙な立ち位置をずっと続けてきているともなれば、考えること自体はむしろ自然と言える。
成果は認めるけど貴族じゃないから――それで苦汁をなめる祖父の姿を、メイベルも幾度となく見てきていた。
故に言葉だけ聞けば、否定しきれないのも確かではある。
「その夢をかなえる研究が、今ようやく完成しようとしている。その仕上げとして必要なのが、神獣カーバンクルなのだ!」
「カーバンクルじゃと!?」
目を見開いたメイベルよりも先に、クラーレが声を荒げた。それだけ今の発言は聞き捨てならなかったのだ。
利用しようとしている点も許せないが、それ以前に言いたいことがある。
「キサマ、そのためにマキトたちごとカーバンクルを……」
「そういうことになるが……誤算もあった」
あっさり認めるウォーレス。もはや誤魔化す気も隠す気もない姿に、メイベルは思わず感心してしまう。
(おじい様はおじい様であることに変わりはない、か)
だからと言って、この事態を巻き起こした張本人であることも確かであり、それを見逃すことはできない。
メイベルの表情が再び引き締められる中、ウォーレスは言葉を続ける。
「本来ならば、あの魔物使いの少年たちもこの部屋に呼び寄せるつもりだった。しかし何故か別の場所に転移されており、未だ発見できておらぬ」
「そ、そうか……つまりあの子たちは捕まっておらんということじゃな」
クラーレの表情に笑みが宿る。
「ならば余計な心配をする必要もあるまい。あの子たちはあの子たちで、何かしら状況を打開してくるじゃろうからな!」
「フッ――随分と彼らを信じているようだが、所詮は時間の問題だよ」
「何じゃと?」
険しい表情を見せるクラーレに、ウォーレスは余裕な態度を崩さない。
「彼らがヴァルフェミオンのどこかにいることは分かっている。たとえどんな珍しい魔物を連れていたとしても、従えているのは所詮、幼い子供に過ぎん。こちらには戦闘に長けた優秀な魔導師や魔法剣士たちが揃っているからな」
「……あの子たちを諦めるつもりはないということか」
「無論だとも」
迷いなくウォーレスは頷いた。それに対してクラーレは目を見開き、詰め寄る勢いで一歩前に出る。
「これだけは覚えておけ! ワシの可愛い孫たちに指一本でも触れようものなら、即刻ワシが魔法で燃やしてやるからな!」
「ハハッ! 随分と威勢のいいことを言ってくる。流石は元宮廷魔導師だ」
「そうやって茶化してられるのも今のうちじゃ!」
吠えるクラーレをウォーレスが受け流す。そんなどこまでも一方通行な会話が続いていく中、今しがた放たれた発言に対して驚く者たちがいた。
「あのクラーレさんが、まさかマキト君のお爺さんだったとはなぁ……ハハッ、こりゃ凄いもんだ」
腕を組みながら苦笑するディオン。そこに、ずっと黙っていたネルソンとエステルが近づき、ひそひそ声を出す。
「おい、ディオン。そのマキトってのは、一体何者なんだ?」
「僕も知りたいところですね」
「そういえばお前たちは、まだ知らなかったか――」
正式に【色無し】と判定された魔物使いでありながら、複数の【色】に該当する魔物を次々とテイムしていった。しかもその全てが霊獣であることを、ディオンは軽く説明する。
それを聞いたネルソンは、嘘だろと言わんばかりに顔を強張らせた。
「ちょっと待て! それってあり得ることなのかよ?」
「あり得ると思いますよ……彼が本当は【透明色】の持ち主であればですがね」
むしろそうでなければ納得できない――それがエステルの感想であった。
すると――
「流石は現・宮廷魔導師のエステル君! すぐさまその考えに至るとは、私も感服してしまったよ」
話を聞いていたらしいウォーレスが拍手を送ってくる。彼もまた、その言葉を待っていた一人であったのだ。
「あの少年の霊獣を手懐ける能力は、実に素晴らしい。おまけに神獣カーバンクルをも従えたという情報も入ってきている。これは是非とも、我が計画の役に立ってもらわねばと思っていたところだ」
「――そんなこと、黙ってさせると思ってるんですか?」
凛とした声が響き渡る。ウォーレスが振り向くと、アリシアが力強い目とともに睨みつけてきていた。
「マキトたちを巻き込むなんて許せません。全力で阻止してみせます!」
「私も娘の意見に同感だわ。あの子たちの保護者として、黙って利用されていく姿を見過ごすことなどできません!」
ユグラシアも続けて声を上げる。その表情と態度からして、一歩も引くつもりはないということが分かる。
そこにクラーレも、ニヤリと笑いながらウォーレスを改めて見据えた。
「ウォーレスよ。ワシらをあまり見くびらんほうが身のためじゃぞ?」
「今回ばかりは私も賛成しかねます。おじい様……考え直す気はありませんか?」
メイベルも胸に手を当てながら訴える。内心では無理だろうと思っていたが、それでも言わずにはいられなかった。
「俺たちのことも忘れてもらっちゃあ困るぜ? 乗り掛かった舟だ。じーさんたちに加勢してやろうじゃねぇのよ」
「罪なき子供を利用しようとするなど、大人の風上にも置けませんからね」
「旅の楽しさを教えた先輩として、俺は彼らを守る義務があるからな」
三羽烏も声を上げる。流石のウォーレスも、ここまで宣言されてしまえば顔をしかめずにはいられないようだった。
しかし彼の中では、まだ余裕があるらしい。
ウォーレスはため息をつき、何かを言おうとしたその時――音が鳴り響く。
「――む? 通信か」
急な音に驚くこともなく、ウォーレスは上着の内ポケットから、小さな魔法具を取り出した。それを起動させると、近くの壁にモニターが映し出される。
「どうした? 何があった?」
『た、大変ですっ! 学園の生徒が忍び込み、例の封印に手を出しました!』
「――何だと?」
研究員らしき男の言葉に、ウォーレスが本気で顔を険しくする。
「どういうことだ! すぐにその状態を見せろ!」
「は、はいっ!」
次の瞬間、別のモニターが隣の壁に映し出された。
そこでは確かに、ヴァルフェミオンの制服に身を包む三人の男子たちが、大きな竜らしき魔物を封印している装置を、必死に壊そうとしていた。
その大きな竜らしきものに、ユグラシアは目を見開く。
「あれって……もしかして神竜かしら?」
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