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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
232 神竜が目覚めるとき
しおりを挟む「ちょっと! あれって、クレメンテたち三人組じゃない!」
モニターの中で大暴れしている男子たちの顔を見て、メイベルは驚く。その声にアリシアが首を傾げた。
「クレメンテって、確かこないだペナルティを受けたっていう……」
「うん。それで合ってるよ」
メイベルは頷くも、信じられない気持ちでいっぱいだった。
「でもなんであんなところに……まさか例の特別更生クラスって、地下施設と何か関わりがあるんじゃ……」
「バカモン! そんなワケがあるかっ!!」
ウォーレスが声を荒げてツッコミを入れてくる。メイベルだけでなく、アリシアやユグラシア、そして三羽烏も呆気に取られてしまっていた。
「特別更生クラスは私の管轄ではない。故にヤツらが勝手に入り込んだとしか考えられないが……おい! これは一体どういうことだ? 一般生徒が地下施設に入り込むなど、普通はあり得んことだぞ!」
モニターの中にいる研究員に向かって怒鳴りつけるウォーレス。それを聞いたメイベルとアリシアは、普通はあり得ないのかと呑気なことを考えていた。
彼女たちは知らないことだが、地下施設への扉や階段などは存在しておらず、転移魔法で特殊な座標を指定しなければ辿り着けない仕組みなのだ。
加えて転移魔法を使うには、魔法具が基本的に必須である。
それこそ魔法具なしで転移魔法が扱えるとしたら、学園内ではウォーレスとメイベルぐらいのようなものだ。
それ故に、クレメンテたちが地下施設の――それも特に限られた者しか立ち入ることができない場所にいるというのは、普通ならばあり得ない話なのである。
何かしらの例外でもない限りは――
『わ、分かりませんっ! むしろ僕たちがそれを聞きたいくらいなんですーっ!』
研究員もかなり本気の涙目で叫ぶ。それだけ不測の事態であることは、モニターの奥で凄まじくてんやわんやな状況がよく表していた。
『なんか知らないですけど、突然あの封印の場に三人が現れて……まるで転移魔法でも使ったみたいに……』
「バカモン! 一般生徒がそんなことできるハズがないだろう!」
『それはそうなんですが……あっ、どうやら魔導師や騎士たちが来たようです!』
研究員の声に一同が視線を向けると、確かにクレメンテたち三人が成す術もなく拘束されている様子が見えた。
ウォーレスは改めて、深いため息をつく。
「――あの三人をすぐ地上へ出せ。ペナルティを倍増するよう伝えろ。あと、決して退学処分だけは避けるようしっかり言っておくように」
「は、はいっ!」
研究員に告げるだけ告げて、ウォーレスは通信モニターを切る。同時に封印の場の様子も途切れたが、これ以上この場で披露するには都合が悪すぎた。
(あの封印を見られたからには、無暗に学園の外に出すわけにはいかん。しかし何故ヤツらが、あんなところにいたというのだ?)
ウォーレスは知る由もない。彼が顧問を務める研究室にクレメンテたちがこっそりと忍び込んだことを。
そこで、何かウォーレスの弱点になりそうなものを探していたら、うっかり学生たちが研究していた魔法具を作動させてしまったのだ。
転移魔法具、結界遮断魔法具、そして魔力融合魔法具。
この三つが同時に発動し、天文学的な確率で波長が合ってしまった。
おかげで地下施設以上に飛ばされないはずの『封印の場』へ、三人揃って直接転移されたということである。
まさに、偶然に偶然が重なった結果であり、誰も予測できなかったことだ。
「ふむ、どうやらワシらは、とんでもないモノを見てしまったようじゃのう」
どこか呑気な声で、クラーレは言った。そしてニヤリと笑いながら、冷や汗を流すウォーレスに視線を向ける。
「あれがもし、本物の神竜なのだとしたら、このままでは危険極まりないぞ?」
「フン! 言われずとも、なんとかする手立てはある」
「ならばさっさと動いたらどうじゃ? ワシらに構っておるヒマなどあるまいて」
「くっ……!」
正論を突かれ、ウォーレスは顔をしかめる。確かにすぐさま動かなければ、大変なことになるのは間違いない。
すると――
「グオオオオオォォォーーーーンッ!!」
重々しい音のような鳴き声が、壁を伝って聞こえてきた。声の大きさもさることながら、その振動はまるで地響きのように凄まじい。
「おいおいおい、なんかヤベェんじゃねぇのか?」
ネルソンが周囲を見渡しながら身構える。
「さっき、シンリュウとか言ってたよな? もしかしなくても、神の竜と書いてそう呼ぶんじゃねぇのか?」
「えぇ。恐らくそれで間違いないでしょうね」
エステルは比較的冷静さを貫いてはいたが、やはり動揺はしているらしく、一筋の冷や汗が頬を伝う。
「そのような存在が何故、あそこにいるのかは分かりませんが……その封印とやらの装置が壊れ、件の存在が暴れ始めているんでしょう」
「無理やり痛めつけられた挙句のそれなら、力加減も当然ないわな。この地下全体が崩れ落ちても不思議じゃないぞ」
「……それだけで済めば、まだマシなほうじゃろう」
ディオンの言葉に、クラーレが重々しい表情で呟いた。するとウォーレスも、顎に手を当てながらふむと頷く。
「そうだな。地下どころか上にあるヴァルフェミオン全体が崩れかねない」
「って、何を他人事のように言ってるんですかっ!?」
すかさずツッコミを入れたのは、孫娘であるメイベルだった。
「おじい様が何を企んでいるのかについては、もうこの際どうでもいいです! 今は早く神竜をなんとかしないと……」
「分かっておるわい。そう慌てんでも、時は既に動き出しているのだよ」
「何を……」
メイベルはここでようやく、祖父との会話が噛み合っていないことに気づく。早くしないとヴァルフェミオンが危ないというのに、まるでそれ自体はどうでもいいと言わんばかりであった。
そんな祖父の姿が、今になって恐ろしく思えて仕方がない。
ウォーレスの目には孫娘の姿など、まるで映っていないかのようであった。
「少々早い段階ではあるが、私の計画を実行する時が来たようだ。そう思えばこのような不測の事態、どうということは――」
重々しい声が響き渡る中、ウォーレスが両手を広げながら誇らしげに語る。
その時――
「残念ですがウォーレス――あなたはもう用済みですよ」
冷静な女性の声が響き渡る。完全に言葉を遮られたウォーレスだったが、その表情に苛立ちはなく、むしろ素直に驚いていた。
恐る恐る振り向くと、そこには想像したとおりの人物が立っていた。
「サ、サリア殿……どうしてここに……」
「潮時が来たみたいなので、それをあなたに伝えようかと思いまして」
「いつの間に、ここへ……」
「少し前に転移魔法で来ていたんですよ。あなたが気づかなかっただけです」
特に挨拶もなく、淡々と会話を始めるその女性の登場に、ユグラシアとクラーレは驚きを隠せない様子を見せていた。
アリシアはそんなユグラシアの反応に首を傾げ、メイベルも同じくであった。
そして三羽烏は――特にネルソンとエステルの二人は、その女性の正体に驚きを示していた。
「サリアって……もしかして『あの』サリアなのか?」
「もしかしなくても、そうでしょうね」
軽く動揺しながらネルソンとエステルは身構える。まさかこのタイミングで、自分たちのターゲットが現れるとはと、そんなことを考えながら。
そんな中――
(……なるほどな。これがコイツらの裏事情ってことか)
ディオンがひっそりと、なんとなくながら旧友たちの目的を察するのだった。
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