賢者様は世界平和の為、今日も生きてます

サヤ

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★滞在

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 私の隣に賢者様、長テーブルを挟んで正面にジェルマンが座り、三人で目の前の飲み物をすする。
 賢者様はブラックコーヒー、ジェルマンは紅茶、そして私はホットミルクとお裾分けでもらったスコーン。
 量はそんなに多くは無く、夕食までの繋ぎにもならないが、話を聞く傍らに食べるには丁度良さそうな量だ。
「カメリア。今から話す内容なんだけど、君には少し嫌な話になるけど、ちゃんと聞いてくれるかい?」
 賢者様はコーヒーを一口含んだ後、そう前置きする。
 彼は大事な話や、私が怖がるような話をする時はこうやって確認をしてくれる。
 私も手に持っていたスコーンを一口で片付け、こくりと頷く。
「うん、なに?」
「私達が出会った頃の事を覚えているかい?」
「もちろん、覚えてるよ」
「じゃあ、君の仲間をも、覚えているね?」
「……うん」
 忘れる筈が無い。
 私が私を失いかけた原因であり、私が賢者様と旅をするきっかけとなった旅人達。
「どうやら一人だけ、生き残った者がいるみたいでね。ギルガロッソにいるらしいんだ」
「ギルガロッソ?」
 聞いた事があるなと考え、どんな所か思い出した瞬間、眉毛がへの字に曲がった。
「あのイヤな皇子の?」
 私の言い方に賢者様も苦笑いを零す。
「ははは。そう、リンドブラッド皇子のいる軍事国家だよ」
 リンドブラッド。何番目だったか忘れたけど、ギルガロッソの皇子で、ワガママな男だ。
 私達は彼に捕まって半ば強制的に仕事を手伝わされた事があり、良い印象は持っていない。
「ぷう。それがどうかしたの?」
 皇子の顔を思い出しただけで腹正しさが蘇り、不機嫌に先を促す。
「うん。で、このギルガロッソなんだけど、最近は近隣諸国への侵略がだいぶ激化しているみたいなんだ」
「シンリャクって……もしかして、ここもおそわれているの?」
 ここコルスタンはギルガロッソではなく、別の国の支配下にある。
 そしてコルスタンは国境付近にある、砦にも似た土地だ。
 他国との戦争ともなれば、真っ先に戦場になると、ティー姉さんが言っていた。
 だから領主である自分は、強く、賢くなくてはならないと……。
「今は別方向の国境が慌ただしいみたいでな。この辺りはまだ平和だ。たまに偵察隊を見つけるくらいだ」
 私の質問に答えてくれたのはジェルマンだった。
「国境帯の森で、セザールに会ったんだろう?最近、あそこにしょっちゅう出没するんだよ」
「だから見張りをたてたの?」
「ああ。あの森からここまで、そう遠くは無いからな。潜伏されないよう、森を焼き払うという手もあるが、それはやりたくないからな」
 一瞬ドキリと心臓が跳ねたが、ジェルマンの最後の一言を聞いてホッとする。
 あの森には多くの動物や魔族が、人間から隠れてひっそりと生活している。
 森を焼き払われてしまったら、彼らの生活する場所が無くなってしまう。
「そっか。じゃあ、コルスタンは安全なんだね?」
「今の所はな。ただ一つ、気掛かりがある。さっきこの若作りが言った、例の男の件だ」
「……」
 私が黙って先を待っていると、ジェルマンは私の反応を確かめるような目付きで先を続ける。
「その男は魔法の心得もある剣士でな、ギルガロッソに傭兵として雇われた流れ者だ。なかなかの腕前で、前線で戦場を荒らしてるらしい。で、だ。そいつは各土地で捕えた捕虜に、決まってこう質問しているんだ。『魔族を連れた、男の魔法使いを知らないか?』とな」
「魔族……」
「十中八九、私達を探しているんだろうね」
 賢者様はそう言いながらまたコーヒーをすする。
「カメリア達に、ふくしゅうする為?」
「さあ?それは分からないけど、あの日の事が原因なのは間違いないね。そして問題なのが、彼がここに狙いを着けたという事さ」
「どういう事?」
 私達には故郷と呼べる土地は無く、宛の無い旅を繰り返している。
 なのに、その男がコルスタンを狙っている理由が分からなかった。
 それに答えてくれたのはジェルマン。
「ほら、一昨年しばらくここにいた時期があったんだろう?」
 手紙を貰っているぞ、と付け足しつつ続ける。
「あの頃はレオンが正式に領主になったのと子供の件も重なって、多くの客人が出入りしたからな。その内の誰かが漏らしたんだろうよ」
「……あまり、知らない人間には会わないようにしてたのにな」
 話を聞いているうちに、無意識に自分の角をいじっていた。
 この館に住んでいる人間のほとんどは私の事を受け入れてくれているから良いけれど、それ以外は違う。
 この角を見れば、私がただの人間では無い事は一目瞭然。
 私を恐れたり、忌み嫌う人は沢山いた。
 陰口だって、何度も言われた。
 角隠しを使っても隠しきれない魔族の証は、私を人間から遠ざける……。
「そう気に病む事は無いさ。むしろ都合が良かったよ。なあ?ジェルマン」
 突然、朗らかな声で賢者様はそう切り出し、ジェルマンも同様に頷く。
「ああ。何処にいるともしれないお前達を探して、手当たり次第土地を襲われるよりかは余程良い。それに、図ったようにお前達もここに来たわけだからな。これぞまさに、神の思し召しだ」
「お前、神なんて信じてないだろう?」
「今だけは信じてやろう」
 やや上から目線で、ジェルマンは胸元に拳を作り、祈るような仕草を見せる。
 調子が良いな、と賢者様は呆れ顔で笑い、私を見る。
「というわけで、私達を付け狙う狂信者を迎え撃つ為に、しばらくここに滞在したいんだけど、良いかな?カメリア」
 こんな時にでも、賢者様は私に意見を求めてくれる。
 迷う必要の無い選択でさえも。
 だから私は、しっかりと頷いた。
「うん。私達で、ここを守ろうね」
「ああ。でも、無理はしなくても良いからね?ここには王国の剣もいるわけだから」
「おう!戦闘は任せろ」
 ドン、と自分の胸を叩いてジェルマンは鼻を鳴らす。
「おじさん、強いんだ?」
「強いなんてもんじゃない。俺は最強だぞ?」
「全盛期は、だろ?」
 ニヤニヤと、賢者様はイジワルな笑いを浮かべる。
「ジェルマンはね、若い時は王国の剣と呼ばれる王様の護衛チームのリーダーをしていたんだよ。今は城で騎士達に剣を教えていて、ティーナの師匠でもあるんだ」
「へぇ。カメリアもね、ティー姉さんから教わってるよ。ほら、刀だって持ってるんだから」
 腰に携えた刀をぐい、と前に付き出せば、ジェルマンは「おお」と目を輝かせる。
「実はさっきから気になっていたんだ。その刀の切れ味、是非俺に見せてくれないか?レオンの弟子だというのなら、あいつが上手く教えられているか、その辺りも確認したいしな」
「え?カメリアは良いけど、これ使うの?」
 本物であることを示す為に、私は鞘から少しだけ刀身を覗かせるが、ジェルマンの返答は変わらない。
「無論だ。使わなかったら切れ味が分からんだろう?」
「ええ……」
 まったく引き下がらないジェルマンの対応に困り賢者様を見るが、彼も呑気に笑っているだけだ。
「ジェルマンは木刀にしてくれよ?あとそれから、君から攻めるのは無しだ」
「当たり前だ。親友の大事なお姫様を、切り刻むわけないだろう」
 む。なんか、バカにされてる?
 こっちは真剣に対してあっちは木刀。
 それでもって私が負ける事前提の会話。
「ぷう、どうなっても知らないからね!」
「よし決まりだ。それじゃあ道場へ向かおう」
 意気揚々と立ち上がるジェルマンと、沸々と静かに怒りをたぎらせるカメリア。
 二人はその後、夕食に呼ばれるまでの短い時間、道場で打ち合いを続けた。
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