グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第125話 未踏領域開拓任務⑮

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 総勢14000を越えるグールとの激しい戦いの後、オレたち開拓部隊のメンバーはほとんどが気を失うか動けない程の傷を負っていた。

 だが、山崎と鈴子が負傷したみんなを回収し、すぐに治療に当たってくれ、誰も大事には至らなかった。

 オレが気を失った後も少しグールが残っていたらしいが、みんな死力を尽くして戦ったそうだ。
 完全にグールを殲滅した時には、すっかり夜になっていた。

 開拓部隊のメンバーはそのまま日の出を待たずにスカイベースを再起動して中継基地C地点へと退却し、そこで改めて傷の手当てと回復を行った。

オレはそこで目を覚ましたが、セイヤからみんなの傷が癒え次第、新トウキョウ都市に帰還すると聞いた。

 オレたちは戦いには1人の犠牲者も出さずに勝った。
 だが、中継基地D地点に設置するはずのライフシェルは全てグールに破壊されてしまった。
 戦いには勝ったが、今回の開拓任務は失敗に終わった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いやー、今回はみんな大変だったね。ご苦労様!」

 オレたちは傷を治療しながら数日を掛けて新トウキョウ都市に帰還し、もろもろの後処理を済ませたその後に阿倍野の元へと報告に来ていた。

 今回はかなり大規模な戦いが有ったということで、開拓任務に参加している25人全員がギルドマスタールームへと召集されていた。

 オレたちは阿倍野の前に並ぶと、阿倍野が相変わらずの軽い口調で言葉を掛けてきた。

 オレはライフシェル損失、任務失敗の責任を取らされるだろうと、帰路の途中に御美苗が言っていたのを聞いた。
 今からはそういった話をするのだろう。だが、オレはあれだけの戦いをしてきたのに責任問題なんてことがあるのかと思っていた。

「面目ありません! ライフシェルも全て破壊され、シェルターベースも半壊状態。隊長として全ての責任は私にあります!」

 千城は大きな声でそう言うが、オレたちは誰もそんな風には思っていない。
 千城はいつも上手くオレたちを導いてくれていた。

「……」

 阿倍野は特に何も喋らない。

「阿倍野マスター。今回の件は決して千城隊長だけの責任ではありません。撤退も可能でしたが、戦闘すると決めたのは我々の意志です」

「ええ、隊長は退いても責めはしないと言ってくれていたわ。ただ、私達の実力不足だったというだけよ」

「はい! 責任はオレたちにもあります! 隊長だけの責任にはしないでください!」

 セイヤ、鏑木、志布志がそれぞれ千城をかばった。
 オレもそうだが、誰も千城1人に責任を負ってもらおうなどとは考えていないだろう。

 阿倍野は一通りオレたちの顔を見ると口を開いた。

「なんか、勘違いしてるみたいだけど。今回は任務は失敗したけど、別に咎めはしないよ。だって10000以上のグールを討伐してきたんだ。しかも犠牲者はなし。どちらかと言えば誉めるべき内容だと思ってるよ」

「……」

 千城はすぐには何も言葉を返さなかった。安易に喜んだりはしないようだ。
 
「しかし、新オオサカ都市と共同開発した新兵器は使いきり、ライフシェルという貴重な設備も全損してしまいました。10000以上のグールを討伐してきたとは言え、その浪費には見合ってないと、私はそう考えています」

 千城は意外に丁寧な口調でそう聞くが、阿倍野は肩をすくめるだけだった。

「リンタロウ、確かに10000ていう数字だけだとそうかもしれないけど。その内訳は全然違うでしょ」

「内訳、ですか?」

「うん、だって半分以上が上級グール、S級も2体討伐している。通常の感覚で言ったら35000~40000以上のグールを討伐したくらいの戦果だからね。上層部もそれでおあいこってことで納得しているよ。だから責任とかは気にしないでいい。代わりに報奨もないけどね」

「……」

 オレはみんなの話を黙って聞いていたが、この時代の人間はグールと命懸けで戦うのは当たり前、その上で任務を成功させないと責任問題にまでなるのかと内心驚愕していた。

(襲ってきたグールに勝つだけじゃ、足りないのか……皆それが当たり前って顔をしている……)

 オレは改めてこの時代の過酷さを知った気がした。
 討伐隊員は命を掛けるのが下限の仕事なのだ。

「ま、そんな訳でこの話は終わり。それでこの先なんだけど」

「この先とは?」

 千城がやや驚いて疑問を返した。
 本当にこれで終わりなのかと思っているようだ。

「そりゃ、再度D地点への基地設営の任務だよ。リンタロウ、今回は命を失いかけるほどの傷を負ったけど、続投する気はあるかな?」

「ええ、もちろんです!」

 千城の力強い声を聞いて、阿倍野も満足気に頷いた。

「よし! じゃあ、次回だけど、まあ準備に3週間くらいは掛かるね。皆は待機しといてね。」

「え? 3週間もですか?」

 オレはつい横からリアクションを取ってしまった。

「ああ、佐々木くんは分からないかも知れないけど、シェルターベースの修理と、各兵器の再備があるからね、ライフシェルはまだ在庫があるけど……、何より傷の治療と部隊の再編も必要だしね」

「再編ですか!? も、もしかして部隊のいくつかは解任ということですか?」

 御美苗が焦りの声を出すが、阿倍野がひらひらと手を振った。

「違う違う! だから責任問題にはなってないんだって! 君たちはそのまま任務続行だよ。今回の反省を生かして部隊に追加要員を選抜するって話だよ」

「部隊を増員するという訳ですか?」

 柊が静かに声を出した。

「そうそう。柊班長は冷静だね。次からはもしかしたらもっと大量のグールが攻めて来るかも知れないからね。この先、この人数では厳しいのではと、これも上層部で決定したわけ」

 阿倍野はさっきから上層部という言葉を使っているが、これは新トウキョウ都市にいるお偉いさん方のことだ。
 この都市にはトップの阿倍野の他に、総務部、運営部、開発部、防衛部、兵役部など様々な組織部署があり、そのそれぞれにそのトップに立つ人間がいる。
 全ての最上位に立つ人間は阿倍野だが、その下に何人かの幹部がいると言う格好だ。

「具体的に言うと、東西南北それぞれの支部から各1班、それに後方支援に山崎班の補助をする部隊を1班で計5班が追加で参加することになったよ。君たちが帰還する前に決定済み」

(な、なるほど……それだけの人員がいればこの前の規模のグールとなら戦えるかな……?)

「あとは、隊長はリンタロウだけど、次からは遊撃手としてタモンにも参加してもらう」

「え!? タモンって欄島さんですか!?」

 またオレは声を上げてしまったが、S級隊員である欄島が同行するとなればかなり心強い。

「うん。タモンはちょっと作戦行動向きじゃないけど、個人の戦力は高いからね。これなら前回規模のグールがまた来ても兵器に頼りきらなくとも対応できるはずだよ」

(た、確かに……)

「それじゃあ、各自任務再開に向けて準備を怠らないように、解散!」





 オレたちはギルドマスタールームを出て、各兵宿舎へと戻った。
 差し当たり取るべき行動も無いため、何となく結城班の4人で集まっていた。

「そういえば、佐々木さんの武器はどうなるんでしょう?」

「あ、そうだな。この前の戦いで壊れちゃったんだよな……」

「セイ。もうしばらくすると昇級試験がある。その際に新たに魔銃を支給すると通達が来ている」

「ああ、そうか。なら良かった」

「そっか、昇級試験か! 私らも今回は昇級できるかなー」

「ああ、精進を重ねよう」

 オレたちはそうして、新トウキョウ都市で任務の再開に向けての準備を始めた。
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