グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第127話 阿倍野リュウセイ②

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「うーん、良く分からない……」

 オレは阿倍野に訓練を見てもらった翌日、練兵場でさっそく訓練を始めていた。

 今はオレたち結城班の他に志布志班、御美苗班が練兵場に来ていた。

「何だよ佐々木? その新しい銃の操作で悩んでるのか?」

 御美苗がオレの悩んでいる様子を見かねて声を掛けてきてくれた。
 この人はぶっきらぼうな感じがするが、本当に面倒見が良い。

「いえ、銃の使い方は、まあ分かったんですが。魔素のけいしつ? たいけい変化? とかっていうのが良く分からなくて……」

「佐々木さん、形態質性変化じゃないですか?」

 今度は志布志もオレのところへ来て話に入ってきてくれた。

「ああ! そうそう! 志布志くん知ってる?」

「知ってるというか……」

「まあ佐々木はこの世界へ来て日が浅いからな。兵学校とかも行ってだろう? そんな言葉は知らんよな」

「え? 常識な感じなんですか? 御美苗さん」

「ああ、学校で習うからな。皆知ってるよ」

 この世界の人間は、オレたちのように小中高と学校が有るわけではない。
 いわゆる小学生の年齢までは各地区の幼小学園という施設で読み書きを習うそうだ。そしてオレの感覚で中学校に入学する年齢になると、生産員、若しくは討伐隊員になるかを決めて、進学先を決める。ただ、その在学中も異動は頻繁に行われているらしく、兵科学校、農科学校などの専門学校同士の行き来もよくあるらしい。兵科学校を卒業して生産員になる人間も半分ほどとのことだ。
 確かに怪物と殺し合いをできる人間は、魔素、魔導具などがあるとはいえ稀だろう。

 そしてオレの知りたい形態質性変化というものは兵科学校で皆が習うことのようだ。

「本当ですか! 教えてくださいよ! ユウナに教えてもらう予定なんですけどまだ来てなくって」

「ああ? それなら待ってればいいじゃねえか。まあ、仕方ない。いいか、魔素は入出力の際に、魔素そのものの形態及び質性を変更することが出来る」

「さっぱり分かりません」

 御美苗はだよな、という顔だ。

「ああ、だろうな。例えば魔素を槍に込める、そして衝撃槍インパクトとして出力する。この時に行っている魔素操作はこうだ。まず魔素を最適化、効率化、衝撃槍インパクト形式に変化させて入力する」

「はい」

「そして出力時には衝撃波を発生するように魔素を変換するんだが、ここで魔素というエネルギーは衝撃波へと変化している」

「は……い」

 オレはもう理解が難しくなってきた。

「これはこうも言い換えられる。魔素を衝撃波を生み出す物質に変化させた。もしくは衝撃波そのものに変化させた、と」

「……」

「魔素というエネルギーの形態を変化させ、もしくは質性を変化させているって訳だ。勿論その変化の補助、威力の向上をしているのがオレたちの持っている武器なんだよ 」

 志布志も頷きながら補足を入れる。

「佐々木さん、ちなみにオレたちの使う魔銃は魔素を込めるだけで衝撃波を生み出す形態質性変化を自動で行ってくれます。だからオレなんかは他の魔術的な要素を付け加えて攻撃を底上げしているんですよ」

「うーん……」

 オレが唸りをあげると、志布志がフォローを入れてくれた。

「ま、まあ、要するに佐々木さんは魔素を何に変化させたいかってことがまず最初に決めなきゃいけないみたいですね」

(魔素を変化させるか……)

 オレが思い悩んでいると、ユウナとアオイが姿を見せた。

「佐々木さん、ここでしたか」

「ユウナ、どうしたんだ?」

「昨日の今日の話なんですが、また阿倍野マスターから呼び出しです」

「え? 何で?」

「さあ、知らねーけど。早く来てくれってさ。セイヤはもうマスタールームへ向かってるぞ」

(何だろう? 伝え忘れかな?)

 オレたち3人は練兵場を離れ、昨日も来たギルドマスタールームの前までやって来た。

「セイ、みんな。早かったな」

 ドアの前でセイヤが待っていたが、今さっき到着したという気配だ。

「では、行こう」

 セイヤが呼び鈴を鳴らすと、ガチャリと音を立てて重厚な扉が開いた。

「阿倍野マスター、結城班参りました」

「やあ、昨日に続いて済まないね」

 オレたちが部屋に入ると、既に何人かの隊員たちが立っていた。

(!!)

「ナナ!」

 部屋の中にいたのは何と妹のナナ、それに新ツクバ都市にいるはずの菅原班の3人だった。

「あ、兄ちゃん」

「な、何でお前が新トウキョウ都市にいるんだ? しかも、ギルドマスタールームに!」

「それはオレから話そう。佐々木くん」

「阿倍野さん?」

「彼女達はね。次回からの開拓任務に参加する後方支援補助班のみんなだよ」

「なっ! え? 開拓任務に……? ナナが?」

「驚きすぎでしょ、兄ちゃん」

 オレはナナが開拓任務に参加すると聞いて動揺を隠せない。

「いや、だけど菅原さん達は分かるけど何でナナが? こいつはまだD級隊員だったはず……」

「もうC級だよーだ」

 ナナがオレに悪態をついてきた。

「いや! C級だとしても……」

「佐々木くん!」

「は、はい」

 珍しく阿倍野が強い口調でオレを制してきた。

「それは今はいい。君の妹がこの時代に来ているなんて聞いて無かったぞ。さっき面通しで菅原班がここに来るまでオレはナナさんのことを知らなかった。君たちは知っていたんだろう? なぜそんな大事なことを黙っていたんだ」

「あ、ああ。いや、大事? ですかね。そう言えば話す機会が無くて……」

 セイヤも阿倍野がオレを問い詰めるような口振りに少し慌てて説明を加えた。

「阿倍野マスター、確かにいつもお会いはしていましたが用事が終わると直ぐに阿倍野マスターは我々から離れてしまうのでただ話しそびれていたいただけです。他意はない」

「そ、そうです。私も訓練で自分のことで頭がいっぱいだっただけで……」

「そうだ! 佐々木も私らも悪気があったわけじゃねーよ!」

 ユウナとアオイも続いた。

「……」

 阿倍野はいつになく厳しい目でオレたちを睨んでいたが、ふうと一息ついた。

「そうか……、まあそうかも知れないな」

「ナナが来たことが、そんなに大事なことだったんですか?」

「……」

 阿倍野は何も答えない。

「や、やっぱり、阿倍野さん時間転移のことも何か知ってるんですよね! だからそんなに……」

「佐々木くん」

「は、はい」

「前にも言っただろう。まずはS級隊員になれと。そうすれば色々と話すことが出来る」

「……」

「じゃあ私は?」

(え? ナナ?)

「ナナさん? なんだい?」

「私は阿倍野さんと何も約束なんかしてないですよ。私に教えて下さい。時間転移のこととか」

「……」

 阿倍野は黙したままナナを見つめているが、ナナも全く気後れなどしていないようだ。

「何で話せないんですか? 意味わかんない」

「今、オレの知っていることを話すと、君たちが危険な状態になる可能性が高い。だからだ」

「いや、可能性? なにそれ? それだったら決まってる訳じゃないですよね?」

「ナナ!!」

「兄ちゃんは黙ってて。阿倍野さんはそうやって私らを騙してるんじゃないですか? 私達のことは私達で決めますから知っていることを教えて下さいよ。その為に討伐隊員になったんだから」

「……」

「いや、黙ってても分かんないし。さっきは兄ちゃんが来たら話すって言ってたじゃん」

(ナナ! オレが来る前から阿倍野さんを問い詰めてたのか!?)
 
 オレは阿倍野の権力も実力も知っている分、ハラハラして2人を見ていた。
 もし阿倍野のことを怒らせたらどうなるか、想像もしたくない。

「いや、さすがリンさんの娘さんだね」

「え?」

(リンさん? 母ちゃんのことか? なんで?)

「ナナさんの気概に敬意を表して、少しだけ話しをしよう。オレの知っていることを」

 オレはさっきとは違う理由で鼓動が高まっていくのを感じていた。
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