グールムーンワールド

神坂 セイ

文字の大きさ
146 / 264
CHAPTER Ⅲ

第145話 北部奪還戦争⑮

しおりを挟む
「浮かない顔をしてるね、佐々木くん」

 阿倍野がオレを気に掛けてくれている。

「は、はい。何故かイヤな予感が消えなくて……」

「イヤな予感? 君がか?」

「え? はい」

 阿倍野はオレの返事を聞くと黙り込んでしまった。

「だが、これ以上の特級は近場にはいないはずだぞ……」

(な、なんだろう?)

 阿倍野は何か独り言を呟いている。

「きっと、阿倍野マスターは佐々木さんの第6感覚による知覚を気にして、考えているんですよ」

 オレの疑問に心を読んだようにユウナが答えてくれた。

「第6感覚?」

「ああ、そーゆーことか」

 横にいたアオイも何かに納得していた。

「アオイも分かるの?」

 オレはアオイに顔を向けたが、返事は御美苗がくれた。

「ああ、佐々木の予感て言葉は一考するだけの根拠になり得る情報だよ。今までだってそういうことがあっ
ただろうが。お前の感知能力だよ。つまり、まだこれから特級グールが出てくる可能性があるってことだな」

(そ、そうなのかな……オレの予感ってだけだけど)

「ま、ここで悩んでてもしょうがないか。戦線に戻って残りのグールを討伐しよう! さあ、行こう行こう」

 阿倍野は切り替えて顔を上げると手をパンパンと叩いてオレたちを引率し始めた。

 そしてオレたちが移動を始めた時に、通信装置から隊員の声が響いた。

『ほ、報告! グールがさらに現れました! およそ10000! 全て上級グールです! C級4000! B級3000! A級3000です!』

「なに?」

 阿倍野もこの報告にはやや驚いているようだが、オレの言葉からある程度予想もしていたのだろう。

 それにしてもいつの間にか通信が届く距離にまで討伐軍は近づいているようだ。もしくは、グールの数が減った為に通信が効くようになったのかも知れない。

「こちらは阿倍野だ。都市内部にて特級グールを全て撃破した。しかし、最後の司令型。つまり特級グールがまだどこかにいるはずだ。そっちで確認出来るか?」

『あ、阿倍野マスター! 特級を撃破……!? あ、いえ! こちらの方では特級グールは確認出来ておりません!』

「……そうか。では総員、死力を尽くして戦え。最後の特級はオレが見つけ出して始末する」

『りょ、了解です!!』

 通信役の隊員の声もかなり上ずっている。かなり逼迫した状況なのだろう。

「さて、そう言うわけで、やっぱり佐々木くんの予感が当たったね」

 阿倍野は少し不機嫌そうな顔をしている。

「そ、そうなんですかね?」

「ああ、オレの術でこの都市全域を索敵したが、特級グールはもういないはずなんだ」

「阿倍野マスターはそんなことまで分かるんですか!? すごいです!」

 志布志が阿倍野に尊敬の眼差しを向けている。

「お、いいリアクションだね。うん、オレの術でね。S級とSS級に限定して広範囲感知してね。だけど、A級以下は逆に見付けられないからね。防壁の方の群体には気付けなかったよ」

「へええ!」

「最高です!」

 欄島も阿倍野に感激の声をあげている。

(欄島さんは阿倍野さんの前だと本当に人が変わるな……)

「さあ、行こう」

「了解!!」

 オレたちは防壁に向けて走り始めた。
 その瞬間、オレは今までに感じたことのない寒気を全身に感じた。

ゾオオオオオオオオ

(な、なんだ!? これ!? ま、まるで氷水に入ったみたいな……)

 オレが突然の事態に冷や汗を感じながら寒気を感じる元の方向、後ろを振り返ると、さっき桐生が姿を消した遠くの廃墟の上に人影が1つ見えた。

(え、S級グールか!? い、いや、でも何かが違う?)

「みんな!!」

 オレが今までに感じたことのない気配に焦り、大声を上げると、全員が後ろを振り返った。

「どうした、佐々木?」

「まったく、こんな時に何なのかしら。罪を重ねないで」

「どうしたんですか? 佐々木さん」

「セイ、急ぐぞ」

 御美苗、柊、志布志、セイヤもオレのことを見て、何事だという顔をしている。そしてオレの目線に気付き、遠くの人影に目をやった。

「な、なんだ!? あれは?」

 阿倍野が今までに聞いたことのない狼狽した声をあげた。

(え? 阿倍野さん?)

「ぐ、グールなのか?」

「え? 何を言っているんですか? どう見ても人間でしょう」

 吻野が眉をひそめて阿倍野に反応した。

 確かに、オレの目にも人間にしか見えない。

 老人だ。白髪の男性で年老いてはいるが、鍛え抜かれた体つきをしている。身の丈は2メートルはあるかも知れない。千城よりも巨漢だ。
 そして、なぜか江戸時代の町人のような着物を着ている。

 老人は廃墟から飛び降りて、こちらへ歩いてくる。

「なんなんですか? もしかしてまたワイズの構成員でしょうか?」

「確かに、あそこのメンバーはみんな妙な格好をしているものね」

 志布志と柊が話をしている。

「に、逃げた方が良さそうだよ」

 欄島が震えた声を出した。

「ら、欄島さん……?」

「さ、佐々木くんも分かるだろう! あれはヤバイぞ!」

「ちょ、ちょっと! 欄島隊員! 落ち着いて下さい! 取り敢えず、あの人に話を聞いてみましょう」

 御美苗がそう言うと、老人の方へ歩き出した。

「御美苗! やめろ!!」

 欄島が叫びをあげた。

 オレもイヤな予感がどんどん強くなっている。オレもどうしてあの人物からそう感じるのかは分からない。
 だが、オレたちの少し先にはっきりと見える人間の老人は、明らかにグールの気配を纏っていた。

「おーい、あなた……」

ドオオオオン!!!

 いきなり、爆音と共に御美苗が吹き飛んだ。

(え?)

「気安く話し掛けるな。害虫めが」

 オレの強化された耳に重く、おぞましいと感じる老人の声がかすかに届いた。

「コウ!?」
「コウ!!」
「御美苗さん!!」

 御美苗はオレたちの脇に転がってきた。
 
(え? 何? なんで!?)

 御美苗の腹から下が、無い。

「お、お、御美苗さん……?」

「貴様か? 儂の攻撃をずらしたな?」

 老人は歩きながらじろりと阿倍野を睨み付けると、オレたちにとてつもない殺気が大きな重い幕のように覆い被さった。

(う、うあああ……、な、なんなんだ……こ、殺される?)

「ぐっ、御美苗班長を治療しろ! 阪本! 北岡! 須田!」

 阿倍野は叫びを上げるが、3人は呆然と倒れた御美苗を見ている。

「急げ!! あれは敵だ!! 御美苗が死ぬぞ!!」

 御美苗班の3人が阿倍野の叫びを聞いて弾かれたように治癒魔術を展開し始めた。
 御美苗の腹からあり得ない量の血が出ている。

「害虫が」

 老人が手を振るうと同時に阿倍野が両手を胸の前に合わせた。

「金土遁!! 退魔金剛城塀陣たいまこんごうじょうへいじん!!!」

ドオオオオンンンン!!! 

 とてつもない衝撃波が辺りを包んだ。
 オレは目を瞑っていきなりの事態にただ怯えて耐えていた。

「遊撃部隊! 緊急退避だ! S級以外は全員逃げろ!!」

(な、何なんだ!? あれは…… 人間じゃないのか?)

 オレたちが少しずつ後退りをしていると、いつの間にかオレたちの直ぐそばに老人が立っていた。

「貴様は害虫にしては中々だな。だが、他はただの雑兵のようだ」

 老人は志布志班の横に立っていた。

ボン!!

 老人が手を振るうと、志布志班の谷田部が腰から上下2つに割れた。

「ノリコ!!」

 志布志が叫びを上げるが老人はつまらなそうに手を掲げた。

究極障壁セオシールド!!」

ドオオオオンンン!!!

 阿倍野が志布志班のメンバーに向けてバリアを張るが、そのバリアごと志布志班は吹き飛んでしまった。

「やはり貴様は違うな」

 阿倍野はさらにオレたちに結界を張ると、汗を流しながら老人を睨み付けた。

「お、お前はグールなのか?」

「……害虫が」

ドオオオオンンン!! 

 老人はさらにオレたちに衝撃波を繰り出すが、阿倍野が何とか受けきっていた。

「ぐっ……」

「ほう、3度も儂の攻撃を弾くとは、貴様は何者だ?」

「お、オレか? ただの人間だよ。新トウキョウ都市のギルドマスターだ。もしかして、お前がグールの王なのか?」

(グールの王?)

「王の存在を知っているのか。面白いな、貴様は」

「違うのか?」

 阿倍野は相手と話をしながらオレたちへ下がれと手を振って合図を送っていた。

「儂はただのグールだ。天敵である貴様ら人間を殺しに来ただけだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

処理中です...