グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第144話 北部奪還戦争⑭

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「ら、欄島くん?」

「ああ、吻野。よくあのサヤカって娘に勝てたね」

「サヤカ? え、ええ、何とかね。どうしてあいつの名前を知っているの?」

「アツロウがそう呼んでたからさ」

「アツロウ?」

「うん」

 吻野と欄島は普通に会話をしているが、2人とも重傷だ。吻野はすでに治療をしているが、欄島はまだケガから血を流しているような状況だ。

「ちょ、ちょっと! とりあえず治療しますよ!」

 志布志班の佐治が一度会話を制止して、同じ志布志班の橘とともに欄島の治療に当たった。

「ありがとう。千城さんも無事みたいだし、早くあのS級を始末しようと思ってここに戻ってきたんだけど」

(S級?)

「ああ、あのワイズが何かの術で拘束したままだったわね」

 吻野もそう言えばというリアクションだ。

(S級グールを忘れるくらいの戦いだったのか? やっぱり凄いな、この2人は……)

 オレは微弱なグールの反応を感知して、その姿を確認しようとした。どうやら今までの戦いで瓦礫が散乱してその中に埋もれてしまったようだ。

「モモさん、欄島さん、あの辺りにいるみたいです」

 オレが指で示しながらさらに感知を凝らすと、2体のグールの直ぐ側に別に人間がいることを感知した。

(ん? だれだ?)

「……! これは、ワイズの!?」

「どうした? 佐々木くん」

「欄島さん! グールの横にワイズの男の方がいます!」

「……へえ。アツロウが? もう目を覚ましたのか。さすがだな」

(いや、誉めてる場合じゃ……!)

ドオオオオン!!

 突然欄島が銃を乱射して、グール付近の瓦礫を吹き飛ばした。

「うおお!?」

「アツロウー、バレてるよ。諦めな」

 欄島が銃を構えてワイズへと呼び掛けた。だが、今度はオレたちの後ろから爆発音が響き渡った。

ドオオン!

(な、な、なんだ!?)

「吻野オオ!! 殺してやる!!」

 セーラー服のサヤカと呼ばれた女の子だ。
 サヤカはボロボロの格好だが、目は真っ赤に怒りに染まっている。

「や、ヤバイぞ! しぶとすぎる! どうする!?」

 オレがか前と後ろをキョロキョロと見返して動揺していると、突然視界に1人の男性が写った。

(え??)

「あ、阿倍野さん!」

「やあやあ、みんな。ここも大変だったみたいだね! でももう大丈夫」

(あ、阿倍野さんが来てくれたなら確かに、もう大丈夫だ! 良かった!)

「阿倍野ギルドマスター! あのワイズのリーダー格を倒したんですね! 最高です!」

 欄島が阿倍野の登場に血を流しながら喜んでいる。ちょっと怖い。

 ワイズのサヤカ、そしてアツロウという男性も阿倍野を警戒してうかつに動けないようだ。

「けっ、桐生さんはやられたか! 仕方ねェ。やるだけやって、潔く死ぬぜ」

 アツロウが覚悟を決めたようだ。

「アツロウ! あんた、死ぬなら1人で死になよ! ウチはここにいるやつら、全員ぶっ倒して帰還するから!」

 ワイズはこの状況になっても撤退はしないようだ。前に聞いていた通り、何がなんでも目的を果たす気のようだ。

(べ、別にグールを渡すくらいいいんじゃ? 人同士でいつまでも争ってる場合じゃないんだから!)

「まあまあ、君たち。桐生は死んでないから。ほら来た」

 阿倍野が目を横にやると、廃墟の1つに桐生が立っていた。そして、その横には光る縄でグルグル巻きにされたSS級グールもいた。

(え? どういうことだ?)

「アツロウ! サヤカ! 戦いはここまでだ!」

「はあ? まだあのS級の捕獲があんじゃん! だからこいつらが邪魔なんでしょ!」

「そうだ! なんであんたはギルドマスターと一緒にここに来た!? どういうことだ!?」

 アツロウとサヤカは激しく敵意を剥き出しにして、桐生に歯向かった。

「それは、オレから説明するよ。ワイズの諸君」

 阿倍野がずいっと一歩前に出た。

「オレは桐生とは和解した。そのSS級グールは君たちが連れて帰って構わないし、そっちのS級グール2体も同じ」

「ちょ、阿倍野さん!?」

 吻野が不満そうに声を出した。それはそうだろう。彼女はワイズの好きにしないために戦っていたはずだ。

「まあ、モモも聞いて。オレは新トウキョウ都市の代表として、ワイズと取引をすることにした」

「取引?」

「うん。今後、オレたちはさらにSS級グールをあと3体。ワイズに提供する」

(はあ!?)

「その代わりに、オレと、ワイズのリーダー、それに宝条さんで会談の場を設けてもらう」

(会談?)

「そうでもしないとあの人は出てこないだろう」

(そうか、ワイズのリーダーは阿倍野さんの元先輩とかって……)

「ははは! あんたバカじゃないの!?」

 突然笑い声をあげたのはサヤカだ。

「結局、桐生さんと戦うのが怖くて、そういう話に持ち込んだんでしょ! 桐生さん、やっちゃおうよ! こんなやつら!」

(あ、あの娘、あんなに可憐なのにメチャクチャ怖いな!)

「サヤカ! 黙れ!」

 桐生がサヤカを叱責した。

「なんでよ!?」

 サヤカは今にもこちらに突っ込んできそうな雰囲気だ。

「オレは……、阿倍野さんに負けた」

(え?)

「あ?」

「桐生さん! 阿倍野と戦ったのか!? でも傷ひとつもねェじゃねェか?」

 アツロウがそう問うが、オレも同感だった。

「……阿倍野さんに復元された」

(?)

「オレは阿倍野さんに全く敵わずに、両手両足をもぎ取られた。死ぬ間際に、さっきの取引を持ちかけられたんだ」

「そ、そんなこと!」

「ウソだろ!?」

 サヤカとアツロウも驚愕している。

(手足をもがれて、それを復元した? そんなことできるのか??)

「あ、あっちに桐生の手足が落ちてるよ? 持って帰る?」

「……」

 阿倍野は軽い声を出すが、誰も反応出来ない。

「じゃあ、いいかな? 君たちはオレたちに負けて、取引を持ちかけられたので何とか命を拾って帰る。そういうことだよ」

「てめえ!」

「サヤカ!!」

 サヤカが激しい魔素を渦巻かせるが、桐生がサヤカの手を掴んで止めた。

「何で止めんだ!! コイツらに勝てなくてもこのまま帰れるか!! 何人かだけでも……」

ドオン!

 桐生がサヤカに拳を叩き込んだ。

「ぐうっ……」

 サヤカは倒れそうになるが、桐生が肩に担いで持ち上げた。

「アツロウ、そこのグール2体をこっちへ」

「あ、ああ」

 アツロウはS級グールを2体抱えて桐生のところへ飛んだ。SS級グールもそこにいる。

「では、阿倍野さん」

「うん、まずは取引了承の連絡をしてね」

「……分かりました。上級限定隔界招門メガリミテッドサモンゲート!」

 光が辺りを包むと同時にワイズとグールがその姿を消した。

(転移して、帰ったのか?)

「ふうー、とりあえず一段落だね」

 阿倍野は息を吐くが、吻野が不満気な顔を浮かべていた。

「阿倍野さん。あんな取引意味あるんですか?」

「ええ、どうしたの? モモ?」

「あんなの向こうが無視したら、それで終わりじゃない!」

「まあまあ。それは出来ないように話はしたからさ。取引はまず成立するよ」

「どうして言いきれるんですか?」

「それは秘密だよ!」

 阿倍野は口に人差し指を立てて、吻野の不満を封じた。

「……まったく」

 吻野もこれ以上の詰問は無駄だと理解したようだ。

「あ、阿倍野さん! それじゃ防壁の方へ援護へ行った方がいいんじゃ!?」

 オレは話が途切れたタイミングで阿倍野に催促を入れた。
 オレたちが戦場を離れてしばらく経つ。向こうの戦況が気掛かりだ。
 もうオレたちは結界の中でそれなりに回復していた。

「佐々木くんは責任感が強いね。でも、向こうの戦況は把握しているよ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。説明しておこう。まず、オレたちが新センダイ都市内部に突入した後、S級グールが2体現れた」

「は!?」

「そしてオレたちの空中陣が2機撃墜されたが、S級もすでに討伐済みだ。150000いたグールも残りはおそよ10000。オレたち討伐軍の人的被害はおよそ1800に達している」

「せ、1800……、そんなにですか」

「佐々木くん。君は少し気負い過ぎだね。平和な時代から来たというのが大きいんだろうが。1800という数字は新トウキョウ都市が試算した被害数よりも1000人以上少ないんだよ」

(……そう、言われても……2000人近い人たちが亡くなってるんだ)

「まあ、特級グールも全滅させたんだ。程なく敵も散っていくだろう」

 本当にそうだろうか。
 オレはいまだに、ぬめぬめとしたイヤな予感が消えなかった。
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