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CHAPTER Ⅴ
第221話 開戦に向けて②
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年が明けた。
今年は2129年。早いものでオレがこの時代に来てからはすでに4年ほどの時間が経った。
毎年年末にオレたちの元に遊びに来ていた武蔵野たちだったが今年はアサヒ1人、通信での挨拶のみで済ませた。
アサヒは変わりないと言ってはいたが、彼も忙しいようだ。それにマヒルとユウヒを失ってからどこか落ち着いた雰囲気を感じた。
誰もが変化しながら同じような毎日を生きている。
オレはふと、そんなことを思った。
「だけどそれが成長ってもんだよな」
「何言ってんの? 兄ちゃん」
「ふふ、セイさんもちゃんと成長してるよ」
「あ? 何の話?」
オレは今ナナ、ユウナ、アオイと一緒にいる。
もうすぐ始まる新キョウト都市奪還戦争の最終調整のため、ワイズの本拠地トマスモアに来ていた。
もちろん、ここにいるのはオレたちだけではない。
「佐々木くん、久しぶりにユキさんに会うから緊張してるのかな?」
「ああ、そうなの? セイちゃん」
「いやいや! 違いますよ! 阿倍野さん。アイちゃんも心配しないで!」
今回の会談には阿倍野、アイコ、伊達、美作が同席している。
そしてユキの兄妹と言うことでオレたち佐々木班も同行させてもらっていた。
「いや、分かるぞ。佐々木。ユキさんに会う前はいつも緊張する」
「それはアベルがよく叱られてたからでしょ」
伊達と美作もそう言って笑っていた。
「佐々木セイ」
例によってオレたちを案内している桐生が話し掛けて来た。
「え? なんでしょうか」
「オレが前に言ったことを覚えているか?」
「ええと?」
「セイさん。ユキさんの心を溶かしてほしいってことだよ」
「ああ! も、もちろんですよ!」
桐生はじっとこちらを見つめた後に深く息を吐いた。
「頼んだぞ」
「桐生さんでしたっけ? 大丈夫です。ウチらはウチら。ユキはユキですから」
ナナが何でもないように桐生に言った。
この言葉に桐生は思いの外反応を示した。
「どういう意味だ?」
「長い時間別々に過ごしてもウチらは生まれと育ちは一緒だったってことですよ。同じルーツを持ってるし、それはどれだけ時間が経っても変えられないことなんです」
「……」
桐生はそれ以上は何も聞かず、歩みを進めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ユキさん、阿倍野です」
オレたちは謁見の間へと入り、何度目かのユキとの会談を迎えた。
今回はいつもいたワイズの幹部たちは不在だった。
ユキ以外に桐生を含めた4人。
オレは名前も知らない3人だ。
しかし明らかに幹部たちのなかでも強力な気配を身に纏った者たちがユキの側に控えていた。
「ああ。言われずとも分かっている」
ユキだ。
前に見たときと同じように玉座に座し、気怠げに頬杖をついている。
「久しぶりだな、ユキ」
「姉ちゃんも来てあげたよ」
オレとナナがそれぞれ努めて明るく声を掛けた。しかしユキは舌打ちを返すだけだった。
伊達と美作は頭を下げただけで特に言葉は出さなかった。
とばっちりを食わないようにと、どこか怯えた様子すら感じる。
(全く……、ユキのやつ……)
「まあまあ、佐々木くんたちが来ることはユキさんも了承したんでしょ?」
「黙れ」
「……早いんだよな、怒るのが」
阿倍野が小さく呟いていたのが聞こえた。
剣呑としたユキの言葉と雰囲気に緊張感が走ったが、アイコが仕切り直すようににこやかに話を始めてくれた。
「ユキちゃん、元気そうね。お陰様で私たち新オオサカ都市、新トウキョウ都市共に規定の軍容を用意できたわ。改めてありがとう」
「あなたには対価をもらっている。そう言う取引だっただけだ。だが、軍拡はギリギリだったようだな」
「ええ。さすがにワイズの隊員たちのようにはいかないわ」
「……そうだろうな」
ワイズの隊員たちは特殊な魔術によって実力の底上げをしている。ただ、下手をすると命を落とすような危険なものだ。
「それで? 軍が揃ったところで、今日はどう攻め入るかの話をするんでしょう。私たちは何年も作戦を練ってきたユキちゃんに従うわ。上層部も納得済みよ」
「そうだ。ムダ話はやめよう。まずは各都市の配置から説明する」
ユキがそう言うと、空中に地図が現れた。
赤くマークが点滅しているところがある。
「ここが目標地点。つまりラク兄さんがいる場所、二条城跡地だ」
「そこにラクがいるんだな!」
「じゃあそこまで行ってラクを助ければいいんでしょ? どうやるのユキ?」
「……そして我々3軍は3方に分かれて同時に新キョウト都市へと攻め入る。東、西、そして南からだ」
ユキはオレたちの言葉は無視して話を進めた。
「軍は分けるんですか?」
阿倍野が質問した。
「ああ。1か所にまとまるとグールの殲滅が遅れる。各軍ともA級の大群に攻められても問題ない程度の軍容にはなっているはずだ」
「ちょっと待って下さい、ユキさん。グールの殲滅を目的にするならやはり一丸となって攻めた方がいいんじゃないですか?」
阿倍野の言葉にはオレも賛成だった。
「駄目だ。それでは新キョウト都市市街地へたどり着いた時のグール殲滅数が限られる。我々は足を止めて軍を拡げて戦える訳ではない。今回は都市中心部に向かって進軍しながらの戦いになる。3軍同時にそれを行えばより多くの敵を葬れる」
「つまり、都市中心部にたどり着いた時にはグールをある程度以上削らないと勝利はないと考えているってことかしら?」
「そうだ。やはり宝条マスターは話が早い」
「ええと、それは何でですか?」
阿倍野がとぼけたようにユキに聞いた。
「間抜けめ。リュウセイ、お前には分からんのか。都市中心部へ進めば進むほど敵は前方だけでなく後方からもこちらへ向かってくる。そして都市中心部へ達したときは我々は前方に現れるであろう敵の精鋭に集中しなくてはならない。その時に後方へそこまで力を割く余裕はない。よって敵の数を早い段階で削っておく必要があるのだ」
「……」
阿倍野の顔は納得はしていなかった。
「お前の疑問は分かる。全軍一丸となってラク兄さんの元へ辿り着ければ救出は成ると思っているだろう? しかしこの戦いは長期戦になる。おそらく都市中心部へ届くのに1週間以上はかかるはずだ」
「そんなに!?」
オレはつい大きく反応してしまった。
「……都市中心部へ辿り着いた時に、3軍は始めて合流して二条城へと向かう。その際に囲まれる敵の数を少しでも減らさないと軍全体が危ういのだ」
相変わらずユキはオレの言葉には反応しない。
「うーん、そういうことですか……」
オレにはまだ理解できないが、阿倍野はここまでの説明で作戦を概ね理解したようだ。
「オレたちはラクさんを救出するだけでなく、やはり新キョウト都市にいるグールを殲滅させなくてはならないと」
阿倍野が顎に手を当てて難しい顔をしている。
「何を言っている。当然だ。以前の偵察任務で敵も警戒を強めてしまったはずだぞ。日本各地から新キョウト都市へと上級グールを集めている動きがある」
(そうなの!? せっかく前に1万体もA級グールを倒したのに?)
「それについては申し開きの余地はないわね……」
「宝条マスターが謝ることではない。脚を引っ張っているのは上層部の愚か者たちだ。奴らはいつも私たちの邪魔をする」
「じゃあ、今は25万よりもグールが増えてるってことか? ユキ」
オレの質問にユキが眉間に皺を寄せて答えた。
「お前は黙っていろ。セイ」
「……」
ここで何か返すとまた話がこじれる。
オレはぐっと堪えてユキの扱いに耐えた。
だが。
「ちょっと! ユキは兄ちゃんにいつまでそんな口聞くつもりなの!?」
ナナが我慢出来なかった。
「……うるさいぞ、ナナ」
ユキがナナに手を向けた。
(ヤバ! 来る!!)
ドオン!!
衝撃音が響いた。
ユキが前のように重圧をこちらへ掛けたようだ。
だけど、オレは何も感じない。
ナナが腕輪を着けた右腕を前に出し、強力な結界を張ってその重圧を無効化していた。
「ぐくっ!!」
全力を振り絞っているであろうナナに、ユキが涼しい顔で問いかけた。
「お前、それは『カフヴァール』か?」
「そうだよ! こんなのもうウチには効かないから!」
ユキは少し驚いた様子で言葉を続けた。
「宝条マスターから下賜されたのだったな……。それで、こんなのとはどこまでのことを言っているんだ?」
ユキが手に力を込めた瞬間、アイコが大声を上げた。
「ユキちゃん!! やめて! 話を進めましょう!」
アイコの叫びが謁見の間に木霊した後、フッと、周囲に漲っていたプレッシャーが消えた。
「そうだな。お前らなどと関わっている時間はない。だがひとつだけ、セイ。お前も魔宝具を受け取ったそうだな」
「え? ああ、これだよ」
オレはユキの言葉に腰に下げた銃を前に出した。
「なるほど……『ガジャルグ』か。お前も問題なく使えているようだな」
(なんだ?)
「ユキさん。もうさすがに認めた方がいいんじゃないですか? 佐々木くんもナナさんも魔宝具が使えるし、もはや疑う方が難しい。彼らは本物ですよ」
阿倍野がユキにそう言った瞬間。
ドオオオンンン!!!!
さっきよりもはるかに強い重圧が阿倍野を床に叩きつけた。
「うるさいぞ、リュウセイ」
「ぐあっ! お、オレには容赦ないな……!」
阿倍野の悲惨な扱いを横目にしながら、オレはユキの考えていることを予想した。
確かに母ちゃんが残したという魔宝具が扱えるということはオレたちがグールかも知れないと疑うユキの考えを否定する理由になり得る。
そしてそれはここにいるオレとナナを自分の実の兄姉と認めるということになる。
だが、ユキはまだ認めたくはないのだろう。
100年という時間はそれだけ長く、ユキの希望は欠片も残っていなかった。しかし、目の前の事実が新たな希望と言える根拠になりつつある。だがそれがまた肩透かしだった時の失望が怖い。
ユキはそんな気持ちを阿倍野につかれて怒ったようだ。
(ユキもオレたちを大切に思ってくれてるって証拠だ……)
オレはユキの気持ちが遠くに行ってないと、この場にそぐわない安心を感じていた。
今年は2129年。早いものでオレがこの時代に来てからはすでに4年ほどの時間が経った。
毎年年末にオレたちの元に遊びに来ていた武蔵野たちだったが今年はアサヒ1人、通信での挨拶のみで済ませた。
アサヒは変わりないと言ってはいたが、彼も忙しいようだ。それにマヒルとユウヒを失ってからどこか落ち着いた雰囲気を感じた。
誰もが変化しながら同じような毎日を生きている。
オレはふと、そんなことを思った。
「だけどそれが成長ってもんだよな」
「何言ってんの? 兄ちゃん」
「ふふ、セイさんもちゃんと成長してるよ」
「あ? 何の話?」
オレは今ナナ、ユウナ、アオイと一緒にいる。
もうすぐ始まる新キョウト都市奪還戦争の最終調整のため、ワイズの本拠地トマスモアに来ていた。
もちろん、ここにいるのはオレたちだけではない。
「佐々木くん、久しぶりにユキさんに会うから緊張してるのかな?」
「ああ、そうなの? セイちゃん」
「いやいや! 違いますよ! 阿倍野さん。アイちゃんも心配しないで!」
今回の会談には阿倍野、アイコ、伊達、美作が同席している。
そしてユキの兄妹と言うことでオレたち佐々木班も同行させてもらっていた。
「いや、分かるぞ。佐々木。ユキさんに会う前はいつも緊張する」
「それはアベルがよく叱られてたからでしょ」
伊達と美作もそう言って笑っていた。
「佐々木セイ」
例によってオレたちを案内している桐生が話し掛けて来た。
「え? なんでしょうか」
「オレが前に言ったことを覚えているか?」
「ええと?」
「セイさん。ユキさんの心を溶かしてほしいってことだよ」
「ああ! も、もちろんですよ!」
桐生はじっとこちらを見つめた後に深く息を吐いた。
「頼んだぞ」
「桐生さんでしたっけ? 大丈夫です。ウチらはウチら。ユキはユキですから」
ナナが何でもないように桐生に言った。
この言葉に桐生は思いの外反応を示した。
「どういう意味だ?」
「長い時間別々に過ごしてもウチらは生まれと育ちは一緒だったってことですよ。同じルーツを持ってるし、それはどれだけ時間が経っても変えられないことなんです」
「……」
桐生はそれ以上は何も聞かず、歩みを進めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ユキさん、阿倍野です」
オレたちは謁見の間へと入り、何度目かのユキとの会談を迎えた。
今回はいつもいたワイズの幹部たちは不在だった。
ユキ以外に桐生を含めた4人。
オレは名前も知らない3人だ。
しかし明らかに幹部たちのなかでも強力な気配を身に纏った者たちがユキの側に控えていた。
「ああ。言われずとも分かっている」
ユキだ。
前に見たときと同じように玉座に座し、気怠げに頬杖をついている。
「久しぶりだな、ユキ」
「姉ちゃんも来てあげたよ」
オレとナナがそれぞれ努めて明るく声を掛けた。しかしユキは舌打ちを返すだけだった。
伊達と美作は頭を下げただけで特に言葉は出さなかった。
とばっちりを食わないようにと、どこか怯えた様子すら感じる。
(全く……、ユキのやつ……)
「まあまあ、佐々木くんたちが来ることはユキさんも了承したんでしょ?」
「黙れ」
「……早いんだよな、怒るのが」
阿倍野が小さく呟いていたのが聞こえた。
剣呑としたユキの言葉と雰囲気に緊張感が走ったが、アイコが仕切り直すようににこやかに話を始めてくれた。
「ユキちゃん、元気そうね。お陰様で私たち新オオサカ都市、新トウキョウ都市共に規定の軍容を用意できたわ。改めてありがとう」
「あなたには対価をもらっている。そう言う取引だっただけだ。だが、軍拡はギリギリだったようだな」
「ええ。さすがにワイズの隊員たちのようにはいかないわ」
「……そうだろうな」
ワイズの隊員たちは特殊な魔術によって実力の底上げをしている。ただ、下手をすると命を落とすような危険なものだ。
「それで? 軍が揃ったところで、今日はどう攻め入るかの話をするんでしょう。私たちは何年も作戦を練ってきたユキちゃんに従うわ。上層部も納得済みよ」
「そうだ。ムダ話はやめよう。まずは各都市の配置から説明する」
ユキがそう言うと、空中に地図が現れた。
赤くマークが点滅しているところがある。
「ここが目標地点。つまりラク兄さんがいる場所、二条城跡地だ」
「そこにラクがいるんだな!」
「じゃあそこまで行ってラクを助ければいいんでしょ? どうやるのユキ?」
「……そして我々3軍は3方に分かれて同時に新キョウト都市へと攻め入る。東、西、そして南からだ」
ユキはオレたちの言葉は無視して話を進めた。
「軍は分けるんですか?」
阿倍野が質問した。
「ああ。1か所にまとまるとグールの殲滅が遅れる。各軍ともA級の大群に攻められても問題ない程度の軍容にはなっているはずだ」
「ちょっと待って下さい、ユキさん。グールの殲滅を目的にするならやはり一丸となって攻めた方がいいんじゃないですか?」
阿倍野の言葉にはオレも賛成だった。
「駄目だ。それでは新キョウト都市市街地へたどり着いた時のグール殲滅数が限られる。我々は足を止めて軍を拡げて戦える訳ではない。今回は都市中心部に向かって進軍しながらの戦いになる。3軍同時にそれを行えばより多くの敵を葬れる」
「つまり、都市中心部にたどり着いた時にはグールをある程度以上削らないと勝利はないと考えているってことかしら?」
「そうだ。やはり宝条マスターは話が早い」
「ええと、それは何でですか?」
阿倍野がとぼけたようにユキに聞いた。
「間抜けめ。リュウセイ、お前には分からんのか。都市中心部へ進めば進むほど敵は前方だけでなく後方からもこちらへ向かってくる。そして都市中心部へ達したときは我々は前方に現れるであろう敵の精鋭に集中しなくてはならない。その時に後方へそこまで力を割く余裕はない。よって敵の数を早い段階で削っておく必要があるのだ」
「……」
阿倍野の顔は納得はしていなかった。
「お前の疑問は分かる。全軍一丸となってラク兄さんの元へ辿り着ければ救出は成ると思っているだろう? しかしこの戦いは長期戦になる。おそらく都市中心部へ届くのに1週間以上はかかるはずだ」
「そんなに!?」
オレはつい大きく反応してしまった。
「……都市中心部へ辿り着いた時に、3軍は始めて合流して二条城へと向かう。その際に囲まれる敵の数を少しでも減らさないと軍全体が危ういのだ」
相変わらずユキはオレの言葉には反応しない。
「うーん、そういうことですか……」
オレにはまだ理解できないが、阿倍野はここまでの説明で作戦を概ね理解したようだ。
「オレたちはラクさんを救出するだけでなく、やはり新キョウト都市にいるグールを殲滅させなくてはならないと」
阿倍野が顎に手を当てて難しい顔をしている。
「何を言っている。当然だ。以前の偵察任務で敵も警戒を強めてしまったはずだぞ。日本各地から新キョウト都市へと上級グールを集めている動きがある」
(そうなの!? せっかく前に1万体もA級グールを倒したのに?)
「それについては申し開きの余地はないわね……」
「宝条マスターが謝ることではない。脚を引っ張っているのは上層部の愚か者たちだ。奴らはいつも私たちの邪魔をする」
「じゃあ、今は25万よりもグールが増えてるってことか? ユキ」
オレの質問にユキが眉間に皺を寄せて答えた。
「お前は黙っていろ。セイ」
「……」
ここで何か返すとまた話がこじれる。
オレはぐっと堪えてユキの扱いに耐えた。
だが。
「ちょっと! ユキは兄ちゃんにいつまでそんな口聞くつもりなの!?」
ナナが我慢出来なかった。
「……うるさいぞ、ナナ」
ユキがナナに手を向けた。
(ヤバ! 来る!!)
ドオン!!
衝撃音が響いた。
ユキが前のように重圧をこちらへ掛けたようだ。
だけど、オレは何も感じない。
ナナが腕輪を着けた右腕を前に出し、強力な結界を張ってその重圧を無効化していた。
「ぐくっ!!」
全力を振り絞っているであろうナナに、ユキが涼しい顔で問いかけた。
「お前、それは『カフヴァール』か?」
「そうだよ! こんなのもうウチには効かないから!」
ユキは少し驚いた様子で言葉を続けた。
「宝条マスターから下賜されたのだったな……。それで、こんなのとはどこまでのことを言っているんだ?」
ユキが手に力を込めた瞬間、アイコが大声を上げた。
「ユキちゃん!! やめて! 話を進めましょう!」
アイコの叫びが謁見の間に木霊した後、フッと、周囲に漲っていたプレッシャーが消えた。
「そうだな。お前らなどと関わっている時間はない。だがひとつだけ、セイ。お前も魔宝具を受け取ったそうだな」
「え? ああ、これだよ」
オレはユキの言葉に腰に下げた銃を前に出した。
「なるほど……『ガジャルグ』か。お前も問題なく使えているようだな」
(なんだ?)
「ユキさん。もうさすがに認めた方がいいんじゃないですか? 佐々木くんもナナさんも魔宝具が使えるし、もはや疑う方が難しい。彼らは本物ですよ」
阿倍野がユキにそう言った瞬間。
ドオオオンンン!!!!
さっきよりもはるかに強い重圧が阿倍野を床に叩きつけた。
「うるさいぞ、リュウセイ」
「ぐあっ! お、オレには容赦ないな……!」
阿倍野の悲惨な扱いを横目にしながら、オレはユキの考えていることを予想した。
確かに母ちゃんが残したという魔宝具が扱えるということはオレたちがグールかも知れないと疑うユキの考えを否定する理由になり得る。
そしてそれはここにいるオレとナナを自分の実の兄姉と認めるということになる。
だが、ユキはまだ認めたくはないのだろう。
100年という時間はそれだけ長く、ユキの希望は欠片も残っていなかった。しかし、目の前の事実が新たな希望と言える根拠になりつつある。だがそれがまた肩透かしだった時の失望が怖い。
ユキはそんな気持ちを阿倍野につかれて怒ったようだ。
(ユキもオレたちを大切に思ってくれてるって証拠だ……)
オレはユキの気持ちが遠くに行ってないと、この場にそぐわない安心を感じていた。
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【作品紹介】
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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