グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第220話 開戦に向けて①

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 威力偵察任務、オレたちはその任務を終えて新オオサカ都市へと帰還した。
 元々はこの任務は新キョウト都市に蔓延るグールの軍容を確認するためのものだった。その任務は問題なく終了していたし、遭遇したグールはA級を1万、S級を数十体討伐という戦果も得ており、大成功と言えるものだった。

 だがしかしこの任務でオレたちはかけがいのない2人の戦友を失ってしまった。

 アサヒは眼を覚ますとマヒルとユウヒの死を悼み、涙を流していた。
 オレと天王寺もアサヒと共に悲しみ、武蔵野マヒルと武蔵野ユウヒの2人を弔った。

 後日、アサヒは昇級試験によってSS級隊員となった。驚いたのは、任務中に見たときよりもアサヒの力が増していたことだ。
 元々任務中に覚醒した時に天王寺と同等の実力をみせていたアサヒだったが、現在は天王寺を超える戦力を身に着けていた。
 そしてアサヒは新オオサカ都市最強の討伐隊員となった。

 天王寺は西部最強の座から転落したが、満足そうにアサヒの肩を叩いていた。

「もうお前たちの時代だ」

 天王寺の言葉はまだ早すぎるとも思ったが、『お前たち』という言葉にオレも入っていることに気づき、何も返す言葉が見つからなかった。

 その後しばらく新オオサカ都市で過ごしたオレたちは、新トウキョウ都市へと戻り、佐々木班として昇級試験を受けた。

 佐々木班はナナ、ユウナ、アオイが3人ともS+級に達し、オレたちはS+級部隊となった。
 
 オレたちは引き続き訓練や任務を続け、季節は冬を迎えていた。



「前回の昇級試験ではどのくらいまで隊員が増えたんですか?」
 
 オレたちは新トウキョウ都市のトップ部隊として、定期的にギルドマスターの阿倍野、結城班、二宮班と会議を行うことになっていた。

 これは大体月に1回ほど行うのだが、今は12月期の会議をしているところだった。

「佐々木くん、やっぱり気になるよねえ」

 阿倍野がうっとおしい感じでこちらへ答えた。

「そりゃそうです」

「まあそれはこの会議で発表するつもりだった。先日の試験に置いて、現在の都市の隊員はこのようになったよ」

 阿倍野はあらかじめ用意しておいた資料を配った。

「……」

 A+級隊員 4450名 
 AA級隊員 670名 
 AAA級隊員 125名 
 S-級隊員  33名
 S+級隊員 8名
 SS級隊員 5名

(おお! 凄い増えてないか?)

「その資料を見ての通り、A+オーバーは約5200、S級オーバーは46名いる。1月期の昇級試験でユキさんに提示された戦力は整いそうだ」

「さすが阿倍野さんですね。ここまで上級隊員を揃えるのは大変だったことでしょう」

 セイヤが阿倍野を褒めるが、当の本人は肩をすくめるだけだった。

「いやー、オレは何もしてないよ。どちらかと言うとモモとかユウナちゃんたちのお陰」

「? どういうこと?」

 吻野が不思議そうに質問をした。

「新キョウト都市の奪還戦はもう都市中で噂だ。それでみんな息巻いていてね。南部奪還戦以来の大戦だって」

「だからそれが私たちとどう関係あるんです?」

「来たる新キョウト都市奪還戦争は、3軍に分かれての軍事行動を取るつもりだ」

「ええと、新トウキョウ都市、新オオサカ都市、そしてワイズの3軍ですよね?」

 二宮班のシオリが阿倍野に補足する。

「その通り。そしてAAA級以下の戦力は編成いかんによって、その軍のどれかに配属されることになっている」

「それは秋くらいに聞いたな」

 アオイが頷いた。

「そして、隊員たちはその編成によって君たちの元に配属を熱望しているんだよ」

「ん? 私たちに? って結城班とか佐々木班にってことですか?」

 吻野はまだ怪訝そうにしている。

「そう。人気あるモモたちと行動を共にできる滅多にないチャンスだ。みんなそう思って訓練を頑張っているのさ」

「なにそれ」

 吻野は呆れたと言うふうに息を吐いた。

「でもそれで戦力の底上げになるなら願ってもないよな」

「佐々木くんは相変わらずね」

 吻野がオレに向かってため息を吐いた。

「ははは。まあそういうことで、我々の戦力は整いそうだね」

「我々、ということは新オオサカ都市はどうなっているんでしょうか。阿倍野マスター」

 ここで黙っていた二宮が口を開いた。

「うーん、マサオミの心配している通りだよ。新オオサカ都市のみでは提示戦力が整う見込みがない」

「え!? じゃあどうするんですか!」

「佐々木くん、大丈夫。宝条さんはずっと前に手を打ってある」

「……手を打ってある?」

「うん。宝条さんはすでに対価を差し出してユキさんに不足分の戦力をワイズから出してもらうように話をしてあるし、合意済みだよ」

「あの佐々木ユキから……、宝条マスターはどんな対価を?」

 二宮がかなり驚いた顔をしている。

「まずは半年前に捕獲した人型グール」

「ああ! あの時の!」

 オレは威力偵察任務でフリゴリスという人型グールをアイコが捕らえたことを思い出した。

「佐々木くんは一緒だったよね。あとはBSS級グール3体、SS級を10体。それにS級魔導石を3個、特別A級魔導石を10個、スカイベースや各種兵器、設備などもろもろだよ」

「そ、そんなに……?」

「ああ、ユキさんもさすがに納得したらしい。これで新オオサカ都市に不足していた隊員およそ400名をワイズから補填すると言うことになった訳だ」

「なるほど。新オオサカ都市と言えば、アサヒはどうなりましたでしょうか? 天王寺隊員を抜いて新オオサカ最強隊員になったと聞いています」

 セイヤもアサヒのことが気になるようだ。

「ああ、武蔵野くん? 確かに彼は西部最強だね。SS級隊員として活躍しているみたいだよ」

「つまり、来る戦争では新オオサカ都市を宝条マスターに次いで軍を率いるということでしょうか?」

(? セイヤは何を気にしてるんだ?)

「ああ、いや。さすがに指揮官は天王寺隊員だよ。やはり人望と実績は武蔵野くんはまだ天王寺隊員は勝てないからね」

「そうですか。モモ、そういうことらしい」

 セイヤの言葉に吻野が小さく頷いた。

(どういうことだ?)

「ああ、天王寺隊員はモモの師匠だったね。天王寺隊員の進退が少し気になってたんだ?」

 阿倍野が思い出したと言うように吻野に声を掛けた。

「え!!?」

 オレは驚いてつい大声を上げた。

「まあ、そこまで気にしている訳じゃない。タイシさんほどの人が武蔵野くんに西部最強の座をすんなり渡すとは思えなくて。あと佐々木くん、うるさい」

「はは。まあ、そんなに大げさなものじゃないよ。討伐隊員の兵隊長が天王寺隊員で、特攻隊長が武蔵野くんって感じかな。新オオサカ都市の場合は」

「とすると、新トウキョウ都市の場合の兵隊長は誰になりますか?」

 ここで二宮が質問をした。
 さっきから新トウキョウと新オオサカの対比を気にしているように感じる。

「マサオミはそういうところを気にするねえ。まあ、新トウキョウ都市の兵隊長は、まだ不在かな」

「え!? 不在ですか? 二宮さんじゃなくて?」

 シオリが不満そうに声を上げた。

「シオリちゃん、そう怒らないで。マサオミは確かに東部最強の隊員だし、部下からの信望も厚いよ」

「じゃあ!!」

「だけど。一軍を率いる兵隊長という役目とは別だね。マサオミは率先して指揮を取ることは得意じゃない」

「……なるほど」

 二宮が少し苦そうな顔をしている。

「それは自分でも分かってるだろ? だからこの都市に兵隊長はまだ不在って訳」

「まだ、ということは候補はいるんでしょうか? 結城、佐々木ですか?」

「マサオミ。いや、違うよ。佐々木くんとセイヤは資質はあるとは思うけど、まだまだ経験不足だ」

「それでは?」

「ヨウイチだよ」

「あっ!」

 東ヨウイチ。北部支部支部長。
 現在は昇級してS+級隊員になっている。
 確かに東なら人望も厚く、指揮能力にも優れている。

「……彼か。なるほど。まだと言うのは……」

「ああ。ヨウイチ資質は充分だと評価している。実力と経験がもう少し重なれば、彼が新トウキョウ都市の兵隊長だ。あ、これは本人には言わないように」

「……なるほど」

「マサオミは不本意かい?」

「いいえ、私は軍の先頭に立ったり指揮を取るというのは性に合いません。阿倍野マスターの言った通りです」

「そうか。じゃあ、ウチの特攻隊長がマサオミかな」

「どうでしょうね」

 二宮が何か含みのある返事をした。

「……」

「ところで、佐々木くんとナナさんは宝条さんから魔宝具を受け取っていたね」

 阿倍野が話題を変えた。

「え? はい。これです」

 オレは腰から『ガジャルグ』を取り出した。

「ウチのはこれ」

 ナナは腕を前に出して腕輪を見せた。

「神砲『ガジャルグ』……、それに玉帯『カフヴァール』……」

「これがどうかしたんですか? 前にも見ましたよね?」

 ナナが不思議そうに阿倍野に聞いた。
 確かにこの魔宝具はすでに阿倍野にお披露目したことがある。

「最近の研究とユキさんからの情報提供で分かったんだ。マサオミの『クラウソラス』もそうだが。魔宝具は覚醒させないと本来の実力は引き出せないらしい」

「覚醒?」

 オレは思わず眉をひそめた。

「ああ、魔宝具は通常はロックが掛かったような状態で本来の半分の性能も出ていないらしい」

「私の『クラウソラス』もですか? では、阿倍野マスターの魔宝具はどうなんでしょうか?」

「オレの『ロンゴミアド』も覚醒には至っていない」

「しかしそれではなぜ魔宝具が覚醒するということが分かったんですか?」

「ユキさんが魔宝具を覚醒させたんだ」

「ユキが……」

「ああ、魔宝具というものは起動させるのも人を選ぶが、覚醒させるのにも何か条件かあるようだ。ユキさんがあれだけの実力を備えているのは覚醒魔宝具を使っているということも大きい」

 オレは握りしめた銃をまじまじと見つめた。

(この銃が……?)

「マサオミ、佐々木くん、ナナさん。3人は魔宝具の覚醒を目指してくれ。今は軍拡期だ。隊員の数も質も向上させたい。もちろん、オレも覚醒を目標にする」

 魔宝具の覚醒。
 オレたちには新たな目標ができた。
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