グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第224話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅰ-② 背信

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 突如、阿倍野から伝えられた言葉。
 人類には裏切り者がいる。
 オレはその言葉を上手く飲み込めずにとっさには言葉が出せなかった。
 全く、予想もしていなかった。

「な、なんで!? そんなことありえないでしょ!」
「そ、そうです。そんなことしても意味がないです!」
「そうだ! 意味がねー! そんな自殺みたいなことしても!」

 ナナやユウナ、アオイも驚愕の声を上げている。

『そ、そうね。だけど、その根拠はなんですか?』

 吻野も動揺は隠せていない。

『それはさっき言った通りだよ。敵はオレたちの集結場所を知っている。暗号化された情報は手に入れられたかも知れないが、その内容は都市に内通者がいない限りは分かるはずがない』 

「いや……! だからと言って、それだけで!」

 オレもようやく信じられないという気持ちが口に出た。

『それだけじゃあないだろう。佐々木、以前の威力偵察任務。そうですね? 阿倍野マスター』

「??」

 オレはそう言う二宮の言葉の意味が分からない。

『そのとおり。マサオミは相変わらず察しがいいな。実は裏切り者がいることは以前から予想されていた』

「!?」

 オレは再度驚きに体が強張った。

『そんな……! 一体いつから……!?』

 セイヤも驚愕している。

『オレの中でただの予想から半信半疑へと変わったのは北海道での人型グール捕獲の時だね』

(そ、そんな前から?)

『そして、その半信半疑から確信へと変わったのは威力偵察任務の時だ』

「ど、どういう……?」

 オレには阿倍野の説明が理解出来ない。まるで頭脳が理解を拒否しているかのようだ。

『佐々木くんたちはあの任務に参加していたからね。気になるだろう。あの任務は実はどの程度グールが釣れるかを測るための任務でもあったんだ。今まで黙っていてすまないね』

「はあ、なにそれ!? またなんか良く分かんないこと言ってる!」

 ナナが興奮している。

『ナナさん、聞いてくれ。あの任務で使用していたスカイベースは特殊でね。ユキさんにも技術協力も得て隠密に特化したものだったんだ』

(隠密特化? それでも見つかったから裏切り者がいるとか言うのか?)

「そ、それがなんで……?」

『そして秘密裏に同機体を新キョウト都市周辺に無人だが3機を配置しておいた。つまり、グールはどこに佐々木くんたち偵察部隊が居たか分かるはずはないんだ。あらかじめ情報を得ていなければね。他の3機体は発見もされなかったようだしね』

『そういうことですか……』

 二宮が納得している。

「で、でもそれはグールの探知能力が予想以上だっただけなんじゃないてすか!?」

 オレは必死で阿倍野に反論した。
 他の機体は見つからなかったのではなくて、人員が居ないから狙われなかったということはあり得るはずだ。

『その可能性は無くはない。しかし、グールがまとまって攻めてくるまでの時間が異常に早かった。しかも人型グールが3体も現れた。宝条さんがいつでも援護に行けるように控えていなければ偵察部隊は全滅だったはずだ。君たちも感じなかったか? あまりに敵の勢力が強すぎると』

「そ、そんな……」

 オレは阿倍野の言葉を否定する材料を探すが、何も見つからない。

『ユキさんは佐々木くんとナナさんを疑っていたけどね。資料映像を見て考えを改めたみたいだよ。あの戦いを見てはさすがにね……』

 この阿倍野の言葉を聞いて、カアっと顔が熱くなるのが分かった。

「なんですかそれ! オレのことを知らない間に試してたんですか!!」

「そうだよ! ユキのやつ! はあ!? ウチらのことを本当にグールだと思ってる訳!!?」

「せ、セイさん……、ナナちゃん……」

 ユウナが興奮したオレの肩を押さえた。
 ナナのことはアオイがなだめている。

『……申し訳ない。しかしユキさんも君たちへの疑いはほぼ無くなっているだろう。あれは必要なことだった。あの任務での敵の動きから、裏切り者は少なくともS級隊員以上と判明している』

「……」

 オレは急な話に頭が混乱した。

『その理由は……』

「そんなのはいいです!! 阿倍野さん! そいつはなんでそんなことをしてるんですか!」

 そう。誰だがわからないが、裏切り者は何故そんな自殺するような真似をしているのか。何故仲間や家族を危険にさらす真似をするのか。
 それが疑問だった。

『それは分からない。破滅主義者なのか。身の安全を保証されているのか。または人型グールが長期間、都市にまぎれているのかも知れない』

「そんな! ことって……!」

『佐々木くんは人類一丸となってグールと戦っている、そう信じていたことだろう。君には辛いとは思うが……』

「……それもあります。けど、ユキはオレたちのこと、本当に信用してなかったんですね……」

「兄ちゃん……」

 ナナがオレの顔を見て、不憫そうにしている。
 自覚はないが、かなり悲しそうな表情が出てしまったようだ。

『セイ。だがその疑いは晴れつつあるんだろう?』

 通信装置からセイヤの優しい声が聞こえた。

『それに、ユキさんがおまえを信用してないとしてもだ。オレはセイを信じてる』

「せ、セイヤ?」

『今までどれだけお前たちと苦楽を共にしてきたと思っている。少なくともオレは、お前を信頼しているし、信用している』

 セイヤの言葉には、少しの迷いも無かった。

『まあ、佐々木くんがそんなだいそれたことできるとは思えないしね』

 吻野も優しくオレに声を掛けてきた。

『佐々木くんは私の妹の命を救ったこともあるよね? 私もあなたを疑ったりしてないわ』

 これは二宮班のシオリだ。
 北部開拓任務の際に確かにシオリの妹の鏑木サオリを助けたこともあった。

『佐々木。今は前を向け。私も佐々木が裏切り者だなんては考えてないぞ』

 二宮もオレに励ましの言葉をくれた。

「み、みんな……」

『みんなの言葉がこれまでの佐々木くんがしてきたことの結果だね。ちなみにオレも佐々木くんのことは信じてる。だからここで裏切り者がいるって宣言したわけだしね』

 阿倍野がそう言うが、オレは阿倍野に言われるのは何か違うと思った。

「まあ、阿倍野さんらしい言葉だな……」

「兄ちゃん、みんな。その裏切り者? の話は今はどうしょうもないでしょ? ユキはウチらのこと今はどう思ってるか知りたいんだけど。阿倍野さんは数日前まで一緒にいたんでしょ?」

 確かに、ナナの言う通りだと思った。
 ユキがオレたちのことを認めてないとは思っていたが、ここまで疑いの目を向けられているとは思っていなかった。
 威力偵察任務で大分信用されたと思いたいが、実際はどうなのか分からない。

『まあ、少しは認めてやる。そう言ってたよ』

(あいつは……)

「なにそれ!? ユキのくせに生意気なんだけど! ほんと頭くる!!」

『はっはは。ユキのくせにか。ワイズ総統のユキさんにそんなことを言えるのはナナさんたちだけだろうね』

 阿倍野が軽く笑っているが、オレは阿倍野がオレたちのことを試すような真似をしたことも引っ掛かっている。

「はあ!? 阿倍野さんだってウチらのこと疑ってたんでしょ!! そんな気楽なことを言わないでよ! どう謝罪すんの!!?」

(な、ナナ……、めちゃくちゃ怒ってるな……)

『い、いや。それについては面目ない。しかし、オレは君たちのことを疑ってなんかないよ。一番最初、佐々木くんとナナさんに会った時に徹底的に調査したからね』

 また阿倍野が意外なことを言った。

「え?」

 ナナがきょとんとした。
 ナナはいつもこんな感じだ。

『気付かなかった? 中央兵舎のセンサーに転移装置に、経絡開放者用の銃に装備品。血液検査やらなにやらして調べたんだよ。佐々木くんの体は』

「え? え? そうなんですか??」

『そう。だから君の事は疑ってない。それに、何度も一緒に戦ってきただろ? 佐々木くんが内通者じゃないとは断言できるしね』

『なんで断言出来るんですか?』

 吻野が質問した。

『そりゃ勘だね』

「か、勘かよ……」

『はは。まあ、そういうことだ』

 阿倍野はどこまで本気なのか分からない。

『しかしなぜ今その話をしたんですか?』

 二宮の質問はみんなも思っていたことだ。この開戦前にそんな重要な話をする意図が読めない。

『それは単純だよ。みんなに死んでほしくないからさ』

「?」

『つまり、オレは今通信か繋がっている皆、まあ東班も欄島班のメンバーも裏切り者は居ないと考えている』

『それも勘、ですか?』

 セイヤが聞いた。

『そう、勘だ。そしてこの戦争中、もしかするとその裏切り者が正体を表すかもしれない』

(ああ、そういうことか)

『なるほど、つまりグール以外にも警戒の必要があると私たちに警告したかった。そういうことですか』

『マサオミの言う通りだ』

 そういうことか。
 オレは胸にモヤはまだ少し残るが、阿倍野の気持ちが理解出来た。
 グールばかりを警戒していると背後から討たれる可能性があるということだ。
 敵は内側にもいる。

「信じたくはないけど、これが現実か」

 オレの呟きに、阿倍野は頷いたようだ。

『ああ、現実はいつもこうだ。だけど残酷な現実を嘆いても仕方ない。打ち勝とうじゃないか。オレたちは誰にも負けはしない、グールにも、背信者にもだ』

 ひとまず、阿倍野の言葉に全員が同意した。
 ナナも怒りを収めたようだ。

『開戦だ』

 阿倍野の声と共に、オレたちは向かってくるグールに意識を向けた。
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