グールムーンワールド

神坂 セイ

文字の大きさ
228 / 264
CHAPTER Ⅴ

第223話 新キョウト都市奪還戦争 Ⅰ-① 決意

しおりを挟む
 新キョウト都市奪還戦争。

 このグールに奪われた都市にはオレの弟のラクがいる。
 ラクは何らかの方法をもって都市に蔓延るグール、西側の海から侵入してくるグールと戦い続けているらしい。
 それも新キョウト都市が陥落した2099年からほぼ30年間、その戦いは続いているらしい。
 しかしラクの神がかった戦いも限界を迎えており、もうあと1か月ほどで敵を抑えきることは不可能になる。
 そうなった場合、大量の上級グールが人類の居住地域へと流入して、一気に人類の生存が難しくなる。
 各都市もグールの攻撃にさらされ、多くの人命が失われるだろう。 
 その危機を防ぐため、戦神と呼ばれるラクを救出するために、この戦いにオレたちは挑むのだ。
 
 困難かつ、厳しい戦いになる。
 しかしこの戦いに向かう隊員に目に怯えは無かった。
 各都市の精鋭は伊達ではない。

 新トウキョウ都市、新オオサカ都市、そしてワイズという都市から離反したユキがまとめ上げている組織との共闘。さらに未だ復興のさなかにある新センダイ都市、新ヒロシマ都市。
 そのいくつもの都市組織の中で選ばれた存在のみがこの戦争に参戦することとなった。
 まさに人類が結集してこの戦いに当たるとして、各都市、各隊員たちは隊員ではないその家族友人に至るまで大いに興奮していた。
 その理由の1つは、この奪還戦争に参加が認められることは人類の精鋭として認められることと同義であり、隊員とその家族親族は向こう30年はその栄誉によって栄えるだろうとまで言われていたからだ。

 そんな映えある兵士たちの集結の熱気をよそに、オレはただ弟のラクに思いを馳せていた。

(ラク……、どうか無事にいてくれ……)

 オレたちは新トウキョウ都市の精鋭と新センダイ都市の精鋭、さらに東部都市圏の代表たちと共に東部北部連合軍として規定の地点へと向かっている最中だ。
 
 今日は1月18日。ユキが同時に進撃を開始すると言った1月20日まではまだ2日あったが、これはさすがに関東から関西の集合地点へと向かうのには数日を要するためだ。

 さすがに4000人を超える軍隊が一度に進軍するのは目立ちすぎるということで、およそ2000人ほどの人員はあらかじめ少しずつ新オオサカ都市へと転移済となっており、1か月以上前から準備が進められていた。
 そしていよいよ明日中にはすべての東軍、つまり東部北部連合軍は規程の地点へと集合する予定となっていた。
 今回持ち込まれた兵器類の数も史上最大となっており、進軍を進める東軍の隊列の上にはおよそ20機の大型スカイベースが浮かんでいた。

 新トウキョウ都市から出撃した連合軍の人数は後方支援部隊も含めると合計で6000人弱にもなっていた。
 その後方支援部隊の面子もほぼ全員がA級隊員であり、正に東部北部地域の精鋭のみでこの軍は構成されていた。

 オレはそんな精鋭軍の中、空中を滑るいくつものスカイベースの内の1機体に搭乗していた。

「セイさん。いよいよだね」

 オレの隣にはユウナがいた。

「ユウナ。ああ、今回の戦いはかなり大規模になりそうだな。さすがに緊張してきたよ」

「ああ、うん。それもそうだね」

「なに?」

「ううん。戦争のこともそうだけど、ナナちゃんにユキさん。セイさんの兄妹の2人とは会えたけど、もう1人。弟のラクさんにももう少しで会えるねって思ってた。ちょっと変かな。こんな時に」

 オレはユウナのその言葉が嬉しく、つい口が綻んだ。

「ああ……、いや変じゃない。嬉しいよ。確かに、そうだな。ユウナはオレの兄妹で会ってないのはもうラクだけだからな」

「ねえ、ラクさんてどんな人なの?」

「ラクか?」

「うん」

 何と言うべきか。

「ラクはなまあ、暴れん坊だな」

「え、なにそれ?」

「いやあ、ラクが小学生……、まあ子供の時にいじめられてる子を見つけたことがあってさ。ラクはそのいじめをしてた年上の子とケンカになったんだ。こんなことして恥ずかしくないのか! とかって言ってたらしい」

「へえ……」

「それで、ケンカになってラク1人でいじめをしてた年上の子を3人も泣かせたりしてさ。オレはその子どもたちの親子さんに謝りに行ったり大変だったんだよ。ラクはオレは間違ってない! とか言って。他にも色々あるけど……」

「やっぱり。セイさんの弟さんなんだね」

「え?」

「責任感が強くて優しい。それはセイさんを見て育ったからだよ」

 そんなことは考えたことはなかった。

「……そう、なのかな?」

「うん」

「はは。そうだといいけど」

「間違いないよ」

「……ユウナ」

「なに?」

「必ず生き残ろうな」

「……うん。絶対」

 オレは狭い個室の中で、ユウナの肩を抱き寄せた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌日。

『あーあー。聞こえるかな?』

 通信装置から突然阿倍野の声が聞こえてきた。

 もうすぐでオレたち東軍の後進部隊は規定の集合地点に到着するというところだった。
 すでに転移などで先行していた部隊は集合地点に到着している。
 およそ3~6部隊ほどに分かれて東軍は集合地点
を目地していた。

 オレたち佐々木班は都市のトップ部隊として阿倍野から直通の通信が可能な通信装置を装備していた。
 この通信装置を直通とする部隊は二宮班、結城班とオレたちだけだ。
 東班や欄島班とも繋がった別枠の通信装置もオレたちは渡されていた。
 しかし、戦争が始まってしまったらオレたち東軍、西軍、ワイズ軍か結集するまでは特に使わないだろうとも最初に阿倍野が言っていた。

 その阿倍野からの通信だった。

『どうしたんですか? この通信は新キョウト都市へ侵入するまでは使う予定はないって言ってませんでした?』

 そう返事をするのは吻野だ。
 彼女はすでにセイヤと共に東軍の集合場所にいるはずだ。
 ちなみに阿倍野はワイズの本拠地から集合地点に向かうという報告を受けていた。

『モモか。セイヤやマサオミ。佐々木くんたちも聞こえているね』

『感度良好です。阿倍野マスター』

「はい。オレたちも通信は問題なく入っています」

 二宮の答えが聞こえた後に続いてオレも返答した。

『よし。では聞いてくれ。想定外の事態が起こった』

(え!? 戦争はまだ始まってもないのに!?)

 オレは阿倍野の言葉にかなり驚いた。

『どうしたんですか?』

 これはセイヤの声だ。

『たった今ユキさんから連絡が入った。オレたち東軍の集合地点にグールが向かってきている。このままだとおよそ5時間ほどで会敵となるようだ』

「え!?」

 つい大声が出てしまう。

『それはどの程度の規模なのですか? そこまで警戒する必要があるということでしょうか?』

 こう言うのは二宮だ。

『警戒の必要はある。しかし、敵の規模はそこまでではない。EからC級のグールの群れでおよそ2万体だ』

「に、2万体!?」

『ちょっと。さっきからうるさい。佐々木くん。EからC級の群れなら特段私たちの苦戦する相手ではないはずよ』

 吻野が通信装置越しにオレにツッコミを入れてきた。
 こんなやりとりも久しぶりな気がする。

『モモの言う通り。相手は大半が下級グールの群れだ。この精鋭軍で相手にすれば簡単に殲滅できるだろう』

「ええと、ではなぜ警戒の必要があると?」

 オレは阿倍野の言葉に素直に疑問を抱いた。
 これはオレたちに対するグールの先鋒隊ではあるのだろう。
 しかし簡単に倒せるならそう警戒には値しないはずだ。
 阿倍野もオレを始めとしたみんなの疑問を感じ取ったのだろう。通信装置の向こうで1つ頷くのが分かった。

『これはおそらく敵のこれからの攻撃の準備材料だ。このグールの群れを殲滅した後で死霊術士ネクロマンサータイプが後ろからオレたちに攻撃を仕掛けてくるはずだ』

「ああ……」

 オレは阿倍野の言葉に納得した。

 死霊術士ネクロマンサー型のグールは他のグールの死体を操り巨大な死骸の巨人を作って襲い掛かってくる。
 オレたちが開戦した後、前方の上級グールを相手にしているところへ後方からその能力を使って挟み撃ちにするつもりなのだろう。
 そのための準備としてのグールの群れということだ。

『ユキさんの超広範囲索敵によって現状が判明した。そして西軍、ワイズ軍の集合地点にも同様の規模のグールが向かっているそうだ』

(3か所ともか! グールたちもかなり準備していたみたいだな……)

『集合地点全てにですか! いや……、一体どういうことでしょうか? これは驚きですね。阿倍野マスター』

 二宮がかなり驚いている。
 オレは二宮がこんなに驚くのがちょっと意外だった。

『マサオミは気付いたかな?』

(え? なんだろう?)

『ええ。敵はなぜ私たちや西軍、ワイズ軍の集結地点に狙いを定めることができているんでしょうか』

 オレは二宮の言っている意味がわからなかった。
 敵はオレたちの同行を読んで襲ってきているだけだろう。
 グールはいつもそうやってオレたちを苦しめる。

『その通り。マサオミ。みんな、よく聞いてくれ。この通信であえて明らかに宣言しよう。グールの攻撃により我々の中でグールに情報を渡している者がいることが分かった。つまり人類には裏切り者がいる』

 オレは阿倍野の言葉に絶句した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。 こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?! 私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。 バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。 その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。 鬼が現れ戦う羽目に。 事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの? この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。 鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます! 一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。 はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...