運命の君

沢渡奈々子

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美形というのもなかなか大変である

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 映画は地球を侵略しようとする宇宙人とそれを阻止しようとする地球人との戦いで、最後には勝利を収めるという珍しくないストーリーだったのだが、高度なテクノロジーを持つ宇宙人にどう対抗するのか、アメリカを中心とした世界各国のブレインがタイムリミットを意識しながら思案・策略を巡らせる様がなかなかスリリングで蒼は楽しめた。登場人物の一人に、有名な日本人俳優がキャスティングされていて、それもまた日本人として観ていて楽しかった。
 蒼はその日本人キャストを見ながら、
(そういえばこの人もアルファだって、前にテレビで言ってたなぁ……)
(でもこの人より鳴海の方がイケメンだよなぁ)
(鳴海って芸能界にスカウトされたりしないのかなぁ)
(これだけのイケメンだし、絶対何度もされてるよなぁ……スカウト)
 そんなことを考えていた。ちらりと横を見ると、スクリーンに集中している鳴海の横顔が目に入る。
(横顔までイケメン……っていうかきれいだなぁ。アルファの因子って容姿にも作用するのかなぁ)
 映画の間に余計なことを考えてしまい、数分間内容を観損じてしまった。蒼ははたと気づいて慌てて物語に戻った。
「面白かった」
 観終わった鳴海の第一声に呼応するように、
「うん、マジ面白かった!」
 蒼は何度も頷いた。もう一度劇場で観たいと思うくらい面白かったのだ。
「末永、俺トイレに行って来る」
「あ、うん。俺パンフレット買うから売店にいるよ」
「分かった」
 その場で分かれ、鳴海はトイレへ、蒼は売店へと向かった。店のレジは上映後に関連商品やパンフレットを買い求める客で行列が出来ていた。蒼はその最後尾に並んだ。
 十分ほど待ってようやく会計が自分の番になった時、ふと近くのロビーに目をやると、そこにはもうトイレから戻って来たのであろう鳴海が立っていた。しかし一人ではなく。
「一人ですか?」
「もしよかったら一緒に遊びませんか?」
「私たち、これからラウンドマックスに行くんですよ~。一緒に行きましょ?」
 女子大生と思しき女子二人組が、鳴海に絡みついていた。
「行きません。連れがいますので」
「そんなこと言わないで~」
(あ、いつもの鳴海だ)
 その姿は学校でいつも見ている鳴海だった。女の子に囲まれて誘われる時はいつも、きれいではあるが蒼曰く“能面”のような笑みと、穏やかな口調できっぱり自分の意志を表しているのが鳴海だ。
(それにしても女の子が放っておかないなぁ)
 どこにいてもモテるんだなぁ、と、財布からお金を出しながら蒼は感心していた。パンフレットを受け取り売店から出ると、蒼の姿を認めた鳴海の表情がぱぁっと明るくなった。
「末永」
 鳴海は蒼の元に駆け寄ると、寄り添うように横に立った。
「お待たせ、鳴海」
「お友達? お友達もよかったら一緒にどう?」
 鳴海に絡んでいた女子が蒼にも声をかけた。
(あー……俺は“ついで”なんだろうなぁ)
 蒼の口元がひくついた。明らかに女子たちの目当ては鳴海であって、蒼はむしろ邪魔者くらいに思っているのだろう。実際、彼女たちが蒼を見る視線は、お世辞にも好意に満ち溢れたものではなかったからだ。何と答えたらいいのか言葉を出しあぐねていると、
「友達じゃないです」
 と、鳴海が割り込んだ。
「この子は俺の【番】です」
「えっ!?」
 いきなりの爆弾発言に、女子よりも先に蒼が驚いてしまった。
「なのでデートの邪魔しないでください」
 相変わらずの能面顔でそう言うと、鳴海は蒼の手を引いて映画館から出た。歩いている時に後ろの方から「番がいるなんて反則っ」と悔しがる女子の声が聞こえてきた。
(デート……デートだって。デートなのか? これ……しかも番とか……)
 その場凌ぎの言葉であることは明々白々だというのに、図らずも蒼の心臓はまた意味不明な鼓動を刻まされた。鳴海の言動にドキドキさせられるのはこれで何度目だろうか。
「な、鳴海……」
 たじろぎつつ声をかけると、映画館の外にある広場で鳴海が立ち止まった。
「ごめんね、末永」
「え?」
「番だとかデートだとか勝手に言っちゃって。ああ言うのが一番断りやすいし、あっさり引き下がってくれるんだ」
 困ったような表情をして、鳴海は蒼の手をそっと解放した。離れていく手を見て、ほんの少し淋しいと思ってしまったのは気のせいだろう、と蒼は自分に言い聞かせた。
 鳴海は今まで幾度となくこういうことを経験してきているのだろう。そしてその度にこうやって断ってきたのだと思うと、少し気の毒に思える。
(イケメンというのも大変なんだなぁ)
 逆ナンの経験などまったくない蒼ですら、同情を禁じ得なかった。
「――もしかして、末永は行きたかった?」
 考えごとをしていて無言でいたためか、鳴海に顔を覗きこまれた。
「は? あ、ううん、全然! 俺、ああいう女の人苦手だし」
 鳴海の疑問に対し両手を振って否定する。
「よかった。もし彼女たちと行きたいって言われたらどうしようかと思った」
 ホッとしたように笑う鳴海に、またドキリとする蒼だった。

 それからというもの、蒼はたびたび鳴海と遊びに行くようになった。テーマパークへ行ったり、スポーツ観戦へ行ったりと、普通に友達として一緒にいるようになったのだ。
 鳴海は蒼と一緒にいる時に女の子に声をかけられると、断る口実としていつも蒼のことを番だと伝えていた。それは蒼が「俺を女の子避けにしてもいいよ。大変だもんな、その都度断る理由を考えるの」と鳴海に許可したからだ。蒼自身、鳴海が自分を信用してくれた上で口実に使ってくれているのだと思うと、少し嬉しかったのだ。
 学校では相変わらず鳴海は女子にまとわりつかれているので近寄りもしない。だから蒼と鳴海が放課後や休日に一緒に出かけるような仲であることを知る者はほとんどいなかった。もちろん、蒼も鳴海もそんなことを率先して学校で言いふらすようなことなどしない。蒼が鳴海のプライベートの時間を共有しているなどと知れた時には、女子生徒の羨望と嫉妬の的になってしまうからだ。
 そんな要素が合わさったためか、いつしかこんな噂が学校で流れるようになった。
『鳴海凛には既に運命の番がいるらしい』
 それが逆ナンパを断るための嘘であることと、口実に使われた相手が蒼であることを知るのは、当然ながらほぼおらず、鳴海と蒼、それに充と凪と涼真、それから鳴海のごくごく親しい友人だけだった。
 噂を確認するために、一時は女子が鳴海に殺到した。質問攻めに遭った鳴海は、
「本当だよ」
 と、あまりにもあっさり答えたために、泣き崩れる女子が跡を絶たなかった。
 それからしばらくして、鳴海にまとわりつく女子が明らかに減った。運命の番には勝てないと早々に悟った女子が戦線離脱したのだ。以前に比べ格段に学校生活を送りやすくなった鳴海は、
「こんなことなら、もっと早く番がいるって言えばよかった」
 と、にっこりしながら蒼に言った。そして少しずつではあるが、二人が学校でも一緒にいる時間が増えていった。
「末永、今日何か食べて行かない?」
 ある日の放課後、鳴海が蒼を誘った。
「いいよ~、鳴海、何食べたいの?」
「末永が食べたいのがいいな」
 この言葉も相変わらずだった。二人でどこかへ出かけ食事を取る時はいつも、鳴海は蒼が食べたいものを望んだ。蒼が「たまには鳴海が好きなやつにしようぜ」と言っても、
「末永のこと知りたいから」
「俺は何でも食べられるから」
 そんな理由でかわされ、結局いつも蒼の好みで決めてしまうことになる。今では彼もそれに慣れてしまい、鳴海にそう言われると、
「分かった~。じゃあ、甘いの食べたい。ケーキとかパフェとか! 新桜浜にうちの姉ちゃんオススメのケーキビュッフェの店あるんだよ。アイスとかパフェも充実してるんだって」
 などと、さりげなく鳴海の好きなものを選ぶようになった。鳴海は外見とは違い甘味が好きらしい、ということが少し前に判明したのだ。
「俺もケーキ食べたい。そこに行こう」
 蒼の意図を知ってか知らずか、鳴海が笑った。

「前から思っていたけど、鳴海って食べ方きれいだよな」
 ケーキを口にしている鳴海を見ながら、蒼が言う。以前和食を食べた時にも思ったのだが、箸やフォーク等を扱う所作がとてもきれいで、育ちの良さを感じさせるのだ。
「そうかな。末永もきちんとしてると思うけど」
「うちは母さんと姉ちゃんがそういうのうるさくて。こう見えても小さい頃からテーブルマナーしつけられてきたんだよ」
「末永のお姉さん、一度会っただけだけど、末永に似てるね」
 一度、というのは蒼が初めての発情期に見舞われた時のことを言っているのだろう。あんな痴態を見せつけてしまった相手と、こうして普通に友達づきあい出来ているなんて未だに信じられない気持ちもある蒼だ。
「え~、そっかぁ? 一回も言われたことないけど」
「それに、末永のことすごく可愛がってる、って感じがした」
「あぁ……あの時はごめんな? 姉ちゃん怒り狂ってたから鳴海にも変なこと言って」
 あの時の姉はまさに怒髪天を衝いた状態だったので、今思い出すと少し恥ずかしくなる。
「気にしてないよ。いいお姉さんだよ」
「鳴海、兄弟は?」
「うちは姉と兄がいるんだ。二人とも大学生」
「仲いいの?」
「姉とはいいけど、兄は……俺と性格が全然違うからあまり気は合わないかな。ケンカとかは流石にしないけどね」
「へぇ……」
(鳴海の兄弟なんだから、きっときれいな顔してるんだろうなぁ)
 蒼は見たこともない人物の顔を、何となく想像していた。
 そんな他愛もない会話をしながらケーキビュッフェを楽しんでいると、あっという間に制限時間が過ぎた。二人は会計を済ませるために席を立った。
「支払ってくるから、入口で待ってて」
 鳴海が店の出口を指差した。
「俺も一緒に払うよ」
「後ででいいよ。とりあえずまとめて払っておくから」
「わ、分かったよ」
 相変わらずのスマートさにうっかり見とれそうになった蒼は、とりあえずその言葉に甘えることにして出口付近で鳴海を待つ。携帯電話を出してメッセージ等が来ていないか確認していると、
「オ・メ・ガ・ちゃん」
「ひゃっ」
 耳元でいきなり息を吹き込むように囁かれ、蒼は飛び上がるほど驚いた。
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