ある日突然タイムリープしてしまった社畜、自分の書いた物語が現実となった過去をやり直す。

智恵 理陀

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003 25から15へ。

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「――ゃん」

 聞きなれない声が、鼓膜をつついてくる。
 カーテンを勢いよく開ける音と共に、陽光がまぶたを通り過ぎて刺激し、意識は現実へと引き寄せられていった。
 まだ睡魔がまぶたに圧し掛かっていて寝起きはやや悪い。

「――いちゃん!」

 ……さっきから俺を呼ぶこの……女の子の声は、何なんだ?
 音声付きの目覚まし時計を買った覚えはないのだが。

「兄ちゃんって!」

 体が揺さぶられている、そんな揺さぶり機能までついてた高性能な時計は絶対に買っていない。
 目を開けてみると、いつもの見慣れた白い天井とはちょっと違う。
 あれ? こんな天井だったっけ?
 その視界に入って俺の顔を覗き込んでくるのは、声の主であろう女の子。
 十代前半のまだ幼さ残る顔立ち、ショートヘアの似合う、ちょっとだけボーイッシュさを醸し出す少女が、いた。
 ……誰?

「朝だよ! 起きてよ兄ちゃん!」
「……えぇ?」

 早速だが思考が追いついていない。
 もしやまだ夢の中か? 兄ちゃん兄ちゃん言ってるけど、俺に妹はいないんだが。欲しいと思った事はあるけれど。
 少女は俺の顔をじっと覗き込んで起きたのを確認するや、太陽でも宿したかのような眩しい笑顔を浮かべた。

「おはよー!」
「お、おはよ……う?」

 耳を劈くほどの挨拶だった。
 眠気を吹き飛ばすには程よい声量だが、俺の頭上に浮かんでいるであろうクエスチョンマークまでは吹き飛ばせない。
 これほど衝撃的な朝を迎えるのは人生で初めてだ。
 まさか新手のドッキリが行われている最中であろうか。
 もやがかっていた思考は晴れてきたが、その代わりに混乱が居座り始めている。

「だ、誰……!?」
「誰とはなんだい誰とは! 妹の灯花(ほのか)をお忘れか!」
「俺に妹は、いないけど……」
「ほぁー!? 寝惚けてるとはいえなんちゅー事を言うんだい兄ちゃんは! そんな事、たとえ冗談でも言われるのはショックだよ!」
「いたたたっ」

 布団越しに彼女はぽこぽこといった効果音がつくような力加減で叩いてくる。
 ほのか……灯花? 変だな、その名前には聞き覚えがある。外見もそうだ、どこかで見たような……。

「びえびえ……」

 目を両手で隠して明らかに嘘泣きを始めていた。
 ちらちらとこっちの様子を伺っていやがる、しかしながらどう接するのが正解なのだろう。
 頬を掻いては苦笑いを浮かべるしかなかった。
 そんな俺を見ては、少女は眉間にしわを寄せていた。

「ぐぬぬ……兄ちゃんなんか知らなーい! ばかぁ!」
「あ、ちょ……」

 ……出て行ってしまった。
 追いかけたほうがいいのだろうか。
 理解し難い状況と光景が一度にやってきて目まぐるしい。

「夢じゃ、ないよな……」

 夢か現実か――それを確かめるために頬をつねってみるという、漫画やラノベでたまにあるこの行動を、まさか自分もするとは。

「いふぁい」

 思考はようやく本稼働に至った。
 もう一度頬をつねる必要はないだろう。目はもう覚めている、現実で間違いない。
 間違いないのだが、やはりこれは夢なのでは? と疑いたくなるのは灯花という少女の存在。
 妹と言っていた。
 名前は、灯花と言っていた。
 ああ、確かにそう言っていた。初めて見たというのに、知っている気がする、あの子を……。

「ん……?」

 部屋がどこか、変わってる?

「俺の部屋じゃ……ない? ……いや、待てよ……」

 この部屋は……実家? 実家の、俺の部屋かここは。
 それでも、所々見覚えのないものがあるし、何より俺が一人暮らしをする際に部屋は大体のものは片付けてしまったはず。
 こんなに物があるはずがない。

「……どうなってるんだ?」

 一度起こされた上体は、元の位置に戻る。
 待て。
 待て待て。
 もう少しじっくりたっぷり考える時間が欲しい。

「――でもやっぱり放っておけない私なのだあ!」
「おぐふっ!?」

 不意打ちだった。
 どたどたとした足音が近づいてきては、少女――灯花が躊躇無くダイブしてきた。
 肺の中の空気が一気に放出されて変な声が出てしまった。

「はいはい起きてー! 二度寝しない! 着替えて歯磨きして顔洗ってご飯食べるの!」
「は、はい……」
「今日も一日ボンバーでいこう!」
「ボンバー……?」

 気圧されて呆然の中、背中を押されながら洗面所へ。
 どうしてだろうか。昨日はしこたま飲んだっていうのに、深酒特有のだるさも喉の渇きも全然ないし体がすごく軽い……。
 疑問を引きずったまま、洗面所の鏡を前にすると、更なる疑問が覆いかぶさってきた。

「な、何これ……!?」
「どしたのさ?」
「わ、若いんだが……!」
「何言ってるのさー。兄ちゃん高校生になったばっかなんだから若いに決まってるじゃんかー」
「高校生……だって?」

 おいおい、君は何を言ってるんだ?
 俺は今年で二十五だぞ、二十代の折り返し地点に誕生日ケーキのろうそくの火はため息で消したっていうのにさ。
 ……いや、しかし。
 鏡に映っているのは、まごうことなく高校時代の俺が映っている。何かの細工がなされているわけでもなく、自分の肌に触れてまだすべすべだった感触に懐かしさを得た。
 そしてシャツをめくって、年齢を重ねた事による新陳代謝の低下が引き起こしただらしなさを表現し始めた下っ腹も見事に引っ込んでいる。
 夢か真か、再び頬をつねるのではなくお腹をつねってみたが、これは現実でありぜい肉は夢だったかのように消えていた。
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