俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章22 4月19日 ③

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「おーい! 兄ちゃーん!」


 聞き覚えのある声が聴こえ、自分が呼ばれたのだと判断をして弥堂は顔をあげた。

 公園の入り口の茂みに突っ込んでいた手を引き抜き声のした方向に眼を向けると、公園前の道路を反対側の歩道から手を振る子供たちがいた。


 弥堂と目が合ったことがわかると先頭で手を振っていた男の子はニカッと笑い、道路を渡ってこちらに駆けてくる。

 その後ろにいた二人の男の子がキョロキョロと目を動かしてから慌ててその後に続こうとするのを見て、弥堂は車道へ目線を振った。


 パタパタと近づいてくる足音を聴きながら立ち上がりつつ、手にはめた軍手を外す。


「兄ちゃん、遊ぼうぜ」

「かける。道路を渡る前に首を振れと言っただろう」

「右見て左見てまた右見ろ的なやつだろ? ダリィよ。オレそんなのやんなくても何となくわかるんだ。よゆーだぜ!」

「……お前がそうでも、そいつらは違うだろう?」


 顎を振って彼の背後を示してやると、かけるの後を追ってきた子たちが遅れて到着したところだった。


「かける君。一人で先に行かないでくださいよ」
「速いよ、かけるくーん」

「お前らが遅すぎるんだよ」


 息を弾ませて抗議をする仲間たちに、かけるは悪びれもせず言い放つ。


「お前に余裕があるんなら、お前がそいつらの分まで周囲を見てやれ」

「えー。めんどくせーよー」

「お前に着いていくのに夢中で周りを見てなくて、そいつらが車に轢かれたりしたら嫌だろう?」

「え? それはヤダな。車に轢かれたら痛いんだろ? かわいそうだぜ」

「そうだな。運が悪ければもう一緒に遊べなくなるぞ」

「マジかよ⁉ どうしたらいいんだ、兄ちゃん」

「簡単だ。仲間のために首を振れ。それで声をかけて気付いたことを教えてやれ」

「わかったぜ! それいつやればいいんだ⁉」

「いつもだ」

「いつも⁉」


 ガーンとショックを受けて「マジかよ……めんどくせえな……」と呟きながら引っ込む彼と入れ替わる形で、息を整えた二人が話しかけてくる。


「こんにちは、弥堂さん。今日もボランティアですか?」
「お兄ちゃん、こんにちは」

「あぁ、こんにちは。そうだ。いつもの仕事だ」


 答えながら軍手を着け直し作業を再開しようとしていると、かけるが戻ってくる。


「兄ちゃん、サッカーしようぜ! 暇だろ?」

「かける。俺はゴミを拾ってるんだ。ちゃんと話を聞いていろ」


 呆れたような声を出しつつ、彼に顔を向ける。


「いいじゃん。そんなのつまんねーだろ? サッカーしようぜ!」

「かける君、そんなこと言っちゃダメだよ」

「なんでだよ。この兄ちゃんいっつもゴミ拾ってんだから今日くらい仲間に入れてやってもいいだろ? かわいそうだから一緒に遊んでやろうぜ」

「そうじゃないですよ。邪魔しちゃ悪いでしょってことです」


 弥堂に向かってサッカーボールを突き出すかけるを仲間二人が窘める。


「別に俺はいつもゴミ拾いをしているわけではない」

「え? だって兄ちゃん会うたんびにゴミ集めてんじゃん」

「休日になると俺はここにゴミを拾いに来る。そしてお前らは休日にここに遊びに来る。だから俺達は休日にここで顔を合わせる回数が増え、そしてその度にお前らは俺がゴミを拾っているシーンをよく見る。だからそんな気がするだけだ」

「なに言ってんのかわっかんねーよ、兄ちゃん。もっと簡単に言ってくれよ」

「ち〇こ」

「ギャハハハハっ! ち〇こ! ち〇こって言った! 兄ちゃんいっけないんだー! ギャハハハハ」


「いけないんだー」といいつつ彼は「ち〇こ! ち〇こ!」と大はしゃぎで、今しがた疑問に思っていたことも弥堂を遊びに誘うことも忘れてキャッキャッと小踊りする。


 彼らはこの近所に住む小学生で、弥堂の言ったとおり休日にボランティア活動でこの中美景公園に訪れると顔を合わせることが多い。先程のように物怖じをせずに遊びに誘ってくるため、すっかりと顔見知りとなった低学年のおともだち達だ。


 ちょっと生意気な元気印の“かける”。メガネをかけて大人びた口調で喋る“はやと”。他の子より身体がまだ小さく少し内気な“しゅん”。仲良し3人組の小学生である。


「いつもかける君がすみません」

「別にかまわん」

「ボクたちもお手伝いしようか?」

「いや、大丈夫だ」

「でもみんなでやった方が早く終わるよ?」

「終わってしまったらゴミがなくなってしまうだろうが」

「え?」


 お目めをぱちぱちさせる男の子たちへ弥堂は年長者として説明をしてやる。


「ゴミを拾うためにここに来ているのにゴミがなくなってしまったらもうゴミを拾えないだろ?」

「えっと……、弥堂さん……? 言ってる意味が……」
「お兄ちゃんはゴミをなくすためにゴミ拾いしてるんじゃないの?」

「いや、ゴミ拾いはあくまで手段であり目的ではない」

「どういうことなの?」
「むずかしいよ」


 弥堂は知的好奇心が旺盛な子供たちに社会について教えてやることにした。


「お前ら、休みの日に誰に言われたわけでもなく、こんな所で他人の捨てたゴミを拾っている俺のことをどう思う?」

「え? それはとても立派だと思います」
「うん! お兄ちゃんはいい人なんだなって思うよ!」

「そうだろう。そんないい人な俺が通う美景台学園がとてもいい教育をしているいい学校なんだと思うだろう?」

「はい。うちの母も褒めてました」
「ボクのママもね、みんなでお兄ちゃんの高校に行けばいいんじゃない?って言ってたよ!」

「それこそが俺の狙いだ。いいか? 通常このように働いたら金を貰えるよな?」

「はい。労働には対価が必要です」
「ボクもママのお手伝いするとお小遣いもらえるよ!」

「そうだろう。だが、このゴミ拾いは仕事ではない。雇い主がいないからな。だから金は貰えない」

「え? お兄ちゃんかわいそう」
「まぁ、それがボランティアですし仕方ないですよね」

「だから、金以外の報酬を貰うんだ」

「え?」


 純真な子供たちは目の前の大人の目が濁っていることにはまだ気付けない。


「先程お前らは言ったな? 俺がいい人であると。そう思われることこそが報酬なんだ」

「で、でも、無償で奉仕することがボランティアだって先生が……」

「それは嘘だ。大人はそうやってお前らガキを騙してタダ働きをさせようとするんだ」

「そ、そんな……、先生がそんなことをするわけ……」
「そ、そうだよ……! 先生やさしいもん! 間違えてママって呼んじゃった時も怒らなかったんだよ!」

「それはどうだろうな」

「――嘘つくなよ、兄ちゃん」


 ポーン、ポーンとリフティングをしながらかけるが戻ってきた。


「オレ、兄ちゃんのせいで先生に怒られたんだからな」

「ほう」

「こないださ、学校のみんなで草むしりしましょーってなってさ。そんでオレ言ったんだよ。『こんなとこでやっても目立たねーから意味ねーって、仕事させんなら金くれって』よ。そしたら先生が『ボランティアはそういうものじゃありません』って言ってよ。めっちゃ恥ずかしかったぜ」

「そうか。だがお前らも10年もすれば気付く。誰が嘘つきだったのか」

「ヤなこと言うなよ! 絶対ぇ兄ちゃんが嘘つきだよ。だって顏がワルモノだもん。今はいいことしてっけど、隠れてなんかやってそうだもん」

「うるさい。もういいからそっちでサッカーしてろ」

「おう! 兄ちゃんも混ぜてほしくなったら言えよな!」

「あぁ。ちゃんと周りを見ながらやれよ」

「わかったー!」


 作業中に話しかけてくるマナーのなっていない子供たちを弥堂は追い払った。彼らは少し離れた場所で三角形になりパスをし合う。

 子供たちの声とボールを蹴る音を背景にしながら暫く作業を続けた。


「兄ちゃん! おい、兄ちゃん!」

「……なんだ」


 しかし、そうは時間を置かずにまた声をかけられる。


「これむずいよっ! キョロキョロしながらやるとトラップできねえよ!」

「工夫しろ。なんかこう、いい感じにやれ」

「テキトーだなっ! こんなことしてイミあんのかよ⁉」

「さぁな。もしかしたら、いつかいいことがあるかもしれないし、ないかもしれない」

「ちくしょうっ! 大人ってそうやって子供を騙すんだな!」

「そうだ。子供は黙って言うことを聞いていろ」

「それ知ってるぜ! パワハラだ!」


 口ぶりとは逆に彼らは楽しそうにボールを蹴り合っている。

 それを横目にしながら作業に戻ろうとすると、新たに人が現れた。


「みんなーーっ!」


 パタパタと足音とともに幼い女の子の声が近づいてくる。

 キャッキャッとボール遊びをしていた男の子たちはその声を聴くと揃ってハッとし、気持ち表情をキリっとさせた。


「わたしもいっしょに――あっ⁉」


 駆け寄ってきた女子は男の子たちの少し手前で転んでしまう。

 すると。気持ち精悍な顔つきをしたショタたちはサッと駆け寄った。


「えへへ……、転んじゃったぁ……」

「ったくよ、“みいろ”はドジだよな。そんなとこに座ってたら邪魔だからよ、ほら立てよ」
「理解に苦しみますね。何故何もない所で躓くんです?」
「ボク絆創膏持ってるから貼ってあげるね?」


 そっぽを向きながらぶっきらぼうに手だけを差し伸べる“かける”。

 その手をとって立ち上がる女の子の背後でメガネをクイっとしながら愛想のないことをぼやきつつ肩を支える“はやと”。

 そして立ち上がった女の子の前で跪き、上目遣いで純粋な瞳を向けてから膝に絆創膏を貼ってあげる“しゅん”。


「みんなありがとう! ねぇ。わたしも仲間に入れてよ!」

「あ? オレたちはサッカーやってんだ。危ねえから女は下がってろよ」
「実際問題、足手まといなんですよ」
「ボ、ボクは別にいいと思うんだけど……、ゴメンね……?」


 三者三様に何かしらのキャラ付けがされたような安易な会話が繰り広げられる。


「そっか……、やっぱりわたしなんかとは誰も仲良くしてくれないんだね……、わかってた。だって前からずっとひとりぼっちだったもの……!」

「おい待てよ、“みいろ”。オレのモノになれよ?」
「貴女みたいなヒト、危なっかしくて放っておけませんよ。面倒を見切れるのは私だけです」
「ボクね、“おねえちゃん”のことだいすきっ!」

「えっ……? どうしたの……みんな? そんな、急に困るよ……」

「ハッ、おもしれえ女」
「貴女は不思議なヒトですね」
「ボクにはわかるんだ……、“おねえちゃん”はやさしい人だって……」

「そんな、こんなのってないよ……。わたしはただみんなと仲良くしたいだけなのに……、あーつらい、とってもつらいよぉー。もうわたしのことは放っておいてよぉー」

「みいろ」
「みいろさん」
「おねえちゃん」

「わたしは平穏に暮らしたいだけなのに、急に色んな男の子に言い寄られちゃって……、これからわたし一体どうなっちゃうのぉ~~~!」


 “みいろ”と呼ばれた女の子がバッと両腕を広げて空に向かって一頻り声を伸ばすと、男の子達はスンと表情を落とし、数秒その場で待機してから所定の位置に戻り何事もなかったかのようにパス練習を再開した。


「こんにちは、お兄さん」


 弥堂がその一連の謎の茶番を胡乱な瞳で見ていると、女の子も何事もなかったかのような振舞いでこちらへ歩いて寄ってきた。

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