俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章22 4月19日 ⑤

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「――待たんかイィッ!」


 大きなダミ声が公園の入り口の方から響いた。


 新たな人物の登場に小学生たちはお家に帰りたくなったが、知ってるお兄ちゃんが心配だったので我慢して声の方に目を向けた。


「アニキィッ!」
「アニフィィ!」


 リュージとヤスちゃんが歓喜の声とともに振り返ると柄シャツの上に白スーツを羽織った一人の男が居た。


 呼び声に応えてガバっと股を開き仰け反る程に胸を張りながら天を見上げると、プフーッと咥え煙草の隙間から煙を噴き上げる。


「オ~ゥ、オメェらぁ。往来でなァにをヤンヤヤンヤやってやがんだァ~? カタギに迷惑を――」


 言いながら顔を動かし睨み合う弥堂とヤスちゃんの姿を見つけ、ギンッと険しい眼差しを向けるとダッと走り出した。


「ゥオォラァッ! クラァッ! ボケェっ!」


 威勢のいい声を上げガッと胸倉を掴みあげると、走ってきた勢いそのままにバッと跳び上がる。1秒にも満たない滞空時間の中で上体を思い切り逸らして振りかぶると渾身の頭突きをお見舞いした――


――パチキだ。


 額に額を勢いよく打ち付けられプシっと血飛沫をあげながら地面に倒れる。

 兄貴はすかさず追撃をかけるため得意のストンピングを繰り出した。


 弥堂はその様子を醒めた様子で見下ろす。


「オラァ! ヤスぅ、コラァ! オドレなにガキ連れに絡んどんじゃあぁっ!」


 もんどりうって倒れたヤスちゃんに兄貴は容赦のない怒りを叫びながら蹴り続ける。


「今のご時世すぐにパクられっからカタギに喧嘩売るなって、オドレなんべん言わさすんじゃボケがァっ!」


「ウラァッ! ウラァッ! ウラァッ!」と威勢よく踏みつけ続けているとやがてヤスちゃんが丸まってプルプルとしてしまう。


「あっ、兄貴ぃっ! ど、どうかそのへんで……ヤスの前歯がなくなっちまう……」


 慌ててリュージが止めに入ると、ようやく兄貴はヤスちゃんから離れた。


「すまんのう、兄さん。ここはワシに免じてひとつ――」


 フゥーと息を吐き額の汗を拭いながら顔をこちらへ向ける兄貴と目が合うと、彼は驚いたように目を見開きプポっと咥え煙草を吐き出した。


「オドレェ! 狂犬じゃねえかテメェこの野郎っ!」


 即座に怒りを露わにして近寄ってくる兄貴には目もくれず、弥堂は地面に落ちた煙草をササッと拾ったヤスちゃんにピクっと瞼を動かした。


「オゥコラ狂犬の~。ワシらのシマで随分ハバきかせとるやんけワレェ~。若の兄弟分だか知らねえがのぅ、まだ正式に跡目を継いだわけでもねえ。ワシら全員が納得してると思うんじゃねぇぞ……オゥコラ、ワレきいとんのけ? ビビっとんのか」


 ウラァ、クラァと威嚇の鳴き声をあげつつ兄貴はスッと二本指を立てて手を横に出す。

 それに素早く反応をする者が二人。

 サササっと寄ってきたリュージが懐から煙草を取り出して兄貴へ差し出し、鼻血を垂らしたままのヤスちゃんがライターを構えて脇に控えた。

 滞りなく煙草に着火をすると二人の弟分は後ろに控え、兄貴は満足そうに煙を吐き出す。


 そうするとケホケホと咳きこむ声が漏れる。


 それに気付いた兄貴はハッとした顔になった。


「おぉー、ワリィワリィ。そういやガキがいたんだったな。カーッ、ったくよぉ、最近の世の中は極道だけじゃなく喫煙者にも冷たくってかなわねえや……」


 言いながら、今しがた火を点けたばかりの煙草を足元に落とし、靴の踵で踏み躙る。

 その足をどかすと、すかさずヤスちゃんが吸い殻を回収するためにしゃがみこむ。

 弥堂はそのヤスちゃんの脇腹に爪先を蹴り入れた。


「――クペッ⁉」

「「「「えぇーっ⁉」」」」


 パパやママから『恐い人だから近づいちゃダメよ』と教わっているヤクザのおじさんに対して、突然無言で蹴りを入れた知ってるお兄ちゃんの行動に、子供たちはびっくり仰天した。


 驚く子供たちや唖然とする極道たちを置き去りにそのまま爪先を何度も打ち込み、ヤスちゃんの横隔膜に負担をかける。

 数秒ほど経ってからハッとなると、慌ててリュージが止めに入る。


「お、おい! 何してんだテメェッ! やめろや、ヤスが紫になってんだろ!」


 弥堂を引き剥がそうと胸倉を掴むために手を伸ばすが、あっさりと空かされて逆にその腕をとられ捩じり上げられる。


「あいてえぇぇぇっ⁉」


 弥堂は簡単に無力化したリュージの懐から先程の煙草を箱ごと奪うと彼の足を払って地面に転がした。


「な、なんじゃあワレェ⁉ なにしとるかわかっとんのかぁ⁉」


「ゥラァッ」「クラァッ」と威嚇してくる兄貴に弥堂は冷徹な眼を向ける。


「ここを誰のナワバリだと思っている。俺に断りなくゴミ拾ってんじゃねえよクズが」

「兄ちゃん、なに言ってんの⁉」

「この公園に落ちているシケモクは全て俺の物だ。勝手に手を出すな」

「イ、イカレてんのか⁉ この狂犬野郎っ!」


 ズカズカと無防備に近づいていくと兄貴が漢らしい大振りパンチを繰り出してくるが、首を曲げるだけで躱し、スーツの袖口を掴むと足を引っ掛けて地に転がす。

 そしてすぐにマウントポジションをとると、先程奪った煙草を箱から中身を一纏めに取り出し兄貴の口に突っこんでそのまま抑えつける。


「というわけで、さっさと作れ。このシケモク製造機が」


 十数本の煙草を無理矢理咥えさせたまま鼻と口を抑え、もう片方の手で兄貴の首を絞める。


 彼の表情にチアノーゼの兆候が見られたタイミングで首を放し、同時にライターを着火して煙草に近づけた。


 窒息寸前まで追い込まれたために解放された気道から勢いよく酸素を取り込もうとすると全ての煙草に火が灯る。

 強制的に大量の煙を吸い込まされた形になり咽かえってしまうとボッと一瞬だけ激しく燃え上がった。


 弥堂に口元を抑えられたままなので十数本の煙草を無理矢理同時に吸わされた兄貴は顔を青褪めさせ、口、鼻、耳から煙を噴き出しながらグリンっと目玉を裏返らせた。


「あっ、兄貴ィッ!」


 慌ててリュージが駆け寄る。


「テッ、テメェッ! やめろ! 兄貴はなぁ、こないだ健康診断引っ掛かって医者に酒と煙草止められてんだ! 死んじまうだろっ!」


 懸命なヤクザの訴えを無視して、弥堂は兄貴の口からポロポロとこぼれた煙草を粛々と回収し携帯灰皿に収容していく。


「この野郎ッ! お前マジでうちと事を構える気か⁉ 兄貴やりやがってシャレじゃ済まねえぞ!」

「そんなことはどうでもいい。それよりもまだ持っているだろ。出せ」

「や、やめろ……っ! 脱がせるな……やめろって……いっ、いやあぁぁぁ!」


 嫌がるヤクザに慈悲はかけずに淡々と身包みを剥ぐ。


「おい。さっさとこれを全部吸え」

「そのまま持ってけばいいだろ⁉ なんでいちいち俺の肺を経由するんだよ! お前マジでイカレてんのか⁉ コエェよ!」


 ペリペリと新品の煙草のパッケージを包むビニール剥いて、20本まとめてリュージの口に無理矢理捻じ込もうとしていると、ガッと何者かが弥堂の腰に取りついた。


「ダメだよ! お兄さん!」

「む。美彩みいろか。後で遊んでやるからあっち行ってろ」

「おじちゃんをイジメないで! かわいそうだよ!」


 お腹に抱き着いてくる小学生女子を説得していると、リュージが拘束を逃れる。

 すぐに彼を捕えようとするが、その前に間に立ち塞がる者たちがいた。


「兄ちゃん、もうやめろよ!」
「ひどいことはしないでくださいっ!」
「お、おじちゃんにげてーっ!」


 弥堂とヤクザとの間に腕をめいっぱいに伸ばしたショタの壁が出来あがる。


「お、おめぇら……」


 子供たちに優しくされたヤクザ者はジィ~ンと胸に何かが染み入った。


「おい、お前ら邪魔だ。ガキは引っ込んでいろ」


 ショタとロリを掻き分けながらヤクザを殴ろうとしていると――



――ピピィ~ッ! と、大きな笛の音が鳴る。


 音がしたのはまたも公園の入り口の方だ。


 全員がそちらに顔を向けると――



「う~ぃ、全員動くなよぉ~」


 新たに二人組の男が現れる。


 次から次へと登場する知らない大人たちに、この場で一番常識を持っている小学生たちは白目になった。
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