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1章 魔法少女とは出逢わない
1章26 Void Pleasure ②
しおりを挟むしばらくして再起動したアスが人質をとった卑劣な犯人との対話を再び試みる。
「すみません。ちょっと何を言ってるのかわからないのですが……」
「往生際が悪いな。魔法少女に死なれたら困るのもこいつを苗床にするつもりだからだろう? 普通の人間より頑丈だからたくさん産めそうだしな」
「アナタ……、女性に対してそんなことを言ってはいけませんよ? もうそれが褒め言葉になるような時代じゃないんです」
「薄っぺらいな。大体こいつに触手を捻じ込んで卵を産みつけようとしていたのは貴様らだろう」
「ボラフさん……? アナタ……」
アスが心底から軽蔑するような目を向けると、酷い風評被害を受けたボラフは勢いよく首を横に振った。
「そして俺は風紀委員だ。学園の風紀を守る義務がある。我が校では校則により女生徒の妊娠・出産は推奨されていない。うちの女子を妊娠させたいのならまずは俺の許可をとることだな」
「クッ……、ダメだ……、なにを言っているのかまるで理解できない……」
「あと俺はクリーニング屋に行くんだ。よくも邪魔をしてくれたな。無駄な時間を使わせやがって」
「クリーニング⁉ そんなことで我々に戦いを挑んでくるのですか⁉ そんなバカな……!」
アスは頭痛を堪えるように頭を押さえて、優秀であるはずの自分の理解が及ばない生物に慄く。
「ちくしょう、テメェ! 昨日も今日も好き放題暴れやがって! いい加減にしろッス!」
「大人しくしていろというのがわからんか。お前も妊娠させられるぞ」
「ジブン孕まされるんスか⁉ ジブン、ネコさんなんですけど⁉ くぅ……っ! こ、こいつ、種族なんて関係ねえってことッスか……! なんて圧倒的な雄度……! ムカつくヤツだけど正直キライになれねえッス……!」
ネコさん妖精のメロは、自分のことを性的な目で見てくる二足歩行に戦慄し身を伏せるとプルプルと震えお尻をもぞもぞ動かした。
「あの……、キミ、なんか急に頭悪くなってないですか?」
「安い挑発だな」
「……ボラフさん。彼が何を言っているのかわかりますか?」
「聞くなよ。わかるわけねえだろ。言ったじゃねえか。コイツ頭おかしいって。関わるのやめようぜ」
「……そうですね」
頭の悪い者との会話を嫌うアスは急速に弥堂への興味を失い半眼になる。
「えぇと、それで……? あなたの要求はなんです?」
「お前らの野望を阻止することだ」
「そもそもそんな野望は持っていないのですが……わかりました。とりあえずアナタの言うようなことはしません。それでいいですね?」
「敵の言うことを真に受ける馬鹿がどこにいる? 戦いは民族浄化をするまでは終わらない。必ず根絶やしにしてやる」
「クッ……、無駄に意識高くてやる気のあるバカは本当に厄介ですね……! 孕ませ……、孕ませだと……? ナメやがって、ニンゲンが……っ!」
意識高い系の悪の大幹部であるアスはこれまでに何度もやる気のある無能に足を引っ張られてきた苦い経験を想起させられる。
さらに意味不明なIQの低い言葉で己の崇高な仕事が穢されたような気がして強い憤りを感じた。
「アス様」
「……わかってます」
宥めるようにボラフが呼びかけると、アスは苦く歯を噛み締める。
その様子を弥堂はジッと視ていた。
「だが、こちらも全面戦争は本来望むところではない。とりあえずの要求としては路地裏から手を引いてもらおう。それがこの場での手打ちの最低条件だ」
「……路地裏?」
「主に繁華街や歓楽街だな。あそこは我々の作戦領域だ。そこに立ち入ることは敵対行為と見做す」
「アナタたちはそこで一体なにを」
「本来なら答える義務などないのだが、いいだろう。『放課後の道草は殺すぞキャンペーン』だ。我が校の生徒の道草を取り締まる活動だ。貴様らはその邪魔だ」
「道草だと……」
ツッコんだら負けだと感じたアスはそれ以上の言葉を飲み込んだ。
「出来ればこの街から手を引いてもらいたいものだな。他の街でなら何人殺そうが孕ませようがこちらは一切関知しない」
「アナタ、人としてそれでいいのですか?」
「目的も遂げられずに能書きばかり垂れるクズよりはマシだ。あとこいつ――魔法少女に関してもだ。殺すのは構わんが妊娠は駄目だ」
「クズはテメェだろうが」
「おやめなさい、ボラフさん。これ以上関わってはいけません。いいでしょう。アナタの要求を一部のみます」
「ほう」
何故か譲歩の姿勢を見せた闇の組織のモノどもに弥堂は真意を探るような眼を向ける。
「本来ならばニンゲンごときがなにを……と言うところですが、もう疲れました。正直アナタとは関わりたくありません」
「そうか」
「この街から出るのは無理です。ですが、アナタが指定した地域には極力立ち入りません。完全には無理です」
「………」
「必要があればこちらもそこへ出向かざるをえないこともあります。しかし、アナタの邪魔はしませんし、その……なんですか? お宅の女生徒を妊娠させたりもしません。それで妥協しなさい」
「ふむ……」
弥堂は相手の返答を吟味する。
「オイ、いいのかよ?」
「ボラフさん。いえ、あまり良くはないのですが、別に支障も大してありません。何より、私こいつともう話したくありません」
「まぁ、気持ちはわかる」
「意味不明すぎて後々問題が出てきそうですが、それはもうその時対応しましょう。正直追い詰めすぎると本当に何をするかわかりません。このニンゲン、平気で彼女を殺しますよ? それをされると困るのは確かですし……」
「お、おぉ……、アンタがそんななってるの初めて見たぜ……」
憔悴した上司の姿に慄くボラフを無視してアスは弥堂と内容を詰める。
「代わりと言ってはなんですが。アナタも魔法少女に関わるのはやめなさい」
「…………」
「我々に直接的に人間社会をどうこうする心づもりはありません。当然国政に打って出るつもりもない。アナタが首を突っこまなければ本来競合することなど何もないのですよ。文字通り棲む世界が違うのです」
「……いいだろう。とりあえずはそれで手打ちだ」
「なんでお前が偉そうなんだよ。破格だろうが」
「いいんです、ボラフさん。我慢なさい」
目の前で何故か和解の方向で話がついていく状況をメロは頭上に『?』を多数浮かべながら見ている。
どういうわけか助かりそうな雰囲気が伝わってくるが、その理由がわからず只管混乱した。
「では、何かあればいずれ調整に来るかもしれませんが、今日はこれで失礼します」
「……オマエ、今日のは奇跡だからな? 二度はねえぞ? マジで。もう首つっこむなよ?」
「行きますよ、ボラフさん」
「あぁ」
心なしかトボトボとした足取りで闇の組織の幹部たちは離れていく。
「ヴィンテージワインがあります。20年ものを開けます。付き合いなさい」
「おぉ、なんかスゴそうだぜ。美味いのか?」
「それは飲んでみるまではわかりません。実は古いからといっても必ず美味しいわけではないのですよ。ですが、今日は時の流れを感じたい気分なんです……」
会社帰りの上司と部下のように連れ添って歩く人外のモノたちは、ある地点でフッとその姿を消した。
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