俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章27 深き宵深く酔い浅き眠り朝は来ない ④

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――記録を切る。


 結局あの後、男からとても魅力的で思わず時間を忘れてしまうほどに夢中になって聞いてしまうような素晴らしい提案をされ、その話が弥堂にとって充分に満足がいくような――具体的には主に金銭面で――ものだったため、無事に取引が成立した。


 男としても安心をしたのかどこか気の抜けたような表情で、弥堂と華蓮さんを部屋に残し、一人でトボトボと帰って行った。


 そして現在に至る。


(さて、この中で何が彼女を怒らせたか、だが……)


 一連の出来事の一体どれが――と考えてみても、正直なところ該当しそうなものがいくつもあって絞り込むのが難しい。

 もしかしたら絞る必要などなくそれら全てが原因なのかもしれないが、弥堂は意識してそのことから目を逸らす。


 状況的に全く非を認めずに切り抜けることは難しいだろう。しかし、かといって非を認め過ぎるわけにもいかない。

 既に有罪であることが決まっているのならば、ここからはどれだけ罪の数を減らせるか、そういう戦いになる。


 迂闊に「全面的に俺が悪かった」などという台詞を吐こうものなら、とんでもない数の罪状を並べられることになる。

 今日の一件としてここで起きたことを包括して罪状1とはならないのだ。


 例えばここでの一連の流れの中で弥堂に悪いところが10あったとする。

 仮に全面的に非を認めると、その悪いところが1つ1つ個別に罪に問われ合計10もの罪状を並べられ、そしてそれぞれ個別に罰を課されることとなる。


 今回の悪いところは最低で3つ、多くても4つほどだと弥堂は見立てている。

 要はこれをどれだけ減らせるかだ。


(1つ……、いや2つくれてやるか……)


 華蓮さんには世話になっていたのでサービスで半分は非を認めてやることに決めた。



「そろそろ考えはまとまったかしら?」

「あぁ」


 ちょうどタイミングよく声がかけられる。


「じゃあ言ってみなさい。私が何故怒っているか」

「いいだろう」


 ソファーに優雅に腰をかけ余裕たっぷりに腕組みをする女に、弥堂もまた余裕たっぷりに返事をして懐に手を入れる。


「待ちなさい」


 しかしすぐに待ったをかけられた。

 ジト目で見遣る彼女に弥堂は眉を寄せ訝しがる。


「……お金じゃないわよ?」

「なんだと」

「キミはいつもそう。すぐお金か暴力で解決しようとする」

「分け前が欲しいんじゃないのか?」

「あのね……。私は去年までキミを養ってたのよ? 今更キミからお金を欲しがるわけないでしょ」


 こうなることはわかっていたとばかりに呆れた目を向けられる。


「念のため聞くけど、自分の悪かったところ、いくつくらいあると思ってるの?」

「2つだ」

「は?」

「3つだ」

「…………はぁ……」


 少なく見積もった数字を言った瞬間に華蓮さんの表情が険しくなったのですかさず水増しをした。

 そもそも初弾を外したので実質的には最初に思い浮かんだ4点全てを言わされるハメになりそうだ。


「少なくないかしら?」

「……そんなことはない」

「とりあえず全部言ってみなさい」

「……もういいだろ」

「ちなみに私は大体13個くらいあるんだけど、キミが言う3つ……? それが正解だったら残りは追及しないであげるわ」

「言ったな? 嘘は許さないぞ」

「言ったけど。そういう態度に誠意が感じられないのよね、ってのが今14個目になったわ」

「いくつでも増やせばいい。3つ当てれば俺の勝ちだ」

「当てるって言わない。そういうところよ? 勝ち負けでもないし」


 苦しい戦況の中で勝ち筋を見出した弥堂は挑発的な態度をとるが、白けたような目を返されただけだった。


「いいだろう。1つは『来るのが遅かったこと』、2つ目はあれだ……『商売女呼ばわりしたこと』、あと3つ目は、なんだ……? じゃあ、『扱いが雑だったこと』でいいか? どうだ?」

「どうだじゃねーんだわ」


 あまり反応のよくない彼女へとりあえず視線を強めてゴリ押ししてみたが、華蓮さんは思わず口調を崩してしまったことを恥じらったのか、取り繕うように咳ばらいをしただけで全く通らなかった。


「とりあえず合ってはいるけれど、言い方が気に食わないわね。許してあげるのやめようかしら」

「騙したのか? そういうことなら俺にも言い分はあるぞ」

「騙すもなにもキミが悪いことは確定してるのが前提なんだけれど。まぁいいわ。なに? 聞いてあげる」

「まず、確かに来るのが遅かったが別に遅れたわけじゃない。俺は20時までには行くと言ったし、実際にその範囲内で到着した。厳密には俺は悪くない」

「厳密には20時を3分過ぎてたわね」

「店には20時までに到着していた。エスコートがモタモタしてたせいで過ぎたんだ。俺のせいじゃない」

「へぇ? マキちゃんと遊んでたんだ……?」

「……別にマキさんだとは言っていない」


 息巻いて攻勢に出た弥堂だったが鋭いカウンターを打ち込まれ秒で劣勢となり、彼女から向けられるジト目から目を逸らした。


「この件はキミの言い分を全部聞いた後にまた追及します。さ、続きを言いなさい」

「……2つ目と3つ目は同じだ。確かに商売女呼ばわりしたし扱いも雑だったかもしれない。だがあの時俺とアンタがグルだとバレるわけにはいかなかった。その為の演技であって本心じゃない。だから悪くない。むしろ今後のアンタとあの客との関係に配慮をした結果だ。なんなら礼を言ってもらいたものだな」

「そう。ありがとう。で? 言いたいことはそれで終わり?」

「……終わりだ」


 無言のまま彼女に半眼で見つめられる。重苦しい時間が何秒間か続いた。


 やがて華蓮さんが諦めたように表情を緩める。


「ほんとにもう……、相変わらずなんだから。私が慣れちゃったのかしら? 上手に取り繕って心にも思ってないのに口だけの言葉で謝るよりは誠実だって思っちゃうのは……。あと、謝りたくないからって一生懸命言い張ってるのもなんか可愛いって思っちゃうし……」


 頬に手を当て困ったように溜め息を吐く。


 華蓮さんは『Club Void Pleasure』の不動のナンバーワンキャストであり、店の経営に口を出せるほどの影響力を持って君臨する女王様であったが、弥堂を甘やかす悪癖があった。

 そのため、弥堂のクズさに拍車がかかりこのような理不尽男になったのは彼女が原因なのではと、そんな噂が一部で実しやかに囁かれていた。


 弥堂としては「ナメるな」と言い返したいところであったが、今それを言ってはいけないと判断できるくらいの分別はあったので口を噤む。

 それに実際に彼女には本当に世話になったので他の者を相手にするほどには強く出られないのも事実ではあった。


 なので撤退を試みる。


「納得をしてくれたようでよかった。では俺はもう帰る。また何か頼む時は連絡しよう。では――」

「――待ちなさい」


 しかしそれも敢え無く失敗する。


「まだ許してあげるとは言っていないわ」

「……話が違うぞ。条件は満たしただろ」

「そうね。でもキミが挙げたものの中に私が一番重視してることが含まれてなかったから気に食わないわ」

「だったら先にそれを言っておけ」

「言ってもキミ絶対間違うじゃない」

「それは見解の相違だな」

「そうかしら? まぁいいわ。許して欲しかったら、『華蓮さん、キミが居ないと俺は生きていけない』、そう言いなさい」

「話にならないな」

「あら、生意気な態度ね。じゃあ代わりにキミのダメだったところを今から全部追及します――」

「おい、待て――」


 顔色を変えて華蓮さんを止めようとしたが間に合わなかった。


「――1.遅い 2.グラスを割った 3.床を汚しました 4.テーブルの上にも乗ったわね 5.あのお客様と繋いでくれとは頼まれたけれど脅迫するなんて聞いてないし 6.そもそもなんで仕事のことでしか連絡してこないの? 7.ていうか店内は撮影禁止よ。お客様のも従業員のも個人情報を守る必要があるわ 8.それに私、裸なんだけど? 9.犯罪にお店を巻き込むんじゃないの 10.あとなんなの? 演技だかなんだか知らないけど私をあんな風に他人扱いするなんていい度胸ね 11.それ以外にも私をあんな雑に扱っていいと思っているの? 12.商売女は蔑称じゃないわ。ナメないで 13.全体的に色々ひどすぎるわね。いつものことだけれど 14.誠意がないわ 15.メッセ返さないのもそうよ。なんで返事してくれないの? 16.ていうか何でちゃんと私に会いに来ないの? 17.あんまり心配をかけないで 18.ねぇ。キミ、マキちゃんと…………って、ちょっと。ちゃんと聞きなさい。なんで白目になるのよ」

「……14個だって言ってなかったか?」

「あら、そうだったかしら。自分で思ってたよりも多かったわね」

「もう勘弁してくれ」

「じゃあ、言わなきゃいけないことがあるわね……?」

「あぁ。華蓮さん、俺はキミが居なければ生きてこられなかった」

「……気に食わないわね。けど、ふふっ……、いいわ……許してあげる」


 口ぶりとは裏腹に彼女は笑い優雅に足を組み変える。


「こっちに来て座りなさい。少しは時間あるんでしょ?」

「……あぁ」

「じゃあ、私とお話しましょう?」


 外様の強力店舗に押される裏路地の店舗の中でも数少ない、表通りに対抗できる地元店最後の砦とも謂われる人気嬢の完璧な笑顔の圧力に屈することにした。

 諦めた様子で近づいてくる男に、胸の下で腕を組んだ女は愉しそうに笑う。



「――それはいいんだが……」

「ん? なぁに?」

「なんで服を着ないんだ?」


 ビキっと、パーフェクトなキャバ嬢スマイルが引き攣った。


「今更かよ……っ!」


 一転してギロリと険しい眼差しを向けられ、どうもここを出る前に失態ポイントは20を超えてしまいそうだなと、弥堂は溜息を吐いた。
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